不動産のリアルREALITY OF REAL ESTATE

  • 公開日:2018年9月19日

売りに出した自宅が「引き物」「当て物」扱いされていませんか?(2) 顧客の前では絶対に口にできない内覧ルートの秘密を宅建士が明かす

前回に引き続き、不動産業界で「引き物」や「当て物」などの隠語で存在する、物件内覧の裏側を解説します。

 

不動産販売

(写真はイメージです)

 

当て物扱いされていないかを見抜くには

 

では、案内ルートや物件選別の対象となっているかどうかを知り、そうなっていたのならどう対処すればよいのでしょうか。ここではその方法を買主と売主別に、それぞれ詳しく解説します。

 

買主の場合

 

繰り返しになりますが、ほとんどの業者は物件案内の際に、効率よく仕事をするために恣意的なルート設定を行います。したがって買主の場合は、ほぼ100%の確率で当て物や決め物を見せられていると考えて間違いありません。

 

しかし、いくら案内された決め物が素晴らしい優良物件に見え、価格的にも魅力であったとしても、案内のあとにすぐ購入を決めてしまってはいけません。冷静になって振り返ると物件の粗はいくらでも出てくるもので、その粗が自分の条件や予算と照らし合わせて納得できるものなのかどうか、冷静になって検討をしてからでも遅くないからです。

 

その検討は、営業マンと顔を合わせない場所で行いましょう。業者の事務所や送迎のクルマの中などではなく、自宅に持ち帰り、家族と話し合ってから返事をするのがベストです。それまでに物件をたくさん見てきて「これは掘り出し物」だと思える物件に出合ったとしても、その場で決めてしまうのは危険です。営業マンと相対していると、その熱量に押されて冷静に判断できなくなってしまうことがあります。

 

ただ、「少し考える時間をください」などというと、営業マンたちは「この物件は人気なので、早く決めないと売れてしまう」という常套句を返してくるものです。しかし、購入申込みが殺到するような掘り出し物は、基本的に買い取り専門業者が買ってしまっていて、市場には出回らないものです。すぐに決めないと他の人が買ってしまう、なんてケースはほとんどありません。営業マンの方便と考えてください。

 

基本的には最後に見せられる物件を決め物と考えてよいのですが、中には「インパクトのある物件は最初に見せる」営業マンもいます。要は数件の案内物件の中で一番よく見え、営業マンが推してくる物件が決め物です。

 

売主の場合

 

売主の場合は、まずはご自宅の相場価格をよく知ることです。周辺相場と自分の物件の価格差がある場合、説明を求めれば業者はきちんと説明してくれるので、納得がいくまで何度も聞いてみて下さい。

 

相場価格よりかなり安く、かつその価格に納得できる場合は、引き物として集客目的で使われる可能性があります。もちろん、目を引く物件なので買い手が現れる可能性もありますが、まず売れません。

 

引き物扱いをされていると気づいたら、1~2カ月くらい様子を見て、売れないようだったら買い取り業者への売却を検討してみて下さい。買い取り額は一般に仲介よりも下がった価格になりますが、それでも長く物件を売れないままにするよりは得策です。

 

ここで注意すべきことは、依頼している仲介業者に買い取ってもらったり、買い取り業者を紹介してもらったりしてはいけないということです。大事な自宅を引き物にして粗末に扱った業者をそもそも信用してはならないのは言うまでもありませんし、そのような業者は買い取り業者とグルになっている可能性が高いからです。

 

一方、当て物として扱われているのは、案内件数は多いのに一向に決まらないケースが当てはまります。販売がスタートした後にこうした傾向が続くようだったら、当て物にされている可能性を疑ってみましょう。決まらないどころか、価格交渉にすら入らない状況が続けば、基本的にその売却物件は当て物にされています。その場合は先手を打って、価格引き下げを申し出ましょう。

 

内覧者が決めてくれないのは「値段に見合わない物件」だと判断するからです。ここは我慢して「事態を好転させたい。プロの目から見てどうすればよいのか教えてほしい」と不動産会社に申し出てみましょう。

 

実際に市場に物件を出し、その反応が売れないという結果だったのですから、売主としても価格変更は受け入れたほうが得策です。価格を下げればその価格帯で探している別の需要層が対象となり、比例して購入希望者の条件も落ちることになるので、成約の確率は格段に上がることになります。

 

不動産営業マンの案内手法をちょっと疑ってみることから始めよう

 

以上が、不動産業界の物件案内に関する隠語「引き物」「当て物」「中物」「決め物」のありのままの実態です。売主であっても買主であっても、こうした扱いを受けたら、業者側にうまくコントロールされたまま、売買をする羽目に陥る可能性が高まります。そうならないためには営業マンの言動と、起こった事実をよく観察する必要があります。

 

買主なら案内された物件を案内後に振り返り、条件的に買って後悔しないか、予算内に収まったものなのかをじっくり検討するようにしましょう。売主なら業者から定期的に報告される広告の問い合わせ件数と内覧の案内件数を記録しておき、自分の物件が中古物件市場においてどんな立ち位置にいるのかを把握するよう努めてください。どちらも難しいことではありません。

 

続いて、知り得た事実を考慮に入れて、逆の立場になって購入や売却を検討してみて下さい。買主なら購入候補となった物件の売主となって、それまでに見た他の物件と見比べて売りやすい価格なのかを考えてみるのです。高すぎると思えたら購入対象外です。逆にその価格では惜しいと思えたら、比較的安めの、即売りたい掘り出し物価格だといえるでしょう。一番多いのがそのどちらでもないという結論ですが、その場合は「安すぎず高すぎず」ということですから、相場なりの価格設定だといえます。

 

一方、売主なら案内された買主になって、その価格で購入したいと思うかを検討してみて下さい。他のライバル物件の情報は、頼めば業者も教えてくれますし、ネット広告でもすぐに見つけられます。比較の結果、買ってもよいと思えたのなら、売れないのは価格以外の条件に問題があり、買わないのが結論だったら、価格設定に問題があると考えてよいでしょう。どちらの場合でも現実には売れておらず、それでも問い合わせや案内数が多いのであれば、その物件は当て物となっている可能性が高まります。そうなってしまったら、売主には悲劇しか待ち受けていないのは述べたとおりです。

 

結局、納得できる不動産売買を行うには、自分の身は自分で守るといった意思と行動が必要です。ぜひとも今回の記事を参考に、業者側に都合よい顧客とならないよう気をつけてください。

 

 

伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。

 

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