マンションを購入する方のほとんどは、自宅としての購入です。住む家を理由なく売る人はいないわけで、いざ売却という事態になれば、大部分の人が初めての経験となります。そこで不動産業者の言いなりになっては、有利な条件での売却は望めません。
この記事では、売却時に交わす2つの契約書を中心に、マンション売却の注意点を解説します。人生の中で不動産の売主になる機会はそう多くはありません。不慣れなのは当たり前ですから、詳しく学んでその時に備えましょう。
(写真はイメージです)
ポイント1 事前準備を怠らない
まずマンション売却は、販売を依頼する不動産業者との「媒介契約書」の締結がスタートとなります。そこで、契約の事前準備を怠らないようにしましょう。
権利証(登記識別情報)と印鑑証明書はすぐに用意できますか? どちらも、無いと売却はできません。住宅ローンがあれば残高の確認も。残高が売却金額を上回っていれば、差額を預貯金で埋めるか、借入先との調整が必要となります。
また、管理規約や購入時のパンフレットを用意し、管理費などの正確な額をメモしておくとベストです。こうした資料を基に販売図面が作られるので、スムースに販売活動をスタートできます。
ポイント2 媒介契約を詳しく知ろう
準備が整えば、不動産会社に査定(売却価格の見積)の依頼、そして媒介契約となります。
媒介契約書には、売却する物件の詳細や価格、業者の報酬などが明記されます。また、媒介契約期間は3か月まで、報酬額(仲介手数料)は成約価格の3%+6万円が上限とされています。契約書が提示されたら、こうした記載に間違いがないか確認するようにしてください。
媒介契約には次の3種類があります。その内容や違いを知っておきましょう。
一般媒介契約
一般媒介契約では、複数の業者に同時に売却を依頼できます。複数社に依頼をした場合は、売却金額などの条件を揃える必要があります。依頼を受けた業者は、「レインズ」という国交省指定の流通機構へ物件登録は不要とされています。
専任媒介契約
期間や報酬は一般媒介と変わりませんが、専任媒介で依頼をすると、その業者のみが販売活動を行うことになります。契約締結の日から7日以内に「レインズ」へ物件登録をしなければならず、また2週間に1度以上の顧客への業務報告義務があるなど、積極的な販売活動が求められます。
専属専任媒介契約
専任媒介の内容に加えて、依頼者(売主)が自分で購入者を見つけた場合も、媒介業者を通して売買契約を締結しなくてはならない契約になります。レインズへの登録は5日以内、業務報告は毎週1度以上と、さらなる積極性が業者には求められます。
ポイント3 業者と媒介はどう選ぶべきか
業者選びで何よりも重視すべきは、「希望する価格での早期売却に努めてもらえるか」の一点です。
気を付けないと、自社の利益ばかりを優先する業者に当たってしまいます。これは大手・中小を問いません。
選んではいけない業者とは
前述のレインズは、多くの業者に物件を公開することで、より多くの購入希望者と物件情報をマッチングし、成約率を高めようとするシステムです。この理念に真っ向対立し、流通を阻害するのが「囲い込み」という不動産業界の悪しき慣行です。
囲い込みとは、依頼を受けた物件を他社に公開せず、自社の顧客のみに紹介する行為をいいます。レインズに登録はしても、他社からの問い合わせを「商談中」などと偽って断ってしまうことすらあります。
こうした行為が横行するのは、売買成立時の報酬が、売主・買主の双方からもらうことができると定められていることが原因です。
専任または専属専任で媒介を受けた物件は、その業者が独占販売権を得たに等しい状態になります。そのため買主も自社で見つけ、1度の契約で売主・買主双方からの報酬を得ようとするのです。これは売主にすれば、機会損失以外の何物でもありません。両手仲介をせずに、売主専任の代理人となるといったことをうたっている会社でなければ、専任や専属専任媒介を執拗に求める業者は避けるべきでしょう。
また、極端に高値査定をする業者も要注意です。高値で釣って依頼を取り、後から値下げを要求しようとする思惑が透けて見えます。査定額を操作するような会社が、まともな販売活動を行うとは思えません。自社買取を申し出る会社や、極端な安値査定をする業者も、転売して利益を得ようとしている可能性があるので避けましょう。
業者はどう見極める?
まずは査定額で判断します。適正な査定額は、売買事例などを根拠とし、比較の上で算出されます。事例は各社とも同じなので、査定額に大きな違いは出ません。きちんと査定額の根拠を明示して説明してくれる業者を選びましょう。
また購入希望者は、いつ、どの不動産会社に来店するか分かりません。販売窓口は広いほど有利になります。そのためのレインズの登録はもちろん、他社での広告掲載を許可して売却の機会を失わないように努めてくれる会社がベストです。
これは単刀直入に聞くのが一番です。「他社に対しても分け隔てなく広告宣伝の許可をしてもらえますか」と訊ねて、「自社以外での広告掲載はしない」といった返答であれば、その会社は顧客第一ではないと判断しましょう。逆に「他社の広告掲載にはこだわらない」との返答があり、査定額が上下に突出していなければ、専任で任せても良いでしょう。
マンションの売却は業者との共同作業です。丸投げする相手として選ぶのではなく、業務提携先を選ぶような意識を持って業者を選択すべきなのです。
■査定の詳細は「マンション売却時に知っておきたい査定の仕組みと注意すべきポイント」をご参照ください。
ポイント4 売買契約書を詳しく知ろう
媒介契約を締結して、買い手が見つかれば売買契約に移ります。一般的な不動産売買は手付金とともに契約が交わされ、残りの代金の支払いと同時に引渡しとなります。このスケジュールを明示した書面が「売買契約書」です。
売買契約書には、対象物件の詳細や売買金額、違約や住宅ローンの扱いなどが盛り込まれ、売主と買主それぞれに権利と義務が生じます。内容に沿った行動をとらないと、契約違反となって違約金が発生する可能性があります。賠償の額は少なくありません。重要な事項についてはしっかり確認して、契約の場に臨むようにしてください。
ポイント5 売買契約書締結の際の注意点
売買契約書は、売買当日に確認するのではなく、事前に取り寄せて内容をチェックしておきましょう。疑問や不明点があれば担当者に質問し、不安のない状態で契約に臨んでください。
売主が負う義務とは
売買契約において売主が負う最大の義務は、引渡しです。期日までに物件を明け渡せないと、重大な契約違反となってしまいます。無理のない引越しの段取りを組み、余裕を持って引渡しの時期を迎えるようにしましょう。
瑕疵担保責任
瑕疵とは、土地や建物本体の欠陥などのことです。売却した物件に瑕疵があり、売主の所有中の問題が原因であれば、売主は修復の義務を負います。瑕疵の範囲や期間は「雨漏りなどの4か所」「引渡し後2か月以内に発覚した瑕疵」などと限定されるのが一般的です。契約書にそうした定めがあるか、必ず確認しておきましょう。
付帯設備表
付帯設備についても、契約時の状態と違っていれば、引渡し後であっても一定の期間は売主に修復の義務が生じます。付帯設備表とは、契約時の設備の状態を買主に説明する書面です。もし故障などがあればそのまま申告しましょう。正確な状態を買主に伝えることが、トラブルを防ぐ手立てとなります。
契約解除となる条項
売買契約が解除となる場合、2つのパターンがあります。1つは売主・買主に責任がないため違約金が発生せず契約前の状態に戻る「白紙解約」、もう1つは一方に責任があったため違約金が発生する解約です。
前者の1つはローン条項です。買主が住宅ローンを使用する前提であった場合に、定められた期日までに買主にそれが認められなかった場合は、売主は手付金を返金し、契約はなかったことになります。地震などの天変地異で引渡しが不可能となった場合も、売主の責任ではないため白紙解約となります。
これに対し、違約金が発生するケースの1つは「手付解除」です。これは売主なら手付金の倍額の返金、買主なら手付金の放棄によって、期間内であれば契約を解除できるとする条項です。解除となるのは、どちらか一方に重大な契約違反があり催告しても改善されない時に限られます。
万一に備えて、手付解除やローン条項の期日、違約金の額などは確認しておくようにしましょう。
まとめ
媒介契約書と売買契約書は、どちらもマンションの売却には不可欠な契約書です。書式や内容は、どの不動産業者でも大きくは変わりません。契約の機会が訪れたら、ぜひこの記事を思い出してその場に臨んでください。事前の準備を怠らずに内容をよく確認して契約締結すれば、皆さんのマンション売却は成功へと近づいていくことでしょう。
伊東 博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。