長年住んだマンションを売却するときにふと「うち、汚くない? これで売れるのかな?」と感じることがあると思います。このため、売却前にお金をかけてリフォームする人は多いのですが、思ったように売れなくて損をした、というケースは少なくありません。今回は、マンション売却前にリフォームをするべきか、しなくてもいいのかという問題について解説します。

(写真はイメージです)
そもそもリフォームしたら売れやすくなるのか?
自宅マンションを売却前にリフォームする目的は何でしょうか? おそらく「売れやすくするため」だったり「高く売るため」だったりではないでしょうか?
ところが、私ども不動産仲介の現場にいる人間にいわせると、「リフォームをしたところで、そうした目的が叶うわけではない」というのが結論です。その理由は、大きく分けて3つあります。
リフォームは自分でしたい
最近は「リノベーション」という言葉が浸透してきました。「古いが割安な物件を買って、自分好みにしたい」という人も増えています。築年数がある物件の場合、リフォーム前提で見に来る人もいるため「売却するためにきれいにしてある」と聞くと、「その費用分だけ価格が安い方がよかったのに」という感想を持たれてしまうかもしれません。
価格が高いというだけで検討者が減る
ポータルサイトなどで物件検索をする場合「検索した価格に入る」状態でなければ、買主の検討候補物件には上がってきません。物件を探す場合はどうしても価格ありきで検索をします。売却前にリフォームをすれば、最低でもその価格分だけは上乗せして売りたくなりますが、検討者を増やすという視点からすれば、売却価格を上げることは悪手になるかもしれません。
買主の要望や好みが分かるはずがない
リフォームで最も多いのは壁紙を取り換えたり、古くなった設備を更新したりなどですが、人の好みというのは本当に千差万別です。売主がいいと思っても、買主には響かないことがあります。その点、リフォームをしていないマンションは「リフォームすればいいですよね」と補足してあげれば、そこまで大きなマイナス印象にならないのです。
リフォーム費用ってどのくらい?
リフォーム費用がどのくらいかかるかという目安は経験がないと見当もつかないでしょう。どの程度やるかによって価格は変わってきますが、リフォームする箇所ごとにだいたいの相場があります。
トイレリフォーム
トイレリフォームの料金は、20万~50万円がメインの価格帯です。洋式便器からシャワー機能付きの洋式便器への交換の場合は、おおよそ50万円以内で可能です。和式から洋式への交換や(今では少ないと思いますが)、トイレ室内を広くするような工事では、50万円以上かかることもあります。
キッチンリフォームの費用相場
キッチンリフォーム料金は、50万~150万円がメインの価格帯です。システムキッチンの交換は、採用する設備のグレードや、キッチン全体のレイアウトで価格が変動しますが、おおよそ100万円以内で可能です。壁付け型をアイランド型へ変更する場合など、給排水の工事も必要になる場合には、100万円を超えることが多いです。
風呂・浴室リフォーム
浴室リフォームの費用は、100万円~200万円となります。キッチン同様、大掛かりな工事になるため、費用も工事期間もそれなりのものになります。
洗面所リフォーム
洗面所リフォームの価格は、20万~50万円が中心価格帯です。スタンダードなグレードのユニット洗面台の交換でよいのですが、シンプルなものだと20万円以下での設置も可能です。
外壁塗装・外壁リフォーム
外壁塗装は、使用する塗料のグレードによって費用が変動します。塗料は安いもので1坪あたり1万2千円から、一方、耐久性の高いものでは2万円を超えます。
屋根塗装・屋根リフォーム
屋根塗装は屋根の面積と使用する塗料によりますが、ほとんどの場合100万円以内で可能です。ただし、屋根の重ね葺きや葺き替えの場合には既存屋根の撤去費用なども追加されるため、予算は100万~150万円とみておきましょう。
リビングのリフォーム
リビングのリフォームは、内装リフォームか、間取り変更などを含む大規模な工事かで費用が大きく変わります。内装リフォーム(クロス)のみであれば、1㎡あたり1,000~3,000円なので、15畳の部屋であれば、30万円程度で済むでしょう。間取り変更を含むと、かなり大規模になるので、100万~300万円ほどは必要になります。
リフォームが効果的な場合とその箇所
とはいえ、リフォームしたほうがいい場合もありますので、具体的に説明します。
一般的に印象が悪いのはペットとタバコです。室内がひっかき傷やかみ傷だらけだったり、臭いがついていたり。タバコのやにや焦げ跡のような目立つ汚れがあると、大きなマイナスポイントとなります。
パッと見たときに「不潔感」を感じるものについては「買ってから綺麗に手直しすればいいや」というところまで買主さんの気持ちが盛り上がらなくなります。多少悪いところがあっても「直せばいいや」となってくれるよう、とにかく「印象」が肝心です。リフォームしたほうがいいケースを解説します。
汚れのひどい壁紙
壁紙はそこまで費用のかかるものではないので、よほど汚れていなければ「入居後に張り替えればいいや」と考える買主が多いのですが、例えばタバコで激しく黄ばんでいると家全体が不潔で、ほかの部分にまで悪いところがあるのではないかと思われるリスクがあるため、前もって張り替えてしまってもいいかもしれません。
ペット関係の汚れ、傷、臭い
ペットを飼っている人とそうでない人では、感覚に大きな差があります。特に、フローリングが爪で傷つけられていたり、臭いを含め汚れがひどかったりする場合、「リフォームすればいいや」という感情に行く前に「ちょっと汚いからやめておこう」となってしまうことは自然なことです。特に臭いだけは徹底的に対策するべきです。
庭の雑草(1Fの場合)
雑草がぼうぼうに生えているのとそうでないのでは印象に大きな差があります。雑草の除去はマンション1Fの小さい庭であれば数万円ですし、そのあとにホームセンターで買った人工芝を敷いておくだけでかなり印象がよくなります。家全体の清潔感を出すには、雑草の除去は大事なポイントです。
特にリフォームしないほうがいい箇所
一方、リフォームはできる限り避けたほうがいいケースもあります。
キッチン
キッチンはリフォームすると費用がかかるうえ、使う人の好みが分かれるところです。一方で、汚れもつきやすいので「これで大丈夫かしら」となることも事実ですが、中古物件を買う人の多くがキッチンやトイレのリフォームは前提としているため、意外と交渉で解決したりします。多少の値引きなどは覚悟する必要があるかもしれませんが、事前にリフォームはしないことをお勧めします。
お風呂
お風呂もキッチン同様、非常に費用がかかるところです。キッチンほど好みが分かれないのですが、古いお風呂を使うことに関しては「綺麗にすれば気にしない」という人と、「絶対にありえない」という人の両方が存在します。このため、事前リフォームは避けたほうが無難です。
トイレ
トイレは「中古を買った人はほぼ全員がリフォームするところ」です。そのため、トイレがリフォームされていないこと、多少古くなっていることでマイナスに思われることは、逆にありません。また、トイレのリフォームは平均的に30万円程度で可能なため、買主が住宅ローンに含めて購入することが多いとされます。無駄に費用をかける必要はないでしょう。
エアコン
エアコンは「古くても使えるなら使いたい」と考える人が多い設備です。多少の汚れや黄ばみはあるにせよ、高いところに設置されているため、不快感のある汚れはついていない場合が多く、そのままでも問題ないでしょう。
クリーニングという選択肢も
当然ですが、リフォームよりもクリーニングするほうが費用は安くて済みます。そして、クリーニングというのは、想像以上に綺麗になるものです。特に設備回りなどは顕著です。
入居中だと本格的なクリーニングはできないのですが、もし退去後に売却活動ができる状況なのであれば、ハウスクリーニングでリビングや設備関連をクリーニングしておくと、「中古なのに綺麗に使っている」という印象になりますので、非常におススメです。
松村隆平
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。
趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。