初めての不動産売買では、「とりあえず業者に相談して、媒介契約後は丸投げ」というパターンが多いようです。しかし、不動産売買は高価な取引です。当事者自身も最低限の内容は知っておかないと後で悔やむことになりかねません。その一つが、売買契約の時に行われる「重要事項説明」です。
重要事項説明は、不動産の買主や借主に対して、「宅地建物取引士」という有資格者が物件の重要な内容について説明することと、宅地建物取引業法(宅建業法)で規定されています。
重要事項説明は、買主や借主が取引物件について知る大切な機会です。うっかり聞き逃すと、購入後の利用や売却に思わぬ不利益を受けることがあります。また取引条件についても確認しておかないと、不要なトラブルにつながるリスクもあります。そこで今回は、重要事項説明を受けるに当たって気をつけたいポイントをご紹介します。

(写真はイメージです)
戸建住宅の売買の場合
戸建住宅の売買契約では、その重要事項説明はさほど難しいものではありません。主要な内容を具体的にご説明しましょう。
「抵当権」の抹消についての確認を
購入予定の戸建に「抵当権」が設定されていたら、それがいつ抹消されるのかを確認する必要があります。抵当権とは、銀行などがお金を貸す場合に、万一回収できない時に備えて借入をした人の不動産に設定する担保権のことです。
例えば買主Aが売主Bから中古住宅を購入する場合、Bの住宅ローンがまだ残っていれば、ローン完済まではこの中古住宅に抵当権が登記されています。売却までに完済して抵当権が抹消されれば問題ありませんが、売却代金でローン残債を完済するケースが多いため、重要事項説明の時点ではまだ抵当権が残っている場合があるのです。
抵当権が抹消されないままだと、買主が購入した不動産を競売にかけられるかもしれません。実際には、抹消についての処理も確定している場合がほとんどですが、念のため、重要事項説明で抹消する日を確認しておきましょう。
なお実際の契約時には、代金の支払い・残債の処理・抵当権の抹消・所有権移転の登記が、一連の流れで進みます。不安を感じるのであれば、事前に仲介業者を通して銀行に抹消が可能かどうかを問い合わせてもらえば安心できますね。
法令にもとづく制限がないか?
また、「現在は家が建っているが、法律の制約により、建て替えることができない」というケースがあります。つまり新築時には適法であったのに、その後法改正があり、現行法では違法になる、というものです。これを「既存不適格建築物」と言います。
さまざまなケースがありますが、多いのは前面道路の問題です。現在の建築基準法では原則として、幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していない敷地には家を建ててはならないとされています。この制約のなかった頃に建てられた家は、現時点ではこれに該当している可能性があるのです。
どうしても建てたいのであれば敷地を後退させるしかありません。つまり、前面道路の中心から2メートル後退したところを道路と敷地の境界線とするのです(セットバック)。これにより敷地が狭くなるため、建て替えるとしても、現在の家よりも小さくなる場合があります。
もし買主が建て替えを考えていて、重要事項説明が不十分でこうした問題を知らずに購入すると、後で大変なことになります。それに再建築のできない物件を欲しがる人は限られますので、購入しても将来の売却には支障をきたすかもしれません。
マンションの売買の場合
マンションは、複数人が共同で暮らす集合住宅であることから、「規約」によりさまざまなルールを定めています。そのマンションならではの重要事項説明におけるポイントを十分確認しておく必要があるでしょう。
専有部分の用途や利用の制限は?
マンションの住居部分を「専有部分」といい、各住人が基本的に自由に使えるスペースです。しかしマンションによっては、専有部分についても共同生活を営む上でのさまざまな制限が設けられています。たとえば「商売に利用できない」「ペットを飼うのは禁止」「ピアノの演奏は禁止」などです。
こうした制限を重要事項説明できちんと確認せず購入したが故に、後日トラブルに発展することは少なくありません。「何とかなるだろう」と安易に考える人が意外に多いのです。
修繕積立金や管理費の額は?
中古マンションを買う際には、修繕積立金の積立額にもご注意ください。積立額が少ない場合、滞納があるかもしれません。定期的な修繕などに支障が出れば、資産価値が低下するリスクも高いといえます。
さらに、大規模修繕の必要があるにもかかわらず修繕積立金の額が足りないと、毎月の積立金以外に「修繕積立一時金」として臨時に徴収されることもあります。思わぬ出費になりますね。
取引条件についての重要事項
重要事項説明では、物件そのものだけではなく、取引条件についても説明されます。押さえておくべき事項をご紹介します。
どういう場合に契約が解除できるか?
原則として、売買契約を結んでハンコを押せば、後で気が変わっても契約の解除はできません。しかし、法律により解除が認められている場合や、契約で解除について定められている場合があります。確認しておく必要があるでしょう。
法律で認められているケースとしては、買主が手付金を放棄して解除できる場合や、契約の相手方に契約違反があった場合などです。また契約に関しては、住宅ローンが不成立となった時に解除できると定めることが少なくありません。
したがって、どうしても気に入らない契約であれば、手付金を放棄しての解除も可能です。また「もしもローンが成立しなければどうしよう?」とビクビクしながら契約に臨む必要もありません。
ローン特約の条件は?
ローン特約を結ぶと、ローンが実行されない場合に違約金などの負担をせずに売買契約を解除できます。ただし売買契約を解除されるための条件は、具体的に確認しておきましょう。特にローンを予定していた全額が実行されなかった場合がポイントです。
単に「融資が実行されないこと」を解除条件としている場合、売主は「一部でもローンが実行されたのだから」と購入を求めてくるケースがあります。トラブルを避けるためにも、融資額の一部が実行されない場合に契約解除できるのかどうかをよく確認しておきましょう。
瑕疵担保責任の保証・保険契約を結んでいるか?
不動産の購入後、買主が雨漏りやシロアリの被害などの不具合を発見することがあります。この不具合を「瑕疵(かし)」といい、買主に対する売主の責任が「瑕疵担保責任」です。重要事項説明では、瑕疵担保責任について売主が、銀行との保証契約や保険会社との保険契約を結んでいるかどうかが説明されます。
また売主が個人の場合、売買契約書に瑕疵担保責任の免責特約が結ばれるケースが少なくありません。「売却後に買主が瑕疵を発見しても、売主は責任を負わない」という特約です。
もし売主が瑕疵の存在を知っていた場合には、免責特約を結んでいても免責されません。ただし瑕疵を売主が知っていたことを「買主が」証明する必要があり、裁判になったとしても一般的に免責の無効を主張することは難しいようです。
売却・購入の相手先が業者だった場合
一般の人にはあまり関係ないのですが、法改正により、買主が業者の場合には、従来の重要事項説明を行う必要がなくなり、「重要事項説明書」を交付するだけで良くなりました。
これとは逆に、売主が業者(買主は一般の人)の場合は注意が必要です。額が法で定められた仲介手数料とは異なり、売却益は業者のやり方次第で不当に高くすることもできるからです。そこで、業者が無茶をしないように宅建業法で8種類の規制を設けられています。
ご参考までに概要を記載しておきます。
規制 |
概要 |
クーリング・オフ |
業者の事務所以外で購入の申込をした場合などは、一定の要件のもと契約を取り消すことができます。 |
他人物売買の禁止 |
本来、法律では他人の不動産でも売ることができるのですが、トラブルを避けるために禁止されています。 |
瑕疵担保責任の特約の制限 |
瑕疵担保責任について買主に不利になる特約を禁止しています。 |
損害賠償額の予定等の制限 |
損害賠償額の上限について制限を設けています。 |
手付額の制限等 |
手付放棄による解約を認め、手付額の上限も定めています。 |
手付金等の保全措置 |
業者が倒産した場合でも買主が支払っている手付金や中間金が返還されるシステムを定めています。 |
割賦販売契約の解除等の制限 |
分割払いの場合に、買主が賦払い金を滞納しても一定の期間は契約を解除できないとしています。 |
所有権留保等の禁止 |
分割払いの際に所有権登記を移転しない期間を制限しています。 |
まとめ
不動産売買における重要事項説明について詳しく解説してきました。
最近は購入者の意識も高まってきているようで、業者に対して事前に重要事項説明書のコピーを請求し、その確認後に説明を受けるという人も増えてきています。先に内容をチェックしておき、分からないところを説明時に確認しながら進めるという方法です。賢明な重要事項説明の受け方といえますね。
今中克己(宅地建物取引士)
約20年にわたりビジネススクールで宅建士・社労士など資格試験の講師を務める。宅建士以外の所有資格は、社労士、測量士捕、マンション管理業務主任者等。
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