2022年7月26日、NHKの『クローズアップ現代』で、「バーゲン・ジャパン 世界に買われる“安い日本”」と題して、外国人から買い注文が殺到している日本の不動産の現状が取り上げられました。

 

長引くデフレと歴史的な円安で、世界から見ると日本は「安くて豊か」という認識が進んでいるようです。特に買われているのが観光地。北海道のニセコや新潟県のようにかつてバブル期にスキーブームに沸いた地域です。

 

こうした観光地はブームが去って国内の需要は衰退し、コロナ禍が追い打ちをかけています。こうした状況で、外国人投資家の出現を「救世主」ととらえる向きがある一方、予想外の困難にも直面しているようです。番組ではどのように伝えられていたのか、不動産のリアル編集部が振り返ります。

 

(不動産のリアル編集部)

 

日本と世界

(写真はイメージです)

 

日本は世界から見て圧倒的に「安い」という現実

 

番組では、美しい景色や温泉などが魅力の観光地や、自動車や電化製品など「メイドインジャパン」を支えてきた労働力が今、世界からまるでバーゲンセールのように買われていると指摘。その背景にあるのは「日本の安さ」と説明します。

 

「日本は安い」と言われると違和感を持つ方も多いでしょう。日本は物価が高い国で、東南アジアに行けば安く物を買えておいしいものが食べられる、ヨーロッパに行けばブランド品が日本よりも手頃な値段で買える、というイメージがあるかもしれません。しかし、それはとうの昔のことかもしれません。

 

番組では各国の物価上昇率が示され、2020年までほかの国は軒並み物価が上がっているのに対し、日本だけがデフレでマイナス傾向と説明。最近はウクライナ戦争に伴う物価高が伝えられているとはいえ、他の国と比べるとまだまだ低いのが実情のようです。

 

そこに追い打ちをかけるように、歴史的な円安が進み、安さに拍車がかかっています。世界にとって日本は今、絶好の買い時だということです。

 

爆上がり感の強い不動産も海外から見れば爆安

 

国内では不動産価格の上昇が報じられています。2022年4月の東京23区の新築マンション平均価格は8,000万円を超えていて(不動産経済研究所調べ)、新築マンションは庶民にとって高根の花になってしまっています。

 

ところが、世界の動きはこの比ではありません。番組で紹介されていた世界の住宅価格の推移によると、この30年で香港ではおよそ8倍になり、欧米などの国も軒並み上がっていますが、日本は下がっています。こうした状況ですから、海外の投資家にとって日本の不動産は「圧倒的に安い」と映るのです。

 

番組に香港の不動産会社の経営者が登場。その不動産会社は日本の人気観光地のホテルやマンションなど、中には10億円を超える物件を主に扱っていますが、問い合わせが相次いでいるといいます。「香港では70㎡の新築物件は2億円以上しますが、日本ならその金額を出せば100㎡以上の新築物件が買えますし、中古ならさらに倍以上広い物件が買える」と経営者。

 

その不動産会社にはスイミングスクールの経営者が客として訪問します。すでに北海道に2件の物件を所有していますが、さらに東京で別荘を買いたいということでした。その客が「予算1億7,000万~2億5,000万円くらい」と告げると、六本木や赤坂のタワーマンションを勧められていました。

 

この不動産会社の経営者が取り扱う日本の物件を増やしているのは、円安に加え、新型コロナの収束後を見越しているからだそうです。自らも大阪の宿泊施設を買ったという経営者は「日本の観光の将来は明るい。人に貸せば利益も出ますし、将来確実に値上がりが期待できます」と語ります。

 

35年前は日本も世界の不動産を買う側だった

 

思い返せば35年前、バブル絶頂期の日本は世界の不動産を買う立場でした。株価は右肩上がりに上昇、円高も進行していました。日本の企業の世界進出が頂点を極めた時代でした。

 

三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを、ハリウッドではソニーがコロンビアを、松下電器産業(現・パナソニック)がユニバーサルをそれぞれ買収し、日本の存在感は高まっていました。ただ、いずれも投資としては失敗に終わり、経営の足を引っ張ったとされています。

 

今、起こっているのはそれとは真逆の事態です。番組で、外国人向けの物件を扱う不動産会社の担当者は、これまで購入の中心だったアメリカや中国に加え、東南アジアの新興国や発展途上国からの問い合わせが増えていると明かします。具体的にはインドネシアやマレーシア、フィリピン、バングラディッシュ、スリランカなどということでした。

 

番組には、マレーシアから物件購入を相談する女性を紹介。「今は円安なので、日本に投資するチャンスだと思いました。投資対象として手の届く範囲に来ているのかなと思います」といい、都心のワンルーム物件を現金で購入する意向を伝えていました。

 

最初に述べたように、「日本は物価が高い国」というイメージは完全に崩壊し、世界中から日本の不動産に買い注文が相次いでいるのです。

 

元ホテルオーナーが使用人に! それでも外国人投資家は救世主

 

日本の不動産を買う外国人投資家がいるということは、不動産を売るオーナーがいるということでもあります。なぜ手放されるのか、新潟県光市の赤倉温泉の元ホテル経営者の男性が紹介されていました。

 

この地域、夏は自然豊かな温泉地で、冬はスノーリゾートとして1980年代に大きく発展しました。しかし、40年がたった今、66ある宿泊施設のうち、17軒を外国人が経営するという事態になっています。

 

2年前、経営に行き詰まり香港の投資家にホテルを売却した男性は今、かつての自分のホテルでなんと住み込みの従業員として働いていました。

 

男性の父親が85年前に父親が始めた旅館を、バブル全盛期の80年代後半に男性は受け継ぎました。当時スキーブームの絶頂期。3億5,000万円を借り入れ、レストランなどを増築しました。しかし、すぐにブームは去り、売り上げは激減、高金利に悩まされ、借金を返せなくなり、子供にホテルを継がせることをあきらめ、整理を決めたということです。

 

そこで、スノーリゾートとしての魅力を評価し、海外から人を呼べると見越した外国人投資家に売却。受け継いだホテルを壊さずに残す最後の手段で、自らの雇用も確保したという点では、買ってくれた外国人投資家は救世主のようです。

 

この地域の物件を扱う不動産会社には、事業に行き詰まったホテル経営者からの相談が相次いでいるそうです。2年続いたコロナ禍で収入が激減し、心が折れて売りに出すという経営者が多いといい、興味を示すのが外国人投資家しかいないのが現状。ならば彼らが救世主となるのも当然のことかもしれません。

 

一泊350万円? ニセコに登場した超富裕層向けコンドミニアム

 

次に紹介されていたのは、人口1万4000人の北海道倶知安町。市街地から7キロのリゾートエリアでは、外国資本による別荘やコンドミニアムの建設が急速に進んでいます。

 

富裕層向けの宿泊施設を運営する男性が紹介されていましたが、彼が管理する温泉付きコンドミニアムは1泊なんと350万円ということでした。天気がいいと山が綺麗に見えるインフィニティ温泉が目玉のこの施設、この冬の予約はすでに来年1月まで埋まっているといいます。

 

男性は「すべてのサービスが1週間で2,000万円というのは確かに大金ですが、超富裕層にとっては大した額ではありません。世界から彼らを呼び寄せれば、日本にお金を落とします。これは地元経済にとっていいことなのです」と話します。

 

たしかに、この地域では建築関係の仕事が途切れることはなく、地元のペンションはオフシーズンにもかかわらず、北海道全域から集まる職人たちで連日満室だそうです。

 

固定資産税による町の収入は、この5年で5億円以上も増えたといいます。

 

街の変貌にインフラ整備が追いつかず財政難予測におびえる自治体

 

しかし、地元自治体にとっては喜んでばかりもいられない気がかりなことがあるようです。自治体が作った財政シミュレーションによると、潤っているはずの町の財政は2年後に赤字になり、その後も膨れ上がる恐れがあるというのです。

 

財政の逼迫を招く大きな要因の1つが、上水道の整備費用です。建設ラッシュで、リゾートエリアへの水道の供給量をこれまでの2倍くらいに増やす必要が出てきたそうです。これまで約2億円をかけて、不足分を賄う水源を掘り当てましたが、リゾートエリアまで6キロ以上も水道管を引かなければならず、総事業費は町の税収2年分にあたる65億円かかるそうです。

 

インフラ整備は自治体の仕事ですから、町が発展していくほど整備の必要に迫られるのは当然のことです。今はそのスピードに追いつけていないといったところでしょうか。しかし、外国資本によるホテル建築ラッシュが原因でかつての北海道夕張市のように住民に重税が課せられ、自治体が財政破綻してしまうようなことは考えにくいと思われます。

 

あるとすれば、ブームが去り、外国資本で建てられたホテルが軒並みいなくなってしまったときでしょうか。たとえば地球温暖化が進行し、「シルキーパウダー」と呼ばれる良質な雪がなくなってしまうと、危ういかもしれません。

 

外国人投資家より先に日本人が日本の魅力を見つけよう

 

スタジオには都市計画が専門の野澤千絵・明治大学政治経済学部教授が登場し、買う日本が、買われる日本になってしまった現状について解説しました。

 

野澤教授は、内需だけで国内経済を回していくということに限界が見えてきていることを指摘。宿泊事業の経営不振とか後継者不足の問題は、もはや内地の人材だけでは解決が難しいということです。

 

また野澤教授は外国人投資家が日本の不動産のプレーヤーになれる理由について、彼らが日本の魅力に気づいているからだと言います。逆によさに気づいていないのが日本人。日本の歴史や文化、おもてなしの心、治安のよさ……。こうした特質は外国から見ると非常に魅力で、コロナの後にさらにインバウンドを呼べるのではないかと彼らは思っている、と説明していました。

 

外国に買われるということは、日本にお金が落ちるということですから、悪いことではありません。ただ、外国人投資家が日本の観光ブームに見切りをつけたとき、廃墟だけが残る、ということは避けたいものです。日本のいいところはやはり、日本人が見つけて投資し、世界にアピールしたいものだなあと感じました。日本の魅力になるものをずっと守っていく努力をしなければならないことはいうまでもありません。

 

(不動産のリアル編集部)