マンション売却の第一歩は、どのくらいの価格でそのマンションが売れそうかを、不動産会社に「査定」してもらうことです。今回は、マンション売却における「査定」の仕組みと、査定を受ける時に注意すべきポイントをご紹介します。査定を上手に活用して、マンション売却を成功に導きましょう。
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「査定」とは
マンション売却における「査定」とは、売却の依頼を受けたマンションについて「売り出してからおおむね3か月以内に売れる価格」を不動産会社が見積もることをいいます。
不動産取引を規制する宅地建物取引業法(以下、宅建業法)では、「不動産会社は、土地や建物の価格について意見を述べる場合は、合理的な根拠を提示する義務がある」と定められています。したがって、マンション査定においても、不動産会社は根拠のある価格を提示しなければなりません。
また、不動産会社の報酬は、売買契約の成立に対して支払われるべきものであり、査定の費用は、無料であることが基本です。国土交通省の宅建業法の「解釈・運用の考え方」にも、「根拠の明示は、法律上の義務であるので、そのために行った価額の査定などに要した費用は、依頼者に請求できないものであること」と記されています。
査定方法の種類
一般に、不動産の価格を評価する方式には以下の3つがあります。
1.原価方式
対象不動産を再調達する場合に必要となる原価(再調達原価)を求め、老朽化や陳腐化によって価値が下がった分を査定し差し引く(減価修正)方式。この再調達価格とは実際に調達した価格ではなく、評価時点での再建設などの費用を想定するものです。一戸建ての建物部分を評価する場合に多く利用されます。
2.取引事例比較方式
過去の取引事例の中から適切な事例を選択し、必要に応じて事情補正や時点修正を行い、地域要因や個別要因を加味して評価する方式。取引事例の多いマンションの評価や、土地の評価に多く利用されます。
3.収益還元方式
その不動産が将来生み出す収益から逆算して評価額を求める方式。賃貸用不動産や事業用不動産を評価する場合に多く使用されます。
不動産会社が査定をする場合は、前述の根拠の明示義務があるため、国土交通省は、(公社)不動産流通推進センターが作成した「価格査定マニュアル」や、これに準じた価格査定マニュアルなど合理的な説明がつくものを使うことを推奨しています。
「価格査定マニュアル」は、対象の住居によって「住宅地価格査定マニュアル」「戸建て住宅価格査定マニュアル」「中古マンション査定マニュアル」の3つがあり、「中古マンション査定マニュアル」は取引事例比較方式を採用しています。
また、不動産会社の査定は、一般的に「簡易査定」と「訪問査定」の2種類に区分されています。
簡易査定は、物件の住所や面積、間取りなどのデータのみを使って机上で査定する方法です。
訪問査定は、実際に不動産会社の担当者が現地を訪問してデータを確認するほか、設備や管理状況、日当たりや近隣の様子まで精査して、査定に反映するものです。また多くの場合、売却動機や権利関係などを、面談を通して確認する作業も兼ねています。
一般的には、最初の相談では時間のかからない簡易査定で概算を出してもらい、説明を聞いて信頼できる会社だと感じるようなら、売却を依頼する前提で訪問査定を依頼する、という進め方となるでしょう。
査定は、複数の会社に依頼しましょう
マンションの査定は、取引事例比較方式で行うことが多いのは前述の通りです。しかし、どの取引を査定のベースにするかは、不動産会社によって違いが出てきます。
また、住戸の位置や専有部分の状況、共有部分の管理状況、駅からの距離、階数、近隣の環境、間取り、修繕やリフォームの評価など、各種の条件についての評価も不動産会社によって異なります。さらに各社の取引状況や経験のほか、得意・不得意によっても、物件に対する見方は変わってきます。
こうしたことから、同じマンションでも不動産会社によって査定価格は変わってきます。適正な査定価格を出してくれる不動産会社を見つけるためには、複数の会社に査定を依頼することが重要です。
高い査定を出す会社が良い会社? 査定を比較するポイントは?
「依頼した複数社の中から一番高い査定を出してくれた不動産会社に売却を依頼したい」と思うのは、売主としては当たり前の感情です。しかし、それは本当に正しいのでしょうか?
簡易査定では、机上のデータのみで査定します。各社が合理的な根拠をもって査定すれば、価格は自ずと、ある一定のレベルに収まるものです。そこから大きく逸脱する価格であれば、それは「たまたま、どうしてもそのマンションが欲しいお客を知っている」など特別な根拠がなければならないからです。
他社に比べて著しく高い査定がある場合は、それを鵜呑みにせず、なぜそのような査定が出たのかを詳細に聞く必要があります。もちろん上述のような特別な情報を持っているとは限らないので、具体的に説明を受けて納得できれば良いのです。
査定は、あくまで不動産会社が「売れるであろう」と考えて提示する見積価格に過ぎないことを忘れてはなりません。その価格で売却できることを保証するものではないのです。売却できなければその価格で不動産会社が買い取る、ということでもないのです。
査定の比較では付いた金額に対する合理的な説明が詳細にできるかどうかが重要なポイントとなります。
一括査定の問題点
複数の不動産会社に査定を依頼するのは面倒なものです。同じことを何度も伝えたり、記入したりしなければいけません。そもそも複数の不動産会社を選択するだけでも大変です。
現在はインターネット上に多数の「一括査定サイト」があります。査定してもらいたい物件のデータを登録すると、1度の入力で、サイトに参加している複数の不動産会社から査定価格の連絡がもらえます。上手に利用すれば、複数の査定依頼をするには便利な機能といえるでしょう。
しかし問題点もあります。根本的な問題はその運営スタイルで、一括査定サイトの運営者は、実は不動産会社ではありません。売却依頼者と不動産会社を紹介する場を設けているだけです。査定をする不動産会社各社も、一括査定サイトに登録しているだけなのです。
一括査定サイトは基本的に無料で利用できます。その運営コストは、不動産会社からの広告料と、利用者の登録したデータ情報を不動産会社に販売することで賄われています。利用者は、個人情報の保護や不動産情報の管理リスクを運営者に委ねていることをまず理解しなければいけません。
またサイト運営者は、査定価格やその後の不動産会社とのやりとりには基本的に責任を持ちません。ヘルプデスクを設けているサイトも多くありますが、基本的には、不動産会社との直接のやり取りが必要となってしまいます。
一括査定サイトの利用にあたっては、運営会社がどういう会社なのかをよく調べる、ということが重要なポイントとなります。
一方、不動産会社側としてはサイトへの登録や対応に費用がかかるため、郊外や地方都市などは対応できる不動産会社が極端に少ない傾向があります。また、一括査定サイトからの査定依頼は軽い気持ちや興味本位のものも多く、成約に結び付く可能性がかなり低いものとなっています。
さらに、一括査定サイトからの申し込みである以上、他社との競争が避けられないことも査定する側には分かっています。そうすると、依頼率を上げたい会社はどうするでしょう?依頼者の関心を引くために査定価格をより高めにする会社が出てくるわけです。これは次章で詳しく述べます。
横行する不動産会社の悪質な手口
不動産会社は、売主からの売却依頼を成約させれば仲介手数料がもらえますが、さらに買主を自社で見つけた場合は、買主からも仲介手数料をもらうことができます。これを「両手仲介」といいます。
この「両手仲介」を目論む不動産会社の、悪質かつ典型的な手口をご紹介しましょう。
一括査定サイトは基本的に、特に不動産会社と親しい関係にない依頼者が多く集まります。しがらみのない依頼者にとっては、やはり査定価格が不動産会社を選ぶ一番のポイントとなります。不動産会社を自分で調査することなく、最も査定額の高い会社を、一番高く売ってくれそうだと判断しがちです。
そのため、悪質な会社は、相場の10%~20%程度も高い価格を、様々な理由をつけて提示します。依頼を勝ち取るのが目的ですから、理由はもっともらしければ何でも良いのです。
もちろん、そんな高い価格では売却できません。しかし売却できない間も「両手仲介」をもくろみ、情報は他社に流しません。これを「囲い込み」といいます。販売活動を全くしない場合もあり、この行為を「干す」といいます。依頼者には適当なことを言ってはぐらかし続けるのです。
頃合いを見計らって、「売却価格を思い切って下げなければ売却は難しい」と、売主を説得します(「値こなし」「こなし」といいます)。うまく「こなし」ができて、相場の70~80%まで価格を下げることができたら、ひと仕事の終わりです。
あとは、懇意の買取業者に安値で販売するだけ。買取業者からも仲介手数料をもらえる「両手仲介」が完了です。買取業者からは、「キックバック」として企画料やコンサルタント料の名目で別途報酬を受け取ることもあります。
さらに買取業者のために次のユーザーを探し出せれば、またそこで「両手仲介」も可能となります。最初から真面目に依頼者のために買主を探す「片手仲介」で終わる場合と比べると、なんと4倍近い手数料をもらえることに。こうしたことから、悪徳業者の手口はなかなか無くならないのです。
査定で注意するポイントとは
不動産会社は、査定を行う際には、合理的な根拠を提示する義務があります。しかし、悪質な手口によって査定をうまく利用し、理不尽な収益を上げようとする会社が多いのも事実です。
査定をしてもらうときは、複数の会社に依頼し、査定価格の高低に振り回されることなく、十分に説明を受けましょう。査定価格について、合理的で信頼できる説明をしてくれる真摯な会社を選ぶことが、査定で注意する一番のポイントなのです。
■「査定価格」基礎知識の詳細は「不動産の査定価格とは」をご参照ください。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。