2020年夏、ついに東京オリンピックが開催されます。前回の東京五輪は1964年ですから、56年ぶりの開催です。
前回メイン会場として使用された国立競技場の建て替えなど、各地で会場や道路などが整備されている他、キャッシュレス決済の普及や山手線の新駅開業など、開催に向けての準備が日本経済の発展に大きく貢献しています。
一方、景気好調の要因が東京五輪であるということから、「五輪後には経済が低迷し、マンション価格が大きく下落する」といった予測が報道されています。この予測が当たるかどうかは正直、その時になってみなければ分かりませんし、その影響には地域格差もあるでしょう。
ただし、東京五輪以降にマンション価格が下落すると考えられる要因がいくつかあるのは事実です。本稿では、今マンションの売却を考えている方はオリンピック前に売った方が良いのかについて解説します。

(写真はイメージです)
東京五輪の前に売却を進めた方が良いとされる4つの理由
① 既に現在のマンション価格はバブルを超えている
不動産経済研究所の調査によれば、2019年の首都圏新築マンションの平均価格は前年比1.9%増の5,980万円(㎡単価では87.9万円)。また全国平均では4,787万円となり、これは1973年の調査開始以降の最高値を更新しています。つまり、1990年頃のバブル経済の頃を既に超えているということです。
一方で、厚生労働省の調査によれば、世帯年収はバブル期である1994年の664.2万円が最も高く、2015年には545.8万円まで落ち込んでいます。現在はマンション価格は上がっているけれど世帯年収は落ち込んでいるという状態。マンション購入は「高嶺の花」なのかもしれません。事実、2019年、東京都区部では約13,700戸のマンションが販売されましたが、2019年12月末現在の契約戸数は約10,600戸、約3,000戸が売れ残っている状態です。
もちろん、マンションは数千万円の高額商品ですので、すぐに売れなくてもゆっくり販売していくというスタンスの不動産会社もありますが、普通は早く売れるにこしたことはありません。新築マンションが売れずに少しずつ販売価格を下げていけば、それが中古マンション市場にも波及し、中古マンションの価格も下げなくては売れなくなります。
東京五輪の影響を抜きにしても、今の首都圏のマンション価格は、既にギリギリのバランスで保たれているといえるでしょう。
② キャッシュレス消費者還元事業は2020年6月まで
昨今の日本経済全体に影響を与えた大きな要因として、2019年10月の消費税増税が挙げられます。
その影響はもちろんマンション価格にも及んでおり、例えば建物価格が4,000万円だとしたら、その2%に相当する80万円が増税されることになります。税込価格表示が普及している現在ではこの影響が見えにくくなっていますが、少なくとも増税分は確実にマンション価格が上がっているのです。
そして、この消費税増税を緩和するために、総務省主導でキャッシュレス消費者還元事業が展開されています。「PayPay」や「LINE Pay」、「楽天ペイ」などのキャッシュレス決済を利用することで最大5%が還元される事業です。この恩恵を受けて、日常生活では増税の影響が緩和されていますが、この事業は東京五輪と同時期である2020年6月までとされています。不動産売買でキャッシュレス決済が導入されているケースは微少ですが、これによって消費行動が落ち込めば、経済全体が落ち込んでいく恐れがあります。
③ 消費税増税に合わせた各種控除や給付金の期限
②にも関連しますが、消費税増税の影響を緩和するために、住宅購入に関する各種控除や給付金が設けられています。
住宅ローン控除については、これまで住宅ローンの年末残高×1%が所得税から10年間控除される仕組みでしたが、2020年12月までの入居であれば、これが13年まで拡充されます。また「すまい給付金」という制度が設けられており、2021年12月までに住宅の引渡しを受けると最大50万円が給付されます。
この他、次世代住宅ポイント制度や贈与税の非課税枠の緩和など、住宅購入に関する消費税増税の影響を緩和する施策が複数用意されていますが、どれも期限がありますので、少しずつ不動産市場に増税の影響が及ぶでしょう。
④ 建設費高騰による新築マンション価格の上昇
東京五輪を開催するために、新国立競技場を含めた各会場や道路・鉄道など各種交通機関の整備が進んでいます。建設業界から見れば、公共事業として安定した価格での発注が続いている状況であり、その中を、無理な価格でマンション建設を請け負う必要もないし、そこまでの余剰人員もないのが実情です。
しかしマンション業界としては、東京五輪で建設費が上がっているからといって「今はマンションを建てるのを止めよう」という動きは正直できません。用地は数年前から取得済みですし、自社のスタッフの給料を支払わなければなりません。規模の縮小はできても、用地取得・マンション建設・販売のサイクルを止めることは倒産を意味します。
したがって現在販売されているマンションは、建設会社が受注してくれる金額まで施工時の発注金額を上げなければ成立しなかったものです。この高額の施工費がマンションの販売価格に転嫁されていることも、首都圏マンション価格が高騰している要因として挙げられます。
オリンピックが終われば、会場整備を含めた建設ラッシュが落ち着き、施工費が下がってくることでマンション価格の下落にもつながってきます。
東京五輪の影響を受けやすいエリア
上にあげた4つのポイントのうち、消費税に関わる影響は全国規模ですが、マンション施工費の高騰については基本的には首都圏に限られます。それを考慮すると、東京五輪の影響を受けやすいエリアが見えてきます。
① 湾岸エリア(豊洲・有明・東雲)
湾岸エリアは1,000戸規模のタワーマンションが数多く供給されています。
大規模な新築マンションが供給されているということは、施工費高騰の影響を受けた新築マンションが多いということです。消費税の影響によって新築マンションの販売が停滞すれば、価格が下がり、中古マンションの売買価格へも波及します。
また、湾岸エリアは都心部へのアクセスが良く街がきれいなことから人気になりましたが、他の地域も駅前再開発などが増えてきており、湾岸エリアの魅力が相対的に弱くなっています。
供給されている戸数が多いだけに、中古マンション売買時には価格で比較されるケースが多くなります。売却活動を始める時期には注意が必要なエリアです。
② 六本木・麻布エリア
六本木・麻布エリアは、六本木ヒルズやミッドタウンなどIT企業が集まることで市場価格が高騰したエリアです。現在でも高級マンションが多数建ち並んでいます。
ですが、東京都内の主要駅でも再開発が進められており、渋谷駅前の渋谷ストリームにはGoogleの日本法人が六本木ヒルズから移転しています。JR山手線の新駅である高輪ゲートウェイにも高層ビルや商業施設ができますので、羽田空港とのアクセスなども考慮すると、外資法人が六本木エリアから離れていく流れができると考えられ、マンション価格の下落が懸念されるエリアです。
まとめ
最後に本題の「東京五輪前にマンション売却を行うべきか」についてですが、結論としましては、東京五輪そのものがマンション市場に影響を及ぼすかどうかはまだ明確でありません。しかし消費税の増税やマンションの施工費を考えると、五輪開催以降も現在のマンション価格が継続する見込みは低いということです。
一度下落が始まれば、湾岸エリアなどは中古マンション市場に売却物件が供給過多になる可能性があります。2020年にマンションの売却を考えている方は、早め早めの売却を考えた方が良いでしょう。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。