不動産を売却したい売主の誰もが、高く、そして早く売りたいと思うのは当然のことでしょう。しかし、不動産売買の実務にかかわってきた者の印象としては、「高く」売却するということと、「早く」売却するということは、「トレードオフ(一方を追求すると他方を犠牲にせざるを得ない、二律背反の状態)」となることがあります。不動産の売却で、この2つの要素を両立させることのできる期間は、通常、売り出しから3ケ月以内といわれています。なぜ3ケ月間といわれているのか、そのポイントをご紹介しましょう。

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「売り出し価格」が売却期間を左右
価格は、売買の決定を左右する重要な要素です。売り出し価格はどうしても「売れる価格」ではなく「売りたい価格」となってしまうことが多いものです。相場よりも高い価格で売買されるということは、他の物件にはない付加価値を買主が見いだしたということ。現実には、そういう買主を見つけることはなかなか困難で、いつまでも売れないリスクを抱えることになってしまいます。
一方で、「早く」売却するために有効な方法は、やはり価格を下げることでしょう。買い取り専門の不動産会社は、通常の住宅であれば相場の7~8割程度の価格で買い取ることが多いようです。それでもいいと思えるのであれば、時間をかけずに物件を売ることができるでしょう。
「高く」売りたいという気持ちと「早く」売りたいという気持ちのバランスを上手に取ることが、その物件にとって、最大限「高く」「早く」売る秘訣となります。
売却開始から3カ月間が最大のヤマ場!
一般的に、不動産売買の流れでは売主が売り出し価格を決めて、不動産会社と契約した後に広告を出します。購入希望者は、物件の情報をインターネットや不動産会社に依頼するなどの方法で探し出し、内覧して諸条件を交渉します。必要があれば金融機関の承認を受けて契約を締結し、引き渡し残額決済をするというもの。順調に進んだとしても、全てが終了するまで1~2カ月程度の時間がかかってしまいます。
中古物件の購入希望者は、結婚、出産や子供の進学、定年退職などのライフイベントに合わせて、転居を考えるものです。買いたい人にとっても購入時期は重要ですから、検討から購入までの時間はそれなりに限られています。購入を決めてから必要な時間を考えると、購入希望者にはのんびりしている時間はないのです。購入希望者は、自身の希望条件に近い物件の広告や情報には、敏感に反応すると考えてよいでしょう。
購入希望者のそうした動向を考えると、売り出しから3カ月もたって、購入希望者からの引き合いや成約の兆しが見えないというのであれば、市場への売り出し方法が間違っていたかもしれないと見直す必要があるでしょう。それは、下記の2点の理由が考えられるからです。
(1) 物件情報にある条件と合うような希望を持つ購入者がいない
(2) 物件情報が購入希望者の目に届いていない
また、3カ月以上も物件情報が公開されていると、頻繁に物件情報をチェックしている購入希望者や不動産会社は、「売れ残り物件」と認識してしまいます。「何らかの要因で成約が難しい物件かもしれない」、「売れない理由があるはずだ」、「価格が以前より下がっているからまだ下がるかもね」と注視されるようになると、「高く」売ることは難しくなってしまうでしょう。
その地域において、そのような「有名物件」になってしまうと、「早く」売ることも難しくなるかもしれません。誰もが「売れ残り」にわざわざ手を出すことには躊躇しがちなものです。だからこそ、売り出しから3ケ月間が重要なのです。
売却開始後の3カ月間を有効に使うポイント
大事な売り出しからの3カ月間を無駄にせず、意義あるものにするためには、査定価格を基に不動産会社と売り出し条件をよく相談して、じっくりと吟味することです。査定価格が他より高いからと不動産会社を決めて、すぐに契約するというのは考え物です。
売主の機嫌を損ねることを恐れ、また媒介契約を結んでもらいたいがために、あえて相場より高い価格を打ち出して、「売れませんから価格を下げましょう」と後から言えばよいという考えの会社も存在します。そのようなときは、どうして他よりも査定価格が高いのかを疑問に思い、その根拠を説明してもらうようにしましょう。納得できる説明があれば、信頼の置ける不動産会社といえるでしょう。
売却期限があるのかどうかも、不動産会社にしっかりと伝える必要があります。買い替えや、相続税の支払いのためなど、売却の理由によっては希望の期限が限られています。目標の売却時期を共有することができれば、それに応じた価格をより具体的に設定することが可能となるでしょう。
不動産会社が、どのような販売活動を行うのかもきちんと把握する必要があります。媒介契約の種類を問わず、レインズに登録するのか、不動産ポータルサイトはどこを利用するのか、仲介業者間の情報交換はどのように実施するのかなどの広告戦略については、きちんと確認しておきましょう。
他に仲介業者がいなければ、不動産会社は売主からだけではなく、買主からも仲介手数料をもらうことができます。そのため、中にはあまり物件情報を広く公開しないで、自社の顧客や知り合いの中だけで成約を果たそうとする不動産会社もあります。そうした会社は、どうしても成約が遅れがちですから、どのような販売活動をするのか、積極的な販売活動を実行しているのかを確認することが必要です。
また、広告や販売活動において、物件の購買層を想定して魅力となるポイントをアピールする内容となっているかも重要です。チラシやネットの掲載内容に物件の長所や特徴がしっかり表記されているかを、きちんとチェックしましょう。
中古物件の購買層は、自身の住んでいるエリアでの購買を重視する傾向にあります。特に小学校・中学校の学区は、キーワードとなり得ます。子供の学区が変わらないことを重視する親は意外に多いものです。学区を意識した区域にポスティングやDMを使って重点的に広告をしたり、物件案内で強くアピールしたりすることが効果的です。
内覧時に売主ができること
内覧は、成約に向けてアピールする大きなチャンスです。少なくとも、物件に興味を持った人が内覧をするわけですから、ここで好印象を持ってもらえれば成約も間近といえるでしょう。
居住中に内覧をしてもらう場合には、整理整頓は当たり前のこと。玄関は、第一印象を左右する大事な場所です。綺麗に清掃しておくことを心がけましょう。花を飾ってあるだけでも印象が違います。奥様たちが特に関心を持つのは水回りですから、キッチンやお風呂などに水垢がついていたり、カビが生えていたりしては論外です。場合によっては、専門業者にクリーニングしてもらうことも検討しましょう。
さらに、収納スペースも気になるところです。ウオーキング・クローゼットや押し入れなども、開けて見せることを想定して、きれいに片付けて収納しておきましょう。最後に、住んでいる人がなかなか自分たちでは気づかないのは、「家のにおい」です。普段は使わないご家庭でも、内覧があるときだけは消臭剤の使用をお勧めします。この点でも、花を飾るのは効果的といえるでしょう。
売却時は「鮮度」を落とさないように不動産会社を上手に使うべき
物件の「鮮度」を落とさず、高くそして早く売るためには、売り出しからの3カ月間が重要だと述べてきました。そして、その3カ月間を有意義に過ごすポイントをいくつか紹介させていただきました。
その共通項をひと言で言うならば、『信頼できる不動産会社を有効に使い切りましょう』ということ。
信頼できる不動産会社を見つけて、よく話し合い、納得のできる売り出し方法で実行してもらうことが、物件の「鮮度」を落とさないための最大のポイントだといえるでしょう。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
監修 :不動産流通システム