不動産は、財産の中でも大きな部分を占める資産です。その相続が発生した時の相続税のウェートも、また大きくなります。不動産をお持ちの方は、やがて来る「相続」にも、しっかり備えておく必要があるでしょう。本稿では、一般的な相続・相続対策についての解説と、不動産相続のルールを活用した節税についてアドバイスします。
相続の発生後における、重要事項に関する期限は大きく2つあります。
1つは被相続人の準確定申告の提出期限(相続の開始を知った日から4か月以内)、もう1つは相続税の申告および納税の期限(相続の開始を知った日から10か月以内)です。
相続人はこれらを意識しながら、遺産分割協議や納税資金の準備を行うことになります。
一方、これらと同じくらい重要で、かつ相続の開始「以前」にしておかねばならないことがあります。相続税の節税対策です。
では、一般的な相続対策から住居用不動産を利用した相続税の節税対策について考てみたいと思います。

(写真はイメージです)
1.相続・相続対策・相続税対策とは
まず相続とは、相続人が被相続人(財産・権利および義務の保有者)の財産や権利および義務を引き継ぐことです。相続財産は債権だけでなく債務(借金)も含まれます。常に相続財産がプラスになるとは限りませんからご注意ください。
相続対策とは、相続(財産などの引き継ぎ)が滞りなく行われるように、事前に準備されたスキームです。その中でも相続税対策は、相続税の申告に際して、税額が合理的に最小となる枠組みを構築することをいいます。
また相続対策は、「遺産分割」「納税資金の準備」「相続税の節税」の3項目から成りますが、これらは個別に準備されるのではなく、連携された内容であるべきです。
2.相続対策で何をする(1)遺産分割・納税資金の準備
相続がしばしば「争族」となるのは、遺産分割において各々の相続人が満足していないことに起因します。
遺産分割の最終章で、遺産分割協議書に相続人全員が記名・捺印しますが、一人でも不満足な相続人がいて、“判はつかない”と言い出せば分割協議は成立せず、期限内の納税が行えないのです。
このような事態を防止するためにも、被相続人には遺言書の作成をお勧めします。遺言には財産継承に関する思いを述べるとともに、具体的な遺産分割の内容を指し示しましょう。(なお相続人全員が合意すれば、遺言の内容と異なる遺産分割も可能です)
納税資金は、被相続人の責任として準備しておきたいもの。詳細は省きますが、生命保険での非課税枠の活用、暦年贈与を利用した金融資産の移転などの方法があります。
3.相続対策で何をする(2)相続税の節税
次に相続税についてですが、まず相続税の計算は、次のようなステップで行います。
相続財産の評価額の算定は、特に専門性の高い事項です。相続に精通した税理士に依頼するとともに、費用に関しては複数の見積もりを比較、検討することをお勧めします。
①被相続人に対する相続人の決定(複雑な事情があるとやっかい)
②被相続人の遺産額の評価(評価額の算出は難度が高い)
③基礎控除額の算定(3,000万円+相続人数×600万円)
④課税対象となる遺産評価額の算定(②-③)
⑤遺産分割の決定(金額比で各人の分割割合を出す)
⑥法定相続で遺産を分割した場合の相続税額の算定
⑦⑥の税額を合算
⑧⑤の比率で⑦の税額を分配
⑨⑧の相続税額を相続の開始から10か月以内に納付
相続税の節税に関するスキームを構築する際には、2つの視点があります。
第1の視点は、遺産評価額を時価(または通常の評価額)と比較して合理的に低評価額とすること、第2の視点は、控除制度の利用です。
加えて相続税対策では、一次相続(被相続人 → 配偶者+子供)から、二次相続(片親 → 子供)へ連携したスキームであることも必要です。
相続税の軽減や控除などに関する主な制度には、次のようなものがあります。
・配偶者の税額軽減:法定相続分または1億6,000万円までは相続税がかかりません。
・小規模宅地の特例:330㎡までの自宅の評価額を80%減額されます。
・特定事業用宅地の控除:400㎡までの事業に関する宅地の80%が減額されます。
・相次相続控除:10年以内の二次相続に関して、相続税の一部が控除されます。
・未成年者控除:未成年者への相続は、相続税の一部が控除されます。
・障害者控除:障害者への相続は、相続税の一部が控除されます。
・贈与税額控除:死亡日からさかのぼって3年以内の贈与で贈与税の納税があれば、一部の相続税が控除されます。
4.住居用不動産を活用した相続税対策の具体例
住居用不動産を利用した、相続税の節税に関するスキーム構築について、次の家族構成を例に考えてみましょう。ここでは、父親が亡くなって配偶者(母親)と子供に相続するケースとします。
家族構成
父親(72歳)、母親(70歳)、長男(42歳・配偶者あり・子供2人。実家に近い賃貸マンション在住)
資産評価
300㎡の土地(父親名義)に240㎡の自宅(父親名義)を所有。
土地の評価額 9,000万円(1㎡当たり30万円)
自宅評価額 2,400万円(1㎡当たり10万円)
金融資産評価額 6,000万円
父親の職業が会社員(事業主でない)とすると、前章の軽減や控除に関する制度で利用できるのは、「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地の特例」です。
非事業主ですので「特定事業用宅地」は対象外ですが、その他の制度は、対象となる場合は上乗せできます。
配偶者の税額軽減は、遺産分割協議が整い、具体的に分割が終了してからでないと適用されません。
また、小規模宅地の特例は適用条件が厳しく、相続開始前に被相続人と相続人が同居(生計を一にする)している、または自己所有の住居に住んでいない相続人であることが必要となります。
冒頭で「相続税の節税対策は、相続発生以前に」と申したのはこのためです。
また、配偶者の税額軽減と小規模宅地の特例を組み合わせることで、一次相続および二次相続の一体化したスキームとなります。
ここで不動産をどう相続するかが、節税の大きなポイントです。
一般的に、父親が被相続人である場合、配偶者(母親)が土地や自宅を相続することが多いと思います。これは、不動産(土地や自宅)の評価額が大きいため、配偶者の税額軽減による相続税の回避と、母親の居場所確保が目的です。
ただし、この場合は、二次相続時(母親が亡くなった時)に、この不動産に関する相続税が問題となります。
そこで、一次相続時に「土地」を配偶者ではなく、子供に相続させるのです。
建物や金融資産でも、配偶者が相続する時は、法定相続分または1億6,000万円までであれば相続税は課税されません。
上記の例では、二世代住宅に改築し、長男が土地を相続して小規模宅地の特例を適用すれば、9,000万円の土地評価額が80%減の1,800万円に減額できます。
さらに母親は、引き継いだ金融資産を長男や孫(長男の子供)に暦年贈与すれば、二次相続時の納税資金の準備までできるというわけです。
まとめ
事前の相続対策が重要であることがお分かりいただけたでしょうか。
相続対策には、遺産分割、納税資金準備、相続税の節税がメインテーマ。そして相続対策は、一次相続及び二次相続を一体化させた相続対策が必須です。
特に不動産は、財産の中でも大きな部分を占める資産であり、かつ遺族の生活基盤となるものです。種々の軽減措置がありますので、納税資金確保や相続税の節税対策に、上手に活用したいものです。
八木 裕 LAD(Life Assets Design)代表
ファイナンシャルプランナー、プライマリーPB、宅地建物取引士。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、大手印刷会社にて電子部品の開発に従事し、会社勤務の傍らに賃貸物件を経営。不動産・相続に纏わる論説文を寄稿。