『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN

  • 公開日:2024年3月13日

『正直不動産2』第10話宅建士解説|全国の不動産営業マンが山下智久に自身を重ねて満喫したドラマも最終回! 実は面倒な農地転用とは

人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産2』最終話「正直不動産よ、永遠に」が、3月12日(火)夜10時から放送されました。なんということでしょう。不動産業界の大半が定休日である水曜日、その前夜というまさに多くの不動産業界の人々がゆっくりくつろぐことができる時間に放映され、主人公の永瀬財地(演:山下智久)の、ときに真顔でときにコミカルにお客様と向き合う姿に自分を重ねて満喫していたドラマが、終焉の時を迎えてしまったのです。

 

農地転用

(写真はイメージです)

 

どぶ板営業に宴会芸で勝ち取った農地売買の許認可が……

 

今回の物語は、永瀬が勤める登坂不動産の6年越しの企画、2万坪の土地をまとめて倉庫用地として大手不動産会社に売却するという総額88億円、登坂不動産の儲けも約2億6千万円という大プロジェクトに絡むお話です。

 

許認可がようやく降りて本契約を結べそうだと喜ぶ永瀬を始めとする登坂不動産の面々。農家などの地権者80名一人ひとりを説得して購入を納得してもらい、開発許可のためには宴会芸で根回しをするなど、いわゆる「ドブ板営業」を6年も続けた結果ですから、喜びもひとしおです。

 

しかし、永瀬をライバル視するミネルヴァ不動産の神木涼真(演:ディーン・フジオカ)は、同様に登坂不動産を敵視する社長、鵤聖人(演:高橋克典)に、そのプロジェクトを頓挫させる計画を提案します。プロジェクトの真ん中の土地の地権者である狭山純一(演:野間口徹)に登坂不動産との契約を解除するよう働きかけていたのです。

 

永瀬は、果たして神木の企みを阻止して、見事プロジェクトを成功させることができるのか? そうした物語が展開されていきました。

 

プロジェクトとは、2万坪の主に遊休農地を購入し、造成工事費をかけて手を入れ、倉庫用地として大手不動産会社に売却する、というもの。農地の売買は、農地法という法律によって規定されており、農地から他の目的に使用する場合には農業委員会に申請して都道府県知事や指定市町村長らの許可を取らなければいけません。これを農地転用(「農転」と略されます)といいます。

 

今回の記事では、プロジェクトの根幹を左右する、農地の売買や農地の転用について、詳しくご説明していきます。

 

農地法による売買規定

 

農地法とは、農地および採草放牧地の取り扱いについて定めた法律です。その目的は「耕作者の地位の安定」と「国内の農業生産の増大」を図り、その結果「食料の安定供給の確保」に資すること、とされています。

 

農地の所有権、売買に関連する規定は農地法3条、4条、5条にあります。自由に農地を売買したり転用できないように規制したりすることで、農業の生産性低下を防止するために運用されています。

 

農地売買に係る農地法

農地法 内容 概要 申請者 許可権者
第3条 権利の移転 農地を農地として売買、 賃貸する場合に適用 譲渡人と 讓受人 農業委員会
第4条 農地転用 農地転用を本人申請 所有者 都道府県知事
指定市町村長
第5条 権利を移動後に農地転用 転用を目的として権利を移転する場合 譲渡人と讓受人

 

農地法第3条には、土地の権利およびその移転に関する規定がまとめられています。農地や採草放牧地の所有権等を移転する場合には、農業委員会の許可が必要というものです。

 

また、ドラマの中でも永瀬の後輩の月下咲良(演:福原遥)が発言していたように、農地は農家以外には基本的には売れません。それも農地法第3条第2項に以下のとおり、定められています。

 

・現在の農地を全て効率的に耕作していること
・必要な農作業に常時従事していること(年間従事150日以上)
・周辺の農地利用に支障がないこと(周辺農地の水利用への影響について確認されます)

 

2023年4月1日の改正では、農地面積の下限面積の規定が撤廃されたため、小規模農業のスタートアップがしやすくなる、といわれています。

 

農地法第4条には農地転用に関する規定が、農地法第5条には権利を移転した後で農地転用をする場合の規定が、それぞれまとめられています。農地転用するには、どちらの場合でも農業委員会に許可申請書を届出し、都道府県知事もしくは指定市町村の許可が必要です。

 

農地転用と農地区分

 

それでは、農地転用についてもう少し詳しく説明していきます。

 

農地は、「農業振興地域の整備に関する法律」(農振法)に基づく「農業振興地域制度」により、「農業振興地域」(農業の振興を促進することを目的とする)と「農業振興地域外」の2つに区分されます。

 

「農業振興地域」はさらに「農用地区域(青地)」とそれ以外の「農用地区域外農地(白地)」に区分されます。「農用地区域(青地)」は、生産性の高い優良農地であることから農業上の利用を図るべき土地とされ、農地転用は不可とされます。

 

「農用築区域外農地(白地)」と「農業振興地域外」は農地法に基づいた「農地転用許可制度」によって、「第1種農地」「第2種農地」「第3種農地」に区分されます。また、第1種農地の中でも特に良好な条件を備えた農地は「甲種農地」に指定されます。

 

このうち、第3種農地は市街地の区域または市街地化の傾向が著しい区域とされ、原則的に農地転用は許可されます。第3種農地は市街地化がいずれ見込まれる農地とされ、第3種農地に建設できないような場合には農転が許可されます。第1種農地(含む甲種農地)は集団的に存在、農業公共投資の対象、高い生産力が認められる、などの条件を備えた優良農地であることから、青地同様に農転は原則的に許可されません。

 

一方で、都市計画法に基づいた土地の区域区分には「市街化区域」というものがあります。市街化区域とはすでに市街地化およびおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化すべき区域とされており、農地転用は許可制ではなく届出制となります。

 

図にまとめると、以下のとおりとなります。

 

農振法による区分 農地転用
農業振興地域 農用地区域(青地) 不許可
農用地区域外農地(白地) 第1種農地 甲種農地 原則不許可
第1種農地 原則不許可
第2種農地 第3種に立地困難な場合に許可
第3種農地 原則許可
農業振興地域外 第1種農地 甲種農地 原則不許可
第1種農地 原則不許可
第2種農地 第3種に立地困難な場合に許可
第3種農地 原則許可
都市計画 市街化区域 届出制
市街化調整区域 許可

 

農地転用の流れと費用

 

農地転用の流れは以下のようになります。

 

①農業委員会に農地転用許可を申請する。市街化区域の場合は届出だけでよい。
②農業委員会は30アール(3000㎡)を超える場合は都道府県農業会議(都道府県農業委員会ネットワーク機構)に意見聴取する。
③農業委員会が意見書を添付して都道府県知事または指定市町村の長に送付。
④4ヘクタール(4万㎡)を超える市街化区域外の農地の場合は、都道府県知事または指定市町村の長は農林水産大臣と協議して回答を得る。
⑤都道府県知事または指定市町村の長が許可等を通知する。

 

上記の手続きは、およそ40日間程度の日数を要します。また自力で申請すること自体は無料ですが、必要書類を取りそろえるのには数万円程度の費用がかかります。また行政書士に依頼した場合には1件あたり15万~20万円程度が相場です。

 

また農地転用が終わり地目の登記を変更する場合は、土地家屋調査に1件あたり5万円程度はかかるでしょう。固定資産税も農地は宅地に比べて優遇されていますので追加で費用がかかります。

 

売買契約を先に締結して売買する場合には、「農地転用の手続きが完了することを条件とする」というような条件付き契約となります。売買契約を締結し、許可前に所有権移転登記の仮登記をする、などの保全措置を取ったうえで、許可後に決済引渡しをするなど通常の売買契約よりも注意が必要となるでしょう。

 

開発許可制度

 

農転許可の申請と同時並行的に行われるのが、行政への開発許可申請です。

 

規制対象の規模は以下のとおりとなっています。

 

規制対象規模

都市計画区域 線引き都市計画区域 市街化区域 1000㎡以上
(三大都市圏等は500㎡以上)
市街化調整区域 原則としてすべての開発行為
非線引き都市計画区域 3000㎡以上
準都市計画区域 3000㎡以上
計画区域外 1ha以上

 

開発行為の許可権者は、都道府県知事、政令指定都市の長、特例市の長、事務処理市町村の長とされています。ドラマの中では宴会での市議会議員への根回しがなければ「あと5年はかかったろう」と永瀬は言います。実際に今でも根回しが必要かどうかは別として、開発許可を通すのには時間がかかるのは常識でしょう。

 

危機を乗り越え、人間関係も大団円

 

農転、価格交渉、開発許可といった手順をふまなければいけないこうしたプロジェクトを進めるためには、時間も人材も資金力もある商社やゼネコン、デベロッパーがまさに何年も地道に誠実にことを進めていかなければいけません。そうした成果が、神木のおかげで危うくふいになりかけましたが、永瀬だけではなく、まさに登坂不動産の総合力でなんとか無事にまとめあげることができそうです。

 

メインストーリーを軸に、神木に暗号通貨の投資で失敗してお金に困っていることを知られ、おだてられたり直接お金で情報提供を提案されたりする十影健人(演:板垣瑞生)の心の動揺と最後にはそうした誘惑をはねのけた成長、永瀬の仕事と顧客にまっすぐに向き合い喜怒哀楽を露わにする姿に共感し愛情を感じて自分の仕事や永瀬への態度をはっきり決断する榎本美波(演:泉里香)、永瀬の真摯な営業スタイルに負け「1位になるため成約できれば手段は問わない」という考えに疑問を持ち始めた神木、神木を見守り支える覚悟を決めて神木が責任者となるミネルヴァ不動産立川支店に付いていくことにした花澤涼子(演:倉科カナ)、かつての会社の先輩であり永瀬の強敵(とも、と読みましょう)である桐山貴久(演:市原隼人)に対しても臆することなく自分の意思をしっかり伝えることができるようになり「いい面構えになりましたね、これなら登坂不動産も安泰でしょう」と言わしめるまでに成長した月下咲良など、多くの人間物語が見事に描かれていました。

 

「一生幸せでいたいなら、正直でいろ」

 

願わくば、すべての不動産業者が、この言葉を胸に刻んで、業務に勤しんでいきますように。筆者もこの言葉に恥ずかしくない業務を続けていきたいと心に誓いました。

 

『正直不動産3』の制作・放映を心待ちに、このコラム記事も終わらせることにしましょう。へばっ!

 

 

プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。

 

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