『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN
- 公開日:2024年1月17日
『正直不動産2』第2話宅建士解説|不動産の「使用貸借」が勝利の決め手となるほど強い権利ではない理由とは
人気コミックが原作のNHKドラマ『正直不動産2』第2話「思いを伝える」が2024年1月16日(火)夜10時から放送されました。2022年に、山下智久さんが主人公の不動産会社の営業課長代理 永瀬財地(ながせさいち)を演じて大人気となったドラマの続編です。1月3日(火)には90分特別編の新作スペシャルドラマが公開され、1月9日(火)にはいよいよシーズン2全10話のドラマが開始されました。
第1話では、永瀬の元先輩で、あくどいセールス手法を全て教えてくれた神木涼真(演:ディーン・フジオカ)が、ミネルヴァ不動産の営業として登場、今後も永瀬のライバルとして、重要な役割を担うことが予想されます。
また、永瀬の「強敵と書いてトモと呼び合う」関係の、不動産ブローカー桐山貴久(演:市原隼人)や、ミネルヴァ不動産営業部長 花澤涼子(演:倉科カナ)、後輩の月下咲良(演:福原遥)、光友銀行融資係で永瀬と微妙な関係の榎本美波(演:泉里香)など、準主役級の関係者はシーズン1と変わらず、今回はどんな活躍をするのか、期待がますます高まります。
第2話では、永瀬が、寺島大助所有の家の売却を依頼されますが、そこには所有者の父親の喜助と息子の直也が住んでいました。永瀬は、大助に父や息子ともう一度話し合うよう説得を試みますが、大助は話を聞こうともせず、ミネルヴァ不動産の神木に売却を依頼してしまいます。永瀬は、第1話に引き続き、神木に契約を奪われてしまうのでしょうか?
(写真はイメージです)
「使用貸借」を主張して、立ち退きを免れた?
神木は、大助の土地建物を介護施設付きマンション用地として売却するとして、大助の家から室内のモノを処分しようとします。喜助の発作により作業は一時中断しますが、喜助の「直也だけでもこの家に住めるようにしてくれないか」という頼みにも、永瀬は「正直に」家の所有者は大助ですから、出ていかなければならない可能性が高い、と告げました。
しかし、登坂不動産社長の登坂寿郎(演:草刈正雄)のヒントや、後輩の月下や十影健人(演:板垣瑞生)の働きで、弁護士を通じて「使用貸借」を主張し、大助の妻が大事にしていた庭のある家を、最終的に売却しないという結論に導くことができました。
ドラマの中では、「喜助と直也が10年間住み続けているから、使用貸借の関係である、勝手な売買は認められない」と弁護士が内容証明で通知、主張したとしています。それがきっかけで流れは急転していますから、「使用貸借」は借り手側に強い契約関係に思えます。
しかし、「使用貸借」はそれほど強い権利だと誤解してはいけないのではないかと、筆者は思います。弁護士が内容証明を送付したことを聞いた買主が「老人を追い出して買った土地だと噂が立っては困る」という理由で、契約を解除したことが、今回の解約に結び付いたのです。「使用貸借の主張」はどんでん返しの契機ではあっても、根拠ではないと考えます。
「使用貸借」とその終了の規定について
では、「使用貸借」とはどういったものでしょう? 実は、筆者は、賃貸管理の件数がおかげさまで増えてきたため、令和3年に国家試験に格上げされたばかりの、賃貸借に関するエキスパートの資格といわれる「賃貸不動産経営管理士」の試験を、令和5年11月に受験して合格したばかりです。えっへん(自慢かよ)。「使用貸借」についても、試験範囲でした。勉強したばかりですから、詳しく説明しましょう。
使用貸借とは、無償で他人の物を使用する契約です。対価を支払い他人の物を使用する賃貸借とは区別されます。ドラマの中で、登坂社長がヒントとして民法の本に付箋を貼っていたのは、民法第597条2項と3項です。以下に民法を抜粋します。
(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
大助と、喜助と直也は、10年間住んでいたのだから使用貸借の関係にある、期間は定めていないが、大助の父親である喜助の介護が使用の目的であることは明白であるから、喜助の介護の終了もしくは喜助の死亡によって、使用貸借は終了するのだから一方的に売ることはできない、という主張は、一見有効なような気がします。
使用貸借の第三者との関係
しかし、使用貸借における借主の権利は、貸主に対してだけ主張できるに過ぎないものなのです。目的物の所有権を持つ買主が第三者に目的物を譲渡した場合には、借主は借主の権利を、譲受人に対抗することはできません。借地借家法の適用も終了時の借主の保護もありません。
この点は、借地借家法の適用により保護され、登記または引渡により対抗要件を得る不動産賃貸借における賃借人とは大きく異なる点です。
以下に、簡単に使用貸借と賃貸借の違いをまとめました。ご参照ください。
建物の使用貸借と賃貸借契約の違い
使用貸借 | 賃貸借契約 | |
---|---|---|
契約の成立 | 諾成契約 | 諾成契約(特別法で書面作成を要する場合有) |
有償性 | 無償 | 有償 |
借主の権利 | 建物の使用・収益 | 建物の使用・収益 |
借主の義務 | 目的物の返還 | 賃料支払い、目的物の返還 |
借地借家法の適用 | 無し | 有り |
第三者への対抗要件 | 無し | 登記、引渡 |
終了時の借主保護 | 無し | 有り |
当事者の死亡 |
借主死亡⇒契約終了 |
契約継続 |
例えば、大助が介護付きマンション用地として買主に売ってしまった場合、喜助や直也はやはり第三者である買主に使用貸借を主張することはできずに立ち退きせざるを得ないのが原則なのです。
現実には弁護士を立てて退去を逃れようとしても、裁判での勝ち目は薄く、退去までの時間稼ぎをして、なんとか所有者との妥協点を探すのが精いっぱいなのではないでしょうか。
ドラマの中では、買主が風評を恐れ、購入を断念したため結果的に訴訟には至らず、大助の「妻をないがしろにされた家と父」というわだかまっていた心も、月下や十影の調査やビデオのおかげでほぐれることができたため、家の売却はせずに親子3人で経済的苦境を乗り越えようという流れになりました。まさに題名のとおり家族の「思いを伝」えあった結果といえるでしょう。
不動産屋の目先の収益としては痛み分け! 今後の展開に期待
神木の一人勝ちに終わった第1話に対し、第2話は神木の成約は阻止したものの、永瀬も成約は勝ち取ることができず、正直不動産というよりは単にいい人に終わってしまっています。
それにもまして、神木の誘惑も嘘つきだと見抜き、永瀬の覚悟もあっさりといなす秋田美人の榎本美波、今後の活躍が見逃せません。それでは第3話を楽しみに
「へばっ!!」
プロフィール
早坂 龍太(宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。