マイホーム購入後に多くの人が利用する「住宅ローン控除」は、控除額が個別に変わります。そのため、住宅ローン控除を利用していても、その恩恵がどの程度なのかは「よく知らない」といった方も多いでしょう。控除額を正しく知るために、住宅ローン控除の仕組みや計算方法を解説します。

(写真はイメージです)
住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除は税法上「税額控除」と呼ばれます。住宅ローン残高に応じて、支払った所得税が一定額戻ってくる制度です。住宅広告などで「最大で400万円還付金が戻ってくる」といった表現を見た方も多いはずです。ただしこの「400万円」という数字はあくまで最大還付を受けたケース。還付金の額は人によって違うので、この最大額で損得を判断してはいけません。
住宅ローン控除額制度の骨子は次の通りです。
・基本計算式:年末の住宅ローン残高×1%
・控除額上限:40万円(認定長期優良住宅や認定低炭素住宅等の場合は50万円)
・控除期間:10年間
上限額40万円の控除を10年間受ければ、40万円×10年間=400万円となります。これが先ほど申した広告の「最大400万円」の根拠です。しかし上述のように自身で支払った所得税額以上の控除を受けることはできません。また、年末の住宅ローン残高は年ごとに減少するため、通常は住宅ローン控除額が毎年減っていくことになるでしょう。
住宅ローン控除の主な要件
続いて、住宅ローン控除の適用を受けるための主な要件について解説します。
【居住・所得要件】
・新築または取得の日から6カ月以内に入居し、適用を受ける年の12月31日まで引き続き居住すること
・その年の合計所得金額が3,000万円以下であること
なお、これらの要件は年ごとに判断します。ある年に要件を満たさなかったとしても、その後、要件を満たせば再適用が可能です。
【借入要件】
・金融機関や勤務先等からの借入であること(親類や知人等からの借入は対象外)
・返済期間が10年以上あること
【住宅要件】
・新築または取得をした住宅の床面積が50㎡以上
・店舗併用住宅等の場合、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること
【中古住宅の場合】
・築20年以下(マンションなどの耐火建築物の建物の場合には25年以下)であること
・所定の耐震基準を備えていること
・中古住宅が、生計を一にする親族等から取得したものではないこと
ここでは主なものをご紹介しましたが、他にも細かい要件がありますので、事前に国税庁ホームページで確認しておくと良いでしょう。また、要件を満たしたからといって当然に住宅ローン控除が受けられるわけではなく、自分で申請する必要がありますのでご注意ください。
参照:住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)
適用を受ける初年度は、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」や物件の「登記事項証明書」、住宅ローンの「年末残高証明書」などの書類を添付した上で、確定申告をします。2年目以降については、会社員の方であれば勤務先の年末調整で住宅ローン控除が完了します。
控除額の計算方法は?
住宅ローン控除額の計算式は難しいものではありません。しかしよく聞くのが、「自分の所得税額を把握していないので実際の控除額が分からない」といったケースです。そこで所得税額の計算について、給与年収800万円のケースで簡易的に試算しましょう。
(1)給与所得控除により「給与所得」を計算
給与所得は、その収入によって控除額が定められており、年収800万円の場合は「収入金額×10%+120万円」を控除できます。詳しくは国税庁ホームページをご覧ください。
参照:給与所得控除
これに従えば、
給与所得控除額:800万円×10%+120万円=200万円
給与所得:800万円-200万円=600万円
となります。
(2)社会保険料控除や基礎控除を差し引いて「可処分所得」を計算
社会保険料には厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料などがあり、給与所得者は給料から天引きされます。これらの保険料は課税されませんので差し引きます。
社会保険料の目安は、おおむね年収の15%程度になります。これを踏まえて、ここでは社会保険料を120万円(800万円×15%)としましょう。
また、生命保険料控除や配偶者控除など、所定の「所得控除」も差し引くことができます。これは人によって適用可能な控除が異なりますが、ここでは以下の所得控除を適用します。
・基礎控除(誰でも適用可能):48万円 ※令和2年分以降
・生命保険料控除:8万円 ※生命保険料控除は最大12万円です
諸々の所得控除額の合計は、120+48+8=176万円となります。
これを、さきほどの給与所得(600万円)から差し引くと、所得税の課税対象となる「課税所得金額」が算出されます。
課税所得金額:600万円-176万円=424万円
(3)課税所得金額に応じた所得税率を乗じて「所得税額」を計算
所得税は「超過累進課税」といい、所得が高いほど税率が高くなる仕組みです。所得額に応じて5%から45%の範囲で7段階に税率が決まっています。
参照:所得税の税率
課税所得金額が424万円ですから、所得税率は20%、控除額は42万7,500円です。
これを計算すれば、最終的な所得税額が算出されます。
(424万円×20%)-42万7,500円=42万500円
もし年末の住宅ローン残高が4,000万円であれば、控除額は40万円(1%)です。所得税額が控除額を上回っているので、40万円全額の還付が受けられることになります。
※試算は簡易的なものです。上記で挙げた以外の条件は考慮していません。
住民税も住宅ローン控除の対象
先ほどの試算では、所得税額が控除額を上回ったため、控除額全額(40万円)が控除されました。
一方、控除額を使いきれないケースもあります。例えば、先ほどの事例で「認定長期優良住宅」を購入し、かつ年末の住宅ローン残高が5,000万円であった場合、控除上限額は50万円になり、控除しきれない額が発生します。
50万円-42万500円=7万9,500円
どこか、もったいない感じがしますよね。
こうしたケースでは、所得税で控除しきれなかった額の一部を、翌年の住民税から控除することが可能です。
【住民税の住宅ローン控除額】
・前年分の所得税の課税総所得金額等の7%(136,500円を限度)
※消費税がかかる物件の購入であること、2021年12月31日までに入居していることが要件となります。
なお、上述の通り所得税の住宅ローン控除は初年度に確定申告が必要ですが、住民税の控除については特別に申告の必要はありません。自治体の方で確定申告・年末調整の情報を把握しているからです。
消費税10%にかかる特例
2019年10月に消費税率が上がったのは記憶に新しいところ。価格帯の大きい住宅は、たとえ2%の引き上げでも大きな影響が生じます。そこで消費税10%の住宅を購入した場合については、住宅ローン控除の適用期間が10年間から「13年間」に拡充されることになりました。
ただし11年〜13年目については、計算方法が異なります。国税庁ホームページ(既述)もご参照ください。
【11年目~13年目の住宅ローン控除限度額】
次のうち、いずれか少ない方の額
・年末の住宅ローン残高または住宅取得等の対価のうち、いずれか少ない方(上限4,000万円)×1%
・(住宅取得等の対価-消費税額)[上限4,000万円]×2%÷3
※「上限4,000万円」について、認定長期優良住宅や認定低炭素住宅では5,000万円が上限となります。
上限はありますが、ご自身の所得税額を考慮しなければ、この住宅ローン控除期間の延長によって消費税増税分は取り戻せる計算です。
なお、この拡充策は時限のもので、2020年12月31日までに入居した方が対象です。現在住宅購入をご検討中の方は、入居期限に留意したいところです。
まとめ
現行の超低金利下において、住宅ローン控除は住宅ローン金利以上の減税効果が得られる可能性があります。一方で所得税額による制限もあります。所得は毎年変動する可能性がありますので、今回ご紹介したローン控除額の計算方法を知った上で、所得税額と還付を把握しておくとより確かな資金計画を組むことができるでしょう。
横山 晴美 ライフプラン応援事務所代表
企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げる。以降、住宅相談・セミナーを専門に扱う。住宅相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。より多くの人に金融知識を届けるために、セミナー・執筆による情報発信にも力を入れている。