不動産会社の中には「住宅ローンあっせんの手数料」という名目で、金融機関で住宅ローンを組ませるために世話をした対価を請求するところがあります。宅建業法では不動産仲介の成功報酬としては「上限価格を取引価格の3%プラス6万円プラス消費税」と定めていて、これ以外に「住宅ローンあっせんの手数料」を取ることが違法かどうかについては明示規定がないため、法解釈の問題であると考えられてきました。
東京都中央区の不動産会社「トービル」が国土交通省に法令照会を行ったところ、国交省は「仲介手数料とは別にローンあっせん手数料を受領することは法令に抵触する可能性がある」という見解を出してきたということです(住宅新報 2022年7月26日)。現在、ローンあっせん手数料を受領している仲介業者は今後、報酬受領について見直しを迫られるのでしょうか。

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「住宅ローンあっせん手数料」が違法か、国交省見解の関係
そもそも仲介手数料の受領については、宅建業法で非常に厳しく規定されています。宅建業者は「不動産の売買金額の3%+6万円+消費税」を1円でも超える報酬を要求しただけで処分対象になります。
今回の事案で重要なのは、「仲介手数料+ローンあっせん手数料」がこの3%+6万円の範囲内であっても処分対象となりうるという見解が出たことです。「住宅ローンあっせん業務というのは、何も特別に別料金を取るようなことではなく、通常の仲介業務の一部でしょう」という見解を国交省が示したということは、法解釈含めて仲介事業者が重く認識するべき事案といえそうです。
不動産仲介におけるローンあっせんとは
そもそも、不動産仲介においてローンあっせんとは何でしょうか? これはつまり「住宅ローン融資取得のお手伝い」ということです。
日本においては住宅というのは非常に高額なものであり、貯金だけで購入できる人はまれといえます。そのため、住宅ローンということで銀行にお金を借りるわけですが、これが意外と煩雑な手続きが必要であり、最適なローン決定にあたっては、いくつかの金融機関の「事前審査」と呼ばれる打診を行うなど、一般の方にとっては結構な重労働です。
そこで、仲介業者が住宅を購入する一般の方と金融機関の間に入って、調整を行い、スムーズな住宅ローン融資取得をサポートするのです。このローンあっせんについて、仲介手数料とは別枠として手数料を受領している不動産仲介会社と、特段手数料を受領していない(つまり仲介業務に込みという形)不動産仲介会社と2パターン存在しています。
多くの事業者は、仲介業務に込みという形で別途報酬は取得していません。
貸金業法2条1項3号の規定と仲介手数料の関係
まず、ローン融資のあっせんについて、原則は「貸金業法」の範囲になるのですが、貸金業法2条1項3号では「基本的に、金銭の貸し借りに関する法律は、貸金業法が取り決めるが、物品の売買・運送・保管又は売買の媒介に付随する業務として貸金業が発生する場合は、貸金業法の範囲から除外する」としています。筆者が意訳すれば、「つまり貸金免許不要」ということです。
今回は、
(1)ローンあっせんが不動産仲介業務に付随するものであるか?
(2)宅建業法において、ローンあっせんが通常の仲介業務(3%+6万円の範囲)とするものか?
この2つの法解釈が論点となっているわけです。トービルによると(1)の「ローンあっせんは、不動産仲介の範囲ではないと国交省は言っていたが、不動産仲介業務に付随する、ということでスタンスを変えた」ということです。
(2)については、ローンあっせんについて別途報酬を受領することが宅建業法違反だと明言してきたわけですから、はっきりと国交省の見解が出たとも取れます。
国交省の見解「ローンあっせんは通常の仲介業務の範囲内」
さて、次に検討すべきは「仲介業務の範囲」ということについてです。不動産売買の媒介業務において、仲介手数料の3%+6万円以上受領していいケースとして「別途の広告料」「特別の依頼業務」というものがありますが、「住宅ローンのあっせん」は「特別の依頼業務」に入るのか?ということが論点となります。
そして、今回、国交省が出した結論は「別途の仲介手数料を受領してはいけない」なので、この「特別の依頼業務」には入らない、というのが答えとなります。
宅建業法65条、66条の適用可能性について
では今後、ローンあっせん手数料についてどのような考え方をすればいいのでしょうか。整理してみます。
受領する報酬 |
国交省回答 |
トービルの見解 |
媒介報酬 +別途ローンあっせん手数料 |
(1)総額が規定の手数料(3%)以内 |
宅建業法上の処分可能性あり |
業務停止処分の可能性 |
(2)総額が規定の手数料(3%)を超える |
(見解なし) |
業務停止処分の可能性 |
(3)総額が規定の手数料(3%)を著しく超える |
(見解なし) |
免許取消し処分の可能性 |
(4)規定の媒介報酬のみ(3%) |
従来と変更なし |
法令上の問題はないが一部懸念あり |
まず(4)については、これまでと変わりない内容であるため、大きな問題はないと思われます(ただし、3%+6万円の中に「ローンあっせん手数料が別建てで入っている」という認識であれば、疑義が生じる、という意味合いはあるようです)。また、(2)(3)については比較的理解しやすい問題です。「ローンあっせんは通常の不動産仲介の業務範囲内だ」と見解が出ているわけですから、当然総額で規定の範囲内の手数料とすべきという論旨となります。
問題となるのは(1)です。正確に解釈すれば、あるべき姿としては「ローンあっせんは不動産仲介の通常の業務の範囲内なので規定の手数料(3%)内とする」ということなのですが、そもそもローンあっせん手数料を定義していたとしても規定の手数料(3%)におさまっているわけなので、不動産事業者側の感覚としては「単に表現の問題の話では?」となるのが正直なところなのではないでしょうか。
また、不動産取引は金額が大きいので、手数料の内訳で5万円とか10万円であれば、購入者側もさして気にすることなく取引を進めてしまう(恐ろしい話ではありますが)というのも筆者の実感値としてあります。
現段階では行政として処分は困難か
とはいえ、「ローンあっせんについては手数料を発生させてはいけない」ということが広く知られるようになると、やはり顧客が「これっていいの?」と不動産会社の担当者に疑問をぶつけてくるようになってきますので、影響がないとはいえません。実際、大手の事業者でもこの「ローンあっせん手数料」を当たり前のような顔をして受領しているところはありますから、見直しを迫られた場合、総額で見ればそれなりの金額が減収となるでしょう。
宅建業法の65条および66条には、宅建業者への処分について規定されていますが、筆者の考えでは、この取引に該当していたからといって即座に処分命令が下るとは考えにくいです。というのも、現段階ではトービルの法令照会に対して回答がなされているだけで、国交省として具体的な通達で公的見解を提示しているわけではありません。
もちろん、個別案件として「悪質」と判断されれば、処分対象にはなりますが、そもそも法解釈の側面が強く、特に総額が3%+6万円の規定の手数料の範囲内であった場合には、明確な根拠をもって処分をすることも行政側もしにくいのではないかと思料します。
ただ、今後は当然、適正な取引対応のために規制がかかってくる可能性はありますので、事業者側には適正な手数料体系の見直し、一般の購入者に対しては報酬見積についての正確な判断の目を持つことが重要といえるでしょう。
とりあえず、不動産仲介をこれから検討される方は、住宅ローンあっせん手数料を請求するかどうかを最初に確認して、不動産会社を選別してもいいかもしれません。いい加減な説明をしたり、当然のように請求しようとしたりする不動産会社には、NOと言ってやるといいでしょう。
松村隆平(宅地建物取引士)
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、統計調査士。