「有吉ゼミ」は日本テレビ系月曜19時から放送されている人気バラエティ番組です。お笑い芸人の有吉弘行が司会を務め、タレントのヒロミが数々のリフォームを手掛ける「八王子リホーム」などのコーナーが人気を博しています。
その中でも、今回は2019年10月28日(月)に放送された「坂上不動産」を解説します。タレントの坂上忍が芸能人の不動産購入をお手伝いする企画です。今回は女子サッカーの元日本代表である丸山桂里奈の別荘購入をお手伝いする内容でした。
「2,500万円という予算で、両親と愛犬が楽しい時を過ごせる別荘を買う」というのが丸山さんの希望です。放送の始まった段階では、既に気に入った熱海の別荘に手付金を入れてキープしており、これを超える別荘が他にないかと神奈川県・湯河原方面の別荘を見学していました。
誰もが憧れる別荘。ですが不動産のプロとしては、丸山桂里奈さんは本当に別荘を購入するべきなのか、一度立ち止まって考えてほしいというのが正直な気持ちです。今回は、この企画を参考に、別荘購入の注意点を考えていきたいと思います。

(写真はイメージです)
日本全国で別荘を手放したい人が増加中!
熱海、湯河原、箱根、上高地、軽井沢、八ヶ岳…東京から離れた自然豊かな地域には、多くの別荘が建てられています。統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国の別荘の数は260,800件です。
日本経済の発展が続いていた頃は、各地で別荘地が開発され、リゾート地に別荘を保有することが1つのステータスとなっていました。一流芸能人の別荘を見学する企画をテレビ番組などで見た方も多いと思います。
しかしながら現在は、日本の人口は減り、日本経済も発展しているとは言い難い時期です。バブル期など日本経済の絶頂期から既に30年近くが経過しており、当時別荘を購入した方も相応に年を重ねています。
このような時代背景から、現在では、別荘を手放したいという人が増加しているにもかかわらず、購入希望者が見つかりにくいという状況になっています。別荘を含め、不動産は一度所有してしまうと誰かがもらってくれなければ保有・管理し続けなければなりません。そのためにはランニングコストが発生します(後にご説明します)。
今回、丸山さんも別荘を購入しようと物件見学を続けていますが、数千万円も支払って購入した別荘が誰にも買ってもらえずランニングコストの支払いだけが続いていく「負動産」になってしまう恐れも多々あるのです。
両親のために…どのぐらい別荘を利用するのか?
番組では、丸山桂里奈さんのお母様の年齢が65歳と紹介されていました。大好きなガーデニングが楽しめて、温泉が引かれている物件を希望していましたね。さて、この年齢を考えたとき、実際に購入した別荘は、どのぐらいの頻度でいつ頃まで使う計画なのでしょうか。
80歳になるまでの15年間、年2回利用したとして計30回です。手付金を支払っていた熱海の別荘が3,000万円超でしたので、1回当たり約100万円にもなります。もちろん、別荘の購入には物件価格以外にも仲介手数料や登録免許税、不動産取得税などの諸経費もかかりますし、15年間のランニングコストがかかります。これを加味すれば、1回当たりの利用料はさらに増えます。
また番組に出てきた湯河原の別荘は、土地建物3,980万円のうち、建物が3,330万円、土地は650万円でした。別荘の価格における建物のウェイトは大きく、建物は20~30年で資産価値が目減りしていきます。
別荘への需要が下火な時代背景も考慮すると将来の資産価値は不透明な中で、利用料が100万円を超える別荘を購入する計画は、不動産のプロとしてはあまりお勧めできるものではない、というのが正直な感想です。
もし購入するのならば、足が悪いお母様でも長く利用できるように、坂が厳しい熱海の別荘ではなく、バリアフリーを考慮した立地や間取りの別荘を探す方が長期的な視点で良いと感じました。
別荘保有のメリット・デメリット
ここまで今回の別荘購入企画に否定的な見解を述べてきましたが、もちろん、別荘にはメリットも多くあります。ここでは、別荘を持つメリットとデメリットに簡単に触れていきます。
別荘のメリット
・いつでも利用できる
ホテルや宿泊施設のように予約で埋まってしまうことがありません。使いたい時に好きなだけ使えるというのは、別荘の大きなメリットです。「今日は天気も良いので、今から別荘に行こうか」といった気軽な計画も立てられます。
・利用の制限が少ない
ホテルなどは禁煙が多く、ペット連れ不可という施設も多いでしょう。別荘は、室内の汚れを気にしなければ喫煙もできますし、臭いの残る焼肉なども問題ありません。ペットももちろんOK。丸山桂里奈さんは愛犬3匹がいらっしゃるので、別荘を保有するメリットは大きいでしょう。
別荘のデメリット
・ランニングコスト
別荘は購入して終わりではなく、ランニングコストがかかります。毎年の固定資産税だけでなく、多くの別荘ではライフラインの維持費が発生します。水道・光熱費の基本料金に加え、水道管などを自主管理している場所ではその管理料が別途発生するケースもあります。さらに別荘地の中だと、別荘地全体の管理費が月数千円~数万円かかります。
購入後は、年間数十万円のランニングコストは考えておくべきでしょう。
・建物の維持費
給湯器やエアコンなど室内設備の交換、外壁塗装など建物の維持費が長期的には必要です。
また、最も注意すべきがシロアリ被害です。シロアリは日本全国に分布しており、木材が多く湿度の高い環境を好みます。別荘は森林に近い立地が多く、また年中生活をしないため湿気がたまりがちで、シロアリが好む環境が整っています。
別荘購入時のチェックはもちろん、定期的な専門業者の調査も考えておいた方が良いでしょう。
・定期的な管理が必要
敷地の広い別荘では、毎年のように繁茂する雑草取りは必須ですし、場合によっては周囲の樹木の伐採も必要かもしれません。不動産管理会社に費用を払って管理してもらう方法もありますが、基本的には自分自身でスケジュールを調整して、定期的に訪れなければなりません。
別荘保有以外の選択肢
別荘を保有しなくてもリゾートライフを満喫することはできます。例えば、リゾートクラブの会員になれば、年会費や利用料が必要になるものの多彩なリゾート施設を利用できます。
また、最近ではAirbnbなどで利用する民泊施設も増加しています。各地のリゾートマンションや別荘が登録されており、日本全国でリゾートライフを楽しめます。民泊なら利用者側のランニングコストは必要ありません。
まとめ
今回の番組企画で、丸山桂里奈さんは別荘購入を前提として物件見学を進めていますが、別荘はあくまで人生を楽しむ手段の1つです。いつでも利用できるなど良い面もありますが、これからの時代を考えると、資産性の低下が懸念され、売れずにコストばかり食う「負動産」になってしまう恐れもあります。
年何回・何年ぐらい使う計画なのか、長期的な維持管理の計画はどうするのか、別荘購入以外に同じ満足度を得る方法はないのか。
「別荘」という言葉の響きの良さに惑わされず、自分は本当に別荘が必要なのか、購入前に一度立ち止まって慎重に考えていただきたいと思います。
=後編に続く
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。