少し前の話題になってしまいますが、河野太郎行政改革担当大臣が肝いりで進める行政手続きの「脱ハンコ化」が急ピッチで進んでいます。国は婚姻届や確定申告などの行政手続きで押印を廃止することを決め、各地の自治体でも無駄と思われる押印手続きを見直し、電子化への動きが加速しています。

 

不動産契約シーン

(写真はイメージです)

 

一方で、民間企業ではハンコ文化は根強く残っています。不動産の世界では、契約書への押印をすることは、これから30年前後にわたってローンを払うような大きな額のものを購入するお客様にとって、とても大きな意味がありました。不動産業界の裏側をテーマにした漫画『正直不動産』でも、住まいを購入した人のハンコを押す手がブルブル震える様子がよく描かれています。

 

実は菅内閣が発足する3カ月前の2020年6月19日、政府は民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないとの見解を示しています。こうした見解を示すのは初めてのことで、押印でなくてもメールの履歴などで契約を証明できることを文書で周知しました。これは、押印のための出社や対面によるやりとりを減らし、テレワークを推進するのが狙いです。

 

文書には「特段の定めがある場合を除き、押印しなくても契約の効力に影響は生じない」と記されています。契約が成立したと証明するにはメールの本文や送受信履歴、契約の当事者を本人確認できる身分証明書の保存などがあればよく、それが押印の代用手段になるというのが理由です。

 

ということは、これまでわれわれがお客様に対して求めてきた契約書の押印も、実は儀式に過ぎなかったのかもしれません。

 

さて、行政のデジタル化にならい、こうした儀式的な慣習も含めて不動産の世界からハンコは一掃できるのか。これはYESといえます。というより、現時点でも日本非居住者(日本国籍、外国籍問わず)は印鑑証明というものがありませんので、基本的にはサインで意志確認OKなのです。

 

日本に住んでいると、なにか重要な契約を結ぶ際に「印鑑証明」を添付して「実印」で捺印を求められますが、これは日本在住者に限った話、ということになります。

 

日本国籍で外国に居住している場合、印鑑証明の代わりになるものとして大使館で「署名証明(サイン証明)」を発行してもらえます。所有権移転登記にはこの「署名証明(サイン証明)」を使用します。また署名した登記委任状は大使館にて認証を受けることが必要で、この認証済みの登記委任状とサイン証明とをセットで登記を行います。

 

こうして見ると、実はハンコよりもサインのほうが大変だということがお分かりいただけるでしょう。印鑑証明と実印のほうが、実は手続きが簡略なのです。

 

「なくそうと思えばなくせるが、逆に面倒なのでなくさない」というのが、関係者の正直な気持ちかもしれません。

 

 

菅野 洋充(REDSエージェント、0800-100-6633、hiromitsu@red-sys.jp)
北海道出身。所有資格は宅地建物取引士、宅建マイスター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(個人資産相談業務)、ホームステージャー2級、競売不動産取扱主任者、情報セキュリティマネジメント、住宅ローンアドバイザーなど。
プロフィールページはこちら
インタビュー記事はこちら