ほとんどの人にとってマンションを売るのは初めてだと思います。このため、どうしたら早期に高値で売れるのか分からないのも当然でしょう。ただ、宅建士から見て、マンションを売却するにあたってはコツがあります。押さえておきたい最重要ポイントを解説します。

(写真はイメージです)
営業担当者をしっかり選ぶ
ここで注意したいのは「会社」ではなく「担当者」であるということです。不動産の場合は、担当者によって全く結果が異なります。結局はフロントに立って営業してくれる「人」がキーとなりますので、是非ここは会社よりも(もしくはそれ同等に)営業マンをしっかり見定めるべきです。
宅建士であること
基本的に、これはマストです。宅建士でない時点で、不動産歴が短いか、宅建士に合格する能力がないのどちらかのため、優秀でない可能性が著しく高いです。当然、宅建士でなくても凄腕の営業マンはいますが、わざわざ宅建士資格のない営業マンに任せて危険を冒す必要はありません。
宅建は言わずと知れた不動産における必須資格であり、持っていて初めて一人前です。また、宅建の試験は「しっかりやればちゃんと合格できる」資格です。やはり重要なマンション売却は宅建士に担当してもらいたいものです。
売却経験が豊富であること
売却は交渉から手順まで、やはり経験豊富なほうがいいに決まっています。日用品レベルであれば「新人で可愛い」とか「一生懸命だからこの人から買ってあげよう」ということがありますが、何千万円もする買い物でこうした情に判断が左右されることはあまり多くはありません。
ストレートに「どのくらい売却経験ありますか?」「何件くらい売却経験ありますか?」と聞いてもいいと思います。注意したいのは「直接売主から物件を預かって売った件数」です。会社で手伝ったとか、売却の相談に乗ったとかではなく、担当として最初から最後まで担当した、という意味です。目安ですが、最低10件、できれば20件はほしいところです。
清潔感があり印象がいいこと
やはり清潔感があり、印象のいい営業マンのほうがお客さんから好かれるため、たくさんの買主候補を連れてきます。外見がスマートなほうが営業上有利というのは事実ですので、ここはしっかり見ていきましょう。
連絡が丁寧であること
不動産の売買において連絡が適切に取れること、マナーがきちんとしていることは重要です。売主に対してすら不快感のある対応をするようでは、買主に対してはなおさらです。連絡がいい加減だと、せっかく物件を気に入った人が現れても、契約になる前に離れてしまう、ということもありえます。
物件のエリアに詳しいこと
不動産は「一品もの」であり、同じものはほかにありません。このため不動産営業マンは物件があるエリアに詳しいほど信頼されます。営業マンの口から「ここの店が美味しい」「あの学校の評判が良い」「あのスーパーが便利」「公園が多い」「道幅がこの辺りは広い」などの情報が口から出てくるでしょうか。突っ込んでローカルな話をしてみましょう。
売却するマンションの内観・外観写真にこだわる
昨今はインターネットで物件情報を探すことがほとんどです。営業マンから物件を紹介されるよりポータルサイトで閲覧し、問い合わせをすることが圧倒的でしょう。このためインターネットに掲載される写真やトップ画、内観写真は第一印象を形づくるためにとても重要です。
まずは外観が重要
当然ですが、外観がスマートなほうが、印象がよくなります。いちばんよく見えるアングルを知っているのは売主ご自身ですから、業者任せにせず、見栄えのよい写真を選びましょう。業者が作る販売図面を確認し、載っている外観写真が「イマイチ」と思ったらすぐにやり直しをさせましょう。それが仲介業者の仕事ですから遠慮する必要はありません。最も良い角度、ロケーションを指定し、最も良いところをトップ画にして買主候補を引き込みましょう。
室内はしっかり片づける
可能な範囲でということになりますが、室内は片づけましょう。ある程度モノがあった方が入居後のイメージがつきやすいのでプラスになることもありますが、基本的には空室の方がいいとされます。先に引っ越せる場合は早期に退去し、内見時の印象が上がるようにしましょう。
退去後にクリーニングを入れる
退去時にはクリーニングを入れましょう。クリーニングをして、床や壁紙が綺麗なほうが印象がよくなり、経年劣化を感じさせず気持ちよい生活をイメージできるため、売却額が上がる傾向にあります。クリーニングに20万円程度のお金がかかったとしても、十分のリターンがあります。クリーニングによる入居者への配慮は最後の投資と考えましょう。
売却に時間的な余裕を持つ
高く売りたいのなら売却期間に余裕を持つことも大切です。高く売りたいのであれば大幅な値引き交渉をする買主との売買契約は諦めて、再度買主を探せるように時間に余裕と覚悟を持った方がいいでしょう。時間的に余裕があることは売主の交渉力を強くすることにつながります。反対に、売却期限が迫っていると、買主の言い値に寄ってしまうことで、売却額も下がりやすくなってしまいます。
少し高めに売り出す
基本的には、適正な査定額から1割程度高い金額が売り出し価格の許容範囲と覚えておきましょう。理由は大きく2つあります。
(1)値引きを想定する
多くの場合、その売り出し価格が適正であっても値引き交渉が来ます。買主の心理としても、ちょっとでも応じてあげればそれだけ可能性が高くなりますので、値引き幅を準備しておくのです。
(2)少し高くてもすごく気に入る人もいる
ちょっと高くても、「子供の学校が近い」「雰囲気がすごく気に入った」など何らかの理由でプレミアムを感じる人はいるので、少し高めに売れる可能性を残しておきましょう。一定期間、売りに出してみて売れなければ販売価格を下げればいいのです。最低(下限)売り出し価格という形で「ここまでなら値下げをしてもよい」というラインを明確にしておくことも大切です。
年明け~3月の売却引き渡しを目指す
家が最も売れやすいのは2~3月頃です。新生活が始まる4月に合わせて2~3月に新居を探す方は多く、この時期はマンションが売れやすくなります。また、4月から新しい職場や学校などが決まっており、4月までに決めたいと購入時期に期限を設けている買主も多いものです。早めに決めたいニーズがあるということは、多少高めの価格設定でも応じてもらえる可能性が高いということです。
ホームインスペクションを行う
近年、法改正によって売買契約書にこのホームインスペクションの有無を記載する項目が追加されました。ホームインスペクションとは住宅診断のことで、住宅診断士などのプロが家に不備がないか調査を行うものです。バルコニーは傾いていないか、水回りで漏水はないかなどを確認します。ホームインスペクションを行ったうえで問題がないことが示されていれば、買主としては安心感をもって購入に踏み切ることができるため早期売却につながります。
ホームインスペクションの価格は部屋の大きさなどによって異なりますが、おおよそ5万~8万円程度で実施可能なため、売却額が少しでも上がることを考えればよい選択と言えます。
売主の強い意思こそが最も大事
その他、物件ごとの特性や、買主の値引きに対する交渉などいろいろと高値売却に関するノウハウはありますが、今回は最も大きなものをご紹介しました。営業担当者と協力することは大事ですが、何より売主自身が「いくらで、いつまでに売りたい」という希望、その根拠をしっかり持つことで納得のできる不動産取引が実現します。
松村隆平
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。
趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。