「限界ニュータウン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。高齢化が著しく進んで地域コミュニティが崩壊してしまったエリアを意味する「限界集落」という言葉をもじった造語ですが、かつて働く世代の住居として大都市の郊外に造成された「ニュータウン」も同様に住民が高齢化したり人口が減少したりすることによって、住宅街としてどんどん寂れてしまい「限界化」した状態を指します。
こうした「限界ニュータウン」で、自分では使っていないのに、売ることも貸すこともできないまま、不動産を抱えてしまっている人がいます。こうした方は今後、手持ちの不動産をどうすればいいのでしょうか。

(著者撮影)
投機目的で買われた空き地が転がる「限界ニュータウン」
私が暮らす千葉県の北東部には、分譲こそ了しているものの、その後一度も家屋が建てられることのなかった空き地が大量に残されている「限界ニュータウン」が数多く存在します。
空き地といっても「売れ残り」なのではありません。一度はすべての区画が完売したものの、その購入者の多くが自己使用目的ではなく、地価の上昇を見込んだ投機目的での購入であったために、バブル崩壊を経て地価が大きく下がった今、そのまま放置されているのです。
そんな限界ニュータウンでも、立地条件によって市場価格はさまざまです。少なくとも現在、私が住む千葉県北東部においては、最寄り駅から数キロも離れたような立地に開発された不便な住宅地は、総じて市場価値が大きく下落。たとえば路線バスが廃止されたり、少子化に伴い、近隣の小中学校も統廃合されたりしてしまうと、新築住宅のメインの顧客層である子育て世代には魅力がなく、新築用地としての宅地需要がほぼ皆無の状態です。
中古住宅が「負動産」になるほどではない

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一方で、中古住宅に関していうならば、現状では、そこまで所有者を悲観させてしまうほどの事態にはなっていないようです。新築当初の購入価格と、現在の市場価格を比較すれば、もちろん地価は大きく下落しているので、支払った物件価格に見合った「資産」になっているとはいえません。しかし、昨今よくいわれる「負動産」のように、タダでも引き取り手がいなくて処分に困る、という状況ではありません。
所有者の方が、すでにその家屋に未練もなく、手放していくらかにでもなればいい、との考えで売却に臨めば、100万~数百万円程度の価格で売却できることが多いのです。実際、中古住宅はそのくらいの価格帯で市場が形成されており、取引は活発です。
そうした中で、高値がつきにくい住宅の特徴を挙げるとすれば、まず駐車スペースがないか、あっても1台分しかない住宅です。これは、特に1970年代に開発された住宅地に顕著なのですが、古い分譲地は1区画あたりの面積が狭く、駐車スペースが不十分な住宅が少なくありません。日常の移動手段をマイカーに依存している限界ニュータウンにおいては、駐車スペースの足りない住宅はどうしても敬遠される傾向にあります。
もうひとつが、擁壁上にある住宅です。道路との高低差がある宅地の家は、日常の上り下りも負担になります。また、擁壁の宅地も総じて駐車スペースが不足していることが多く、拡張しようにも擁壁の再工事が必要になるため、こちらも敬遠されます。
住居として正常ならば売れる
しかしそれでも、まともに「住居」として使用できる建物であれば、タダでも引き取り手がいない、ということはまずないでしょう。現代の日本では、都市部から遠く離れた山間部や、地方の小都市の衰退した旧市街地など、それも豪雪地帯で冬の気候が厳しいエリアなどでは、それこそ空き家が0円、無償譲渡で取引されるケースも珍しくないのですが、千葉の限界ニュータウンは、とりあえず自家用車さえあれば日常の生活は可能ですし、気候も穏やかなので、何をしても手放せない、という話を聞くことはまずありません。
大前提として、真に限界ニュータウンにおける物件取引で重要なことは「住居としてまともに使える建物であるか否か」という根本的な部分です。駐車場の有無、築年数の古さ、立地条件の悪さや、建物の床面積など、建物の持つ「スペック」が、物件価格を左右するのは事実ですが、たとえスペックが劣る住宅であったとしても、それが家屋として使えるものである限りは、それを手放すか否かは、あくまで売り手が現在の相場価格に納得できるかどうかという話です。
しかしこれが、所有者本人がどれだけ価格で妥協しても、あるいはタダでもいいから手放したいと切望しても、引き取りを希望する人が現れず、不本意ながら所有し続けなければならなくなれば、話は大きく異なります。
タダでも手放せず、固定資産税ばかりかかる。使い道もないのに、持っているだけで管理責任が発生する、これこそがまさに「負動産」なのであり、現代の日本の地方部では、この「負動産」が、静かに増加しているのです。
限界ニュータウンで更地とぼろ家は売れない

(著者撮影)
限界ニュータウンの場合、家屋そのものはまだまだ価格が付けられるスペックのものであったとしても、その周囲に大量に残されている空き地は、0円でようやく手放せるかどうか、というレベルの資産価値のものが少なくありません。投機目的で取得した所有者が、使い道もなく持て余し、売りに出されている空き地があまりに多いので、更地は価格崩壊を起こしているのです。
需要があるのはあくまで安価な中古住宅です。新築するとなれば、たとえ限界ニュータウンであろうと、建築費用は都市部と負担は同等ですから、新築用地としての更地の需要は、よほど幸運なケースを除き皆無です。
これが地価の高い、新築用地としての宅地の需要も旺盛な都市部であれば、築年が大きく経過した古家は「中古住宅」ではなく、解体を前提とした「古家付き土地」として取引されることが多いので、基本的に古家のある土地は、更地と比較して、その解体費用分を見込んだ額だけ販売価格が安くなっていることが普通です。
しかし限界ニュータウンにおいては、事情は真逆です。どんな築年数が経過した古家でも、建物がある限り、更地より安く取引されることはまずありません。先に述べたように更地は大量に転がっているからです。
仮に更地を必要としているのであれば、最初から格安で投げ売られている更地を買えばよいだけの話で、わざわざ解体費用を投じて更地にしたうえで新築を行う人などまれなのです。つまり、古家は、どんなに築年数の経過した古家であれ、その建物を修繕して使いたい人向けの「中古住宅」として流通します。わずかではありますが、古家は「付加価値」になるのです。
つまり、限界ニュータウンをはじめとした田舎の不動産が完全に市場価値を失うのは、管理もせず放置して、もはや解体する他にないほどにまで朽ち果てさせてしまった場合にかぎるということです。もはやリフォームもできない、かといってその廃屋を解体して更地にしても、その解体費用の元も取れないような価格にしかならない、これでは0円で手放すことすらできなくなってしまうのです。
限界ニュータウンで家を売るコツ
もし、実家がすでに土地値が下落し続けている限界ニュータウンにある場合、売却を躊躇するのは禁物です。直すこともままならないほど傷みが激しくなる前に、早急に手放す決断を下すべきなのです。
満足のいく価格にはならないかもしれませんが、そのまま放置し続けても、満足のいく売却価格になることなどもはやないといえるでしょう。
また、売却を焦るあまり、自分の判断だけでいきなり解体して更地で売りに出したりするのもご法度です。限界ニュータウンの空き地の価格は、今や、家屋の解体費用を下回っているケースがほとんど。ただでさえ更地は売りにくい上に、仮に売れたとしても、解体費用も回収できないことになります。
決断は素早く、極力費用をかけず、間違っても更地にはしないで手放す。これが今後の日本では、限界ニュータウンをはじめとした地方にある不動産の売却の鉄則になるのではと考えています。
吉川祐介(ヨシカワユウスケ)
1981年静岡市生まれ。ブログ「URBANSPRAWL──限界ニュータウン探訪記」YouTubeチャンネル「資産価値ZERO──限界ニュータウン探訪記」にて、各地の「負動産」に関する情報発信を行っている。今年9月30日に発売した著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』はAmazonランキングでアジア史部門の一位に輝くベストセラーとなっている。
