新型コロナウイルス感染拡大の影響で勤務先の業績が悪化し、収入が大幅に減ってしまったために住宅ローンの支払いが困難になる世帯が増えています。マンションに住むには住宅ローンとは別に毎月、管理費と修繕積立金を支払う必要があります。住宅ローンを滞納するといずれ出て行かなければならなくなることは想像がつくのですが、管理費や修繕積立金を滞納してしまうとどうなるのでしょうか。
住宅ローンと同様、滞納してしまうまでに対応しておくのがベストなのですが、うっかり滞納してしまったときにどうすればいいのかを中心に解説します。

(写真はイメージです)
管理費・修繕積立金とはなにか、おさらい
マンションに住んだら毎月支払う管理費や修繕積立金について改めて説明します。
マンションの敷地内は、大きく分けて専有部分と共有部分に分けられます。
(1)専有部分:各住戸の内側部分。バルコニーやベランダなどは含まれません。
(2)共用部分:エントランスや廊下、階段など専有部以外の部分。エレベーターや駐車場なども含まれます。
専有部は所有者がそれぞれ維持管理をしますが、共用部はそのマンションを所有する全員で維持管理をしていく必要があります。そのために所有者全員で出し合う費用が管理費と修繕積立金です。
管理費は、一般的に日常的な管理業務に要する費用に使われます。管理会社への管理委託料や管理人の人件費、エントランスや廊下の電気代などが該当します。
修繕積立金は、建物としてのマンションの性能や美観を長く維持していくために、計画的に積み立てるお金です。足場を組んで外壁や屋上を修繕する大規模修繕や、エレベーターや機械式駐車設備の更新など、多額を要する工事のために使用します。
どちらも滞納によって不足してしまうと、マンションの維持管理ができなくなってしまい、資産価値の下落にかかわります。それだけに、月に数万円のこととはいえ、滞納されたら大変なことになるのです。
また、管理費や修繕積立金の金額は専有部分の面積によって決まります。これは区分所有法第19条では「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共有部分から生ずる利益を収取する」との規定が根拠です。
滞納がかさむと競売も。法的根拠は「区分所有法第59条」
管理費や修繕積立金は、マンションを適切に維持していくために必要なお金です。住宅ローン同様、コロナ禍で収入が減ったとしても、事情を考慮して特別に減免されることはありません。
管理費や修繕積立金の支払いが滞ると、まず管理会社から督促があります。そこで支払えば問題ないのですが、なお滞納を続けると、管理組合は裁判所に対して支払督促という法的措置を講じます。
裁判所が行う支払督促には法的な強制力がありますので、この段階に至っても支払いがなされない場合は、区分所有法第59条の規定(※)に基づき、管理組合は強制的に競売の手続きを進め、滞納されている管理費や修繕積立金の回収に動きます。
このように、管理費や修繕積立金も滞納を続ければ、住宅ローンと同様、住居を失うことにつながるのです。「住宅ローンのような借金ではないから大目に見てくれるだろう」などと軽く見てはいけないことがお分かりいただけたでしょうか。
いくら滞納したら競売になるのか
では、どのぐらいの期間や金額を滞納してしまったら競売になってしまうのでしょうか。
一般社団法人全日本任意売却支援協会のウェブサイトでは、協会に実際にあった相談事例が紹介されています。
Aさんの滞納期間は10カ月、金額は約35万円でしたが、競売の申し立てがなされました。次回のボーナスでまとめて入金しようと考え、管理組合にはなんの連絡もしなかったといいます。期間も金額もそれほど多いものではないと感じるかもしれませんが、これくらいでも競売の申し立てはありえるというケースです。
Bさんの滞納期間は不明ですが、約100万円の滞納で競売の申し立てがなされました。管理費等の合計が月額2万5,000円なら40カ月ですので、3年4カ月で競売に至ったことになります。早朝から夜遅くまで工場勤務をしていて管理組合と連絡が取れる状況ではなかったのですが、管理組合には悪質と映ったようです。
以上、AさんBさんのケースから分かるように、滞納額や悪質の度合いは管理組合が主観的に決めてしまうところがありますので、注意が必要です。とにかく、持ち合わせがなかったとしても、最初の段階での支払い連絡に対してすぐに対応して、誠意を見せておく必要があります。
一般に、督促期間は3~6カ月となっています。この期間を過ぎると、悪質な滞納者として判断され、管理会社からの督促ではなく、管理組合を交えた法的措置へと移行していきます。また、民法で債権の消滅時効は5年間なので、消滅時効を意識し始める2~3年で競売の申し立てに至るケースが多いと理解しておくとよいでしょう。
今後の支払いの見通しが立たなければ売却が妥当
管理費の滞納を解消できる見通しが立たないならば、早い段階で売却の検討を進めましょう。マンションの売却金額から住宅ローンの残債を差し引いてプラスになるなら、そこから滞納金を支払うことができます。
また、管理組合から競売の申し立てをされてしまったら、競売ではなく任意売却を選択しましょう。
任意売却とは、住宅ローンを出している金融機関などと相談し、債務金額以下での売却を検討する方法です。残債は5,800万円のマンションの市場価格が5,000万円とすると、売却しても残債には届かないのですが、金融機関と相談し、5,000万円でも抵当権を外して売却できるようになります。
任意売却のメリットは競売と違って市場相場に近い価格で売却ができることです。競売は市場相場の70~80%程度の価格で売買されてしまい、任意売却よりも残債が多く残ってしまいます。
また注意したいのは、滞納金の清算を忘れないことです。管理費などの滞納金については、人ではなく住戸に付帯します。清算しないと買主に引き継がれてしまいます。こんな物件を買う人はまずいません。任意売却では売買価格を調整してこの滞納金を清算するようにしましょう。
不動産会社にはお金まわりに詳しい営業マンもいる
ここまで述べたように、管理費の滞納を甘く見て放置しておくと、知らない間に競売の申し立てがなされて取り返しがつかなくなってしまう恐れがあります。
支払いができる見通しが立たなくなった時点で、早めに不動産会社に相談することをおすすめします。不動産会社の中には、金融機関や管理組合との折衝などに精通した営業マンがいる会社もあります。
早めに相談することで取り得る選択肢が広がりますので、最良の解決策が見いだせるでしょう。
とにかく早めの対応で家を手放さなくてよくなる
以上のように、管理費や修繕積立金も住宅ローンと同様、支払いができなければ、最終的に競売にかけられ、家を失ってしまう恐れがあることがお分かりいただけたでしょうか。滞納金がかさむほど清算は困難になっていきますし、延滞金などのペナルティも増えていきます。
管理費ぐらいと甘く考えることは禁物です。繰り返しますが、支払いが難しくなった時点で早めに不動産会社に相談するようにしましょう。幅広い選択肢の中から適切なアドバイスが得られるでしょう。
※区分所有法第59条第一項抜粋
第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持管理を中心とした業務に5年間かかわる。現在は、不動産のストック分野の業務に従事。