自宅のマンション売却を、何度も経験されている方は多くないと思います。賃貸は住み替えが簡単にできますが、転勤、親との同居といった大きな理由がなければ、例えば不動産業界では持ち家を住み替える機会は少ないでしょう。
マイホームを「自分の城」と表現するように、自ら購入したマンションへの愛着は強く、また居住期間が長いほど思い出も増えていきます。出産、子育て、子の独立、ペットの飼育、リフォーム……。良い思い出が増えれば増えるほど、「自分が今所有しているマンションこそ最良」と思えるものでしょう。
しかしながら、この思いが実はマンションの売却を難しくさせるという面もあります。マンション売却では、そのマンションの強みを把握していること以上に、周辺状況を客観的に判断する考え方が重要です。今回は、マンション売却をできるだけスムーズに行うために大切な考え方をご紹介します。

(写真はイメージです)
マンション売却時の価格査定に「思い入れ」は危険
売主の自物件に対する過剰な自信
マンション売却に携わると、「うちのマンションは、他とは一味違う」「この部屋からの眺望は特別」「この良さが分からなければ検討してもらわなくて良い」などの声を売主から聞くことがあります。お気持ちは分かりますが、あえて言うならば、こうした売主の過剰な自信が、マンション売却活動を難しくさせてしまいます。
購入時に比べて下落した価格を受け入れられない
また別のケースでは、「購入時は8,000万円もしたのに、5年で5,000万円になってしまうなんて有り得ない」など、購入時の金額と売却時の査定金額との落差を受け入れられない方もいらっしゃいます。
ただ、そんな自物件への過剰な自信や、価格の下落を受け入れられない気持ちは、査定価格を高く提案してくる不動産仲介業者に利用されてしまう恐れがあります。売主の気持ちに付け込み、相場よりも高い査定価格を提案して、売却依頼を獲得することを優先する不動産仲介業者がいるのです。
現在、多くの購入検討者はインターネットを通じてマンションを探しています。ポータルサイトに希望条件を入力して検索すると、数多くの物件情報が価格順に並んで表示されます。その中で立地や間取りなどを比較検討しながら、興味を持った売却物件に問い合わせをして内覧、という流れです。
ここで売却価格を過剰に高く設定していると、購入検討者の目線からは外れてしまい、問い合わせもなかなか増えません。そして、マンションの売却活動が長引くと「あの物件には売れない理由がある」という憶測が購入検討者に生まれ、周辺相場に合った価格に変更しても手遅れとなり、マンション売却がうまくいかないケースもあるのです。
査定価格の妥当性を確認するには、売主もインターネットサイトなどを見て、条件の近い売り出し物件と比べることです。ご所有のマンションがどのぐらいの価格なのか、下知識をつけてから不動産業者の査定価格を聞くようにしましょう。
マンション売却中に注視しておくべき3つの指標
1. 物件確認
マンションの売却活動を始めると、購入検討者や、物件を紹介する不動産仲介業者の動きが確認できるようになります。最初に感触をつかめる動きが「物件確認」です。
売却活動の依頼は、不動産業者と「媒介契約書」を締結するところから始まります。媒介契約には3種類あり、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の順に、売主と業者ともども制約が厳しくなっていきます。一般媒介では複数業者に売却活動を依頼できますが、専任媒介・専属専任媒介では依頼できるのは1社のみです。
その代わりに専任媒介・専属専任媒介には「レインズ」という日本全国の不動産業者が売却情報を確認できるインターネットサイトに、物件情報を期日までに登録する義務があります。
物件確認とは、レインズで物件情報を見た不動産業者が、窓口となっている不動産業者へ物件の状況を確認したり、資料を請求したりする作業のことです。問い合わせを行った不動産業者が購入検討者に物件を紹介することを目的としています。
レインズには売買契約が締結される日まで物件が掲載されるため、この物件確認を行わないで物件を購入検討者に紹介してしまうと、後に内覧希望があった時に「その物件はすでに明日契約予定ですので、内覧できません」なんてことにもなりかねません。
物件確認は不動産仲介業者の日常の作業として行われています。この物件確認の数や内容が、多くの売却物件の中でどれほど注目を得ているか(紹介されているか)の指標となるのです。マンション売却活動をスタートしたら、売却担当者に、物件確認の件数や問い合わせの内容を確認するようにしましょう。
「物件確認が1週間で50件あったから良い、20件だからダメ」というものではありません。数だけでなく、具体的な内容の問い合わせが届いているかが重要です。不動産業者がその物件を積極的に紹介したいのならば、売却事情や引渡しの時期なども確認してきます。それらも含めた手応えを、売却担当者と共有するようにしましょう。
2. 内覧希望の数
もう1つ、売却活動の感触を確かめられる指標は「内覧希望の数」です。これには購入検討者の興味がダイレクトに反映されます。本当に興味があり購入を前提に内覧を希望する人、本命物件のついでに希望する人、あんまり興味はないけど業者が勧めるから見るという人…。興味の度合いは人それぞれです。
いずれにしても、全く興味がなければ貴重な時間を使って内覧をしようとは思いません。したがって、マンション売却活動を開始してから内覧を希望する方がどれだけいるのかが、非常に重要なデータになります。
「売却活動を始めてから毎週土・日曜日に2~3件、1カ月で10件程度の内覧がある」という物件は、立地や価格面から多くの方に興味を持っていただいている状況です。反対に、1カ月で内覧が0~2件程度の場合は、周辺物件よりも見劣りしていると思われます。
この内覧件数は、地域特性や物件の特徴によって変わってきます。周辺の物件に比べてどうなのか、手応えはあるのか、不動産仲介業者と感触を共有しておきましょう。
3. 周囲の売却物件の内覧数
ここまで取り上げた「物件確認」と「内覧希望の数」の他にも、売却するマンションの周辺物件と比較しての評価を確認できる方法があります。それは「周囲の売却物件の内覧数」です。
インターネットや販売図面では、周辺物件の内装状況や住環境を詳しく知ることはできません。なので、実際に内覧してみるのが一番。居住中の売却物件は住人との調整が必要ですので、空室の売却物件を内覧してみましょう。購入検討者の視点で、客観的にご自身のマンションとの優劣を見ることができるでしょう。
ご自身が納得できる売却を
以上のように、所有マンション売却を成功させるためには、ご自身の思い入れだけではなく、周辺相場や売却中の他物件との比較、購入検討者や不動産仲介業者の視点も押さえるなど、客観的な視点を忘れないということです。
ただ、不動産売買には客観的な判断を超えたイレギュラーな売買事例もあることを認識しておいてください。
例えば不動産業界では、「地続きは借金しても買え」という金言があります。「地続きの土地を購入すれば、土地の自由度が増して資産価値が向上するから、無理してでも購入せよ」ということです。「隣の住戸が売りに出たから、娘夫婦を呼ぶために購入する」という買主なら、たとえ相場より数段高くても購入してくれるかもしれません。相場よりも、買う理由が優先されるからです。もっとも、このようなイレギュラーな実例はいつ出会えるか予測がつきません。
不動産の売買は数千万円という取引であり、売買価格が数パーセント変わるだけで、数十万、数百万の差が出ます。マンション売却の際には、客観的な視点もイレギュラーも含めて、ご自身が納得できる売却となるよう心がけましょう。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。
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