フジテレビ系列で毎週火曜日22時から放映されているバラエティー番組「有吉弘行のダレトク!?」。ちょっと変わったお得な情報やレシピを紹介していく番組です。10月17日(火)には、芸能人の自宅を査定する新企画「出張査定!ダレトク不動産」がありました。
プロの不動産鑑定士が実際に訪問して査定する、査定をアップする裏ワザも紹介する、という触れ込みです。不動産業界の隅で細々と生息している筆者にも何か参考になることはないか、とこの日は早めに家に帰って観てみました。芸能人の自宅を拝見したいという野次馬根性も、もちろんありましたけどね。
番組では、アンタッチャブルの山崎弘也さんが「不動産鑑定士」の方と一緒に芸能人の自宅を訪問し、購入金額と比べて現在の価値を査定してもらう、という形をとっていました。
筆者のような宅建士ごときが不動産鑑定士様のお仕事にケチをつけるつもりなどは毛頭ございません。ただ、観ていて気が付いたことを、ちょっとだけ書き連ねていくことにしましょう。

(写真はイメージです。)
不動産鑑定士のお仕事と、不動産会社・宅建士との違い
そもそも不動産鑑定士とは、いったいどんなお仕事なのでしょう。
不動産鑑定士とは、「不動産の鑑定評価に関する法律」によって制定された国家資格で、業務の内容は、不動産の鑑定評価業務および相談業務とされています。
鑑定評価は、公的な価格の指標や競売価格の評価、減損会計や抵当権の評価などに採用される、蓋然性の高いものとされ、高度な専門性と広範な知識を要求されます。不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士の独占業務(不動産鑑定士以外は行えないと法律で定められている)ということです。
不動産鑑定評価とは「不動産の経済価値を判定して、価額として表示すること」を意味し、その評価基準は、法律でその手順や方式が詳しく定められています。不動産鑑定評価をする者は報酬を受け取ることができますが、それを業として行う者は国もしくは都道府県から不動産鑑定業の登録を受けなければなりません。
なお不動産会社は、宅地建物取引業法による免許を受けた、「宅地建物の売買・交換・貸借を自ら、あるいは代理や媒介によって業として行うもの」とされています。不動産取引を行う会社であって、鑑定業者として登録を受けていない限り、鑑定をすることはできません。
ちなみに宅地建物取引士は、不動産取引について消費者を保護し、取引の安全を確保するために専門家として的確な助言を行い、積極的な支援を行うことが求められる国家資格です。独占業務は、取引における重要事項の説明、重要事項説明書および契約書への記名押印です。
それでは、不動産会社が通常行っている、不動産の「査定」とはいったい何なのでしょうか?
宅地建物取引業法では、「宅地建物取引業者が、売買すべき価格または評価額について意見を述べるときには必ずその根拠を明らかにしなければならない」と定められています。そうです。査定とは、不動産会社による売買価格についての意見、に過ぎないのです。
そのため、国土交通省による「解釈・運用の考え方」では、査定について、書面を用いるときは、不動産鑑定評価ではないことを明記するとともに、みだりに他の目的に利用することのないよう依頼すること、根拠の明示については法律上の義務なので査定に要した費用は依頼者に請求できないものであること、とされています。(つまり査定は無料なんです)
不動産鑑定士が正式に算出した鑑定は、報酬に値する権威あるもの、とされます。一方で、不動産会社や宅建士の査定は、売買のための参考価格に過ぎない、ということです。
不動産鑑定士様の前では、「宅建士ごとき」と言いたくなる気持ちがお分かりいただけたでしょうか?
もっとも、番組内で不動産鑑定士の算出した価格は、正式なものではありませんので、あくまで参考価格としてとらえるべきでしょうね。
番組で紹介された査定事例のポイントを整理しました
番組では、4人の芸能人の自宅を査定していました。筆者の雑感は後で述べますが、とりあえず、それぞれの査定のポイントを箇条書きにしてみましょう。
内藤大助さんのご自宅
購入時価格5,300万円⇒査定価格5,100万円
概要
•立石の分譲マンション・築5年・駅徒歩5分
•1階(39㎡の専用庭付き)・81㎡・4LDK
査定ポイント
•間取り:リビング隣の和室がリビングを狭く見せている
•天井高:2.5mは普通
•専用庭:1階は評価低いが、角部屋・専用庭で相殺
•立地:駅徒歩5分、近隣の立石駅再開発はプラス
裏技ポイント・豆知識
①リフォームすれば査定アップ
•和室リフォーム 費用150万⇒査定300万
•ガスコンロをIHコンロに 費用70万⇒査定100万
•トイレ交換 費用10万⇒査定30万円
②階数・角部屋はチェックポイント
•階数は1階上がるごとに2%査定アップ
•角部屋は10%アップ
加藤歩さんのご自宅
購入価格6,800万円⇒査定額7,600万円
概要
•三軒茶屋の木造3階建て・築6年・駅徒歩5分
•土地52㎡・建物88㎡・3LDK
•土地5,000万円・建物1,800万円
査定ポイント
•土地:狭小住宅、接道状況(通り抜けできない道だが角地は評価高い)
•隣地状況:隣家との距離が40cm(民法上は50cm×2が必要、要合意)
•段差:バリアフリー上評価低い
•立地:澁谷駅の再開発は高評価
裏技ポイント・豆知識
①流行りのスキップフロアはバリアフリー上、大幅査定ダウンの可能性
ドン小西さんのご自宅
購入価格6億4,000万円⇒査定額2億300万円
概要
•白金台のマンション・築29年・駅徒歩1分
•158㎡・1LDK(3LDKをリフォーム)
査定ポイント
•間取り:広さに見合ってない需要のない間取り
•眺望:隣地にマンション建設のため眺望なし
•エントランス:共用部分の印象良し
•購入価格がバブルの真っ只中
江川達也さんのご自宅兼仕事場
購入価格6億2,000万円⇒査定額6億6,000万円
概要
•松濤の木造・RC造地下1階地上3階建・築17年・駅徒歩10分
•537㎡・7LDK
•土地3億円・建物3億2,000万円
査定ポイント
•土地:200㎡以下の売買が条例で禁止された高級住宅街
•建物:壁・床にテラコッタ・タイル、大理石など高級部材使用
裏技ポイント・豆知識
①「上物価値ゼロ」は、都市伝説
•建物は100年以上持つものもあり、その使用価値は評価されるもの
「査定」と「鑑定」はやはり違う…。不動産売買のプロとしての所感
筆者も、マンションや戸建ての「査定」は日常的に実施しています。番組を通して感じたのは、「『鑑定』とは資産の価値を評価することであって、今マーケットに出せばいくらで売れるのか、という『査定』とは、やはりちょっと違うものなんだなあ」ということです。
極端な例ですが、カマボコの通常価格は、製造原価+物流費+販売経費+利潤です。「鑑定」とはこうした適正な価格を見極める作業なのだと思います。でもカマボコの需要がピークになる年末やお正月にはスーパーなどで価格は急騰しますよね。その価格は「鑑定」では高すぎるという評価になりますが、「査定」では、それでも市場で売れるであろうから、正しい価格なのです。
特に大きな違いを感じざるを得なかったのは、次にあげる点です。
•階数による評価の違い(1階上がるごとに2%査定アップ)
•リフォームすれば査定アップ
•上物価値0は都市伝説
これらについては、国土交通省の方針や税制改正を踏まえた評価を、鑑定士として実施しているのでしょうが、市場の動向はいささか違っていると言えるのではないでしょうか。
税制改正による階数評価の変更は現実的か?
「相続税対策でタワーマンションがよく売れる」という話を聞いたことがあるかと思います。相続税の対象としての評価は、現金だとそのままの金額ですが、不動産の場合は、購入価格で評価されるのではなく、固定資産税や路線価をベースにした安い評価となるので節税になる、という仕組みです。
特にタワーマンションについては、高層階の部屋は低層階の2倍以上の価格で売買されているにもかかわらず、従来の固定資産税評価は階数に関わりなく、床面積に応じて全室に均一配分されていました。評価の圧縮効果が高いタワーマンションの高層階は、節税に特に有効と人気になっていたのです。
2017年の税制改革では、そうした不均衡の是正を目的として、固定資産税評価は「1階を100とし、1階増すごとに10を39で除した数を加えた数値」で補正することとなりました。何を言いたいのかよく分からない表現ですよね。
簡単に言うと、「1階上がるごとに固定資産税は0.26%上昇するように評価します。1階と40階では同じ間取りでも1割評価が違いますよ」ということです。番組内で「2%価値が上昇する」と表現していたのは、この部分だと思われます。不動産鑑定士が、鑑定の際にこうした税制改正を考慮するのは当然でしょう。
しかし実際の市場で、1階と40階の部屋が1割しか価格が変わらないというのはあり得ないでしょう。眺望というプラスポイントが付きますので、階数の差だけでは1割しか差がないと思わせるのは、ミスリーディングになりかねません。
上物価値は、やっぱりゼロであることが多いです
国土交通省は、2014年3月31日に「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を発表しました。中古住宅の流通の推進を目的に、築年数で評価0とされがちな建物の評価を、あるべき価値を反映させるものに改善しようという趣旨のものです。
改善策として
(1)部位の特性に応じた区分による評価:建物の部分別に評価
(2)耐用年数の考え方:税法上の耐用年数ではなく実際の使用可能年数による評価
(3)リフォームに伴う価値の回復・向上の反映
を打ち出しています。
そうした考え方に基づいて、不動産会社が査定に利用することが推奨されている、「既存住宅価格査定マニュアル」も2016年に改訂されています。
不動産鑑定士が、上物価値0は実態のない都市伝説だとしているのは、こうした背景があるからです。
しかし現実は、中古住宅向けの住宅ローンを取り扱う金融機関の融資審査において、建物の担保評価は旧態依然でなかなか変わっていないのが現状だと思われます。これは国土交通省の指針でも課題として指摘されています。特に木造住宅については、築20年もしくは25年以上の建物を融資の対象としていないローン商品も散見されます。
リフォームについても、使用してしまえば購入者にとっては中古となりますから、あまり評価アップは期待しない方が無難です。特に売却を決めてからのリフォームは避けた方が良いでしょう。コストをかけた分を回収できるとは限りません。
こうした環境では、「都市伝説」と言い切るには、現状がまだまだ追いついていないのではないでしょうか。
一般の方が簡単にできる、査定アップのポイントとは?
番組を通じて、不動産鑑定士様のご指摘は、基本的にはごもっともなことばかりでした。ただ「裏ワザ」というよりは「豆知識」が多く、一般の方が参考にできる裏技があまりなかったともいえますね。
最後に、筆者からとっておきの裏技を1つだけ教えましょう。
「玄関は花か、せめて消臭剤をおきましょう」
番組でも「マンションの印象はエントランスの格で決まる」と言っていましたが、玄関は買主への好印象の入り口です。そしてどんなに整理整頓していても、その家独特の匂いがあっては、好印象を得られません。しかし自分の家の匂いは自分では気付けないもの。しかも「貴方の家は変な臭いがする」とは不動産会社の人もなかなか言えないのではないのでしょうか。
「匂いを消して、好印象を得て査定アップ」、これが私からのアドバイスです。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。