地味にスゴイ不動産会社、REDS(レッズ)の校閲ガールの高尾です。
この秋の注目ドラマの一つ、石原さとみさん主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」がいよいよ始まりました。知っているようで実はあまり知られていない、「校閲」という仕事にスポットライトを当てた作品です。
前職では出版社で校閲や編集の仕事に携わっていた私は、その経験を生かして今は不動産会社で校閲を担当しています。そんな視点から、校閲や編集という仕事の実情や裏話なども交えながら、ドラマの世界をご紹介します!
……どうして不動産会社に校閲ガールがいるのかって? それは次回までの秘密です。

長引く出版不況――出版の実情
編集者は狭き門!?
主人公の河野悦子(石原さとみ)は、ファッション誌『Lassy』の編集者を一途に目指し、出版元である景凡社(けいぼんしゃ)の採用試験を新卒から7年間受け続けています。しかし、面接官から返ってくるのは「今年も雑誌部門の編集者は募集していない」――。
残念ながら、出版不況が叫ばれる近年、雑誌の売り上げの落ち込みは激しいものがあります。悦子も面接で「『Lassy』の販売部数は年々減少の一途をたどっていると聞いています」と言っています(そして「自分を採用してもらえば売り上げ減少にストップをかける」と続くのですが)。
有名な女性ファッション誌でも休刊を余儀なくされ、大手の出版社といえども決して安泰ではないのです。採用をストップしているというのも、うなずけます。

実際には「赤ペン」より「鉛筆」――これが校閲の仕事
「校正」と「校閲」って違うの?
この仕事は「校正」と称されることが多いですが、ドラマのタイトルは「校閲ガール」であり、悦子が配属される部署の名前も「校閲部」です。辞書「デジタル大辞泉」で、「校正」と「校閲」をひいてみましょう。
校正……(1)文字・文章を比べ合わせ、誤りを正すこと。(2)印刷物の仮刷りと原稿を照合し、誤植や体裁の誤りを正すこと。
校閲……文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること。
さらに詳しく説明すると、「校正」は誤字脱字を正すことに主眼が置かれます。元の原稿に書かれた内容が試し刷り=ゲラに間違いなく入っているか、初校(1回目のゲラ)に入れた修正指示が再校(2回目のゲラ)に反映されているか、といった観点で原稿とゲラを見比べていく作業が中心です。
対して「校閲」は、文字や作業上の誤りだけではなく、文章の意味や内容、事実関係まで踏み込んで誤りを指摘して、不明点があれば尋ねます。
どちらの観点も、作品を仕上げていくために不可欠です。以降は、「校正」の要素も含めて「校閲」と記すことにします。
これが校閲の実務!
悦子は、先輩の藤岩りおん(江口のりこ)から校閲の仕事を教わります。具体的には、下記のような確認を行います。
ノンブルのチェック……ページ番号が正しくふられているかどうか
素読み……誤字脱字がないかどうか、語句や漢字の使い方が適切か
表記の統一……同じ言葉の表記が統一されているかどうか
事実確認……固有名詞や実際の出来事、数値などに間違いがないか、記載内容に矛盾がないか
このほかに、ルビ(ふりがな)のチェックや差別表現・不快表現がないかどうかも見ていきます。これらの工程の一つ一つが、細かい作業で成り立っています。
「赤」はほとんど使わない
「校正」といえば、赤ペンで校正記号を書き入れているイメージが強いと思います。ドラマのポスターでも、石原さんが赤鉛筆を持っていますよね。しかし、実際の校閲・校正においては、赤ペンで書き込むことは思いの外少ないのです。
ドラマで、先輩のりおんが「明確な間違いは赤ペンで修正」「疑問や指摘、提案などは(黒)鉛筆で書き込む」と指導する場面があります。
赤ペンは、前述した「校正」の工程で、「元原稿」や「修正指示」という明確な基準と突き合わせて、相違がある点を指摘するときに用いることが大半です。一方、素読み以降の工程においては、たとえ「明確な間違い」と思えることであっても、黒い鉛筆で指摘することが多いのです。
指導の場面で、悦子は「フィクションでも固有名詞を使っている場合は正確な表記が求められます。ただし、あえて架空の表現にしていることもあるので、あえてのことか単純ミスかを疑問出ししてください」と教わります。
これも、「実在する固有名詞」に照らせば「明確な間違い」といえますが、フィクション作品で狙いをもって「架空の場所」にしているのであれば、「間違いではない」ということになります。従って、赤ペンで書き込むような「明確な間違い」とは限らないのです。

今週の「赤入れ」――ちょっと気になる「フィクション」!?
本郷大作先生(鹿賀丈史)の小説のように、このドラマもまたフィクション。伝えるための演出として「架空の設定」を盛り込む場面も多いものです。ここでは、そんな「ちょっと気になること」にふれてみたいと思います。
「配属先が違うようです」
採用の電話を受けて、意気揚々と『Lassy』編集部へ出社するも、「配属先が違うようです」と告げられる悦子。大手の出版社であれば、出社初日にはまず人事部を尋ねることが一般的かと思います。
が、もしかしたら、人事部からはそのようにアナウンスを受けていたのに、情熱が先走るあまりの悦子の「誤り」だったのかもしれません。
(ガチャッ)
「ようこそ、校閲部へ」と、部屋のドアをガチャッと閉めて「校閲部」のプレートを見せる部長・茸原渚音(岸谷五朗)。しかし、校閲の仕事はとても神経を使うもの。なるべく不必要な音を立てないように気を遣っています(地下にあるのもそういう配慮なのかなと思いました)。
「…」
原稿の内容が事実と相違ないか確認すべく、悦子はゲラを片手に作品の舞台・立川を訪れます。描かれる場面の原稿のテキストが立川の風景に重なって表示されるのですが、そこには「消したのか…。」という表記が。
この「…」=3点リーダーは、「……」のように2つ続けて使うのが基本とされています。もちろん著者の好みもありますから、1つが間違いとは言い切れませんが……。
校閲という仕事の重要性――著者と作品をつくる
細部のこだわりが作品をつくる
文芸編集部の貝塚八郎(青木崇高)は「フィクションなんだからちょっとぐらいつじつまが合わなくてもいい」「そんなことに気づく読者はいない」と言いました。が、そんなことはありません。
細部の積み重ねが作品の世界をつくるのです。ちょっとした誤字一つが、読者の入り込みかけていた気持ちをスッと引き潮にのせてしまうこともあります。校閲は、その細部の積み重ねをお手伝いする仕事ではないかと思います。
事実確認のために作品の舞台に出向くというのはフィクションならではの場面でしたが、そこまでできたらと、ちょっとうらやましい気持ちもありました。

読者の視点を持つ悦子のステップに期待
悦子にとって、校閲部はファッション誌編集者へのステップです。1日も早く異動したいと思っている新人が、入っていきなり大物作家の原稿を見ることができるのは、隣の先輩でなくとも一言くらい言いたくなるかもしれません。
それでも、本郷先生の再校を見て「一部だけ架空の名前だったら読者が混乱する」と力説する場面は、悦子のなかに芽生えはじめた(かもしれない)ものへの期待を感じさせました。悦子が、校閲という仕事の醍醐味を味わえるようになるのか、これからのステップも楽しみです。
悦子のファッションも見どころ
ドラマの見どころの一つは、悦子のファッションのバリエーションでしょう。悦子のファッションが実際にどこで入手できるのかを探す視聴者も多そうですね。個人的には、丸めがねにヘアバンド姿の悦子がとってもかわいくてよかったです!
以上、仲介手数料が最大無料の不動産会社の校閲担当、高尾でした。
(高尾ありさ)