不動産の購入を不動産会社に依頼すると、売主に対して本体の代金を、不動産会社に対して仲介手数料をそれぞれ支払うことになります。仲介手数料は法律で上限の額が定められていますが、ほとんどの不動産業者は上限いっぱいの額がさも正規の額であるかのように請求しています。
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一方、仲介手数料を無料とする不動産会社が存在します。仲介手数料は仲介会社の収入源なのに、それを無料にするというのですから、怪しさとともに別の費用を請求されるのではないかと警戒感を抱く人が多いでしょう。
はたして「手数料無料」の不動産業者に売買を任せて安心なのでしょうか。仲介業界歴30年の筆者が、経験を基に詳しく解説します。
(写真はイメージです)
ほとんどの業者が上限を請求する「仲介手数料」の計算方法
そもそも仲介手数料というのは、どういった根拠で支払うものなのでしょうか。また、どうしてどの会社も、上限金額を請求してくるのでしょうか。そこから説明します。
(1)仲介手数料の計算方法
仲介手数料は宅地建物取引業法(宅建業法)にその根拠が定められています。媒介契約を交わした不動産業者が、物件の売買を成功させたときに、売主・買主が不動産会社に対して支払う報酬です。
不動産業者が売主から預かった物件を、自分で見つけた買主に紹介して売買を成立させた場合には、売主と買主の双方から受領できることになっています。
受領できる手数料の金額は、以下のように定められています。これに消費税が別途、加わります。
500万円の不動産の場合の計算方法は下図で説明しています。
A万円の場合で計算してみると、仲介手数料の上限額は、
{(200万円×5%)+(200万円×4%)+((A-400)万円×3%)}+消費税
={(10万円)+(8万円)+(A万円×3%)-(12万円)}+消費税
={(A万円×3%)+18万円-12万円}+消費税
={(A万円×3%)+6万円}+消費税
このように、現在の不動産相場では400万円を超える売買となることが多くなるため、「3%+6万円+消費税」で手数料額が計算できるのです。
(2)手数料が上限請求されるわけ
仲介手数料の額はあくまでも法律で定められた上限額です。ということは、0円~上限額の範囲で自由に決めることができるということです。ところが、多くの不動産業者は当たり前のように上限額の支払いを求め、本当は不動産会社の考え方ひとつで減額できる事実を伝えようともしません。
その理由は、ズバリ、客に対してあえて言う必要がないためです。「媒介契約書」に仲介手数料のことについて記載はしていますので、ほとんどの業者はその契約書を交わすことで顧客への説明をしたとみなしています。このため、請求時には改めて説明をしないのです。
買主や売主から減額の申し出がない限り、業者は手数料を割り引くことはありません。つまり、顧客に知識がないのをよいことに、都合よく手数料を領収しているというわけです。難しい理由があるわけではなく、ただそれだけのことなんです。
仲介手数料を半額・無料とする不動産会社は魔法を使っているのではない
しかし、そんな不動産業界でも仲介手数料を半額、もしくは無料とする業者があります。約3%とはいえ、5,000万円の物件なら156万円、4,000万円で126万円、3,000万円でも96万円(税別)と高額になり、仲介手数料はかなりの費用負担となります。それが無料となれば、喜ばない人はいないでしょう。
一方で「タダより高い買い物はない」という言葉もあります。そのような会社に売買を任せて安心なのでしょうか。「手を抜かれたりいい加減な契約書を交わされたりするようなら、手数料をきちんと支払って、安心できる業者に任せたほうがよい」と考える人もいるかもしれません。しかし、必ずしもそういうわけではないことをこれから述べていきます。
(1)手数料無料は顧客第一主義の証
結論からいうと、手抜き仕事をされるのではないかという心配は無用です。それどころか、このような制度を掲げる業者は「顧客第一主義」だといえます。それは、顧客のメリットに最大限の重きをおき、かつ自社の利益も損なわない事業スタイルを確立したからこそ、このように大胆に見えることを掲げることができるためです。
不動産会社の収入源である仲介手数料を無料にするとは、そこに頼らなくてもビジネスが成立するだけの収入源を別に確保しているからです。さらに、本来のサービス内容に支障をきたすことなく無駄な経費を徹底的にカットするなど、さまざまな努力をしているためです。このような企業努力のことを「顧客第一主義」と私は考えます。
そもそも、手抜き仕事をしたり、客を裏切って別に不当請求をしたりするような会社では、商売自体が長続きしません。
(2)手数料の無料・半額はどうやって実現するのか
手数料が無料の場合
仲介手数料は売主と買主の双方に3%+6万円に相当する額を請求できます。つまり、売主から預かった物件を自分で見つけた買主に売却できれば、手数料は倍額の6%+12万円。不動産業界用語でいう「両手仲介」となるのです。
多くの業者が少ない手間で大金を稼げる「両手仲介」を狙っています。しかし、手数料半額、もしくは無料とする業者は、この両手仲介によって「濡れ手で粟」とすることを考えていません。客である売主・買主のどちらか一方の代理となることをモットーにしています。
ただ、形式的に両手仲介になってしまうことがあります。
たとえば新築マンションを買いたいというサラリーマン客を仲介した場合、相手方の売主はディベロッパー(開発業者)になります。他の多くの業者はここで、サラリーマン客からもディベロッパーからも仲介手数料を受け取ります。しかし、ここで「仲介手数料は売主側からもらう分だけで十分」と考える業者だと、サラリーマン客は仲介手数料を取られなくてすみます。すなわち「仲介手数料無料」が実現します。
つまり、「仲介手数料無料」とうたっていても、それは不動産会社がメインターゲットにしているお客さん(この場合はサラリーマン客、いわゆるエンドユーザー)が対象であって、裏では業者から規定の仲介手数料をしっかり受け取っているのです。でも、そんなことはそれこそお客さんには関係のないことですので、わざわざ公言していないだけです。決して、あくどい商売をしているわけではないのです。
手数料が半額の場合
また、仲介手数料を「半額」とする業者もあります。それは、その業者が内規で「エンドユーザーから仲介手数料をいただくときは、その額は上限価格の半額とする」と決めているのです。中古物件を仲介するケースで「両手仲介」をしないとなると、売主か買主の一方だけの代理となるわけですから、仲介手数料を無料にしてしまうと、完全にタダ働きになってしまいます。さすがにそれでは会社が成り立たないので、「半額だけいただく」ということにしているのでしょう。
なぜ半額でも会社が成り立つのかというと、彼らは手数料収入を上限価格の半額にしても利益が出るくらい、経営を合理化しているのです。ただ、いわゆる「薄利多売」になってしまい、営業マンはけっこう忙しいのではないかと思われますが。
そうはいっても、そのように経営を合理化している業者のことですから、営業マンにも無駄な働き方をさせない仕組みはすでに導入していることでしょう。ノルマに追われ、残業が多く、会社への定着率が低いとされている不動産業界にあって、社員が働きやすい会社であることは予想できます。
以上、仲介手数料を無料・半額にできる仕組みがお分かりいただけたでしょうか。決して魔法を使ったり、裏工作をしたりしているわけではなく、「顧客第一主義」を目指すための工夫をこらしていることをご理解いただけたと思います。
両手仲介にこだわる不動産業界の悪癖
ということは、「仲介手数料を半額・無料」とうたうことなく、従来のとおり上限価格ギリギリの額を請求してくる業者ほど、「顧客題意主義ではない」ということが推論できることになります。
実際、多くの不動産業者は、顧客のメリットより自社利益を優先しています。それは、売主と買主の両方から手数料を受領する「両手仲介」に固執していることからも明らかです。両手仲介は一度の売買で倍額の収入となるのですから、ビジネスとしては当然なのかもしれません。しかし、両手仲介を成立させるためには、業界内で「囲い込み」と呼ばれる売主に迷惑をかける行為をせざるをえないことが多いのです。
売主から売却依頼を受けた業者は、その物件の買主を自社で見つければ両手仲介が可能となります。しかし、別の不動産会社を通じて購入希望者が現れたら両手仲介はできなくなります。そこで、自社で客付けできるまではあの手この手を使って預かった物件を公開しなくなってしまうのです。
これが「囲い込み」や「干し」と呼ばれる業界の悪癖です。両手仲介という業者にとっての大きなメリットを、販売機会を失うことになる売主のデメリットに優先させていることがよく分かるでしょう。
こうした業者がいるせいで、マンションを買いたいエンドユーザーにも迷惑がかかります。物件の存在を市場から隠蔽するわけですから、よい物件を購入できる可能性が少なくなってしまうのです。
結論、「仲介手数料無料」の業者は怪しくないですよ
以上、見てきましたように、「仲介手数料無料」をうたう不動産業者は決して怪しいわけではありません。エンドユーザーから手数料を取らないだけで、売主業者から手数料を受領することで成り立つ、れっきとしたビジネスモデルです。
そしてもちろん、売主の仲介手数料が無料となるケースもあります。この場合でも売主のメリットが損なわれることはありません。この仕組みについては次回の記事で詳しく述べます。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。