マンション購入から年月がたつと、転勤や両親との同居など、購入当初には考えもしなかった事態が起こり得ます。それによってマンション売却を検討する必要がでてくるかもしれません。
マンションの売却は、まず売主がいくつかの不動産業者に話を聞き、売却の方法や査定金額の説明を受けながら、信頼できる不動産業者に売却活動を依頼することになります。しかし、全てを業者任せにすれば売主は何もしなくて良いかというと、そうではありません。
例えば、マンション売却活動においては通常、購入検討者が売主のマンションを見学する「内覧」があります。そしてマンションの立地や眺望は売主には変えられませんが、内覧に来た購入検討者に好印象を与えるよう住まいをアレンジすることは売主にもできます。
新築マンションでは内装や設備は全室同じ新品ですが、中古マンションは内装状況なども各々の売却物件によって異なるため、自分の物件を選んでもらうためには内覧時の第一印象が非常に重要な要素になってきます。今回は、購入検討者の心をつかむ内覧準備のポイントをまとめました。

(写真はイメージです。)
空気の入れ替えを事前にしっかり
どのご家庭の住まいにも、それぞれ独特の「匂い」があります。毎日過ごす自分の家ではあまり気にならなくても、友人などの家にお邪魔した際に、そういう匂いを感じることもあるのではないでしょうか。またペットを飼っているお宅では、ペットを飼っていない人間からすると特有の臭いが気になることも少なくありません。
それぞれの家に独自の生活スタイルがありますから、独特の生活臭はある意味当然です。しかし内覧となると、他人である購入検討者が来られた時に、その家の匂いで第一印象を悪くしてしまってはマンション売却には不利益となります。
内覧の時には、マイナスの第一印象をなるべく抱かれないように、来室予定の30分程度前には部屋の窓を開けて換気するようにしてください。犬や猫などのペットと一緒にお住まいの場合には、さらに長い時間、換気するようにした方が良いでしょう。新鮮な空気を入れて、さわやかな第一印象から内覧がスタートできるはずです。
照明はすべて点灯
新築マンションのモデルルームを見学したことがある方は、思い出してみてください。室内の照明は全て点灯してあったはずです。これは、「暗い」という印象を与えないための販売戦略の1つです。
多くのマンションでは廊下の両側に部屋があります。このため廊下や玄関には窓などがなく、照明をつけなければ大変暗くなってしまいます。節電目的などで日常生活ではつけないことが売主にとっては当たり前でも、購入検討者は内覧で初めてその部屋を見るのですから、第一印象で「この物件は暗い」という印象を抱かせてしまう恐れがあります。
内覧時には、新築マンションと同様に全ての照明を点灯させて、明るい玄関、明るい室内で購入検討者を迎えるようにしましょう。もちろん、購入検討者から「実際の日当たりを確認したい」という要望があった時は、それに応じてください。
お部屋は整理整頓してすっきりと
部屋の中に荷物がたくさんあると、実際よりも「狭い」という印象を与えてしまいます。お住まいの売却期間中はできるだけ整理整頓を心掛け、室内がすっきり見えるようにしましょう。お子様のおもちゃなどのこまごました荷物は、大きな箱などに詰めておくだけでも印象が違います。
また整理整頓をきちんと行うことで、「この売主はしっかりしている」というイメージを購入検討者に与えられます。中古マンションの売買は、不動産業者が間を取り持ちますが、最終的には個人間での契約行為です。売却するマンションの隠れた不具合などを保証するのも売主。売主自身への信頼はとても大切なのです。
整理整頓が行き届いていない部屋を見た購入検討者は、「こんなことでは、設備などの管理状態も不安だな」「この売主と契約して大丈夫かな?」という不安を抱くかもしれません。反対に整理整頓や清掃がされていれば「普段からこれだけしっかりと管理されているなら問題が起きることは少なそうだ」となり、購入を決断する後押しになるかもしれません。
こまめな掃除を心がける
前述の整理整頓と同様、住まいの掃除も重要なポイントの1つ。特に気を付けておきたい箇所は、玄関、キッチン、浴室、トイレです。
玄関は、その家の第一印象が決まってしまう場所です。きれいに掃除しておきましょう。靴は靴箱に収納し、すっきりとした印象を与えるのがポイント。アルコーブ(共用廊下から少し後退させた玄関前の部分)がある玄関は念入りに掃除を。ここに長年置いている物がホコリを被っていたりすると「清掃の行き届かない売主」と思われてしまうかもしれません。
キッチン、浴室、トイレといった水回りは、毎日の汚れや掃除の状況が一番反映されやすい場所であり、また内覧で購入検討者が必ず確認する場所です。これを見て住まいの管理状態が悪いと判断されては売主も不本意でしょう。整理整頓と掃除をしっかり行いましょう。
内覧者になるべく自由に見てもらう
ショップで洋服などを買う時に、店員がベッタリとくっついて説明を続けてくるのを不快に感じたことはありませんか? マンション売却も同じです。売主の中には「セールスポイントをしっかりと伝えなければ」という思いから、購入検討者のそばで長々と説明し続けてしまう方いますが、これはショップの店員と同様に不快に感じられてしまう恐れがあります。
マンション売却時の内覧では、基本的な説明は不動産業者に任せ、購入検討者から質問があった時にポイントを説明する、というのが良いでしょう。そして売主として感じているセールスポイントがしっかりと伝わるように、不動産業者とは事前に打ち合わせをしておきましょう。
購入検討者によって希望の条件は異なります。眺望の良さを優先している購入検討者に、キッチンの使い勝手をこまめに説明しても深く伝わりません。仕事で毎日の帰りが遅いDINKSに日中の眺望の良さを伝えても効果は少ないでしょう。その購入検討者が何を優先しているか知っている不動産業者に説明を任せる方がより「響く」のです。
売主としての心づかい
第3章でも触れた通り、内覧では、購入検討者は住まいとともに売主の人となりも見ています。売主への印象が、購入の決断に至る最後のひと押しになることもあるのです。売主として良い印象を与えられるよう、次のような心づかいを考えましょう。
・寒い日、暑い日は早めにエアコンを入れる
気候に応じてエアコンを早めに入れておき快適な状態にしておけば、購入検討者からも好評価を得られるでしょう。
・靴べらやスリッパの用意
心配りは足元から。来客を迎えるための靴べらやスリッパなどは必ず用意しておきましょう。荷物を置く場所を作っておいてあげるのも良いかもしれません。
・来客用駐車場の予約
ちょっとしたことですが、来客用駐車場があるマンションでは購入検討者のために予約を忘れずに。不動産業者が駐車場探しに手間取ったりしてはよけいな不安を与えてしまいます。
・無理に長居をさせない
多くの場合、内覧者は同じ日に複数の物件を見学します。次の予定に差しさわりのないよう、無理に引きとめたり、長居させたりするようなことはやめましょう。もっともお茶とお菓子で一服してもらうくらいは、心づかいとして良いことです。夏の暑い日などは冷たいお茶や水が喜ばれるでしょう。
終わりに
内覧者の印象を良くするために、売主ができることはたくさんあります。その一人の購入検討者を逃してしまうことで、マンション売却の決定まで何カ月もの時間がかかってしまうかもしれません。時間がかかれば、その間の住宅ローンや管理費の支払いはもちろん販売価格を下方修正することも考えねばならないかもしれません。そうなれば十万・百万円単位の損です。
マンションを少しでも早く、そして高く売却するためにも、お住まいの内覧に向けて、売主としてしっかりと準備を行いましょう。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。
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