「マンションを売りに出すとしたら、どれくらいの期間で売れるのだろう?」
マンション売却を検討し始めている多くの方が、こんな疑問を持つのではないでしょうか。平均的な成約までの期間を知り、実際にマンションを売却する際の目安にしたいと考えるのは、当然のことだと思います。
しかし、その答えはありません。成約に要する期間の統計はさまざまな機関や企業で行われていますが、結果はどれもまちまちで、「(媒介契約の期限である)3カ月が平均的だ」とするところがあれば、「6カ月」や「8カ月」とするところもあるくらいです。
どうしてこのように、平均期間にバラつきが出るのでしょうか。それは、統計の基となるデータが統一されていないことと、そもそも統一しようと思ってもできないからです。マンション売却というのは、売主一人ひとりの事情によって売却へのアプローチが異なり、売却活動のスタンダードが存在しないのです。
(写真はイメージです)
「平均的な成約までの期間」が無意味な理由
同じマンションを同時に売りに出した、AさんとBさんがいたとしましょう。間取りも、所在する階も同じです。2人のマンションの、平均的な成約価格は3,000万円でした。
2人のマンション売却理由は、ともに一戸建てへの買い換え。ただし、Aさんはすでに購入物件を決めており、Bさんはマンションが売れたら買い換え先を購入しようというスタンスでした。
買い換え先を先行購入したAさんは、購入物件の代金支払期限が決まっているため、相場に近い価格、もしくは相場より安めでも早期にマンションを売却しようとします。対して、支払期限のない先行売却のBさんは、買い換え先の購入資金を少しでも多く得ようと、高値での成約を狙って相場より割高な売り出し価格でチャレンジを続けます。
売り出し価格が違えば、成約までの期間も異なってきます。相場に近い値で売りに出したAさんは早い時期に売れました。高値チャレンジのBさんは時間がかかりましたが、Aさんより良い値段で売れたため、購入物件も満足のいくものとなりました。
このように、全く同じマンションであっても、売主の事情が異なればマンション売却活動の内容も異なるため、成約までの期間も違ってくるのです。売り事情別に成約までの期間の統計をとったデータなどなく、マンション売却の平均的な成約期間は想定しても無意味だ、ということになるわけです。
しかしそれでは、成約までの目途が立ちませんね。何かしらの目安がないと、事情によっては、マンション売却をするかどうかの決断すらできません。では売主は、何を根拠にして成約までの期間を想定し、マンション売却を検討すれば良いのでしょうか。
答えは、不動産会社の査定価格にあるのです。ここからは、査定額から考える成約までの期間と、その想定を実現させるに最適な不動産会社選びのコツを説明していきます。これからマンション売却を検討する方だけでなく、「売りに出したけど売れない」とお困りの売主の方も、ぜひ参考にしてみてください。
不動産会社の査定額で売り出せば、成約までの目安は3カ月
業務に誠実な不動産会社であれば、提示する価格査定の額は、おおむね「3カ月以内に成約するであろう見込み価格」です。同一マンションや周辺の類似物件から、実際に成約となった取引事例を集め、査定対象のマンションと比較して査定額を算定するため、相場に対して精度の高い値を提示できるのがその理由です。
したがって、査定額より安く売りに出せば早く売れ、高値で売れば時間がかかります。査定額を基準にすれば、売り出し価格の高低で、3カ月以内に売れるか否かの想定が可能になるということです。
マンション売却までの期間の目安を知りたければ、「査定額付近で売りに出せば3カ月前後」「それより価格を安くすれば3カ月より早い」「高めの売り出し価格であればもう数カ月かかる」と考えておけば良いでしょう。
目標を見据えた効果的なマンション売却計画
査定額をもとに成約までの期間を想定できたとしても、実際にマンションを売却するとなれば、誰しも1円でも高く売りたいと思うものです。そのためには、マンション売却の目標と期間を定めて、計画通りに売却活動を進めていくのが一番です。
具体的な3段階の計画を以下にご説明します。マンション売却にあたっての期間や価格設定は事情によって異なりますが、その場合は基本計画を元に修正を加えていきましょう。
①最高値での成約を目指すチャレンジ期間
査定額は、過去の取引事例という事実を基にした価格ですから、これと大幅に乖離した高値では購入希望者からそっぽを向かれてしまいます。
したがって成約価格の最高値を探るには、査定額の1割増しを上限に売り出し価格を設定するのがベストです。この「チャレンジ期間」は最長で2カ月間。それだけの期間、広告や宣伝を行えば、ほとんどの不動産業者や購入希望者に物件情報が行き渡ります。そこで購入希望者がいれば、申し込みとなります。
②査定額近辺で売りに出す勝負期間
高値チャレンジの2カ月間、成約のないまま経過すれば、これ以上はその価格で売り続けても成約の可能性は高まりません。物件情報は市場に行き渡ったが、購入したい人はいなかったということです。
そうなれば、査定額近辺に売値を落として、もう一度情報を市場に届けるのが賢明でしょう。査定額は相場価格に忠実ですから、媒介契約の残り1カ月間であっても、十分に勝算のある勝負となります。
なお、買い換えなどで早期にマンションを売却したい場合は、①のチャレンジ期間を設けずに最初から査定額付近での売却とすべきです。
③査定額・売却依頼先・売主の姿勢を見直す再スタート期間
①②の3カ月を経過しても売れなかった場合は、以下の3点が考えられます。いずれも売れない理由の、根本に関わる問題です。
・査定額が間違っていた。相場が変動し、査定額が相場に見合わないものだった。
・広告宣伝活動が適切に行われなかった。
・売主の姿勢、マンションの状態に不備があった。
成約の目途とされる3カ月で売れなかったのですから、この3点を見直す以外に術はありませんが対処法はあります。
・きちんと広告や宣伝活動を行ってくれない業者だとわかれば業者替え。
・査定額が違っていれば業者の査定能力に問題ありとして業者替え。
・相場が変動していたなら再査定。
このほか、内覧時の売主の態度が、協力的でなかったり、売り込みに積極的すぎたりするのも売却不調の要因の1つです。もし「内覧は多いのに決まらない」という場合は、自分の姿勢に問題はないか、業者の担当者と相談してみましょう。
対策を講じた後は新しい売り出し価格で再スタートです。ただし、すでに3カ月の販売活動を行って不調に終わっているのですから、①のチャレンジ期間に戻るのではなく、②の勝負期間からリスタートした方が現実的といえます。
以上のサイクルを経て、ほとんどのマンションは3カ月以内、遅くとも6カ月以内に成約します。
とはいえ、高値でのチャレンジ期間が長すぎると6カ月でも売れません。そうなると「売れ残り物件」と市場に認識されてしまい、さらに売れる可能性の低い長期在庫となってしまいます。
マンション売却を想定期間内に成約させるための不動産会社選び
ここまでで述べてきた、成約期間の目安や販売計画は全て、「不動産業者が市場価格に忠実に査定価格を算定し、適切な販売活動を行う」という前提のもとに成り立っています。
ところが、売却依頼を受けたいがために売れもしない高値を提示したり、あわよくば買い取って転売利益を得ようと極端な安値を提示したりする業者も少なくありません。
また、マンション売却依頼後の販売活動においても、売主が気弱になるまでまともに広告や宣伝を行わず、頃合いを見て一気に安値で買いたたくといった営業姿勢の業者も存在します。
そうした業者に間違って依頼してしまうと、成約が難しくなるばかりか、安値で買いたたかれたことにも気付かないまま、結構な額の損を出してしまうという結果になりかねません。
価格査定は、取引事例という各社共通の事実を基にしています。適切な査定を行えば、提示額はどの会社がやっても似通ってくるもの。極端な高値や安値は、業者の何らかの意思が込められていると考えるのが妥当です。そしてその意思は、売主の利益を考えたものではありません。そのような価格提示をする業者には依頼しないのが正解です。
また、媒介契約によって広告量に差をつける業者や、「一般媒介だから」といってレインズに登録しないような業者もNGです。そしてもちろん、マンション売却が不得手な業者(賃貸や建売分譲がメインの業者)は、マンション売却のノウハウを持っておらず、依頼しても成約の可能性は低いものとなってしまいます。
こうした注意点を参考に依頼先の不動産会社を選んでいただけば、ほとんどのマンションは3カ月以内に成約します。「間違いのない業者選び」と「適切な価格設定」。この2つがきちんとなされれば、成約は平均的な期間内に訪れるものなのです。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。
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