2018年9月23日、朝日放送系列の人気バラエティー番組『大改造!! 劇的ビフォーアフター 2時間SP〈何もかも古い家〉』が放送されました。同番組は、広さや間取りに難のある家を限られた予算内で大改造する、という企画の人気長寿番組です。
今回は、お笑いコンビ「ロビンソンズ」の山崎ノボルさんが350万円で購入した、埼玉県狭山市の築44年、52㎡、3DK、トイレ、浴室(バランス釜)、12坪の専用庭付きという団地を、わずか200万円の予算で、かわいい奥さんと2人のまな娘が希望する「木の温かみを感じるようなナチュラルモダンなカフェ風にリノベーションする」という企画です。
一級建築士事務所代表の方の指導のもと、この番組でもおなじみの元K1世界チャンピオン魔裟斗やお笑い芸人「尼神インター」の渚が、元配管工や元大工といった経歴による技術を生かして、古い家をどのように生まれ変わらせるのか、とても興味深い2時間でした。
1カ月半にわたる工事の結果は、山崎さんの奥さんが、目を輝かせて「すごい、すごい」と感涙にむせび泣くほどのできばえ。たったの200万円で夢のようなマイホームにリノベーションされた団地を見ると、ここ数年リノベーションやリフォームを扱ったテレビ番組が人気なのもわかるというものです。自分のおうちでも少ない予算でこんなリノベーションをしてみたい、と思った視聴者も多いことでしょう。
でも、ちょっと待った! テレビと現実は全くの別物です。新築マンションや住宅が値上がりしていることもあり、中古住宅をリフォームしたりリノベーションしたりは確かにここ数年のトレンド。ただ、そのためのコストやリスクを安易に考えてはいけません。同番組を通じて見えた中古住宅の購入やリフォーム・リノベーションを検討する際の留意点について解説します。

(写真はイメージです)
この工事で200万円? それは怪しいとこっちも見積もり取ってみました
番組では予算200万円ですばらしいリノベーションを実現しました。しかし、テレビ番組ですから、企画料や設計料のほか、魔裟斗や渚の人件費も算入されていないでしょう。材料はアウトレットで安く手に入れたタイルなどをわざわざ多治見市まで買いに行っていますが、その交通費や出張費なども算入されていないのではないでしょうか。
この200万円という数に疑問を持った筆者は、お付き合いのある内装工事業者さんに、「知り合いのお客様が検討してみたいと言っているからざっくり見積もってよ」と番組で観たリノベーションに近い内容の工事の概算見積もりをお願いしてみました。
条件は以下の通りです。
・公団住宅サイズの52㎡、3DK(DK、和6畳、和4.5畳、和4.5畳、風呂、トイレ)
・壁、床、天井総張り替え
・防湿遮音仕様施工
・台所および和6畳の洋室LDK化
・アイランドキッチン化
・浴槽交換、浴室改造
・トイレ交換
・玄関脇4.5畳改修工事
・バルコニー ウッドデッキ工事
・12坪専用庭調整
・二段ベッド、ウォークインクローゼット、壁収納棚
・工期は約1カ月
届いた見積もり書によると、概算合計で約660万円(税込)とのことでした。


もちろん「設置機材や工事の仕様によって大幅に価格の変わる可能性がある」との注意書き付きです。また番組での完成図を見せたわけではありませんから、同じような仕上がりを想定してもらったものでもありません。
あくまで参考値にすぎないのですが、番組で見たようなリノベーションを頼んだ場合、およそ番組予算の3~4倍はかかると考えていてもよいかもしれません。
中古住宅のメリットとデメリット
リフォームの対象となる中古住宅の購入については、
・新築と比較すると価格が安い
・新築の少ない好立地のエリアにも物件がある
などのメリットがあります。
しかし、メリットがあるところ、必ずデメリットがあります。金融機関の設定にもよりますが、住宅ローンでは新築に比較すると、以下のように不利な場合も多いのです。
・築年数によってローンの返済期間が限定される場合がある(毎月の返済額が多くなる)
・金利が新築よりも高い場合がある(総返済額が多くなる)
・リフォームの費用は住宅ローンに含まれず、リフォームローンなど金利の高いローンとなる場合がある
また、購入から10年以内で残債が一定以上ある場合は、所得税から住宅ローン控除を受けられる場合があります。家屋の床面積が50㎡以上など、一定の要件が条件となりますが、中古住宅の場合、取得の日以前20年(耐火建築の場合25年)以内に建築されたものでなければ、原則、住宅ローン控除が受けられません。取得時にかかる登録免許税も同様です。
金利やローン控除の額は意外に大きいので、古い不動産を購入する場合は試算してみる必要はあるでしょう。
ボロボロの物件は瑕疵と免責特約に注意!
リフォームを前提に中古住宅を購入する場合、ボロボロの物件を購入してから自分でリフォームをする場合と、既にリフォームし終わった物件を購入する2つに区分することができます。
自分でリフォームする場合に注意しなければならないことは、
・その中古物件に隠れた瑕疵がありはしないか
・リフォーム費用が予想外に高くなってしまわないか
という2点でしょう。
自分で購入後にリフォームをする場合、物件そのものの購入価格は低く抑えることができます。しかし、中古物件で補修をされないまま売りに出されている物件の場合、老朽化に伴い、雨漏りの発生、給排水管、シロアリ、結露、カビ被害など、いたるところに不具合があることが懸念されます。そうした不具合がないか、購入時に厳しくチェックする必要があります。このような不具合は販売する側も気づいていないことがあり、それを「隠れた瑕疵(かし)」といいます。
こうした隠れた瑕疵が見つかった場合、買主は売主に損害賠償を求めることが認められています。それを売主の瑕疵担保責任と言います。しかし、この瑕疵担保責任は、契約時に特約で免責とすることができます。瑕疵担保責任を免責とすることを条件に中古物件を購入した場合、隠れた瑕疵は買主の自己責任になってしまいます。
このほか、注意点を挙げるとすると、自分の好きなようにリフォームができるという点では、ついつい予算を越えてしまいがちなものです。リフォームは建材の仕様、壁紙の品番一つでコストが変化します。趣味のままにリフォームを企画していくと予算をはるかにオーバーする、という話は割とよく聞く話です。
またリフォームの仕上がりは内装業者の腕しだいという面もあります。内容や素材・デザインのセンスはもとより、安全面についても、定型というものがないだけに、ピンからキリまで、といえます。
リノベーション・リフォームは信頼できる不動産会社や内装業者の選定が決め手!
そうしたデメリットを考慮すると、リフォーム前提の中古物件の選定からデザイン・内装・施工までをパッケージで販売する不動産会社や、不動産会社が自社で買い取った物件をリフォームして販売する物件などは、メリットが大きいかもしれません。
先の瑕疵担保責任の件も、中古物件の売主が宅地建物取引業の免許を持つ不動産会社の場合は、瑕疵担保責任を最低2年間保証することが、宅建業法で定められています。不動産の売買のプロが一般消費者にとって不利な契約を持ちかけるようなことはあってはならない、という趣旨で制定された法律ですので、安心できます。
自分でリフォームを企画する、という楽しみは減ってしまいますが、以下のようなメリットがあります。
・内装業者と提携するためコストをミニマイズできる
・リフォームコストが売却価格に含まれるため、リフォームローンよりも低い金利の住宅ローンで資金調達できる
・宅地建物取引業の不動産会社が売り主であれば、瑕疵担保期間が2年あり、仲介手数料がかからない
・予算が立てやすい
ただし、そういう物件を買う際は相手が信頼できる不動産会社であることが前提です。それを見極めた上で行動することが大事です。
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。