テーコー不動産に勤める三軒屋万智(北川景子)が家を売りまくる痛快お仕事ドラマ「家売るオンナ」(日本テレビ系水曜ドラマ)。
ドラマも後半に差し掛かり、万智を取り巻く人間模様も徐々に変化を見せ始めています。
今回も、ドラマで描かれるさまざまな出来事にちなんだ不動産営業の現実をご紹介しましょう。
エリート社員の足立(千葉雄大)は、万智が現れてから営業成績が2位に転落してしまいました。足立の苛立ちが募る中、なんと万智が自分の顧客と契約したことを知り、とうとう万智に怒りをぶつけてしまいます。
そんな時、足立にヘッドハンターが誘いをかけてきました。
宮澤の愛人の家を紹介…足立の胸中は複雑
さらにその日、老舗和菓子店の社長である宮澤(東根作寿英)が足立を訪ねてきて、愛人の礼央奈(小野ゆり子)のためにマンションを購入したいと依頼します。
3年前に足立は、宮澤にマイホームを売っていました。その時のとても幸せそうな家族の姿を見て「不動産営業はお客様に幸せを運ぶ意義ある仕事」と思えるようになったのです。
それなのに、たった3年で「愛人に家を買いたい」という宮澤に割り切れない思いを抱く一方、その家を紹介する自分にも嫌気がさすなど、仕事に対する迷いが募ります。
誘いを受けたヘッドハンターを訪ねていく足立は転職してしまうのでしょうか?
離職率の高い不動産業界、その理由は?
不動産業界は、残念ながら離職率の高い業界のひとつです。足立に限らず多くの人が、自身の仕事に疑問を持ち、結果として離職してしまうのです。一説では入社2年以内の離職率は50%以上ともいわれています。
その原因はどこにあるのでしょう。
離職率が高い原因として、(1)収入(2)就業時間(3)やりがい の3点が考えられます。
まず、(1)収入について。
これは、給料が歩合制である会社が多く、収入が不安定なことが挙げられます。また、高いノルマが設定されているなど営業成績に対する管理が厳しいところは、精神的ストレスにもつながっています。
次に(2)就業時間の問題です。
会社の営業時間は決まっているものの、顧客の都合に合わせて、土日祝日や平日の夕方以降も動かなければならないことが多く、定時の出勤や退社というのは、なかなか困難な商売です。
(3)やりがいの問題も深刻です。
ドラマでも再三描かれていますが、不動産業界の営業マンはチームワークで育てられるというより、個々人が高い意識を持って自分で成長していくよう求められる傾向にあります。従って、契約できない営業マンは自己否定の気持ちが強くなり、仕事にやりがいや存在価値を見出せなくなってしまうのでしょう。また、小さな会社では、賃貸管理などの業務も営業マンが兼任する場合があり、家賃滞納への対応や隣人間のトラブル、クレーム処理に忙殺され、やる気を失うこともあります。
万智は「不動産屋の仕事は家を売ることです」と割り切っています。それは、確かに営業マンの大事な心得です。
しかし、それだけではなく「家を売ることでお客様だけでなく、従業員にも幸せを運ぶ意義ある仕事」であるべく、不動産業界を挙げて労働環境の改善や業界全体の地位向上に努める必要があると思います。
(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
万智は、都心の8SLDKの一軒家なのに、わずか1000万円という本社からの特命物件を担当します。
通常なら2億5000万円はする物件ですが、殺人事件があったため、遺族が安値でもいいから処分したいという、いわゆる事故物件。
万智は後輩社員の白州美加(イモトアヤコ)を連れて現地販売を実施しますが、内覧客に「不動産屋には、聞かれたら答える義務があります」と、事件について詳しく説明するものですから、客は怯えて逃げるように帰ってしまいます。
何もそれほど詳しく説明しなくても、知らないふりをして販売してしまうわけにはいかないのでしょうか?
また、事故物件はそこまで安くなるものなのでしょうか?
事故物件の心理的瑕疵には告知義務がある
事故物件には、心理的瑕疵物件と物理的瑕疵物件の2種類があり、ドラマのケースは心理的瑕疵物件にあたります。
心理的瑕疵とは、当事者の心理的要因によるものなので、はっきりとした定義はありませんが、例えば
- 自殺や殺人事件があった物件
- 近隣に暴力団事務所や葬儀場がある物件
などが該当します。
そしてこの心理的瑕疵は、宅地建物取引業法47条1項の「重要な事項」にあたるとして告知義務があるとされており、それに反した場合、損害賠償や解約の対象になることもあります。
とはいえ、万智のように事細かく現場を再現するかのごとく説明をするのは、少々やり過ぎのような気もしますね。あくまでテレビ的なデフォルメであり、現実にはあそこまでやることはありえません。
事故物件はどの程度値下がりするのか
事故物件は「その事実を知っていれば契約しなかったかもしれない物件」ですから、白州が言うように欲しい人はいないと考えられて、相場よりも安くなってしまいます。
しかし、あくまで「心理的要因」ですから、心理的に影響を受けないと考える人には安価で魅力的な物件ともいえます。要するに「世の中にはあまり気にしない人もいる」のです。
万智も、病院や葬儀社など死が身近な職業の人に対象をしぼり、見事に販売することができました。
現実でも、賃貸物件・売買物件ともに、相場の2~3割安、物件によっては半額程度で取引されることが多いようです。
また敷地が広い場合は、建物を取り壊し分筆して分譲宅地にするなど、形を変えたり、時間をあけたりして影響を少なくする方法を取ることもあります。
しかしさすがに、2億5000万円の一軒家が1000万円にまで下がるということは、実際にはあまり考えられません。
秘かに万智を慕い始めた庭野(工藤阿須加)も、ついに一軒家を売ることができそうです。
ところが、客は隣家の庭の木が門の前にはみ出しているのが気になり、さらには「住人が普通の人だったら、買っても良い」と言い出します。庭野は調査することを約束しますが、不動産会社って、そこまでしてくれるものでしょうか?
周辺環境も調査、現状把握をする営業マン
実際に自分が住む家を買おうとする場合、やはり近隣の住民のことは気になりますよね。
現実には、中古住宅を販売する場合、不動産会社の営業マンは
- 近隣住民間に良好なコミュニケーションがあるか
- 町内会、マンションの管理組合や規約はどうなっているか
などを売主に聞き取り調査をして現状把握に努めるのが一般的です。
また現地販売や内覧会を行う際は、不動産会社が事前に近隣に挨拶回りなどをして、関係を良好に保つように気を配るほか、反社会的勢力の団体の事務所がないかなどまでを調査します
しかし、隣家に特段の事情がない場合、庭野のように「ご主人が、亡くなった奥様の服を着ている」、「素敵な人です」など住人のプライバシーや性格に触れるような発言をすることはありません…。
(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
余計なことを考えずに家を売れ!
宮澤の本妻の昌代(田中美奈子)に会社に怒鳴りこまれ、宮澤の愛人の礼央奈には自分の気持ちを考えていないと罵られた足立。一方、売ろうとしていた家の隣人に女装癖があるのかもしれないと動揺する庭野。
その2人に万智は「余計なことを考えるのは傲慢だ、家を売れ」と一喝し、その言葉に吹っ切れた2人は見事に成約を果たします。
さらに、一時は転職に傾きかけた足立は思いとどまり、ヘッドハンターに断りを入れます。万智の信条が徐々に浸透していくテーコー不動産に、次回も期待しています。
(監修:不動産流通システム)