早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
㈱エー・エムコーポレーション代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
CLOSE
「囲い込み」という言葉に不安を感じていませんか?実は、大手の不動産会社でも囲い込みが行われており、売主が知らぬ間に損をするケースが後を絶ちません。この記事では、囲い込みの仕組みやよくある手口、そして巻き込まれないための具体的な対策をわかりやすく解説します。後悔しない不動産売却を実現するためにも、本記事をぜひ最後までご覧ください。
(写真はイメージです)
目次
不動産売却を検討する際、「囲い込み」という言葉を耳にした方も多いでしょう。ここでは、囲い込みの意味と仕組み、なぜ大手不動産会社でも囲い込みが行われるのかを解説します。
不動産の囲い込みとは、不動産会社が売主から売却依頼を受けた物件について、他の不動産会社に紹介せず自社のみで買主を探そうとする行為です。
本来、売却物件は「レインズ」という物件情報を共有するシステムに登録し、全国の不動産会社が買主を紹介できる仕組みになっています。しかし、囲い込みを行う不動産会社は、他社からの問い合わせに「すでに申し込みがある」「売主の都合で案内できない」などと理由をつけて断り、自社だけで取引を完結しようとするのです。
こうした行為は売主にとって不利益となることが多く、業界内で問題視されています。
基本的な囲い込みの流れは次のとおりです。
本来、不動産会社はレインズに物件情報を登録し、他社にも広く情報を公開する義務があります。しかし、囲い込みを狙う不動産会社は、レインズへの登録を遅らせたり、他社からの問い合わせを「商談中」「申込済み」と偽ったりして、他社からの問い合わせを断ります。こうして、自社の顧客だけに物件を案内し、売主と買主の双方から仲介手数料を得る「両手仲介」を目指すのです。
なぜ不動産会社が「両手仲介」を目指すのかというと、「両手仲介」は売主からのみ仲介手数料を得る「片手仲介」と比較して、不動産会社が得られる仲介手数料が2倍になるからです。そのため、売主の利益より自社の利益を優先して囲い込みが行われるのです。
2024年度上期は「三井不動産リアルティグループ(以下リハウス)」「東急リバブル(以下リバブル)」の牙城は健在でした。3位以下を圧倒的に引き離しています。取扱高はトップ2が1兆円を超えるのに対して、3位の住友不動産販売は約7,053億円にとどまり、4位の野村不動産ソリューションズは約6,194億円となっています。
2024年度の不動産会社の仲介手数料率(上記表では「手数料収入」の「手数料料率」で表示されています)は、38社平均で4.39%となっています。
不動産の仲介手数料は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)により、取扱高が400万円以上の場合、その上限額は取扱高の「3%+6万円」と決まっています。
それなのにトップ2の手数料率は4.44%、その他の37社の手数料率平均も4.36%と、宅建業法の上限額を超えてしまっているように見えます。
この料率が成り立つ理由は、不動産取引の売買の仲介手数料は、売主と買主の双方から上限値までもらうことができるからです。これを「両手仲介」といいます。両手仲介に対して、売主または買主のどちらか一方の依頼者からのみ報酬を受け取る場合は「片手仲介」といいます。
欧州の一部の国の法律や米国の州法では、不動産会社は売主もしくは買主のどちらか一方の依頼しか受けることができず、両方から依頼を受けることは禁止されています。売主の利益と買主の利益は相反すると考えられるからです。当事者の両方の代理になっても当事者の利益を追求することができないため、禁止されているのです。日本の民法でも108条で「双方代理」は禁止されています。
しかし、日本の不動産取引を規定する宅建業法では「仲介業務は当事者の法律行為の代理ではなく、その成立を手助けする行為であるから、双方から依頼を受けることができる」という解釈がなされています。このため、多くの不動産会社は効率を上げるため、両手仲介を目指すようになります。
売買当事者の両方から仲介手数料をもらえる「両手仲介」を実現できると、不動産会社は最大で「6%+12万円」を報酬として受け取ることができます。単純に全取引の半分が「両手仲介」だとすれば「4.5%+9万円」の報酬を受け取ることができるという計算になり、上記の大手不動産会社が受け取った手数料率とほぼ一致しています。
このような結果から、両手仲介の割合が高い不動産会社は、囲い込みをしている可能性が高いと考えられます。
ではなぜ、両手仲介の割合が高いと囲い込みのリスクも高まるのでしょうか。理由は、両手仲介で取引すると不動産会社の利益が高まるため、「囲い込み」により自社で買主を見つけることを優先するからです。
例えば、3,000万円の物件を売却する場合、片手仲介なら仲介会社は売主から96万円(税別)の仲介手数料しか得られませんが、両手仲介であれば売主・買主の両方から計192万円(税別)が得られます。
両手仲介自体は違法ではありませんが、囲い込みは売主の利益を損ねる不正行為です。囲い込みが行われると、物件情報が市場に十分に流通せず、売主はより高値で売れる機会を逃してしまいます。結果として売却期間が長引いたり、値下げを余儀なくされたりするケースも多くなるのです。
そのため、両手仲介の比率が高い会社は囲い込みのリスクも高いと理解した上で、不動産会社を選ばなければいけません。
大手不動産会社による囲い込みは、売主が知らないうちに行われる場合が多く、気付かないまま取引が完了するケースがほとんどです。ここでは囲い込みの主な手口と、なぜこうした行為が黙認されやすいのかを解説します。
まずは、大手不動産会社が囲い込みで使う主な手口を3つ紹介します。
囲い込みの中で売主が最も気付きにくい手口として「そもそも物件をレインズに登録しない」または「登録するが物件の図面を添付しない」という方法があります。
本来、専任媒介や専属専任媒介契約を締結した場合、不動産会社には物件情報と図面をレインズへ登録する義務があります。しかし、意図的に登録を遅らせたり、図面や写真を添付しなかったりすることで、他社が物件の詳細を把握できなくなります。
その結果、他社からの問い合わせや内見希望が減り、自社だけで買主を見つけやすくするのです。
実際の現場では、他社の内見を断るという囲い込みの手口も見られます。他社から内見希望の問い合わせがあっても、「売主が多忙で対応できない」「リフォーム中」「すでに購入申込みが入っている」など、もっともらしい理由をつけて断ります。これにより、他社を経由した買主が物件を見られなくなり、結果的に自社の顧客だけに物件を紹介できる状況を作り出すのです。
売主は、こうした不動産会社同士のやり取りを把握できないため、囲い込みが行われても気付きません。内見を断られた他社も、売主に直接連絡することができないため事実確認が難しく、囲い込みを黙認するしかないのです。
一般媒介契約の自由度の高さを利用して、誘導して囲い込む手口もあります。一般媒介契約は複数の不動産会社と同時に契約できる一方で、レインズへの登録義務や売主への報告義務はありません。
売主が不動産売却に不慣れな場合、「一般媒介契約の方が自由度が高い」と説明され、囲い込みのリスクを理解しないまま契約してしまいます。しかし、レインズへの登録義務がないことを利用して、不動産会社はレインズに物件情報を登録せず、自社だけで物件を囲い込むのです。
囲い込みの最大の問題は、売主が不正に気づきにくい構造にあります。物件への問い合わせや内見希望はすべて不動産会社が窓口となるため、売主は「なかなか売れない」と感じても、実際にどれだけ他社からの問い合わせがあったのかは把握できません。
不動産会社は、売主が状況を把握できないことを利用し「問い合わせが少ない」や「物件価格が相場に見合っていない」などと説明し、売主を納得させてしまうのです。また、囲い込みに対する監督や罰則も十分とは言えません。
こうした情報の不透明さや監督体制の甘さが、囲い込みを黙認する原因となり、売主の利益が守られにくい状況を生み出しているのです。
囲い込みが発生すると、売主にとってどのような影響があるのでしょうか。ここでは、囲い込みのリスクを2点紹介します。
囲い込みが行われると物件情報が市場へ流通しなくなるため、売却が長期化する恐れがあります。不動産会社が他社への情報公開を制限したり、内見を断ったりすると購入希望者へ物件の魅力をアピールする機会が減り、結果的に買い手が見つかりにくくなるのです。その結果、売却活動が思うように進まず、売却期間が数ヶ月から半年以上延びるケースも珍しくありません。
売却活動が長引けば、住み替えのスケジュールが遅れるだけでなく、固定資産税などの維持費が余分にかかり、資金計画にも影響を及します。さらに、売却が長期化すると「売れ残り物件」として市場からマイナスの印象を持たれやすくなり、ますます問い合わせが減る悪循環に陥ってしまいます。
このように、囲い込みは当初の住み替え計画や資金繰りに大きな影響を与えるため、満足のいく売却ができなくなってしまうのです。
囲い込みのデメリットとして、売却価格が下がることも挙げられます。囲い込みによって物件情報が広く公開されず、本来売却できたであろう金額よりも、売却価格が下がる恐れがあるのです。
良くみられる手口として、囲い込みにより売却が長期化した際に、売主に「なかなか売れないので値下げしましょう」と提案して、安い金額で売却するよう仕向けるケースがあります。値下げをすれば不動産会社が得る仲介手数料も減りますが、両手仲介により2倍の仲介手数料が得られることを考えると、不動産会社からすればほとんどデメリットはないのです。
また、売却期間が長引けば、購入希望者からの値下げ交渉にも応じざるを得なくなります。このように、囲い込みが続くと最終的に数百万円単位で損失が出ることも考えられます。
囲い込みを未然に防ぐためには、売主自身が積極的に情報を集め、あらゆる観点から売却活動を管理しなければなりません。ここでは、不動産の囲い込みを防止するためのチェックポイントを紹介します。
囲い込みを防ぐためには、一般媒介契約の締結を検討しましょう。一般媒介契約は、複数の不動産会社と同時に契約できる点が大きなメリットです。専任媒介や専属専任媒介では売却を1社にしか依頼できず、その不動産会社に情報を独占される恐れがありますが、一般媒介契約であれば各社が積極的に買主を探すため、囲い込みが起きにくくなります。
例えば、A社、B社、C社と一般媒介契約を締結した場合、A社が他社の内見や問い合わせを断ったとしても、B社とC社が適切に売却活動を行っていれば囲い込みは起きません。このように、不動産会社からすると一般媒介契約は囲い込みのメリットがないため、誠実に売却活動を行うようになるのです。
ただし、一般媒介契約は売却活動の報告義務がないため、問い合わせ状況などの実態が見えにくいデメリットがあります。担当者と密に連絡を取り、定期的に進捗をチェックしましょう。
レインズへの登録状況をこまめに確認すれば、囲い込みのリスクを減らすことができます。
専任媒介や専属専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社はレインズへ登録しなければなりません。不動産会社がレインズへ登録すると「登録証明書」が発行されるので、記載されているURLやID・パスワードを使い、物件情報が正しく公開されているかを確認しましょう。
特に「図面の有無」と「取引状況」を十分に確認してください。「図面なし」になっていたり、申し込みが入っていないにも関わらず「公開中でない」と表示されていたりする場合は、囲い込みの可能性が高いでしょう。
囲い込みをしないよう不動産会社の担当者に働きかけることも、有効な予防策です。
例えば「両手仲介にこだわらず幅広く買主を探してほしい」と伝えたり「どのような販売戦略を考えているか教えてほしい」と質問したりすれば、担当者が両手仲介にこだわっているかどうかを見極められます。また、売主自身が「囲い込みについて詳しい」とアピールするだけでも、担当者にとってはプレッシャーとなり、囲い込みを控える効果があるのです。
このような行動自体に法的な拘束力はありませんが、あらかじめ担当者に牽制することで、囲い込みに巻き込まれるリスクを下げられます。
囲い込みが疑われる場合は、第三者の不動産会社から問い合わせてもらいましょう。囲い込みは、売主自身が業者間のやり取りをチェックできない構造によって起こるため、第三者の不動産会社から問い合わせれば、囲い込みが起きているかどうかがわかります。
例えば、家族や知人が不動産会社に問い合わせをして、売りに出している物件の内見希望を出します。その際、「商談中」や「売主と連絡が取れない」などと断られた場合は、囲い込みの可能性が高いでしょう。
囲い込みに巻き込まれないためには、売却を依頼する不動産会社選びが成功の鍵となります。ここからは、信頼できる会社と担当者の見極め方を解説します。安心して売却を任せられる担当者を見つけて、後悔のない不動産売却を実現しましょう。
信頼できる不動産会社と担当者を見極めて囲い込みを防ぐためには、会社の方針や仕組みを確認しましょう。
まず、過去の実績や取引件数、創業年数などを調べてみてください。豊富な実績や長い歴史があれば、売却に関するノウハウが豊富で信頼性が高いと見込めます。また、提携している不動産会社や金融機関が多ければ、ネットワークを活用して良い取引ができる可能性が高いです。
さらに、不動産会社に寄せられている口コミや評判も参考にし、悪い評価にも目を通して客観的に判断するのがおすすめです。実際に利用したユーザーの口コミは、不動産会社を選ぶ上で重要な判断材料となります。
大手の不動産会社だからといって安心せず、あらゆる視点で不動産会社をチェックして判断しましょう。
信頼できる担当者を見極めるためには、質問に対するレスポンスの早さや説明の丁寧さなど、営業担当者の対応力にも注目しましょう。査定額の高さや不動産会社の規模だけで選ぶと、囲い込みをする担当者にあたる恐れがあります。
さらに、媒介契約の内容や売却にかかる費用、販売戦略についてのわかりやすい説明や、売主の立場に立った提案ができるかどうかも確認してください。強引な営業や契約を急がせる態度、根拠のない楽観的な説明をする担当者は囲い込みを行う恐れがあるため、十分に注意しましょう。
信頼できる会社と担当者を見極める効果的な方法は、複数の不動産会社を比較検討することです。1社のみと面談するのではなく、複数社と面談すれば信頼できる不動産会社・担当者が見つかります。不動産会社を比較する主なポイントは以下のとおりです。
さらに、複数社を比較すればそれぞれの販売戦略の違いも見えてくるため、囲い込みを防ぐだけでなく、より好条件での売却を目指すことができます。
この記事では、不動産の囲い込みの仕組みやリスク、よくある手口や防止策について解説しました。囲い込みとは、不動産会社が売主から売却依頼を受けた物件を、他の不動産会社に紹介せず自社のみで買主を探そうとする行為です。
囲い込みは売主にとって気づきにくく、知らないうちに売却の長期化や価格下落など、大きな損失につながるリスクがあります。そのため、囲い込みを避けるためには、不動産会社選びや営業担当者とのコミュニケーションを重視しなければなりません。
レインズの登録状況の確認や媒介契約の見直し、複数社の比較など、できることから一つずつ実践し、後悔のない不動産売却を目指しましょう。
㈱エー・エムコーポレーション代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
㈱エー・エムコーポレーション代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。