7月14日(土)、フジテレビ系で『若林&指原のいま部屋探してます』という、部屋探しをする人に密着取材をする番組が放映されました。オードリーの若林正恭とHKT48の指原莉乃をメインの司会に据え、「部屋を見れば人生が見える」をコンセプトに、一般人の部屋探しを密着取材するという人気の深夜番組ですが、今回は人気の芸能人にも密着した内容で、ゴールデンタイムに進出しました。
今回、密着したのは京都で部屋探しをする2人の女性、都内で新居を探すANZEN漫才のあらぽん夫婦、贅沢な一人暮らし用の豪邸を探す元宝塚の紫吹淳、新宿で3万円の予算で部屋探しをする芸人志望の女性、61歳元公務員。部屋探しを通じて、引っ越しの動機、予算や希望の間取り、決め手となるポイントや妥協可能なポイントなどが明らかになっていく様子は、まさにその人の価値観や人生を明らかにすることと同義だなあと、不動産営業に携わるものとして興味深く視聴しました。
さて、今回の番組で部屋を探している皆さんは、いずれも賃貸物件を探していました。しかし、筆者は、どちらかというと売買がメインの不動産屋です。人によっては「それだけ高い家賃の賃貸に住めるんだったらマンションを買った方がいいのでは?」と何度も感じました。では、そう感じた理由を、あらぽんさんの部屋探しを例に説明してみます。

(写真はイメージです)
家賃20万円なら都心のタワーマンションに住めるが…
あらぽんさんは、みやぞんさんとANZEN漫才というコンビを組む芸人さんです。人気が急上昇中で、テレビなどの仕事も増えたため、交通の便のよい品川付近に新居を探していました。
当初の希望条件は以下の通りでした。
・予算:12万~15万円
・間取:2LDK
・ペット可、オートロック、中型バイク置場
都心に引っ越せば、テレビ局など都心にある職場への往復のためにかかっているタクシー代月12万円が浮くことを考慮し、最終的には予算を以下のように増やし、タワーマンションへの入居を決めました。
・家賃:19.7万円
・JR山手線「田町」駅徒歩13分
・築8年 15階
・2SLDK 55.59㎡
内覧8件、1カ月半の期間をかけた結果、選んだ部屋です。「この部屋に住み続けることができるように仕事を頑張る」と満足そうに語るあらぽんさんの笑顔が印象的でした。お客様に満足していただける部屋をご紹介できたのならば、不動産業者としても冥利に尽きる、というものです。
しかし、家賃が約20万円というのは、さすが都内一等地の「田町」駅近ですね。でも私からしたら「それだけの家賃を払い続けるなら、立派なマンション買えちゃわない?」と思うわけです。ちょっと検証してみましょう。
毎月20万円の返済で借りられる住宅ローン総額はどのくらい?
現在、ネット上には各金融機関の住宅ローンの金利比較サイトが数多く存在しています。どれでも金利情報には差はないのですが、参考までに一例としてリンクを添付します。
https://pr.eloan.co.jp/perfectguide/home9.php?from=yho_01t_home_new_089457_e
ネット銀行系の方が、都市銀行系よりも金利が安い傾向にあるのが分かりますね。現在の金利は歴史的にも最安値圏にあり、借入期間などにもよりますが、おおむね変動金利で0.5%前後、固定金利で1%前後です。
あらぽんさんが支払う家賃を返済にあてるとしたら、どのくらいの住宅ローンを借りることができるのでしょうか? 中古住宅の住宅ローンで気をつけなければいけないことのひとつに、返済期間があります。通常の住宅ローンの返済期間は最長の「35年」と設定する金融機関が多いのですが、中古マンションへの融資の場合、条件によっては耐用年数の残年数までしか返済期間を認めない場合があります。実際にあらぽんさんが借りたマンション(鉄筋コンクリート造)は築8年の中古マンションでした。鉄筋コンクリートの耐用年数は47年なので、いずれにしても35年の返済期間で考えることが可能ですね。
下記の表が、月に20万円の返済で借りられる金額の試算が添付の表です。利率は固定金利ベースで1%、ボーナス払いなし、最長35年の設定です。あくまで返済額からのみ逆算した金額で、物件評価や借主の与信などは考慮していません。現在の安い金利だと、なんと7,000万円も借りられるのです。

7,000万円で買える中古マンションってけっこうスゴい
では、7,000万円の予算ではどんな条件の物件が購入できるのでしょうか?
実際に、不動産業者専用の物件登録・情報システム「東日本レインズ」で中古マンションを検索してみました。検索日は2018年7月27日です。
検索条件は以下の通りです。
・対象:中古マンション
・価格:7,500万円以下
・最寄り駅:品川~浜松町 徒歩15分
・間取り:2LDK~2SLDK
5件ほどヒットしました。そのうちおススメの2件をご紹介しましょう。


なかなか、よい物件だとは思いませんか? 港区から品川区にずれてはしまい、タワーマンションでもありませんが、いわゆる「港区女子」にこだわらないなら問題ありません。あらぽんさんが実際に賃借した物件と、条件面では全くそん色がない物件も購入の対象となるのです。
もちろん、賃貸と購入ではプラス面、マイナス面がそれぞれあります。購入の場合は諸経費もかかりますし、ローンの頭金が必要となる場合も多いです。ライフステージに合わせて慎重に検討する必要があるでしょう。
しかし、筆者としては、同じ金額を支払うなら賃貸よりも購入をお勧めします。それは、この後に説明する「高齢者は賃貸入居が難しい問題」が深刻だからです。
定年で官舎を退去した元公務員にはあまりに厳しい現実
番組で紹介していた61歳の元公務員の方。42年間公務員ということですから、高校を卒業してからずっと公務員として職務を全うされてきたのでしょう。それまでは公務員宿舎にお住まいだったということで、退職とともに退去しなくてはならないために部屋探しの必要に迫られた、というのです。公務員は退職金も数千万円はありますし、家賃の安い公務員宿舎で生活してきたなら貯蓄も十分にもっていると推察されます。
ところが、この方は門前払いを食らいまくります。理由はひとつ、61歳だから。本人の健康や資産状況に問題はなく、親族が近所に住んでいて連絡が取れたとしても、老齢を理由に断られるのです。このあまりに残酷な現実にショックを受けた方も多いのではないでしょうか?
実際に、支払いの不安や、孤独死など健康上の問題による事故物件化への懸念を理由に、高齢者の入居を断る大家さんや管理会社は増えています。これは、高齢者になると住むところがなくなるというリスクというか、もはや社会問題になりかねません。この元公務員の方のようにお金があれば解決できるという問題ではなくなりつつあるのです。
一昔前であれば、退職まで住める公務員宿舎や社宅があるということは、金銭的にもメリットが多いので歓迎すべきことであったといえるでしょう。しかし、現代では、終の棲家を得るチャンスを失い、退職後の住まいに困るという、とても大きなリスク要因といえるのかもしれません。
ここから考えても、金利というコストが絶対的に安い今は、部屋を探すならば、賃貸だけではなく、購入についても真剣に考えることをおすすめするのです。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。