マンション売却という経験は、長い人生の中で1度あるかどうかのことで、経験者でも数回程度ではないでしょうか。スーパーやデパートなどで「購入」という経験なら多くの方が毎日のようにしていますが、「売却」の経験は、マンションに限らず、多くないと思います。
売買金額が数千万単位にも及ぶマンションは、売却のポイントやテクニックを知っておくことで、手にする金額も大きく違ってきます。今回は、皆様がマンション売却を行う時にぜひ参考にしていただきたい内容をまとめました。

(写真はイメージです)
近隣の相場をしっかりと把握
マンションの売主は、「できるだけ高い金額で売却したい」と当然考えます。この気持ちに付け込み、不動産会社の中には、近隣の相場よりもかなり高い査定金額を提示してくることがあります。不動産会社にすれば、まずは売主に、売却活動の依頼(媒介契約)先として自社を選んでもらわなければ始まらないからです。
自分のマンションを高く評価してもらえば売主は大変うれしくなりますが、実際に購入するのは、その不動産会社ではなく別の買主です。買主側は逆に「できるだけ安く購入したい」という気持ちを抱くのが必然。売主と買主、双方の気持ちの折り合ったところが成約であり、その成約事例の積み重ねが「相場」を作っています。
なにしろ数千万円の高額な買い物です。購入検討者側も様々な物件を見て慎重に相場を調べています。もちろん、世の中に同じマンション・部屋は1つしかなく、成約事例も各々事情が異なります。それでも、近隣の相場を考慮しない価格で売却を始めていては、早期の成約は難しいでしょう。
所有マンションの適正な査定金額を知るには、複数社に査定してもらい比較検討をすることをお勧めします。いくつもの不動産会社に声をかけるのが手間であれば、インターネットでの一括査定が有効です。サイトからマンションの概要を送信すると、登録された複数の不動産会社にその情報が送られ、手間なく複数社からの査定金額を入手できます。
ただし、こうした一括査定は物件概要を基にした簡易査定であり、室内の状況や売却事情などは考慮されません。
また、一括査定は、登録している不動産会社からすると「集客ツール」であるため、売却の契約を取りたいがために、相場よりも高めの金額で査定する業者が出てくることがあります。それを見て、「えっ、こんなに高く売れるならば、この不動産に依頼しようか」と思う方もいるかもしれませんが、一括査定の依頼先から送られてきた査定額で売却ができるというわけではないので、あくまでも参考程度にとどめましょう。他社よりも高い売却価格の提示を受けた場合は、その根拠を確認する必要があるでしょう。
いずれにしても、いくつかの不動産会社の査定で得られた査定金額を参考に、最終的には信頼できる不動産会社にマンションを見てもらい、適正な売出価格について相談しましょう。
不動産業者の販売資料などを確認
近隣相場の把握、適正な査定金額の確認などを終え、信頼できる不動産会社に売却活動を依頼したら、必ず販売用の資料を見せてもらいましょう。確認すべき資料は主に「ウェブ広告用の物件情報」と「販売図面」の2点です。
昨今は、マンション購入検討者の多くは、インターネットで物件探しを始めます。そして気になる物件が見つかれば、問い合わせや直接訪問など次のステップへ進みます。ネット上で皆様のマンションがどのように掲載されているかというのは、問い合わせの件数に直結しますので、しっかりと確認しましょう。
まず、雨天や曇天で撮影した外観写真ではマンションの見栄えが良くありません。大規模マンションではゲストルームやキッズルームなどの共用施設もアピールしましょう。高層階のお部屋なら眺望の写真も有効です。不動産会社もアピールポイントを掲載してくれますが、実際に住んでいる本人の目線で、アピールポイントは十分であるか確認しましょう。
もう1つの販売図面は、売却依頼を受けた不動産会社が購入検討者に渡すことを目的とした物件概要です。駅前の不動産会社の事務所の窓などによく掲載されているアレです。
購入検討者にとって、お目当ての物件に関しては既にネットなどの物件情報をある程度把握していますので、その販売図面の良し悪しが、購入検討の意欲に大きくは影響することは少ないかもしれません。
しかし実際は、他にも複数物件の紹介を受け、比較検討するのが普通です。不動産会社も、購入検討者の要望の整理や順位付けのため、複数の物件を見せることが一般的です。この比較検討の中で紹介される物件については事前に情報収集はできておらず、販売図面の良し悪しが、検討対象の1つとなるかを左右します。
また、販売図面は、売却活動を依頼した不動産会社を通じて他の不動産会社の手にも渡り、そちらでは販売図面が物件紹介資料になります。
不動産会社も、インターネット情報や販売図面の重要性は把握していると思いますが、実際に居住している売主しか気付かないセールスポイントもあるかもしれません。不動産会社としっかり相談して、興味が沸く情報が掲載されるよう努力することが、高く、早く売却するテクニックの1つです。
見学を受けるときの工夫
皆様のマンション物件に興味を抱いた購入検討者は、マンションの見学に訪れます。ここでのポイントは「きれいに見せる」「付かず離れず」「ちょっとしたひと手間」の3点です。
きれいに見せる
当然のことと思われるかもしれませんが、購入検討者は、それまで写真や平面の販売図面だけで見ていたものを初めて実物で見るため、第一印象はとても重要です。
荷物はきれいに整理し、できるだけ広くすっきり見えるように心掛けましょう。また、一般的に玄関周辺は日光が入らず、リビングなどに比べると暗くなりがちです。できれば室内の全ての照明は電気をつけておきましょう。繰り返しますが、見学者の最初の印象が重要なのです。
付かず離れず
購入検討者にセールスポイントをしっかりアピールしたい気持ちから、売主が一方的に説明を続けてしまうと、かえって悪い印象を与えてしまいます。見学は自分のペースで行いたいもの。セールスポイントの説明などは不動産会社に任せ、何かしら質問が来たときに答える程度が良い距離感といえるでしょう。
ちょっとしたひと手間
購入検討者は、家だけでなく、売主も見ています。見学の時に「気が利く売主だ」という良い印象を与えられれば、マンションの好印象にもつながります。購入検討者の立場に立って、どのような気配りができるのか考えてみましょう。
例えば、真夏の見学時には室内をエアコンで適度に冷やしておいたり、麦茶などの飲み物を出したりするのも良いでしょう。ただ飲み物を出して椅子に座るのを強要すると悪印象なので、小さめのコップで少し飲む程度で。スリッパや靴ベラの用意なども抜かりなく、「来客」という想定で接しましょう。
値下げ、減額交渉
万全を尽くして販売活動を始めても、なかなか買主が見つからないこともあります。これを同じ状況で継続していても、物件情報に飽きられてしまい、検討する人は減ってきます。売却活動を始めて1ヶ月程度過ぎても良い反応が得られない場合は、販売価格の値下げを検討したほうが良いでしょう。
不動産会社に売却の依頼を行うと、数日~1週間でその会社のウェブサイトに物件情報が掲載されます。また、他の不動産会社と売却物件の情報を共有する「レインズ」というシステムにも情報が掲載されます。(掲載までの期間は専任媒介で7日、専属専任媒介で5日)
新聞などの折込広告にも2週間もあれば掲載されます。このため、売却活動の開始から売却情報が伝達するスピードを考えると、2週間程度で既存の購入検討者には伝わると考えられます。「1ヶ月程度での値下げは短いのでは」と感じた方もあるかもしれませんが、伝達まで2週間、見学・検討で2週間と考えると、1ヶ月程度である程度の反応は見えてくるのです。
実際に値下げを検討する時には、小刻みな値下げを繰り返すのではなく、一度に数百万単位での値下げでなければ、購入検討者へのインパクトは少ないでしょう。値下げをする目的は、購入検討者に再検討を促すためです。値下げ幅は、「販売価格の5%以上」を目安とするべきです。
ただし「5,050万円から4,980万円への値下げ」など、物件情報サイトの「価格帯」での検索区分が変わる変更は、小さい金額でも大きな効果が得られます。つまり、物件情報が掲載されるネット媒体で、5,050万円の価格では5000万円以下の検索条件にはひっかかりませんが、これが、4,980万円となれば、検索対象となり、検索結果として表示される件数が増えるためです。
購入希望者から減額を希望されることも多々あります。この場合には、しっかりと不動産業者と打ち合わせをしましょう。減額を求める理由や他からの引き合いの状況、残債を含めた資金計画など、そのときの状況によってどこまでの減額を受け入れるかが異なります。
購入希望者の減額幅をそのまま受け入れれば契約につながりやすいのはもちろんですが、折衷案などで回答する場合には、購入希望者があきらめてしまう可能性があることも考慮した上で、回答しましょう。
早く売却したいときには
「早期の現金化が必要」「海外転勤となり管理ができなくなる」など、売主の抱えている事情により売却を急ぐ場合もあります。通常の売却方法では買主を見つけるための時間がかかり、契約後も住宅ローン手続きなどの時間を要します。所要時間も不確定で、売却活動が長期化する可能性もあります。
どうしても素早く売却を進めたい方には、「業者買取」も方法の1つです。業者買取とは名前の通り、買取業者が買主となることです。購入希望者探しや住宅ローンの手続きに要する時間が省けるため、1ヶ月以内に売却が完了するというメリットがあります。
反面、買取業者は買い取ったマンションをリフォームして再販売で利益を得ることを目的としているため、買取金額が一般の相場よりもかなり安価になってしまうデメリットもあります。買取業者はいくつもあり、地域やマンションの形状によって得手不得手がありますので、複数の業者に見てもらい、その中からできるだけ高い買取価格を選択しましょう。
まとめ
売却時のテクニックというのは、主にマンションが流通する仕組みを理解し、買主や不動産会社の立場で考えることで見えてくるものです。購入検討者にはお持ちのマンションがどのように映るのか、客観的な目を持つことがマンションの売却における最大のテクニックといえます。
斉藤勇佑(宅地建物取引士)
大学卒業後、5年間不動産売買業務に従事。その後、不動産管理会社に転職し、分譲マンションの維持・管理を中心とした業務に5年間かかわり、現在は不動産のストック分野の業務に従事。