川口 吉彦(宅建士・リフォームスタイリスト)
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不動産の購入を検討しているのに、なぜか希望する物件を紹介してもらえない、内見の予約が取れない、最終的に「他の買主に決まった」と言われてしまう。こうした経験をしたことがある方は、その物件は「囲い込み」をされていたのかもしれません。本記事では、囲い込みの仕組みや実際の事例、売主が囲い込みを回避するための具体的な方法について詳しく解説します。
(写真はイメージです)
目次
囲い込みとは、不動産会社が売主から依頼された物件情報を、他社の買主に紹介しない営業手法のことを指します。この行為が、売却価格の低下や売却期間の長期化といった深刻な影響を及ぼします。
本来、不動産の取引情報は「レインズ(不動産流通機構)」に登録され、すべての不動産業者が情報を共有できる仕組みになっています。しかし、囲い込みを行う業者は、本記事で紹介するようなやり方で他社を排除します。
囲い込みをする最大の理由は、不動産会社が「売主と買主の両方から仲介手数料を得られる」状況を作りたいからです。この取引を「両手仲介」と呼びますが、両手仲介は、売主・買主双方から手数料を得ることができるため、1件の取引で手数料が2倍になります。
両手仲介は違法ではありません。ただ、そのために情報を公開しない「囲い込み」は違法になる場合があります。国土交通省も囲い込みの防止に取り組んでおり、2025年から、不動産売買仲介における囲い込み行為に対する罰則が強化され、指示処分の対象となっています。
S不動産販売のマンション(居住中)の購入を希望されていたお客様から、内見のご要望を受けました。しかし、以下のような対応を受けました。
このように、担当者が常に不在であるかのように装い、他社からの内見依頼に応じないのは典型的な囲い込み手法です。結局、お客様はこの物件の購入を断念しました。しかし、後日その物件を再度確認したところ、S不動産販売が自社顧客にのみ案内をしていたことが判明しました。
お客様からMR不動産の受任マンション(空室)の案内を依頼されたREDSエージェントが同社と交わしたやり取りは以下のとおりです。
翌週の案内予約までしていたにもかかわらず、最終的には『契約済み』との一言で終わらされてしまいました。担当者とはなかなか連絡が取れず、折り返しの連絡も一切ありませんでした。このような囲い込みの手法は、前述したS不動産販売に限らず、他の不動産会社でも同様に繰り返されています。
囲い込みを回避するために有効な方法はいくつかあります。ここでは具体的な方法を5つ紹介します。
不動産会社との契約前に「御社は両手にこだわらないで売却活動してもらえますか?」と営業担当者に念を押しておくとよいでしょう。この約束そのものに何か効力があるわけではありませんが、「このお客様はよく知っているから囲い込みしたら危ないかもしれない」と思わせる効果はあります。
専任媒介契約、または専属専任媒介契約を不動産会社と結んだ場合は、レインズの「登録証明書」という書面がもらえます。所在地などの物件情報が正しく入力されているか、取引状況を必ず確認しましょう。売却活動中にもかかわらず「公開中」となっていない場合は、囲い込みが行われている可能性が濃厚です。
専属専任媒介契約を結んだ場合は1週間に1回以上、専任媒介契約では2週間に1回以上の頻度で業務の処理状況の報告をしなければなりません。報告する形式は宅地建物取引業法上、特に決められていませんが、国土交通省が作成した「標準媒介契約約款」の場合、文書または電子メールの何れかの方法で報告しなければなりません。この報告には「どのような営業活動をしたのか」「反響はどうだったか」といった細かい報告が必要となります。
いつも同じような内容の報告しかない、反響がなかったといった報告が多い場合には、囲い込みが疑われるだけではなく、熱心に売却活動を行っていない可能性もありますので、不動産会社に確認をしましょう。
熱心にいつも確認してくる売主に対しては、手を抜かずに売却活動を行ってくれる可能性も高まります。囲い込みを行っていることによって買主をなかなか見つけられない場合は、しつこく催促していると囲い込みをやめる可能性もあります。
内見の依頼が全くないような場合には、囲い込みが行われている可能性があります。これは裏技ですが、知り合いに不動産会社がいればその不動産会社から問い合わせてもらうという方法もあります。内見がないにもかかわらず、その物件は商談中だと言われたら、囲い込み確定です。
不動産会社から問い合わせをしてもらって、担当者がいま不在と言われた場合、その電話の直後に自分から担当者に電話をしてみましょう。さっきは不在と言っていたのに、売主からの電話にはすぐに出たのであれば、これも囲い込み確定です。
囲い込みが起こるのはそもそも売主と契約している不動産会社が1社だけだからです。専任媒介契約や専属専任媒介契約であれば、1社だけしか販売活動を行うことができません。これに対して一般媒介契約にすれば、販売活動を行う不動産業者が複数になるので囲い込むことは物理的に不可能になります。
ただ、一般媒介契約にはデメリットもあります。不動産会社が頑張って売却活動をしても、最終的に他の不動産業者が売却にこぎつけた場合、タダ働きや経費倒れになってしまうため、率先して販売活動をしてくれない可能性が高くなります。
囲い込みは、買主が希望する物件を購入できない原因の一つとなるだけでなく、売主にとっても適正な価格での売却が難しくなるなど、大きなデメリットをもたらします。本記事では、囲い込みの回避策について5つの対策をご紹介しましたが、参考にしていただければ幸いです。