一般の方が、自力で不動産の売買をするのはハードルが高いものです。契約の相手を探したり、契約に法律的な問題がないかを確認したり、契約書を作成したりと、やるべきことがたくさんあります。そのため多くの方は不動産の売買をする時、不動産売買の仲介を業務とする「不動産会社」に依頼をすることになります。
不動産会社は事業として不動産売買を行っているのですから、売買を依頼すれば、当然、相応の報酬が発生します。しかし、不動産会社の報酬の一般的な相場をご存じない方も多いでしょう。そこで、不動産会社の報酬「仲介手数料」について、基礎編と上級編の2回にわたって詳しくご紹介します。

(写真はイメージです)
8割の人は知らない!不動産会社の仲介手数料
不動産流通システムREDS(レッズ)が2016年9月に実施したアンケート調査では、「不動産売買の仲介手数料の上限が法律で定められていることを知っていますか?」という問いに対して、男性67.2%、女性72.4%が、「全く知らない」と答えています。「聞いたことはあるが、詳細は知らない」という答えを含めると、男性で88%、女性で91.6%。大多数の人は、仲介手数料のことを「詳しくは知らない」のです。
Q.あなたは不動産売買の仲介手数料の上限が法律で定められていることを知っていますか?

(出典:不動産流通システム インターネット調査「不動産の賃貸、売買の仲介手数料に関する認知度」より抜粋)
一般の方は、不動産取引や仲介手数料の仕組みについてなじみが薄く、詳しい知識を持っていないことが分かります。これでは、不動産会社から請求される仲介手数料を、疑いもなくそのまま支払ってしまうでしょう。不動産会社の良識が問われるとともに、不動産会社を利用する側も、賢く利用するためには、まずは基礎知識を身に付けることが重要です。
「仲介手数料は法律で定められている」というのは本当?
不動産会社の業務は、依頼者の保護と市場の整備を目的とした「宅地建物取引業法」(以降「宅建業法」と記す)という法律によって、さまざまな義務が定められています。また国土交通省では、宅建業法の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」により、不動産会社に対して指導を行っています。
仲介手数料に関しては、宅建業法第46条に「報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる」「その額をこえて報酬を受けてはならない」と定められています。具体的には、国土交通省の告示によって代理、媒介といった取引の態様や売買価格が規定されており、400万円を超える売買価格で成約した場合の仲介手数料は、「売買価格(税抜)×3% + 6万円 + 消費税相当額以内」(速算法による)と定められています。
このように、仲介手数料については確かに法律で定められていますが、それは仲介手数料そのものでなく仲介手数料の上限額。「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」でも、「報酬の限度額を当然に請求できるものではなく」「業務の内容等を考慮して、依頼者と協議して決める事項」であるとしています。
しかし、多くの不動産会社は、上限額を仲介手数料として請求しているのが実情です。
不動産会社の8割以上が、仲介手数料の上限基準を適用!
一般財団法人土地総合研究所が2015年1月に行ったアンケート調査では、典型的な不動産事業者(従業員数2~5人)の実に80%以上が「上限基準を適用している」と答えています。
上限額を適用している不動産会社は、大手や中小を問いません。むしろ全国展開をしている大手会社の方が、上限額を適用している傾向が強いともいえます。

(出典:「不動産業についてのアンケート調査 報告書」土地総合研究所 p13 「2-6.仲介業務の手数料額」より)
「両手仲介」とは?仲介手数料の仕組み
ここでいう仲介手数料の上限額とは、売買する当事者(買主または売主)の、一方から受領できる金額の上限です。買主から依頼された場合は買主から、売主から依頼された場合は売主から受領できます。ただし、不動産売買では、不動産会社が当事者の一方から依頼され、他方を自力で(別の不動産会社の仲介なしで)見つけ出した場合、売主・買主の双方から仲介手数料を受領することが認められています。これを「両手仲介」といいます。
ほとんどの不動産会社は、この「両手仲介」を目指します。
両手仲介での手数料上限額を利益目標の設定基準としている不動産会社の場合、もし一方からしか手数料がもらえない契約(「片手仲介」)になると、たとえ上限額の手数料を適用しても利益目標の50%にしか届きません。そのリスクを抱える中で、不動産会社は、おいそれと上限額から手数料を値引きするわけにはいかなくなってしまうのです。
大手不動産会社ほど「両手仲介」「上限額適用」を求める!
全国展開をしているような大手の不動産会社では、さまざまな経費が増加します。ブランド力向上のために広告宣伝費を増やし、駅前のような好立地に支店を構えなければなりません。組織が大きくなれば、人事や総務のような管理部門の人件費も増えます。自社のホームページや物件検索システムなどの開発費や維持費も、莫大なものとなるのです。
そうしたコストを回収するためには売上をアップするしかありませんが、客数を増やすことはできても、客単価を上げることには限界があるのが不動産取引というもの。その理由は、手数料の上限が定められているからです。
したがって、より収益性を求められる大手ほど「両手仲介」の実績が多く、仲介手数料も上限額の適用が多いといえます。決算報告資料から推定した調査では、大手不動産会社トップ10における売買契約の仲介手数料は、売買価格の5%を超えていました。片手仲介の手数料上限額が3%+6万円であることから、大手の「両手仲介」および「上限手数料適用」の比率がいかに高いかが推測できます。
仲介手数料割引という新たな動き
前出の土地総合研究所のアンケート調査では、仲介手数料について「独自の基準を設けて運用している」と答えた不動産会社が2.4%、「状況に応じて低いものを適用している」会社が8.7%ありました。こうした、法定の上限額を下回る手数料を適用する会社も増加傾向にあります。
仲介手数料の割引内容としては、
・売買価格に応じた割引(高額な物件ほど絶対金額が高いため割引金額を増やす)
・成約時間に応じた割引(成約まで時間がかからなければコストが少ない)
・紹介割引、リピーター割引(固定客へのサービスとしての割引)
・取引形態による割引(両手仲介時には割引、業者と個人の取引であれば個人に割引)
などがあります。
また、昨今はインターネットでの検索が物件探しの中心となっていること、都心部の成約価格が高価で手数料も高額となることを受けて、店舗経費を削減してエリアを限定したウェブ検索中心の経営を行う不動産会社も増えています。このような会社は、セールスポイントの1つとして、一般の依頼者の仲介手数料の割引、無料をうたうケースも見られます。
一方で、仲介手数料の「割引」や「無料」を掲げながら、仲介以外の名目で手数料を請求し、結果的に報酬を増額しようとする悪質な手口も後を絶ちません。住宅ローン資料作成料、申請代行手数料などを請求されてはいないか、利用者は確認が必要です。
なお仲介手数料は成功報酬であり、遠隔地への特別な出張費や印紙代などの立て替え費用を除いて、基本的には契約が成立しない限り報酬を請求することはできませんから、注意してください。
仲介手数料の定めは、上限を決める依頼者を保護するためのもの
上述したように、不動産会社の仲介手数料は、法律で上限を定められています。これは不当に高い手数料を取られることがないよう依頼者を保護するための規定です。仲介手数料が必ずしも上限額である必要はありません。
さまざまな仲介手数料割引を試みる不動産会社が現れる時代。不動産会社に売買を依頼する時には、事前に仲介手数料はどういう取り決めとなるのかを確認しましょう。だからといって、ただ値切れば良いというものでもありません。支払う手数料に見合う業務を行ってくれると判断できるか、納得できる説明を不動産会社にしてもらえるかがポイントです。少なくとも(上限とは触れずに)「法律で定められた手数料です」といった偽りの説明をする業者との付き合いは、やめておいた方がよいでしょう。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
この記事に関連する「不動産売買での仲介手数料の相場とは?(2)上級編」もぜひご覧ください。