基礎控除額の減額をはじめとする平成27年の相続税法改正は、当事者にとってはインパクトの大きい出来事でした。都内の高額な不動産を所有する方々にとっては、より深刻な問題と思われます。そこで本稿では、数ある相続の形態の中でも「二次相続」にスポットをあてて節税対策などを解説します。
財産相続の形態を表す言葉に、「一次相続」「二次相続」というものがあるのをご存じでしょうか。「一次相続」とは、夫婦の一方が死亡し、その配偶者と子供が相続人となる相続のことです。また、その後配偶者が死亡し、子供だけが相続人となる相続のことを「二次相続」と言います。
一般的には、父親が亡くなって母親と子供が相続人になる場合が一次相続で、その後に母親が亡くなれば二次相続となるのです。そして通常、相続人に配偶者が含まれていれば相続税が安くなりますが、子供のみ、または他の相続人だけで相続する場合には相続税が高くなってしまいます。
平成27年に相続税法が改正され、相続税の「基礎控除」が減額されました。基礎控除とは、相続した財産の総額から「相続税を計算する対象となる財産として考えない」として差し引かれる額のことです。基礎控除額が低くなったぶん、より多くの相続財産が相続税課税の対象になりました。
相続税の節税対策の必要性は増しており、とりわけ二次相続の節税対策を行わなければ、支払う相続税が1,000万単位で違ってくるケースも。また、一次相続で相続税がかからなかったからといって、二次相続でもかからないとは限りません。両者は計算方法が異なるため、一次相続の時より納税額が高くなることもあるのです。
高額な査定額が見込まれる都心の持ち家を相続するときには、細心の注意が必要です。そこで今回は、特に二次相続での節税対策のパターンについて考えていきたいと思います。

(写真はイメージです)
二次相続の計算方法と相続人
冒頭で触れた基礎控除額について、従来の相続税法では「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」とされていましたが、平成27年の相続税法の改正によって、これが「3,000万円+600万円×法定相続人数」に変わりました。
たとえば、子供3人で相続財産総額が1億円の場合、以前なら5000万円+1000万円×3人=8000万円が基礎控除額として控除されていたのに対して、現在は3000万円+600万円×3人=4800万円となったのです。
この場合、改正前は2,000万円の課税対象財産に15%の相続税率を乗じた30万円の相続税を納めればよかったのが、改正後は5,200万円の課税対象財産に30%の相続税率を乗じた156万円の相続税を納めることになってしまいます。
相続税額は、相続財産総額や法定相続人の数により変わりますので、事前に相続財産総額がいくらか、誰が法定相続人になるのかをきちんと調査する必要があります。
法定相続人には、被相続人に子供がいる場合、相続放棄や相続欠格・排除などにより相続人としての資格を失っていない人は全て含まれます。離婚などで共に生活していない者との子供や、婚姻関係に至っていない間の子供も含まれます。
このような事実が相続開始後に判明することもあるため、相続開始後に紛争にならないように、遺品の整理を含めて事前に調査して対策を考えておく必要があるのです。
一次相続と二次相続の違い
二次相続は被相続人の配偶者がいない相続であるため、一次相続では利用できた「配偶者の税額軽減」がありません。
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分(相続財産総額の2分の1)のどちらか高い方の金額まで、相続人の数に関係なく非課税にできるという制度です。相続人が亡くなった後も、残された配偶者が自宅に住み続けられるように配慮された制度といえます。
この制度を適用するためには申告が必要ですが、適用できれば、配偶者は多くの場合、相続税を支払わなくても済むのです。ところが、二次相続はそもそも配偶者がいない相続です。この制度には該当せず、課税対象となる財産が増えてしまい、相続税を多く支払わなければならないというわけです。
特例を活用する
また一次相続では、配偶者は「小規模宅地等の特例」を併せて使うことができます。これは、相続税の計算にあたって、被相続人が所有していた宅地の評価を減額することができる制度で、宅地には自宅のほか事業や貸付に使っている土地も含まれます。
具体的には、土地面積が最大330㎡までで居住用の場合は80%、事業や貸付の場合は50%が減額されます。つまり、土地評価額が1億円の居住用の宅地等は、2,000万円と評価されます。相続税支払いのために住んでいる宅地や家屋を処分するような事態を避けるための制度で、大きな節税効果があります。
しかし二次相続では、相続人は配偶者ではないため、場合によっては小規模宅地等の特例が適用されない場合もありますのでご注意ください。
最もポピュラーなケースと思われる「被相続人の居住の用に供されていた宅地」について、上記の特例が適用されるための、相続人の条件は次の通りです。
参照 :相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)/国税庁HP
⑴被相続人と同居していた親族が相続人になった場合
相続開始から相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)まで引き続きその家屋に居住し、かつその宅地等を相続税の申告期限まで有していた人が相続人になる必要があります。
⑵被相続人と同居していない親族が相続人になった場合
以下のイ~ハの全てに該当し、かつ次の二及びホの要件を満たす必要があります。
イ:相続開始の時において、被相続人もしくは相続人が日本国内に住所を有していること、または相続人が日本国内に住所を有しない場合で日本国籍を有していること
ロ:被相続人に配偶者がいないこと
ハ:被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人(相続放棄があった場合においては、その放棄がなかったものとした場合の相続人)である人がいないこと
二:相続開始前3年以内に日本国内にあるその人またはその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと
ホ:その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
まとめ
二次相続では配偶者の税額控除の特例が使えない上、法定相続人が減るために基礎控除額も少なくなり、その結果、二次相続では相続税が高くなりやすい傾向にあります。
上述の「小規模宅地等の特例」を適用するなど、一次相続から二次相続までの間に次のような対策を講じておく必要があります。
⑴一次相続で、被相続人と同居の子供が居住している宅地・家屋を相続する
⑵二世帯住宅に建て替える(同居親族として特例の適用を受けられる)
⑶居住宅地・家屋を賃貸兼用住宅に建て替える(特例により50%の評価減となる) ※居住用宅地としては特例を適用できない場合
⑷居住している宅地・家屋を売却して分譲マンションに転居する(相続税評価額は抑えられる傾向にあります)
相続において額の大きい不動産への対策を講じ、将来、相続税の支払いで身動きが取れないことのないように対処してください。
行政書士 上田謙悟(宅地建物取引士)
建設業許可申請、経営事項審査、入札参加資格審査申請等各種許認可登録申請を25年間行う。最近では婚姻、離婚、遺言、相続、起業、法人設立、事業承継、資金調達、M&A等に関する相談も手がける。