2019年3月26日(火)22時より、テレビ東京系で『ガイアの夜明け』が放映されました。この番組では、2018年度は、不正融資や検査不正、違法建築や報酬の虚偽記載など、多くの企業不祥事を独自の取材で追いかけ続けてきました。今回の放映の後半で、この番組が火をつけ、社会問題にまで発展したレオパレスの問題を取り上げました。ただでさえ胡散臭いと言われがちで哀しい思いをすることも多い不動産業界の末端に身を置く筆者もレオパレス問題には憂慮しています。本稿でも、このレオパレス問題についてまとめていくことにしましょう。

(写真はイメージです)
「終了プロジェクト」でオーナーにババをかけたレオパレス問題
株式会社レオパレス21は1973年8月設立、1989年2月には東証1部に上場し、1985年に「レオパレス21」事業として、アパート・マンションの建築請負・賃貸管理事業を開始した不動産会社です。
「レオパレス21」事業は、賃借人向け、オーナー向けにそれぞれ以下の特徴を持つビジネスモデルであり、飛躍的に成長した原因とされていました。
(1)賃借人向け・・・敷金・仲介手数料無料、家具・家電付
(2)オーナー向け・・・シリーズ・商品化された1棟アパート・マンション、家賃30年保証一括借上サブリース制度
※サブリース:オーナーは自己資金で土地を用意し建物を建設、その土地・建物をレオパレスが一括して借り上げ、自社物件として入居者を募集し、オーナーに対して空き室があったとしても一定金額の家賃支払いを約束する。要するに、また貸し。
しかし、2008~2009年のリーマンショック時期に業績は急激に悪化します。この時期にレオパレスは多くの既存オーナーに対し、30年間の賃料保証の中止と金額の見直しを迫りました。社内では「終了プロジェクト」と呼び、「30年保証を10年にしたい」「払うと約束した金額は払えない」と一方的にオーナーに契約変更を要求するもので「解約を前提として交渉を行う」ことが社内のメールで指示されていたというものです。番組はそのメール文書を入手し、深山英世社長に説明を求めましたが、返事は「ノーコメント」となっていました。
サブリース問題はシェアハウス「かぼちゃの馬車」で再燃
サブリース契約と聞いて、「かぼちゃの馬車」問題を思い起こした方も多いのではないでしょうか? 「かぼちゃの馬車」とは、株式会社スマートデイズという会社が販売していた女性向けシェアハウスの名称です。こちらはオーナーにシェアハウスを販売し、サブリース契約によって一括で不動産会社が借り上げて運営するというビジネスモデルで、東京を中心に展開していました。しかし、スマートデイズはやがて破産し、ローンを抱えるオーナーも家賃が入らず窮地に立たされている、という問題です。
さらにこちらは、ローンの申込先として主にスルガ銀行をスマートデイズが紹介していたのですが、スルガ銀行の融資担当者がオーナー預金残高を虚偽申告したり、実際の売買価格より高く見せかけるなどして、本来の融資金額より多額の融資をするよう誘導したりする、不正融資が行われたことが明らかになっています。
アパートやマンションの経営で、最も大きなリスクは、空き室リスクです。空き室があると募集費用がかかりますし、家賃収入も減ってしまいます。サブリース契約によって空き室の有無にかかわらず家賃収入があることは、オーナーにとってはありがたい条件なのは間違いありません。
しかし、オーナーも忘れがちなのが、サブリース契約の場合「見直し条項」があることです。「10年間経過時とその後5年ごと」などと期間を定めて、「近隣の家賃動向や物価の動向によって賃料の見直しの申し出ができる」などと契約で定められているのです。
また、普通借地借家賃貸借契約であれば、法律で利益を守られるのは借主側(かぼちゃの馬車問題ならスマートデイズ社)。一定の予告期間があれば、借主側からの解約が可能です。つまり、契約はいつ破棄されてもおかしくなく、そうなったらシェアハウスのオーナーは自分で運営しなければならなくなります。
これから不動産投資を検討される方は、サブリース契約に「リスクゼロ」はありえないことを覚えておきましょう。
違法建築問題が拡大、創業者の指示との疑惑
レオパレス問題はサブリースにとどまらず、建物の施工があまりに安普請で、建築基準法違反疑惑に発展していきます。
第2弾は、ゴールドネイルシリーズというマンションで天井裏の「界壁」という延焼を防ぎ遮音の機能も持つ防火壁が設置されていない事実をスクープ。放送を受けレオパレスは、建築基準法違反の疑いとその施工管理責任について認め、不良物件の調査・補修工事を実施するという記者会見を実施することとなりました。施工不良の原因は「現場の施工業者の誤解と認識不足による独自の判断」の結果、つまり会社ぐるみではないとしていました。
第3弾の放送では、不良物件の調査・補修工事が進んでいない現状、界壁の不備が発覚した物件もレオパレスの社内判定では「問題なし」と覆ったこと、オーナーと行政の再調査の結果やはり不備が確認されたことなど、レオパレスの対応のずさんさが指摘されました。この放送の2日後にレオパレスは再び記者会見を実施し、33都府県1324棟で施工不良が見つかり1万4443人に転居を求めることを発表しています。
第4弾の放送では、2019年3月の外部調査委員会による中間報告で、創業者で1973~2006年まで社長であった深山祐助氏の指示で意図して組織的に違法建築が行われたと指摘されたことを伝えています。また、「図面にそもそも界壁がなかった。だから施工業者としては当然つくらない。図面にあれば、施工業者の方で手を抜くことはない」という施工業者の証言も放映されました。
また、「ハイブリットシリーズ」という今回の調査対象ではないマンションの界壁の不備も新たに見つかったことが伝えられました。レオパレスは「国交省の認定商品で界壁は必要ない」とオーナーに説明しました。しかし国交省に確認すると「認定と界壁の要不要は無関係」という正式な返答があり、それをレオパレスに示すと今度は説明した建築士の「情報・認識不足」の一点張りでした。
コスト削減至上主義が招く意識の低レベル化
この問題については、詳細は、外部調査委員会の報告を待つしかないでしょう。事実に基づかない憶測を述べては風評被害、名誉棄損ということにもなりかねません。
しかし、あくまで一般論ということで考えると、やはり利益至上主義、コスト削減至上主義がこうした問題を起こしやすい企業風土を育んでしまったのではないか、という疑念を払うことができません。
筆者は以前、製造業の企業に長く勤めていました。そこではやはりコスト削減が大命題で、各場所で知恵を絞ることが要求されていました。製造業の使命は「いいものをより正確により安く」提供することであることはいうまでもありません。しかし、コスト削減ばかりが社員に強く求められると、「そこそこのものをそこそこのレベルでより安く」という低レベルな意識にいとも簡単に置き換わってしまうことがあるのです。
意識の低レベル化を阻止するのは、やはり「お客様の満足度を高めることが企業価値である」という企業の明確なポリシーであり、矜持でしょう。それを社員一人ひとりに浸透させるための企業内教育も大事です。こうした努力を惜しまないことが、企業を再生させるために欠かせないと、改めて考えさせられました。
プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。