『正直不動産』宅建士のプロはこう見る!SHOJIKI-FUDOSAN
- 最終更新日:2024年1月4日
- 公開日:2024年1月3日
『正直不動産スペシャル』最速レビュー(前編)|新年早々、不当な家賃値上げと原野商法を完全KO!
ある日突然、嘘(うそ)がつけなくなってしまった不動産仲介会社の営業マンが、独特の商慣習で動く不動産業界で奮闘する姿を描き、2024年1月9日より放送されるNHKドラマ『正直不動産2』本編に先駆け、1月3日『正直不動産スペシャル』が放映されました。
山下智久演じる主人公の永瀬財地は、前シリーズでは嘘をもいとわないセールストークで売上No.1の不動産営業マンでした。ところがある日、急に嘘がつけなくなったことから客にドン引きされ、売上がガタ落ちして窮地に陥ります。しかし、その正直さが逆に、ライバルのミネルヴァ不動産をはじめとする悪徳業者にだまされそうになる客の心を動かし、ハッピーエンドに導き、最後は自らを「正直不動産」と称するようになりました。
今回のスペシャルでも、ミネルヴァ不動産との対決のほか、不動産をめぐるヒューマンドラマが描かれました。大人気ドラマ『正直不動産スペシャル』のレビューをどのメディアよりも早く、そして詳しくお届けします。
(不動産のリアル編集部)
(写真はイメージです)
目次
『正直不動産』お約束の永瀬デートシーン、今回は現実
クリスマスムードが漂う夜の街の高級レストラン。永瀬は愛原真耶(演:松本若菜)という女性とシャンパングラスを傾けています。少し前にバーで連絡先を交換したという彼女に、永瀬は「運命って信じますか?」などと甘い言葉をささやきながら、店内のピアノでクリスマスソングをワンフレーズ披露。そのまま部屋に誘おうとしたところ……。
いきなり強風が吹き、「実は弾けるのは今の曲の今のフレーズだけ! この店だって君のために予約したわけじゃないから! 別の子にフラれて、とりあえずアドレス帳の『ア』から順番に探したら一番上の〝愛原〟が出ただけで」。修羅場の翌朝、ボロアパートからタワマンを見上げるいつもの永瀬でした。
新年会でニンジンぶら下げる登坂社長。ミネルヴァにはZ世代新人登場
年が明け、登坂不動産の仕事始め。女性社員はみな晴れ着姿です。少し遅れて月下咲良(演:福原遥)が入ってきます。遅れたのは早朝から客の対応をしていたためで、ついでに賃貸の契約まで取れたとか。「カスタマーファースト」を持論に成長著しい月下、前年度の営業成績は1位だったということです。
やがて登坂社長(演:草刈正雄)から年頭の課題が言い渡されます。永瀬は「1月の営業成績1位なら課長昇進」、月下は「1月に1位なら給料30%アップ」でした。
一方、登坂不動産の打倒に執念を燃やす鵤社長(演:高橋克典)率いるミネルヴァ不動産でも仕事始めです。「花澤新部長(演:倉科カナ)のもと、一丸となってやれ。どんな手段を使ってもいい。登坂を潰せ」と気合いを入れる鵤。
ところが鼻をほじりながら「正月早々、集めといて、それだけっすか?」と言い放つ若者がいました。新顔の十影(演:板垣瑞生)です。Z世代らしい発言の彼、どうしてミネルヴァにいるのでしょうか。
ミッション1:大地主の家賃値上げを撤回交渉せよ
オフィスで永瀬の前に現れた女子大生の槙野紬(演:佐々木春香)。仲介した賃貸アパートのオーナー、葉山進司(演:笹野高史)から突然、「家賃を5万5,000円から6万円に値上げする、値上げに応じないなら家賃を受け取らない」と告げられ、なんとかしてほしいというのです。
しかし、大河部長(演:長谷川忍)からは「『大地主様の葉山様』の物件をうちは他にも多数取り扱ってる! 機嫌を損ねて、それまで引き上げられたらどうする!」と断るよう命令。ここで風に吹かれた永瀬は「昨今の物価の上昇に便乗しているだけで、シンプルにこの大家がクソなんです! 家賃を受け取ってもらえない場合、貸主の代わりに法務局が家賃を受け取ってくれる供託システムがあるんです。この永瀬財地におまかせください!」とまくしたてるのでした。
新年1発目のミッションスタートです。その夜、大河は永瀬と月下を伴い、葉山をスナックで接待。永瀬の踊りがとにかく上手で、宴は盛り上がり。ところが肝心のビジネスの話に至ることはなく、さらに葉山は月下を気に入り、担当は月下に移ることに……。
ミッション2:ローン滞納した友人の家を競売にかけられるまでに任意売却せよ
永瀬のスマホにメッセージ。送り主は大学時代の友人、希志智則(演:溝端淳平)でした。広告代理店に勤めていた希志は永瀬の仲介で6年前に中古戸建てを購入し、家族と幸せに暮らしていました。
しかし、ストレスで体を壊して退職。家族とも別居し、住宅ローンを滞納して自宅は競売寸前だというのです。競売を避けたい永瀬は、登坂社長から「自分が不動産屋だということを忘れるな」とくぎを刺されながらも、任意売却に持っていこうと動き始めます。2つめのミッションです。
住宅ローンが払えなくなったときのローン返済方法として、競売と任意売却(任売)の2つがあります。この違いについて、ドラマでは大河部長が以下のように解説していました。
「競売は、裁判所を通じて行われ、当事者の意思に関係なく手続きが進んでいくのが特徴。市場価格の5割から7割程度で売却される場合もあり、自宅がなくなった上に、かなりの残債が残ってしまうこともある」
「任売は一般の不動産売却と同じように所有者の意思を反映して、売却額や残債の返済方法を決められる。そのため、その後の生活も立て直ししやすいといわれている」
希志の父、哲夫(演:柄本明)は土と水にこだわった有機農業を営んでおり、希志には後を継がせたかったようです。「好きなことをしなさい」と背中を押す母、和子(演:街田しおん)は少し体が弱いようでした。
二度も原野商法のカモにされる月下祖父
月下に祖父の星野春男(演:平泉成)からの電話。月下は春男がかつて原野商法の詐欺に遭ったことを永瀬に明かします。原野商法とは1970年代に横行した詐欺。「近いうちに再開発されて地価が上がるから」とインフラの整っていない価値の低い土地を買わせるのです。
春男は「ノルマを達成できなければ一家離散」と不動産会社に泣きつかれ、買ってしまったとのこと。今度は酉水(すがい)不動産というところで「以前、星野様が原野商法でだまされた土地に老人ホームが建つことになりまして、ぜひ高値でお売りいただけないかと」と持ちかけられています。
永瀬は月下に「だまされた者は、まただまされる。詐欺師をなめるな。すぐ電話しろ!」と急かします。しかし、電話はつながらず、永瀬は月下を向かわせます。
春男は契約書に実印を押す寸前。そこに月下が飛び込み、契約書を確認。「所有の土地を1,200万円で売り、別の土地を1,600万円で購入、春男は差額の400万円を支払う」という目を疑う内容です。これには春男も寝耳に水のようでした。
言い訳を重ねる男に月下が名刺と宅地建物取引士証を見せて「私もプロなんですけど」とぴしゃり。すんでのところで詐欺から春男を守ったのでした。
仲介管理を横取りにきたミネルヴァを退ける永瀬
女子大生の賃貸アパートのオーナー宅。そこでなぜか花澤をはじめとするミネルヴァ不動産の面々ががん首をそろえていました。どうやら物件管理を横取りしにきたようです。オーナーは「大家が家賃の増額を決めて何が悪い! とっとと出てけ!」ととりつく島もありません。
そこで風に吹かれた永瀬は「大家だからってデカい顔するんじゃねえ!」と反撃します。「借地借家法32条1項に賃料増額請求権というものがあります。ここには大家といえども正当な理由がなく家賃を一方的に増額することはできないと書かれています。仮に契約書に『更新ごとにいくらの賃料を増額する』と書かれていても認められません。それくらい借地借家法というのは賃借人を守ることが根底にある法律なんです!」
ぐうの音も出ないオーナーに「変わりましょう。変わるんです。そのお手伝いを登坂不動産がいたします」と追い打ちをかけます。永瀬の正直な言葉はオーナーを動かし、管理契約を死守できただけでなく、家賃据え置きも実現。ミッションのひとつを無事にクリアしたのでした。
なぜ50年前の原野商法詐欺を無関係の不動産会社が知っている?
ともに人助けに成功し、登坂不動産の屋上で一服する永瀬と月下。月下の祖父のところには、酉水不動産から突然「あなた、どこどこに土地持ってますよね、買わせてください」と連絡が来たようです。詐欺被害に遭ったのは50年も前のことなのに、なぜ無関係の不動産会社から連絡が来たのか、月下は調べたいと言い出しました。売上1位は永瀬に譲るそうです。
このような被害はドラマの中だけでなく、実際に起きていることです。2023年7月、国民生活センターも「土地売却のため? 金銭を請求されたら要注意 原野商法の二次被害」と題したリーフレットを発行。
“数十年前に「宅地造成するから」と勧められて山林を購入したが、その後宅地ができる様子はなく、そのまま所有するだけになっていた。高齢になり、子や孫に迷惑をかけたくないので売却したいと考えた矢先、仲介業者から土地の売却を勧める電話があり、媒介と測量を依頼することにした。事業者は、180万円で売却するので媒介手数料20万円を先払いするよう要求してきた。すぐ支払ったが、その後連絡が取れなくなった。(80歳代)”
このような実例を紹介し、「土地の売却のためと言われて、何らかの名目で金銭を請求されたら、契約する前に家族や周りの人に相談しましょう。少しでも不審に感じたら、きっぱり断ることも大切です。土地の相続や処分等については、様々な情報を集め、焦らずに家族でよく話し合いましょう」と注意喚起しています。
原野商法の顧客リストが出回って狙われている?
国民生活センターの発表資料(2018年)によると、 2007年度から2017年度までに認知した契約当事者の年代別割合は、70歳代が約4割と最多で、全体を見ても60歳以上が約9割を占めていたということです。
なぜこのような二次被害が発生するのでしょうか。京都府のウェブサイトでは「こうした二次被害が発生しているのは、以前土地を購入した際の顧客リストが事業者間で出回り、訪問販売や電話勧誘販売が行われているからと考えられます。また、以前原野商法で販売された土地の登記簿から所有者を調べることもできます」と解説していました。
月下の祖父もこの手口で再び狙われたとすると、暗躍しているのはいったい何者なのでしょうか。売上1位の座を永瀬に譲ってまで徹底的に調べると言った月下は、果たして黒幕にたどり着くことができるのでしょうか。
一方、永瀬は大学の友人の家を早急に任意売却するという2つめのミッションがまだまったく手つかずの状態です。後半、どのように解決へ導くのでしょうか。
=(後編に続く)