『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

  • 公開日:2024年3月6日

『正直不動産2』第9話宅建士解説|サブリース業者とオーナーのいびつな関係、元凶は借地借家法? 本当にあったミネルヴァも仰天のエグい要求とは

人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産2』第9話「神木という男」が、3月5日(火)夜10時から放送されました。筆者としては、ラブ・コメディともいえるサブストーリーの、主人公の永瀬財地(演:山下智久)と榎本美波(演:泉里香)のコミカルかつどことなくハートフルな関係が、いったいどのような結末を迎えるのか、が実は最も気になるところです。

 

今回は、ミネルヴァ不動産が巻き起こしたサブリースに関するトラブルを主人公の永瀬が見事阻止する、というあらすじです。ミネルヴァの神木涼真(演:ディーン・フジオカ)が、なぜ営業トップに異常なまでにこだわるのか、という点も徐々に明らかになっていきます。そうした人物描写の深掘りもドラマとしては見ごたえがありました。

 

本記事では、第9話で取り上げられた「サブリース問題」について詳しく解説します。

 

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契約トラブル

(写真はイメージです)

 

トラブルが絶えないアパートのサブリース契約問題

 

サブリースとは、借主としてオーナーからアパートやマンションなどの不動産をまとめて一括で借り上げた事業者が、今度は貸主として、入居者の募集・契約などの仲介業務や集金や物件の維持管理などの管理業務を実施して、入居者に転貸することをいいます。

 

サブリース契約が増えた社会背景

 

1992年の生産緑地法改正により「農地の宅地並み課税」が導入されると、相続対策や土地の有効活用のためのアパート建設とセットで大幅に受注数を伸ばしてきました。

 

オーナーが賃貸人、サブリース事業者が賃借人、入居者が転借人となります。オーナーは、サブリース事業者から満室ベースの家賃が一括で支払われるため、空室リスクが低減されるというメリットがあります。一方、サブリース事業者は、空室リスクを取る代わりに、サブリースの手数料として、一般的に家賃の10~20%を徴収します。通常の賃貸管理手数料が家賃の3~8%程度ですから、サブリース業者には大きなメリットがあります。

 

しかし、管理を委託するオーナーが増加することで、トラブルもまた増加してきました。国土交通省による調査資料によると、賃貸住宅における管理会社などをめぐる相談件数は2009年には1014件でしたが2018年度には7116件に増加しています。

 

これは、賃貸住宅の管理業務について、昔ながらの地主といったまさにセミプロの大家さんが自ら不動産を管理していた自主管理の業態から、遊休地の所有者が不動産会社の勧誘によりアパートを建築し、入居者募集や物件の維持管理といった業務は管理会社に委託するという業態に構造転換してきたことが、要因のひとつといえるでしょう(【図1】参照 国土交通省の資料から引用)。

 

平成4(1992)年度には管理会社に管理業務を委託するオーナーは25%であったのに対し、27年後の令和元(2019)年度には、オーナーの81.5%が管理業務を管理会社に委託しています。賃貸管理の業務の主体が、大きく変化したことがわかります。

 

賃貸管理業務にはいわば素人であるオーナーと、管理会社に委託される管理業務の絶対数が増えれば、賃貸管理の相談事やトラブルに賃貸管理会社が絡む機会が増加するのは、当然の帰結といえるでしょう。

 

【図1】

賃貸住宅所有者の属性の変化

 

サブリース契約はとにかくトラブルが多い

 

さらに、先ほどの国土交通省の資料からサブリースを巡る相談件数推移を見てみましょう(【図2】参照)。こちらも2009年度には266件であったものが2018年度には1004件に増加していることが分かります。ドラマの中でも、ミネルヴァ不動産の勧誘でサブリース契約を結んでアパート投資をしたオーナーの山田や松井、鴨川や葉山(演:笹野高史)が、ミネルヴァ不動産との間でトラブルになっています。

 

【図2】

賃貸住宅における管理会社等を巡る相談件数の推移

 

では、サブリース契約では、どのようなトラブルが起きやすいのでしょうか。具体的にご紹介していきます。

 

トラブルのもとになるサブリース契約の5つの問題点

 

遊休地の所有者に対し「宅地にしてアパートを建てましょう、当社が一括して借り上げて家賃を保証するサブリースであれば、管理の手間もかからず、将来にわたり安定した収入を得られる確実な資産運用となります」というのが典型的なサブリース業者のセールストークでした。

 

ここに潜む問題点を5つ紹介します。

 

1.粗悪な建物とのセット販売

 

新築アパートの販売と、サブリース契約の受注をセットでセールスする多くの場合、建築を請け負う建設業者とサブリース業者とは、同一の会社またはグループ会社など一定の提携関係にあります。

 

自社(含む関連会社)内で数千万円~数億円の建築工事の利益率を高めるため、あるいは建築会社からより多くのキックバックを得るために、サブリース業者が手がけるアパートは粗悪な造りのものが多い傾向にあるという風評が絶えません。

 

サブリースアパートの建築メーカーであるL社は2018年から2019年に公式サイトで施工不備について、少なくとも4件の報告をしており、国土交通省にも報告され、経営陣の引責問題にまで発展しました。界壁の施工不備(2018年4月)、天井部施工不良(2019年2月)、界壁内部充填剤の相違および外壁構成における大臣認定との不適合(2019年2月)、界壁の耐火構造使用の不適合(2019年5月)について、公式に認めています。

 

【図3】国土交通省資料より抜粋)

界壁等施工不備の概要

 

D社など他のサブリース建築メーカーも、同様のうわさは絶えません。

 

粗悪な建物は、入居者募集や居住者の評判にも影響を与え、空き室率の悪化に直結します。また、当然建物のメンテナンス費用や退去後の原状回復費用、築10年以降の大規模修繕費用などがかさむことになります。そうした建物の修繕費はオーナーの負担となるため、トラブルの元となるのです。

 

2.不当な勧誘行為

 

もともと収益物件にあまり興味のなかった客層に購入を強いるため、

 

・サブリースのメリットだけを伝える勧誘
・「都心の物件なら価値や家賃は下がらない」「将来にわたって確実に保証がある」などという断定的に不実のことを伝える勧誘
・明示的に契約締結に拒否の意思表示を示しているにもかかわらず、しつこく勧誘したり暴力的に脅したりして契約を共用するような勧誘

 

などが、トラブルの元となっています。

 

このほかドラマの中で以前に花澤涼子(演:倉科カナ)が実行していましたが、女性社員が街中でアンケートと称して男性と会話をする機会を設け勧誘するデート商法的な手法も問題となっています。

 

3.家賃保証と賃料減額請求権

 

上記の勧誘行為によるトラブルの典型例が、家賃保証に関する勧誘と実態の乖離によるものです。サブリースのオーナー側のメリットは、家賃が満室ベース、長期間手間いらず、一括保証、です。そこでサブリース会社の典型的な勧誘フレーズは「30年間、家賃一括保証」に収れんされていきます。

 

しかしながら、現実の契約は「家賃収入は30年間保証、家賃の金額は10年固定、その後2年ごとに見直し」というように賃料減額について規定されているものが一般的です。

 

また、たとえ家賃の金額が10年固定という規定があったとしても、さらにドラマの中でミネルヴァ不動産との契約でオーナーの山田が主張しているように「家賃の減額はしない」という特約があったとしても、サブリース業者は、家賃の減額を借家人の権利として要求することができます。

 

神木が反論しているように、最高裁の判例は「借主であるサブリース業者からの借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求権」を認めています(最高裁平成15年10月21日判決)。借地借家法は、借主の保護を目的としていて、賃貸契約の規定や特約よりも強い規定(強行規定)として、借主の賃料減額請求権を認めている、ということです。

 

建築当初は新築効果で満室になりやすかった物件も、中古となっていき空室が増加したり入居者への家賃を下げざるを得なかったりしていくと、採算が悪化したサブリース業者は当然のように賃料の減額をオーナーに要求することになります。そうなると、30年間家賃が一定金額保証されると思い込んでいたオーナーとトラブルが勃発することになります。

 

4.「終了プロジェクト」! 解約の正当事由と違約金

 

ドラマの中で月下(演:福原遥)は「ミネルヴァ不動産の目的は、皆さん側から解約すると言わせて、莫大な違約金を取ることです」と言います。そういえば冒頭でミネルヴァ不動産の鵤社長(演:高橋克典)がそんな悪だくみを神木や花澤に話をしていましたね。

 

現実はドラマより奇なり、実際に「終了プロジェクト」はサブリース会社で実施されていたのです。終了プロジェクトとは、中途解約条項が結ばれている収益悪化物件について、賃料減額を強く打ち出すことで、サブリース契約の解除を図る仕組みです。

 

2008年のリーマンショック以降の不景気により収益悪化を理由として、2011年8月にサブリース会社L社で「終了プロジェクト」が実施されたと内部告発により明らかにされました。

 

それによると、同社幹部から各現場責任者に対して「終了プロジェクト」の奮起を促すメールが一斉送信されました。メールの内容は「内容証明等を積極的に使用し、交渉困難な案件は解約通知を送付して3ケ月後には全室明け渡しとする」「10年超の案件は基本的に解約を前提とした交渉を行なう」「9月以降の本格的解約目標設定に先立ち、月内に一定の確率で解約に持ち込むためのスキーム・トークフロー・業務フロー等を構築する」などと具体的に指示。「解約を辞さない強気の交渉」「オーナーからの解約の話が出ない場合はそもそも提示額が低すぎる」など賃料の大幅減額をするよう促しているほか、10年未満の物件についても賃料減額を目指すように指示しています。

 

文末では、「10年超えは基本解約という意識が足りていない社員が見受けられるので、各責任者は意識付けを徹底するように」と締めくくっています。まさにミネルヴァ不動産の面々も真っ青な内容だったのです。

 

経営不振に陥り切羽詰まっていたとはいえ、こうした自己本位なプロジェクトを実施できたのも、サブリース業者は借地借家法上の借主にあたり、「貸主からの解約には正当事由が必要」なため、オーナーが賃料減額請求されたからといって解約することはできないからです。

 

ここでもドラマの中での神木の主張は一定の正当性を持つのです。貸主からの解約ができないとなると、双方の合意がないという契約違反の状態で解約したいということであれば、違約金を払わざるを得ないということになるでしょう。

 

5.サブリース会社の経営破綻

 

サブリース業者が経営破綻してしまうと、預かっていた賃料や敷金などが家主に返還されません。2018年に起きた「かぼちゃの馬車」の経営破綻は、まさにそうした問題を顕在化させました。融資審査を通すために自己資金のないオーナーの預金通帳の残高を改ざんするなどの銀行ぐるみの不正が明るみになったことも記憶に新しく、サブリース業界への信頼感をさらに毀損することとなりました。

 

対策としての2020年賃貸住宅管理業法の制定

 

さまざまなトラブルの起因となったサブリース事業ですが、2020年にはサブリース事業を規制する賃貸住宅管理業法が制定されました。賃貸住宅管理業法は、賃貸住宅管理業を営む者についての登録制度と、サブリース事業における業務の適正化を図る制度の2つによって構成されます。

 

誇大広告などの禁止や不当な勧誘などの禁止、家賃減額リスクや契約中の解約リスクなどを明確にして重要事項説明や契約締結時書面交付することを義務付けるなど、サブリース契約の勧誘と契約締結行為について規律を定めました。

 

サブリース契約時の規律が成立したため、今後、ミネルヴァ不動産のようなサブリース事業者に騙されるようなオーナーは減るかもしれません。しかし、この法律ではすでに契約してしまっているオーナーは救えません。サブリース契約の解約条件には制限がかけられず、借地借家法が適用されることに変わりはありません。資本や法律知識や経験で圧倒的に有利なサブリース事業者が「借主」として、オーナーである「貸主」より借地借家法によって保護される、といういびつな構造は変わっていないのです。

 

法律なんてぶちこわせ? 正論でオーナーまでも追い詰める永瀬

 

「間違った法律、守るに値しない法律なんて、ぶち壊せばいいだろう」。正直不動産を目指す契機となった不動産オーナーの石田(演:山崎努)の言葉に後押しされた永瀬は、サブリースオーナーを集めて、集団訴訟を起こしてもミネルヴァ不動産と対決する決意を固めます。オーナーたちの前で永瀬は「悪いのは確かに甘い言葉でそそのかしたミネルヴァ不動産、ですが、そんなさまざまな欲に駆られて甘い言葉に騙されるなんてあなたたちも甘すぎる」と本音で責め立てます。

 

コミカルに叫ぶ永瀬の言葉が、筆者の耳には「努力もしないで、すべてオーナーに都合のいい投資方法などあるわけがない」と警鐘を鳴らしているように聞こえてしまいましたね。やはり筆者も不動産業者であり、日頃投資家の欲や他責の思考に振り回されているという思いがあるからでしょうか。

 

最終回での人間関係の結末は?

 

集団訴訟によってミネルヴァ不動産の悪事が露見することを好まなかったのか、鵤社長の判断によって、違約金を取られることなく無事サブリース契約は解約されることになったとのことです。永瀬もほっと一息、榎本との関係も真剣に考える気になったようです。

 

ところが榎本にはニューヨークへの栄転の話が。後輩の十影は暗号通貨の暴落でお金に困っているようですし、そこに神木がすり寄ってきています。永瀬の好敵手の桐山はトレンチコートで気取って広大な土地の前にたたずんでいます。最終回は人間関係でてんこ盛りの予感。来週がとても待ち遠しい気分です。

 

へばっ!

 

 

プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

 

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