どんな業界にも「隠語」と呼ばれる言葉が存在します。たとえばマスコミではスクープすることを「抜く」、警察では住まいのことを「ヤサ」、タクシー業界では近距離客のことをなんと「ゴミ」と呼ぶそうです。そうした業界外の人に意味が通じない隠語は不動産業界にも当然、存在します。なぜ隠語を使うかというと、身もふたもない意味が込められているため業界外や客には聞かせられないからなのですが、会社に戻るとふつうに使っています。

 

今回はそんな隠語の中でも、売主や買主にはとうてい聞かせられない「引き物」「当て物」「中物」「決め物」の4大物件案内用語について解説します。これらは、顧客心理をなぶり、コントロールしたい営業マンが使う言葉です。ご自身の物件がこういう言葉で語られていることに気づかないでいると、売買において不利を被ることになります。これらの隠語の意味を知り、対策を立てておきましょう。

 

ビジネスマンと女性

(写真はイメージです)

 

客には聞かせられない「案内用語」―引き物、当て物、中物、決め物

 

まず物件案内、建物内覧の際に使われる「引き物」「当て物」「中物」「決め物」の意味を説明します。不動産売買の現場では頻繁に使われていて、業者によってはあたりまえの営業手法として管理職が部下指導に使うほどなので、多くの顧客がその影響に晒されていると考えて間違いありません。

 

(1)引き物

 

「引き物件」の略で、顧客の興味を引くための広告物件のことをいいます。実在するので厳密には意味が違うのですが、ズバリ言えば「おとり物件」のようなもの。相場に対して格安だったり広かったりするため、広告映えする物件といえます。

 

たとえば1坪あたりの単価が50万円、30坪の土地なら1,500万円前後が相場の地域で、1坪30万円、30坪で総額900万円の土地の販売広告を新聞に折り込んだら、読む人は「格安だ」と目を見張るのではないでしょうか。慣れていれば「相場より安く売りたい人などいるわけがない」という売主心理を知っているため「裏で何か問題があるはずだ」と問い合わせを見送るような代物です。

 

ただ、多くの顧客は「物件探しの初心者」ですし、スペックだけは上物ですので、踊らされてしまいます。こうして広告元の不動産業者にコンタクトをとり、業者の顧客リストの一員に加わることになるのです。ところが、物件を案内される段階になって、問い合わせをした購入希望者は「安い物件には安いだけの理由がある」と現実を知ることになります。たとえばこんな欠点があることを現地で知るからです。

 

・物件に至る道路が階段で、敷地内にクルマを入れることができなかった
・南側に大きな建物があって、日照が最悪だった
・形が不整形(三角形のような土地のこと)でまともな建物が建てられない土地だった

 

このほかにもいろいろあります。しかし広告にはこうした安くなる理由は載りません。不整形の土地の場合は地形の図面すらひた隠しにして、見栄えのする位置からの写真だけが添えられていることすらあります。顧客は現実を見せられたあと、徐々にこの価格がついたのも当然だったと思い知らされるのです。

 

(2)当て物

 

引き物広告で集められた顧客は、担当となった営業マンから物件紹介の電話やメールをひっきりなしに受け取ることになります。営業担当者は顧客の希望条件に合致する物件を探し、販売図面や写真を送るなどして物件案内にこぎつけようとします。このときにはもう、引き物は使いません。「よい物件だと誘い出したのに、実態はひどい代物じゃないか」ともめたら信用を失うだけなので、なるべく顧客の希望に近い、購入を検討してもらえそうな物件を紹介するのです。

 

ここまで読んだ方には「希望に近い物件ならいいじゃないか」と思われることでしょう。ただ問題は、紹介された物件を実際に見に行くときに生じます。多くの営業マンは複数の顧客を抱えており、効率よく仕事をしたいので1組の顧客にかける時間を短縮しようと試みます。特に歩合給の度合いが高い業者の営業マンほどその傾向が強く、1度の物件案内で購入を決めてもらえるよう、あの手この手を尽くすのです。

 

その一つが「当て物」を含む案内ルートの設定です。物件案内は通常、3~5件を見て回るルートで構成され、その一発目にもってくるのがこの当て物です。当て物の役割はズバリ、顧客をがっかりさせること。その後に見せる物件の引き立て役となって、いちばん買わせたい物件を現実以上に素晴らしい物件だと思わせることにあります。

 

そのため、引き物のように極端に欠点のある格安物件は選ばれません。価格は顧客の希望価格なのに、その他の条件はよくない物件が選ばれるのです。その結果、購入対象にはならないのです。

 

2人目の子供ができたから広い一戸建ての購入を考えているという買主にとって、こんな物件が当て物となります。

 

・交通も買い物も便利だけど、幹線道路沿いで車通りが多く、公園も少ない
・小中学校が遠く、幼稚園や学童保育の施設もない
・すべての条件が揃っているが、建築年数が古く、住むには相当なリフォームが必要だ

 

子供のために物件を探しているのですから、ほとんどの顧客は敬遠するでしょう。その他の理由で物件探しをしていても、住むには多額のリフォームを要するのなら、購入を見送る人が多いと思われます。

 

しかし当て物は営業マンが、「この物件はダメですね」と言うために見せる物件です。顧客に「買いたくない」と思わせるのが目的ですから、ひどい条件であるほどよいのです。「悪い箇所もきちんと説明する営業マン」だとの信頼を勝ち取る効果もあるといいますから、もう話が逆さまですね。

 

(3)中物

 

続いて案内されるのが「中物」です。これは当て物や最後の「決め物」に比べ、可もなく不可もない物件が選定されます。当て物から一気に本命の決め物にいくと不自然に感じ、作為的な心理誘導だと考える顧客もいるために、あえてもうワンステップを作るのです。

 

中物は1件では終わらないケースもあります。ごく自然に、そしてスムーズに内覧者の購入意欲をあおるために当て物から徐々に好条件の物件に移行し、最後の本命物件にたどりつくよう、巧妙な計算がされています。

 

(4)決め物

 

この物件で購入申込書に判を押させようと営業マンが選別した本命物件です。そのため、顧客の条件に近い物件が選ばれていますので、営業マンの意向どおり購入したとしても、特に後悔することは少ないといえるでしょう。

 

しかし、すべての条件がそろった物件などありえません。日当たりや交通、買い物や子供の学校、そして間取りから築年数までの何もかもが条件ピッタリならば、価格が追いつかないのが不動産相場の現実です。決め物であってもそんなに都合よく価格を含めた条件がすべて一致することはないので、よく自分の求める条件と照らし合わることが重要です。

 

案内ルートの設定で買主と売主がそれぞれ受ける不利益

 

業者は欠けている条件を補うように案内ルートを設定します。日当たりに難のある決め物なら、その物件でも日当たりがよく見えるように、中物や当て物にさらに日当たりの悪い物件をあてがいます。小中学校が遠ければ近いエリアにある高額物件を当て物にし、買主の予算では決め物のあるエリアまで離れないと価格的に難しいと印象付けるのです。

 

こうした案内ルートの設定や物件選別は、程度の差こそあれ、どの不動産業者でも日常的に行われています。何らの違法性はなく、正当な営業手段であるということです。

 

とはいえ、法的に問題がないというだけで、客をうまくコントロールするだけの営業手法の対象となっている自覚がないと、知らぬ間に不利益をこうむる場合があります。買主と売主、それぞれどのような不利益があるのでしょうか。

 

買主にとっての不利益

 

買主は物件に案内される対象ですが、営業マンが選んだ3~5件の案内物件にどういう意味を込めているのかを知らないと、下記のような嬉しくないことになる可能性があります。

 

・買いたくもない物件を買わされてしまう
・条件を変更させられる
・最初の予算より高い価格帯の物件を買わされる

 

営業マンは物件案内の際、買主の気分を盛り上げようと積極的に営業トークをしたり雑談をしたりしてきます。この雰囲気に乗せられてしまうと、希望する条件と違った物件であっても、熟考することなく購入してしまうケースがあります。同じ価格帯の中でひどい物件から徐々に好条件なものを見せられていくと、最後の物件が「もう二度と出ない掘り出し物」のように感じられることがあるのです。

 

ところがこうして購入した顧客の多くは、購入後に熱が冷めてみると「あれも違うこれも違う」と、手遅れになってから「条件違いの物件」を買わされたことに気づきます。

 

業者が用意する決め物は、そのとき用意できる物件の中では、最も購入希望者の条件に近いものではあります。しかし納得できる範囲で条件を満たしているかというと、もちろんそうではありません。そして、同じような案内を数回受けると、どうしても自分が求めている条件を満たすのは価格的に難しいと思い知らされ、条件の変更や予算アップを余儀なくされるのです。

 

盛り上がった雰囲気の中で判を押してしまうと条件外の物件購入になり、決めずにいると条件や予算が変ってくる。そうした状況は、買主にとっては不利益以外の何物でもありません。

 

売主にとっての不利益

 

売主にとってもよいことはありません。不動産会社によって売却物件が引き物や当て物の扱いをされてしまったら、いくら売りたくても売れることはまずありません。

 

引き物は価格だけは格安ですから、長い期間にわたって集客のためだけに利用され、売主は「今の価格でも売れない物件」と観念することになります。そんな売主の気持ちが弱くなった頃合いを見て、「売れないのだから買取り専門業者や投資家しか買い手はつかないですよ」とさらなる値下げを提示する業者もいます。

 

当て物もしょせん引き立て役ですから、案内はあっても成約など夢のまた夢となります。他の物件を決めるための比較用物件でしかないので、気に入って購入を検討してくれる買主が現れるほうが不思議だといえるでしょう。

 

売主にとって売却活動は、手間と時間のかかる大変な作業です。案内があるたびに掃除や荷物の整理などに追われますし、仕事や家事の都合もつけなければなりません。その手間のすべてが徒労に終わるのですから、知らぬ間にそんな役回りを演じさせられるのは悲劇でしかないと断言できます。

 

そして案内はあっても売れない物件だと実感させられ、引き物と同じように価格引き下げを検討せざるをえなくなります。ここでも、気弱になった売主の弱みに付け込む業者がいます。

 

また、売主にとって売れない期間が続くことは、販売機会の損失でしかありません。特に下降傾向にある相場では、売却期間が長くなるほど、不利になります。

 

つまり、無駄に長い販売期間を強いられる当て物や引き物は、売主にとっては「百害あって一利なし」以外の何物でもないということになります。結果として相場より安い価格での売却や、売れずに骨折り損のくたびれもうけとなってしまうのですから、売主の受ける不利益は計り知れません。

 

(下)に続く

 

 

伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。

 

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