コロナ禍によってテレワークが進み、日本人の住まい観に変化が起こっています。

 

各自の仕事部屋を求めて、ワンフロアのマンションから部屋数の多い戸建て住宅にトレンドが完全にシフトしています。特に都心寄りに位置し、狭い敷地に3階建てで構えた「狭小住宅」はその値頃さが受けて人気が急上昇。一方、マンションのワンフロアを細分化して小部屋を確保したり、中古マンションに書斎を新たに設置したりするリフォームも活発に行われています。

 

4~6月の国内総生産(GDP)成長率が戦後最大の落ち込みとなり、今後の景気悪化が確実視され、停滞も予想される不動産市場にあって、格安戸建てとリフォームは救世主になるのか。マンションではなく戸建て住宅を買うなら特に注意することはあるのか、どこに買うべきなのか。不動産事業プロデューサーでオラガ総研株式会社代表取締役の牧野知弘氏にうかがいました。

 

連載1回目は「なぜ今、戸建てシフトが起こっているのか」を時代の視点から考察。2回目は戸建て住宅や格安戸建てを買ううえでの注意点を、3回目は追い風となっているリフォーム業界について語っていただきました。

 

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

 

牧野知弘氏

牧野知弘氏

 

マイホームを求めて郊外に出た戦中・団塊世代

 

――新型コロナウイルスが蔓延し、働き方の変化から住まい選択のトレンドが変わる1年くらい前から、インタビューの際に「マンションよりも戸建てにトレンドが移っている」と指摘されていました。

 

牧野 背景にあることを、まずマクロな視点で解き明かしていきます。戦後、地方から東京に働くために出てきた人たちが、都内の会社で職を得て、家を持つことを考えました。地方の農村出身の人は土地に対するこだわりがとりわけ強く、東京の郊外に造られた宅地に「マイホーム」を持つようになりました。

 

――その世代の人は持ち家、しかも戸建てにこだわったのですね。

 

牧野 そのように「マイホーム」を持ちたいと強く思う世代は、おそらく戦中世代から団塊の世代の間くらいまでです。彼らが亡くなり相続が発生すると、相続人である息子や娘がそのままその「マイホーム」に住むかというと、そうでなくて、自分で家を買います。この背景には高齢化社会があります。平均年齢が伸びていて90歳を過ぎるまで親が死なないので、親の家に住まずに、自分で会社の近くにあるマンションを買うのです。

 

そうすると、親が死んだ後に親の家が余る。親の家というのは、世田谷とか練馬とか杉並のような都心寄りの住宅地にある。しかし、相続した次の世代はそこには住まない。このように相続で毎年、大量に昔の人が大事に買った「マイホーム」が空き家になっていく。

 

――広い住まいがどんどん供給されていると。

 

牧野 世田谷や杉並に値頃な戸建て住宅が増え、しかも都心よりも生活環境がよろしいということになると、マンション住まいよりも、こういったところの戸建て住宅は見直されるのではないか。僕にはコロナ禍前からそういう持論がありました。

 

世代交代からの動きがコロナ禍で加速

 

――そういう認識をお持ちになったのはやはり、世代交代のタイミングだと。

 

牧野 首都圏に今、マイホームを持った団塊の世代と戦中の世代が大量にいます。東京都では今、75歳以上の人口の方が60~65歳の人口よりも多い。大量相続が明日にでも起こり始めるという状況です。

 

こうして市場に土地が大量に供給されていくと、何もマンションというものに住まなくても、20坪くらいの土地を買って、3階建ての住宅を建てて住むことが以前よりも手軽にできるのではないか。やはり戸建ての周囲に気兼ねなく過ごせるとか、自由に修繕ができるというようなメリットは大きいですから。そういった意味でも戸建てのニーズは上がるのではないかと思っていました。

 

――今回のコロナ禍で、その動きがさらに後押しされているようですね。

 

牧野 テレワークが進んで週に1、2回の通勤になると、職場に近いところに住まないといけないという縛りがなくなるだけでなく、むしろ生活環境がよいところで戸建てに住んでゆったりと暮らしたいというニーズにつながってきたのかなと思っています。

 

共働きのテレワーカーがマンションから戸建てへ

 

――一方、最近ではワンフロアだとテレワークがやりにくいという理由で戸建てに移っているようです。

 

牧野 マンション中で家族みんながテレワークすると、Wi-Fiの速度が足りなくなったり、高層マンションでは隣の部屋から声が聞こえてきたりするなど問題が起こります。高層マンションは構造上の問題で軽量の乾式壁(石膏ボード)ですから、大きな声だと隣に漏れやすいので。Zoom会議をやっていると、つい声が大きくなってしまい苦情になるわけです。こういったところも相まって、マンションはテレワークに完全に対応しきれないところもあるのかもしれませんね。

 

――テレワークがしやすいよう戸建てを買ったのはいいのですが、いつか職場が元のやり方に戻って後悔するようなことはないでしょうか。

 

牧野 職種や勤めている企業によって変わってくるでしょうね。IT系やソフトウェア関係の会社だと在宅やコワーキングで働いて成果を出せば、無理に集まらなくていいという雰囲気ですよね。ドワンゴなんか全員がテレワークです。IT系最先端企業、つまり世の中をこれから動かしていく企業ほどどんどんと変わっていくでしょう。

 

クラシカルな企業もマインドシフトを持てるか

 

牧野 一方、どちらかというと重厚長大でクラシカルな企業ほど、元に戻りたがります。こういった会社は、過去数十年間の成功のおかげで今のポジションがあります。会社の習慣や文化を当然、続けたい訳ですよ。逆に言うと、今までの成功の物差しが変わることに対する不安や恐れがあるため、今のトレンドを感染症の中の一環として一過性のものでしかないと考えたがります。

 

どう考えても自由なのですが、役員にしても社員にしても「マインドシフト」が持てるかどうかではないでしょうか。大きなオフィスを構えて、みんなを密に働かせることで生産効率が上がると信じてきたし、渋谷にオフィスを構えるということが学生のリクルーティング上、極めて有効だと思ったから高い家賃でも借りていたわけです。

 

ところが、どっちもほとんど必要ないということになれば、膨大なオフィス賃料を払うという動機がなくなりますし、ソーシャルディスタンスのために床面積を広げてほしいといわれても、コロナで業績が悪くなっていると広げられる訳がない。通勤しなくても仕事ができて、テレワークで社員の能力が見える化できて、労働生産性も上がる。経営者側も労働者側もメリットが一致しているわけですから。このことに素直に気づくのか、昔のやり方を踏襲しつづけるのか。企業は厳しい競争社会で生き抜いていかなければならないので、真剣に考えた方がよいでしょう。

 

戸建てトレンドだがマンションには固有のよさもある

 

――「郊外の戸建てが勝ち組」だという記事も発表されています。

 

牧野 マンションにはマンションのよさがあり、どちらがよくてどちらが悪いということではありません。マンションというのは「利便性」を買う住宅です。この利便性は通勤の回数が減ったというだけで見向きもされなくなるのかというと、そんなことはないと思います。

 

都心で飲食店を経営している人やスタッフは毎日お店へ通いますので、こういった方々は利便性を大事にします。

 

また、僕自身がやっているのですけれども、平日は都心のマンションで、週末は郊外の戸建てに住むという2拠点居住も増えてくるでしょう。

 

そういった意味で、マンションの使命は変わることなく存在します。ただし、これまでのように「会社ファースト」に縛られないので、リーズナブルな郊外へ出たり、自分の趣味趣向に合わせたライフスタイルで住まいを考えだしたりするのではないかと思います。いろんな住宅の選択肢が増えることは、消費者にとってはよいことなのではないでしょうか。

 

一方、不動産の業界側もこれまでのように「会社ファースト」というたったひとつの視点からの住宅供給というのではなく、こうした消費者の趣向に合わせた住宅の提供にシフトしていかざるをえません。

 

「駅まで歩いて10分ですよ」「電車に乗って、大手町まで急行で何分です」というセールストーク一辺倒から「家庭菜園ができる庭付きです」「駅前にコワーキングがあります」「1駅乗ればスタジアムもあります」などとその住宅が存在する街全体の紹介も重要になります。一軒の住宅を売るのに、生活圏である「街」をテーマにセールスをする時代になりますね。

 

「立川で生活を成り立たせるとはどういうことか?」=(中)に続く

 

 

牧野知弘氏
オラガ総研株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年オラガ総研株式会社設立、代表取締役に就任する。2018年11月、全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、使い手のいなくなった古民家や歴史ある町の町家、大自然の中にある西洋風別荘などを会員に貸し出して「自分らしい暮らしの再発見」を提供している。

 

著書に『空き家問題』『民泊ビジネス』(祥伝社新書)、『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)、『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)、『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)などがある。テレビ、新聞などメディア出演多数。