マンションを売却した方を対象にしたあるアンケート調査では、マンション売却で最も後悔したことは「もっと高く売却できたのでは?」ということだったといいます。それでは、マンションを高く売却できるのは、いったいどのようなタイミングなのでしょうか? 6つの視点から考えていきましょう。
6つの視点とは季節要因、税金、ローン金利、市況、築年数、個人の事情です。
(写真はイメージです)
季節要因…1~3月がおススメ!
1つ目の視点は、季節要因です。取引実績データを見れば、売りやすい季節が分かります。
下図は、公益社団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)が公表しているマーケットレポートから抜粋した首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の中古マンションの2018~2020年の取引動向です。
成約件数をみると、1~3月の成約実績が他の4半期に比較して大きいことがわかります。これは3月から4月にかけて、お子様の入学や卒業、入社、ご自身の異動や転勤など、ライフスタイルに大きな変化をもたらすイベントが起こり、そのイベントに合わせて新たな住居を購入しようという需要が大きいことを表しているのでしょう。この時期に売却活動ができるように準備することが合理的と思われます。
ただし、他の季節が1~3月に比較して極端に実績が落ちる、というわけでもないことも理解しておきましょう。成約単価・価格にも、季節要因が大きな変化をもたらすということもないようです。これに関しては、こだわりすぎる必要はなさそうですね。需要が旺盛になるということだけ知っておきましょう。
税金の違い…所有期間は5年以上がおススメ!
2つ目の視点は、不動産の所有年数が5年を超えるかどうかによって所得税などの税制が変わる、ということです。
不動産を売却して得た利益から諸経費を引いた所得を「譲渡所得」といいます。譲渡所得については、他の所得と分離して所得税と住民税が課税されることとなります。これを「分離課税」といいます。譲渡所得への税率は、不動産の所有期間が譲渡した年の1月1日現在において、5年を超えている場合に「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」に区分され、適用税率は「長期譲渡所得」が20.315%(所得税、復興特別所得税、住民税の合計)の税率、「短期譲渡所得」が、39.63%となります。以下の表に税率をまとめました。
課税所得の税率
区分 |
所有期間 |
所得税 |
住民税 |
税率計 |
所得税 |
復興特別所得税 |
長期譲渡所得 |
5年を超える |
15% |
0.315% |
5% |
20.315% |
短期譲渡所得 |
5年以下 |
30% |
0.630% |
9% |
39.630% |
所有期間が5年を境に税率が倍くらい違いますが、ここには1980年代後半のバブル期に転売益を目的として不動産の売買を繰り返す投機的な取り引き(いわゆる「土地ころがし」)を抑制するために導入された背景があります。
税率を考えると、不動産の所有期間が5年を超えるまで売却タイミングを待ったほうが、得策といえるでしょう。
ただし、一定要件をクリアした居住用不動産の売却の場合であれば、譲渡益から3,000万円の特別控除額を控除することができます。つまり譲渡所得が3,000万円以下であれば所有期間にかかわらずどのタイミングで売却しても所得税や住民税はかからず、違いはないともいえます。普通のマンションにお住まいの場合はそれほど考えなくてもいいことかもしれません。
住宅ローン…金利は今が買い時、住宅ローン控除期間(10~13年)終了後が売り時?
日本では、2016年2月16日より「マイナス金利」政策が実施されています。「マイナス金利」とは、民間金融機関が日本銀行に預ける一定金額以上の当座預金金利をマイナス0.1%以上に設定することで、市場への融資を活発化させ、デフレからの脱却・景気の浮揚を目指すものです。
住宅ローンの金利は、日本銀行の政策金利と連動するといわれており、現在は史上最低水準となっています。たとえば、筆者が自宅を購入した約30年前の金利はなんと4.5%でした。この金利で4,000万円の住宅ローンを組んだと試算すると、ボーナス返済なし、元利均等30年払いで、月々の返済額は約20万円です。現在の変動金利水準の0.5%で試算すると約12万円/月の返済です。30年間月々約8万円、累計で3,000万円弱も返済金額に差が出てしまいます。
今が買い時だということがおわかりでしょう。
(グラフは「ダイヤモンド不動産研究所」より引用)
【2021年5月最新版】住宅ローン金利の最新動向、金利推移は?(132銀行・1000商品)変動・固定金利の相場を徹底解説!|ダイヤモンド不動産研究所
また、住宅ローン残高の1%相当額が所得税や住民税から控除される「住宅ローン控除」制度があります。2020年12月~2021年11月末までに売買契約をし、2022年12月末までに入居した場合、13年間の控除を認める特例が適用されます。
利用には、登記簿面積が50㎡以上(年収1,000万円以下の人に限り40㎡以上)、控除を受ける年の合計所得が3,000万円以下、住宅ローンの返済期間が10年以上、築25年を超える中古の場合耐震基準などの条件を満たすもの、などの細かいルールがあり、確定申告が必要です。
しかし、13年間の累計で最大約480万円の控除額(長期優良住宅などは約600万円)となるので、売却の時期については住宅ローン控除の適用期間や金額を考慮したほうがよいでしょう。
市況…右肩上がりが続く中古マンション市況 売り時は今!?
国土交通省は年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別・都道府県別に不動産価格の動向を指数化した「不動産価格指数」を毎月公表しています。これは2010年の平均価格を100としたときの各月の指数をグラフ化したものです。
2008年のリーマンショックから2009年にかけて不動産価格は低迷しますが、アベノミクスによる金融緩和が効果を見せ始める2013年より、全国の不動産価格は右肩上がりに上昇を続けています。コロナ禍においても第1回目の緊急事態宣言が発出された2020年の4月前後ではいったん下落しますが、その後は再び上昇傾向が継続しています。マンションの価格指標は2021年の1月には150%を超えています。市況的には、まさに売り時・買い時のタイミングといえます。
築年数…築25年を超えると50%以下に! 築古はさほど値下がりしない
2017年に東日本レインズがまとめた「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2016年)」という資料があります。
(データは「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2016年)」より引用、グラフは筆者作成)
グラフは、2016年の首都圏の中古マンション成約データを築年数別に、平均成約価格と㎡面積当たりの成約単価を集計したものです。
築年数0~5年の成約価格4,895万円を100%とすると、築26年以上の成約価格は1,670万円と34%にしかなりません。㎡当たりの成約単価で比較しても74万円が30万円と40%にまで低下しています。もちろん、立地や設備更新などにより個別の事情は反映されますが、築年数が25年を超えると築5年未満の新しいマンションの半額以下になってしまうというのは珍しいことではありません。
一方で築25年を超えると、さほど価格に変化は見られないようです。築25年までは年月の経過によって価格が低下するので早めに売却、それを過ぎると売価にはあまり影響が出ないので焦る必要はなくなる、ということがデータからも間違いないようです。
最終的には、個人の事情が最重要!
マンションの売却を検討し始める動機にはそれぞれの事情があります。結婚や出産、お子様の成長に伴う入学や卒業、就職などのライフイベントによるもの、ふだん活用していない空き家や相続による資産の組み換え・整理などもあるでしょう。また、離婚のための財産分与や金銭的な理由による任意整理など、ポジティブとは言いづらい理由の場合もあります。それぞれの事由によっては、金額や契約・決済の時期に制約が生じることもあります。
マンションの売却には、売却の意思を固めてからおおむね3~6カ月かかることが見込まれます。そのため「この時期までに必ず売却を完了したい」という事情をお持ちの場合には、それを優先しましょう。
売却タイミングを相談できる、信頼できる不動産会社を見つけましょう
以上、マンション売却のタイミングを6つの視点から紹介してきました。季節は春に向けて、ローン金利や市況を考えると今が売り時、税制や住宅ローン控除を考えると10年以上所有したマンションで、できれば築25年以内であれば売りやすい、あとは売りたい理由しだいということになります。
売りたいマンションや理由にうまくマッチしていますでしょうか?
一生にそう何度もないマンションの売却です。失敗はしたくありませんね。売り出しのタイミングや価格について、じっくり不動産会社と相談して、売却にベストなタイミングを見つけましょう。専門家からのアドバイスを受け入れたうえで、自分で決めたタイミング、それがマンションを高く売却できる唯一のタイミングです。
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。