2016年の夏クールで放送中の日テレ系水曜ドラマ『家売るオンナ』。北川景子さん演じる三軒屋万智が、テーコー不動産新宿営業所の営業チーフとしてクールかつ独特の手法で不動産物件を売りまくる姿を、時にコミカルに、時にシリアスに描くお仕事ドラマです。第3話のテーマは「現地販売」。今回もドラマのストーリーに沿いながら、不動産仲介営業の現実について、所感を交えながらご紹介します。今回は3話の解説の第一弾です!

今回まず取り上げる1件目は、エリート営業マンの足立(千葉雄大)が担当した現地販売物件。売り出し価格1億1,000万円でサンルームのある邸宅。
訪問したマダムがとても気に入って「1億円なら買う」と言い出します。すると、さすがエリート足立。すかさず、きっぱりと「現金なら1億円で!」と言って、購入申込書にサインをもらいました。
でも、少し冷静に考えてみましょう。1,000万円の値引きって、そんなに簡単にできるのでしょうか?
結論から言うと、あり得ますが…
通常、売り出し価格は査定に基づいて売主様と相談の上で決定します。
実はその際に、あらかじめ値引き可能額を合意していることもあるのです。今回の1,000万円の値引き額がその範囲であれば、この場合は問題ないことになります。
また不動産売買、特に自宅の購入にあたっては住宅ローンを利用する買主様が多く、その場合には金融機関による審査があります。従って購入の申し込み・契約から実際の決済まで通常1?1カ月半程度はかかり、審査の結果によっては契約が成立しないこともあるわけです。
そのため売却代金を早期かつ確実に入手できるという売り手側のメリットを考えると、現金決済は値引きの材料になり得るので、こういったことも考えられるのです。
でも実際はさすがに、滅多にありません
しかし、売主様が入手する実際の金額は売買金額そのものであり、現金決済でも住宅ローンを利用しても、その金額は変わりません。
「他に買主様が現れない、なかなか売れない物件だ」という状況でもないかぎり、住宅ローンを利用することが大きなデメリットになるとは考えにくいわけです。
ですから、現金決済だからといって、即決で1,000万円の値引きをしなければならないとは思えません。
今回のケースのメリット・デメリット
売主様にとって今回のケースには、メリットとデメリットの両面があります。
【メリット】
- 売却が早期かつ確実になる点です。まとまった金額を早く手にすることができるし、「物件の売却」という大きな問題が解決されれば安心できますね。
【デメリット】
- 一方で、売り出し価格のまま値引きせずに販売できるかもしれない可能性を、販売開始わずか1日目で断ち切ってしまうことは、大きなデメリットです。
1億1,000万円で売れるかもしれないのに、いかに合意のうえとはいえ、本人の知らないところで1,000万円も値引きされてしまったとしたら、後でトラブルに発展する可能性が大いにあるわけです。
お値引きには戦略が重要です!
従って、いかにエリートといえども、一介の20代の営業マンに1,000万円もの値引きの裁量権を与えるとは、通常では考えられません。
現実的な視点で、足立の営業トークを考えてみると、
「現金であれば、1千万円の値引きが可能かもしれません。
しかし、正式な回答は売主様と上司と相談してからご連絡を差し上げます。
まずは購入申込書の備考欄に、値引きのご希望金額を添えてご記入いただけますしょうか」
と言うのが妥当な線でしょう。「お客様のご希望の条件」として会社に交渉する。それなら現実的にも考えられる方法ですね。

(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
万智のSNS作戦が大成功!!さすがSNS!?
2件目の現地販売の物件は、外国人向け2バスルームのバブリーなマンション。
一時期は一国の大使が所有していたような高級マンションですが、今や設備が過剰なところが不人気の原因となってしまっている物件です。
ところが、万智のアイデアで、電話での問い合わせが殺到する超人気物件に!2バスルームという特徴をバブリーと捉えるのではなく高い機能性と捉え、
「トイレやお風呂が渋滞する大家族にお勧めの物件」
としてSNSで拡散した結果、話題の大人気物件になり、さすが万智!というわけなのですが…。
これは「ない」でしょう…
例えばまったく引き合いのなかった中古住宅に「古民家カフェなどへの転用に最適!」等のキャッチコピーを付けることによって、売却が決定するようなことは実例としてあります。
物件の特徴を把握した上で、視点を変え、強調するセールスポイント、ターゲットを変更する
ということは、販売戦略の上で重要なことでもあるのです。
また、多くの不動産会社が自社のホームページを活用したり、スマホのアプリを開発するなどして、SNS上でも販促活動を実施しています。これからの時代、その役割は重要性が増していくでしょう。
しかし、ある営業マンが販売物件のキャッチコピーを変えたぐらいで、SNS上で、すごい勢いで拡散していき、「問い合わせが殺到!」というのは現実的ではありません。
特に今回のような「2つのバスルームがあって、トイレやお風呂が渋滞する大家族にお勧め!」という訴求ポイントは、一般の方が興味を持つほどの話題ではないですし…。
主演の北川景子さんぐらいの有名人が、自身のツイッターで「大家族の方は、あの物件は一見の価値ありです。私もいるからぜひ見に来てください。」とでもつぶやけば別でしょうが(笑)。
第3話の最後の現地販売物件は、なんと4坪という狭小敷地に建つ2DKの3階建て住宅です。
あまりにも狭くてお子様のいる家族向けとは言い難く、なかなか買い手がつきません。
2件の運命的な売却依頼は…
一方、万智の元には、2件の売却依頼が舞い込みます。
1件は、いわゆる「捨てられない女」が所有するゴミ屋敷と化したマンション。もう1件は、身の回りのものはパソコンと段ボール箱ひとつという究極の「ミニマリスト男」が不要とした邸宅です。
万智が2人を引き合わせたところ、偶然にも彼らは元恋人。再会を機によりを戻すことを決意した2人は、彼氏が彼女のマンションを購入し、同居するということで合意するのですが、断捨離は進まず、決裂してしまいます。
そこで万智は、この狭小住宅を非常に効果的に紹介。
- 1階の3畳の洋室は彼氏の部屋
- 3階の広め(といっても6畳)の部屋は彼女の部屋
- 2階のDKで愛を育む
という提案をし、双方に受け入れられたのです。
現地販売物件は彼氏が購入し、さらに両者の所有物件が売却案件となる。この案件は、お客様にとっても不動産会社にとっても丸く収まる大団円を迎えました。
専門家も見習いたい、万智の機転は満点!
狭小住宅の1階と3階をそれぞれのプライベート空間とし、DKを共有スペースとしてシェアするという発想は、なかなか見事で感心させられました。
「狭い」ということに捉われてしまう物件ですが、シェアハウスとして利用することで新たな付加価値を創造したといえます。
仮にこのカップルが購入しなくても、収益物件として販売することも可能でしょう。
「私の仕事は家を売ることです」凄まじい万智のプロ意識
このドラマでは、主人公のキメ台詞として、
- 「私が売ります」
- 「すべて私にお任せください」
- 「この家売りました」
- 「私の仕事は家を売ることです」
等、プロ意識に満ちた言葉が、力強く語られます。
荒唐無稽な手法や性格はともかく、このプロ意識はすべての不動産営業マンに求められるものだと思います。

(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
今後「家を売るのは個人の仕事」、「家を売った後のことは私の知ったことではない」といった主人公・三軒家万智の寂しくて頑なな考え方が、周囲の登場人物との関わりの中で、いかに成長していくか期待したいところです。
(監修:不動産流通システム)