不動産事業プロデューサーで、REDS不動産のリアルでもインタビュー(【新春インタビュー】2019年の不動産市況 買い控え派VS低金利のうちに買う派 期待と警戒が交錯)などに協力していただいている牧野知弘氏が2019年1月10日、新著を出版されます。タイトルは『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』。相続ラッシュ、農地放出、働き方改革など、2020年東京五輪後に、東京で起こる不動産をめぐる環境や人の価値観の変化を踏まえ、東京で生きていく現代人にとって、東京23区それぞれでどの街に住むのがいちばんよいのかを徹底解説しています。これからマンション購入や住み替えを検討される方に、REDSとしてもイチオシの内容となっています。発刊に当たり、牧野氏からコメントをいただきました。

「会社ファースト」から「生活ファースト」への価値観転換で変わる不動産選び
――この本のコンセプトは
牧野 今後、働き方が大きく変わっていく中で、東京で暮らしていくとはどういうことかを考えてみましょうという本です。結論からいうと、今後はどのマンションに住むかよりも、どの街に住むかによってあなたの人生が決まります。そのためにいろんな観点から、「東京ってどんな街なのか?」ということをおさらいして、どこに住んだら自分の人生が充実するのかを考えるきっかけにしていただければと執筆しました。
今の住まい探しでは、オフィスに通勤することを大前提に、交通利便性のよいエリアが選ばれます。しかし今後は、決められた時間に都心のオフィスに来て与えられたデスクで仕事をするスタイルは急速に廃れ、情報端末でどこでも好きな場所で、自由に仕事をするライフスタイルに変わるでしょう。そうなると、一日の多くを自分たちの街の中で過ごすことになり、街の評価というものが決定的な要因となります。これまでのように駅から徒歩7分以内とか、ターミナル駅じゃないとダメなんていう選択はなくなりますね。「会社ファースト」から「生活ファースト」に価値観が変わっていく中で、街の選び方を間違えると、大変なことになる。そこで、東京のどこに住めばいいのかというのをいろんな観点から解説しました。
これからは、その街にどんなテーマ性を持ったものがあるのか、平日にどんな楽しみ方ができるのか、街で暮らすことをもっと楽しもう、ということのほうが重要になってくるでしょう。そんなに急に変わるのかと思われるかもしれません。しかし、90年代にWindows95が発明されて以降、我々の働き方と仕事のあり方は大きく変わりました。住宅に関してもあのときと同じくらいの勢いで、変化がくるんじゃないか。しかも、東京五輪が終わるとものすごく早く来ると確信しています。
――どんな構成になっていますか
牧野 まず、第1章では「2020年以前ー何が東京を形作ったのか」として、江戸時代から世界でも有数の人口を擁していた「東京」が、その成り立ちから現代に至るまでに、どのように水路や道路、地下鉄、住宅地が形成されてきたかを解説しました。それが現代に入って、教育事情や在留外国人の増加などが街にどういう変化を与えてきたのか。そんな東京で2020年にオリンピックが行われる意義などを述べました。
第2章では「2020年以後ー『働く』『暮らす』東京の再発見」として、2020年以降に東京で働くことや暮らすことへの価値観や不動産をめぐる環境がどう変化するのかを解説しました。数年後、相続ラッシュや生産緑地制度の期限満了によって今後、都内の不動産価格の下落が進みます。また、働き方が変われば渋谷や大手町などのオフィスに通勤するということすらなくなっていくでしょう。そうなると、これまで住まい選びでは当たり前だった「駅から徒歩7分以内」や「沿線ブランド」といった価値観も消滅します。こうした「リセット」は日本人のあり方や生き方をどう変えるのか。そして東京人は街をどう選んでいくことになるのかを考えました。
第3章はこの本のメインタイトルでもある「街間格差ーあなたの人生は住む『街』で決まる」。湾岸や川沿い、ブランド住宅地、オフィス街、観光地、山手、下町、団地、公園の近くなど、エリアを分けて、それぞれそこに住むとはどういうことか、どんなメリットやデメリットがあるかを解説しました。地下鉄はどれが便利なのか、タワーマンションって住むにはどうなのか、外国人が多いところは住んでも大丈夫なのか等についても触れています。これからの住宅地選びのカギとなる視点のはずで、こういう角度から出した本というのはあまりないので、ぜひご覧いただきたいですね。
第4章ではさらに具体的に、23区すべてをとりあげて「千代田区の輝く街はここ、くすむ街はここ」という具合に説明しています。よい街、悪い街をぜんぶ書いていますので、これから住む街を決めるのに参考にしていただければと思います。ただ、この章で記した評価は決して「街」そのものの優劣を語っているモノではなく、マンションの値上がり値下がりに関係しているという視点も含んでいません。東京の学校を出て、東京の会社に就職し、不動産を扱うために東京中の街を見て回り、商売のタネとしてきた私の勝手な判断です。
最後の第5章では、第2章で述べた未来予想をさらに押し進めて、未来の東京では住まい探しから街探しが重要になってくるということを説明しました。東京という街をもっと楽しみ、街によって人生が豊かになり、街を自分の力で輝かせる。そんな未来にしようじゃありませんかというのが結論です。
――ありがとうございました。
あなたの住みたい街は、「輝く街」? くすむ街?
読みどころ満載のこの本の中でも、多くの人が最も読みたいであろう部分は第4章の23区徹底解説でしょう。地方出身者はおろか、首都圏に住む人にとっても目からウロコの内容が次から次へ出ており、街選びの参考になるでしょう。たとえば千代田区ではこんなふうに記されています。
《千代田区 盤石なブランドと中途半端さが同居する 輝く街:番町、富士見 くすむ街:東神田、岩本町》
「番町には、今でも大手デベロッパーが高級マンションを供給し続けています。(中略)この地域のマンションを買う層というのは、落ち着きのある高齢の経営者や医者、弁護士といったプロフェッショナル層が多い印象があり、あまり変化を好まない一方で住む『街』が持つ文化や歴史にこだわり、誇りを持つ人たちが選ぶエリアです。そうした意味で番町・麹町のブランドは今後も盤石と言えそうです」
「東神田や岩本町となると『働く』にも『住む』にもより中途半端な立地となっています。(中略)問屋街の機能は薄れつつあり、さりとて都心居住の受け皿としての住宅地にもなりきれていないのがこのエリアの悩みの種と言えるでしょう」
こんな具合に、1つの区についての解説が数ページにわたって行われています。あなたが住みたいのは何区のなんという街でしょうか。そこは「輝く街」でしょうか。それとも「くすむ街」でしょうか。その答えはぜひ、本を手に取ってご確認ください。
(取材・構成 不動産のリアル編集部)
■牧野知弘氏 オラガ総研株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年オラガ総研株式会社設立、代表取締役に就任する。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(ともに文春新書)などがある。テレビ、新聞などメディア出演多数