不動産のリアルREALITY OF REAL ESTATE

  • 最終更新日:2018年8月14日
  • 公開日:2018年3月8日

え、なぜTV番組で不動産鑑定士が物件査定? 鑑定士の本来の仕事とは⑴  

フジテレビ系列のTV番組「有吉弘行のダレトク!?出張査定!ダレトク不動産」を、不動産鑑定士として見ました。番組は、芸能人の自宅へ行って、「今、売るとしたらいくら?」と住宅やマンションの価格をその場で査定する内容です。買った時の価格と比較して、損か得かをアピールするものでした(2017年10月17日放送分)。 

 

番組を見てまず感じたことは、なぜ同行しているのが不動産鑑定士で、売買という流通マーケットで仲介を行う宅地建物取引士でないのかということでした。以下、不動産鑑定士を「鑑定士」、宅地建物取引士を「取引士」と略し、専門家として番組を見て感じたことを述べていきます。

 

不動産売買

(写真はイメージです)

 

鑑定士と宅建士の決定的な違い

 

そもそも鑑定士と取引士は、業務の元になる法律が違います。鑑定士は「不動産の鑑定評価に関する法律」、取引士は「宅地建物取引業法」に決められています。前のコラム、“「出張査定!ダレトク不動産」に見る鑑定士と宅建士の違い”のとおりです。

 

したがって、鑑定士は仲介ができませんし、取引士は不動産鑑定評価書という文書を発行する鑑定評価はできません。また、同じ鑑定業務の中でも、「不動産鑑定評価基準に則った文書」についてしか「鑑定」という言葉は使えませんので、番組のようなケースでは、価格を判断する言葉として鑑定ではなく、「査定」が使われることになります。

 

やはり、「売るとしたらいくら?」という売買を想定した住宅やマンションの価格を判断するには、流通マーケットでの情報に精通している取引士がふさわしいのではないかと考えるからです。また、このREDS「不動産のリアル・エンタメ」の中にもあるとおり、鑑定士と取引士とには意見に差が見られるからです。

 

ここで注意が必要なのは、番組で鑑定士が査定した価格や、実際に売買する時に取引士が査定した価格は、あくまで目安としての価格です。その価格で売れることを保証する価格ではありません。中古物件の売買はあくまで売主と買主個人間の取引であり、定価というものがないからです。誰にいくらで売るか、どれをどの値段で買うかの判断は、それぞれ売主、買主が決めることだからです。

 

不動産の評価は調査から始まる

 

番組では視聴者に大きな誤解を招くところがありました。番組で鑑定士が行っていたのは、あくまで現地調査の一部だということです。現地で調査すべきことはたくさんありますし、所有者へ確認すべきこともありますが、番組では全てが省略されていました。しかも、その場で電卓をたたいて価格を出すことはあり得ないことです。あくまで、TV番組として「絵になる」ように構成されていただけです。

 

不動産の調査をするステージは現地、法務局、市役所等の関係官庁と、3つのステージに分かれます。現地の状況がどうなっているか調べ、法務局で登記など権利関係はどうなっているかを確認し、役所などで法令上の取扱いはどうなっているかを調査します。これら3カ所での調査をして初めて不動産の価値を判断することができるのです。

 

具体的には、不動産鑑定士は現地で実際にメジャーで道路の幅員を測り、土地が道路とどのように面しているかを確認します。また、隣地との境界ははっきりしているか、ブロック塀の所有はどちらかも確認します。さらに、建物がある場合には屋根や外壁の状態も調べます。また、建物の内部の調査では、ドアやサッシの取り付け具合のほか、天袋から顔を入れて天井裏の状況までチェックします。隣の家との間がどんなに狭くても、裏側まで入って境界や外壁を調べることが通常ですから、番組のようにスーツ姿で現地調査をすることはあまりないのではないでしょうか。

 

法務局では、土地や建物の所有者は誰か、公図や地積測量図などの図面はどうなっているかなどを調べます。番組では、住んでいる芸能人本人が所有しているとの前提でしたが、実際は、自宅であっても登記名義人は親であったり、会社所有であったりするため、省略できる手続きではありません。

 

関係官庁では、都市計画法上の用途地域や建ぺい率、容積率が何パーセントかを調べます。接している道路は公道か私道か、幅員は何メートルか、道路との境界が確定しているかどうかなどのほか、水道や下水道の種類、本管や引込管の位置や口径、建物がある場合は建築基準法などの法令に適合しているかどうかを細部にわたって調べます。

 

このように、不動産調査は多岐にわたり、時間を要する作業です。対象がマンションの場合も、全体の建物について同じ調査を行います。このため、番組で放映されていたように芸能人が所有している部屋(専有部分)だけ調査することはありえないのです。

 

怪しいところはこれにとどまりません。番組では高級マンションの査定をする際、エントランスホールだけを見てグレードを判断していました。しかし本来ならば、管理会社はどこか、管理規約はどうなっているか、大規模修繕はいつどこを直したか、管理人は常駐か巡回か、カメラなどのセキュリティ設備は万全かなどもチェックしなければなりません。番組ではこういう肝心な部分には全く触れられていませんでした。

 

ほかにも違和感がいっぱい

 

番組ではこのほか、都内高級住宅地の一つ、松濤(しょうとう)の事務所兼住宅の査定もありました。その際、「『中古の建物(上物)に価値はない』という都市伝説は崩壊している」と放送されていました。しかし、筆者の経験からすると、決してそんなことはないと思います。

 

番組で紹介された物件は、吹き抜け天井まで続く壁のテラコッタタイル貼りや床の大理石貼りだったように、高級な住宅ほど、所有者はこだわりを反映させようとします。そこに共鳴する購入希望者はそれほど多くないかもしれません。高級住宅ほど、購入希望者の予算枠が大きく、建物に自分の好みやこだわりを生かすことを求めます。個性の強い住宅ではその自由度が狭いので敬遠されることが多いのです。よく「築25年もたてば上物の価値はゼロになる」といわれていますが、今のところは都市伝説がまだ生きていると考えましょう。

 

時間が限られたTV番組では、現地調査のごく一部しか紹介されないのはやむを得ない面もあるでしょう。ただ、鑑定士としての仕事を紹介するという意味では、視聴者に誤解を与えかねない場面が極めて多いと感じました。

 

=⑵に続く

 

三浦雅文 米国国際資産評価士・不動産鑑定士
土地家屋調査士・行政書士・宅地建物取引主任士の資格も保有。1954年北海道生まれ。大学卒業後、測量、登記、鑑定、総合不動産会社を経て独立。多分野での経験を活かした不動産のアドバイスとオールラウンドの鑑定評価を業務の中心に活動中。

 

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※2026年10月18日現在 本社・首都圏営業所の数値

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