不動産売買の仲介手数料について2回にわたってご紹介しています。前回は「不動産売買での仲介手数料の相場とは?(1)基礎編」と題して、
・仲介手数料は法律で「上限」が定められている
・8割以上の不動産会社が「上限」の手数料を適用している
・不動産会社は売主・買主の両方から仲介手数料をもらう「両手仲介」が認められている
・仲介手数料割引をセールスポイントとする新たな動きが始まりつつある
という点をご説明いたしました。
今回は上級編として、仲介手数料の割引について詳しくご紹介します。割引をうたう不動産会社は、どのような仕組みで割引を可能としているのか、どの程度割引できるのか、「安かろう、悪かろう」ではないのかなど、といった疑問に答えていきたいと思います。

(写真はイメージです)
不動産売買の仲介手数料は高いのか?
不動産売買の仲介手数料は、400万円以上の物件の場合、売買価格の3%+6万円(+消費税)が上限とされています。例えば、5,000万円の売買だと156万円(税抜)が上限となります。
税理士や司法書士、不動産鑑定士や弁護士などのいわゆる“士業”は、その報酬を自由に定めることができますが、相場はおおむね決まっています。例えば、5,000万円の相続の相談を税理士に依頼した場合、報酬は10万円~20万円程度でしょう。
5,000万円の不動産の鑑定料は30万円~60万円、5,000万円の利益に関する訴訟の弁護士費用は150万円~400万円程度のようです。これらと比較すると、不動産売買の仲介手数料は、弁護士並みといえるかもしれません。
さらに「両手仲介」の場合は売主・買主の双方から手数料をもらえますから、双方に上限を請求すれば312万円になるわけです。
仲介手数料の上限額が定められた昭和45年当時は、インターネットの不動産物件サイトなどは当然ありませんでした。紙媒体の情報誌でも成長し始めたのは昭和50年代です。一般の方が物件探しや販売をするためには、不動産会社に頼らざるを得ない環境でした。
当時は不動産売買は「一生に一度」という方がほとんどでしたでしょう。不動産会社にとって、継続的な固定客を見つけるのは今も昔も困難なこと。現在よりも格段に情報量の少ない時代には、年間の成約数をコンスタントに維持するのはたやすいことではなかったでしょう。そうした時代に決められた仲介手数料の上限ですから、ある程度高額になるというのも致し方なかったのかもしれません。
しかし、現在はインターネットの時代です。顧客の多くは、不動産物件情報を自分でネットで検索し、一定の目星を付けた上で、不動産会社に売買を依頼できるようになりました。高額で専門性の高い取引だからといって、業務内容に対して、弁護士並みの手数料は高すぎる、という声が上がっているのも事実です。
また、タワーマンション購入による相続税対策などの節税対策を目玉に、「不動産コンサルタント」や「税務コンサルタント」の名目で手数料を増やしたり、付加価値サービスとしたりする不動産会社も出てきています。しかし本来、税理士免許を持っていない人が税務の相談を行うのは、有償・無償を問わず違法行為です。税理士抜きに節税対策を前面に打ち出すような不動産会社は、信用するに値する会社なのか、注意が必要でしょう。
売買仲介手数料を割引する仕組み
他方、近年は仲介手数料の割引を打ち出す不動産会社が徐々に増えてきています。その多くは、インターネットを主体として広告・宣伝・集客をしている新興の不動産会社です。8割以上の不動産会社が上限額の仲介手数料を請求し、しかも両手仲介を経営のベースとしている環境下で、こうした割引をうたう不動産会社は採算が取れるのでしょうか?
手数料の割引を実施している多くの会社は、「片手仲介での上限額」を仲介手数料の自社基準としています。そして両手仲介が成立した場合は、仲介手数料の一部を依頼者に還元する形で割引を行っているのです。したがって、成立した取引の内容によって依頼者への割引率が変わります。「手数料最大無料」などと広告でうたう会社が多いのは、そのためです。
例えば、5,000万円の売買を仲介した場合、片方の当事者からもらえる仲介手数料の上限は156万円(税抜)です。この例をもとに具体的に考えてみましょう。
1.両手仲介で、依頼者が個人、相手先が不動産会社の場合
売買の相手先が不動産会社である場合、仲介する不動産会社は、仲介手数料を上限額(156万円)までもらうことができます。これ既に手数料の自社基準を満たしますので、依頼者に対しては仲介手数料ゼロであっても問題なく、「仲介手数料無料」が実現可能になります。
2.両手仲介で、依頼者も、相手先も個人の場合
この場合、仲介する不動産会社は、双方の依頼者から仲介手数料をもらうことができ、自主基準を満たすためには、双方に対して上限額の半額(78万円)まで割引が可能です。この場合は「仲介手数料半額」となります。
3.片手仲介の場合
売買の相手先に仲介不動産会社が存在する場合は、片手仲介となり、相手先からは仲介手数料をもらえません。したがって、あらかじめ依頼者と契約した最低限の割引を、企業努力で実施することになります。
これ以外にも、以下のようなケースで仲介手数料の割引が実施される例があります。
・売買価格に応じた割引:高額な成約価格であるほど、手数料の絶対金額が上がるため、割引余力が生まれる
・成約期間に応じた割引:成約まで期間がかからなければ、コストも少ないため
・紹介割引、リピーター割引:固定客へのサービスとしての割引
仲介手数料割引は、不動産会社の企業努力によって生まれた新たなサービス
インターネットによる物件検索が一般的になり、依頼者や不動産会社にとっての利便性が以前より大きく向上したことが、仲介手数料の割引という動きを生み出したのは間違いありません。不動産会社の主要業務の1つであった「物件の周知」や「売買相手先の探索」がインターネットによって簡易化され、新たなサービスとして仲介手数料の割引がクローズアップされている、といえるでしょう。
これまでの不動産業界が自社の利益のみを追求するあまり、両手仲介に固執し、情報の「囲い込み」などの悪習を生んできたことは否定できません。「良い売買の成立を、できるだけ早く実現する」という依頼者の利益を阻害してきた、ともいえるでしょう。
業界が「仲介手数料の割引」にシフトしているのは、不動産会社が両手仲介で得た利益を依頼者に還元する、依頼者にとってメリットのある改善ともいえます。
もっとも、両手仲介による利益だけでは仲介手数料を常に割引することは不可能です。各社は次のようなコスト削減策も実施しています。
・物件案内、広告をインターネットに特化する
・駅前店舗などを持たず、ウェブ店舗を強化する
・営業マンを宅地建物取引士に限定し、少数精鋭とする
・商圏エリアを限定する
依頼者の満足度を向上させるとともに、効果的な資本配分によって効率的な運営を実現しようと努力しているのです。
媒介契約の前には、仲介手数料について詳しく確認しましょう
不動産会社は、依頼者と媒介(仲介)契約をする前に、物件の所在や売価を確認し、報酬(仲介手数料)についても依頼者と合意した上で、契約書に明記しなければならない、と法律で定められています。前述した通り、仲介手数料の割引をうたっている会社も、常に半額や無料であるとは限りません。また、仲介手数料は割引されていても、査定料、調査経費など別の名目で費用を積み上げる悪質な会社も、残念ながらまだまだ業界にはいるのです。
依頼者は、「仲介手数料の割引」といった標語だけに飛びつくのではなく、どのような場合に割引が適用されるのか、他に加算される費用はないのかなど、媒介契約を結ぶ前にしっかりと内容を確認することが重要といえます。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
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