東京オリンピック・パラリンピックの開催まで2年を切った。開催が決定してからというもの、東京を中心に不動産価格は十分過ぎるほどに上がった感があるものの、その流れはまだ続いている。
米不動産サービスのジョーンズ ラング ラサール社(JLL)の発表によると、2018年1~3月期の第1四半期に東京に流入した資金量は世界の都市の中で最も多かった。日本は、低金利が続くことからインカムゲイン(賃料収入)を重視する投資家にとって魅力的なマーケット環境が続くとして、引き続き日本の不動産投資市場は拡大すると予測する。2018年通年の想定として、前年比5~10%増加で4.3兆~4.5兆円の投資額を見込んでいる。

(写真はイメージです)
日本の不動産、爆売れ中
これにより、オフィスビルの大型売買案件がけん引されている。芝パークビルや、かんぽ生命保険旧東京サービスセンター、新日石ビルヂングなどは500億~1,500億円で取引されたと報道されている。ファンドや事業会社など機関投資家の投資意欲がおう盛なのだ。たとえば、芝パークビルは、アジア系SPCが関電不動産開発などのSPCに売却し、かんぽ生命の案件は、三井不動産レジデンシャルがかんぽ生命から買い付けた。新日石ビルヂングは、日本生命がJTGホールディングスから購入した。
現状の不動産マーケットから考えると、キャップレート(利回り)はかなり低い水準だと推測できるが、日銀の金融政策によって限りなくゼロに近い水準に押さえ込まれている金利が不動産投資を後押している。外国人ほど対日不動産投資に強気の姿勢である。
これは機関投資家だけでなく、海外の個人富裕層も同じだ。低金利に加えて、円安など為替動向も参入意欲を左右する。円安になるほど割安感が増すという点では、日本人では味わえない為替特需を享受できるからだ。たとえば、東京オリンピックの開催が決まった直後あたりに東京都区部のマンションを購入した外国人は、その後の地価上昇と円安基調の恩恵を受けて購入時の価格よりも3~4割高い値段で売却したのと同じ効果を得た投資家が少なくない。
東京オリンピック開催決定が決まって以降、日本で存在感を高めた台湾人投資家も再び日本買いをうかがっており、特に億ションを物色する傾向にある。
この台湾人の動向について、週刊住宅タイムズ副編集長の中野淳氏は、「台湾人の対日不動産投資の見方として、東京都心の不動産売買には過熱感があるため、一度どこかでピークアウトして調整局面を迎えるものの、訪日客の増加を後押しする政府政策を横目に資産性と需給バランスを保ちながら適性に推移すると見ているようだ。彼らは、東京オリンピック後に不動産投資マーケットが崩れるとは思っていない」と話す。
価格高騰中も取引は活発
国内のサラリーマン投資家も、終身雇用制度が崩壊し、将来の年金も当てにならないと不動産投資に参入する。ある女性投資家は、最近の不動産市場について「物件価格の高い今は投資のタイミングではないとの声が多い。しかし、不動産投資への参入は、時期にあまりこだわる必要はない。なぜなら、不動産マーケットはマクロ的に見るのではなく、その地域や個別物件というミクロの観点から判断するものだからだ。世の中に同じ人がいないように、不動産も同じモノはない。個々の物件の魅力と買い時の視点は違う。『その価格で買ってもいいよ』と思う人と『その価格で売ってもいいよ』と思う人が出会えば取引は成立する」と説明する。
不動産のインフレ事例は、前述したオフィスなどの商業用不動産のほかにも事欠かない。実需マーケットも同じように資産インフレを起こしており、東京都心から都区部、周辺の神奈川・埼玉・千葉へと「の」の字を描きながら地価が上昇し、足もとでは新築だけでなく、中古マンションの価格まで高騰している。東日本不動産流通機構(レインズ)によると、7月の首都圏の7月の中古マンション平均価格は67カ月連続で上昇し、3,362万円だった。
昨年12月に目黒駅近くに竣工したタワーマンションは、分譲の半分以上が億ションでありながら即日完売して話題をさらった。もともと実需というより、投資的側面の強い物件で、同物件で貸し出されている足元の賃料水準は1坪あたり2万円台が続出している。専有面積70㎡の住戸だと月額約42万円の家賃となる。
都営地下鉄新宿線の菊川駅から徒歩2分に位置する築22年の中古マンション。専有面積55㎡をリノベーションして4,180万円で売り出し中だ。住宅地として人気の城南・城西にとどまらず、江東区や墨田区、江戸川区といった城東エリアの中古物件まで価格上昇が波及しており、江東区住吉の理髪店の店主は、「この当たりのマンション価格は、10年前に比べて1,000万円ほど売り値がつり上がったところが少なくない」と価格の値上がりを実感する。
実際、そうした地元住民の実感を裏付ける調査も8月14日に発表されている。不動産情報サービスのマーキュリー(東京都新宿区)が過去10年間のマンション価格の中央値を調べたところ、東京23区は、2009年の4,790万円から2018年には6,489万円と1,699万円(約35%)上昇していることがわかった。
特筆すべきところは2012年から2015年にかけてである。2012年は、2011年に発生した東日本大震災による消費マインド低迷の影響を引きずり、4000万円台後半(4870万円)が中央値だったが、2013年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定を契機に2015年に6,000万円の大台を超え(6,148万円)、それ以降は高止まりが続いている。
不動産価格上昇傾向に消費増税の影響なさそう
当面は、不動産価格が下落することはなさそうだ。2019年10月には消費税率の引き上げも予定されている。本来、中古物件に消費税はかからないものだが、新築物件の売り出し価格に引っ張られるのが中古物件の特徴であるため、仮に消費税率引き上げ後に新築価格がもう一段上値を追う展開となれば、中古価格も上昇する可能性は否定できない。
アットホームによる「地場の不動産仲介業における景況感調査(2018 年4~6 月期)」でも見方が一致している。「東京都心部では高止まり傾向が強い中、まだ値下がる傾向にはなっていない。年内まではこのような傾向が続くと思われる」(東京都品川区)や「売却の依頼が増えたが、価格が高すぎて、購入希望者との差が広がった」(東京都豊島区)といった地場仲介会社の声を拾い上げている。
ただ、そうは言っても、住まいの購入を検討する一般消費者にとって、マンションを買う・買わない、というのは、市況だけで判断するものでもない。結婚や子供の誕生、転勤といったライフステージの変化に沿いながら、住まい探しの当人が買い時だと思ったら、たとえ世間が今は買い時ではないと言ったところで、そこが買い時ということになる。
前述した女性投資家が指摘したように不動産に同じ物件は2つない。個々の物件によって魅力は異なり、買い時の視点もタイミングも違う、という観点から住まい探しに臨むべきであろう。その女性投資家はこうも指摘する。「どこかのシンクタンクや、なんとか研究所が不動産マーケットのマクロ指標についてさまざまな講釈を述べるものの、ほとんど役には立たない。参考程度にとどめて、自分か手に入れたいと思う物件があったら自ら現地に足を運んで実感することが重要」だと。こうした投資家の目線は、実需向けでも同じである。
また、前出のアットホームの景況感調査では、住宅ローンについても聞いているが、多くのエリアで前年並みだった。「今までだとなかなか融資が下りなかった人も下りやすくなったり、条件も少なくなったり、金利もかなり優遇されるようになった」との声のほか、歴史的な低金利を受けて「消費者の属性だけをみて融資を受けられているイメージ」や「低所得でも融資可能な金融機関が増えたように思われる」、「年々審査が緩くなっているような印象をうけるが、毎年のことなので変わらない印象を受ける」といったコメントが相次ぐなど、住宅ローン融資に関しては金融緩和の影響(追い風)が続いている。
実需向けは、アパートローンの貸出態度のように「融資審査が厳しくなった印象がある」や「サラリーマン大家への融資の引き締めが強い」などの反応を見受けなかったことは意外な印象を受けるが、それだけ貸出先に窮している金融機関の姿も浮かび上がってくる。
いずれにしろ、消費者にとっては、価格の高止まりと金融機関の貸し出し姿勢、そして将来に対するリスクを想定しながら住宅を購入しなければならない環境にあるようだ。
(不動産のリアル編集部)