首都圏の中古マンション市場は活況を呈しています。2021年2月の成約価格は前年同月比200万円を超えるプラス。戸建ても成約件数・価格ともに前年比を大きく上回っています。
価格が新築よりも安い、人気の高い地域でも買いやすい、金利が安いなどというメリットから、中古住宅市場の活況はしばらく続くと予想されます。マンションの売却を検討されている方にとっては、まさに売り時といえるでしょう。
そこで今回は、マンションの売却の手順に沿って、よくある失敗事例と、失敗を回避するための対応策を徹底的に解説しました。
(写真はイメージです)
マンションの売却の流れの概要
マンション売却の流れは6つのステップに分かれ、要する期間は以下のとおりです。
(1)事前準備:数日~1週間
(2)価格査定:2週間程度
(3)媒介契約:1週間程度
(4)売却活動:1~3カ月(申し込みがあるまで)
(5)売買契約・決済:1カ月程度(含:詳細条件交渉)
(6)納税(確定申告)
ステップごとに失敗事例を交えながら、説明していきましょう。
事前準備段階で重要なことは目的と結果の明確化
マンション売却を満足のいくものにするために最も重要なのは、この「事前準備」です。なぜマンションを売却するのか、売却期間に限度はあるのか、価格を含めどのように売却できれば最低限の目標は達成できたとするのか、そうした「マンションの売却の目的と結果目標」を明確に設定しましょう。
Step1 事前準備
項目 |
内容 |
a. |
売却の目的・条件の整理 |
理由・目的・期限の明確化 |
最低額、理想額の設定 |
b. |
現状把握 |
住宅ローン残高(残債) |
管理費・修繕積立金・駐車場代・町内会費等 毎月の費用 |
リフォーム箇所・内容 |
住民としての長所・短所 |
c. |
資料整理 |
購入時の契約書・重要事項説明書 |
権利証(登記識別情報) |
固定資産税等通知書 |
購入時のパンフレット等 |
目的や目標、期限や価格を初めにしっかりと設定しておかなければ、ずるずると判断を先延ばしにして機会を逸したり、逆に周りの意見に流されたりして、後悔することになります。以下の失敗例を参考にしながら、3つの事前準備をしておきましょう。
よくある失敗1:住宅ローンの残高を把握していない
マンション購入で住宅ローンを利用した場合、金融機関はローンの担保として物件に抵当権を設定しています。住宅ローンの残債がある場合でも売買はできますが、買主に物件を引き渡す前に、金融機関と残債を清算して抵当権の抹消手続きをしなければなりません。
ここは重要なのですが、売却金額よりも残債が大きい場合、売主は自己資金で清算しなければ、抵当権を抹消できません。残債を整理できなければ売却ができないということです。
住宅ローンの残高を把握しないで不動産の売却を進めてしまうと、契約・決済という最終段階で、金融機関が売却を承認しないという事態が起こり得ます。また、残債額が想定より大きく、清算後に手元に残るお金が少なすぎるということもあります。売却を思い立ったら、まず住宅ローンの残債を確認しましょう。
住宅ローンの残債を確認するには、融資を受けている金融機関に連絡をして「残高証明書」を発行してもらいます。通常は返済用口座の通帳やキャッシュカードと印鑑、身分証明書を持参して金融機関の窓口を訪問することになります。ネット銀行はウェブサイト上で確認できる場合もあります。
よくある失敗2:時間に余裕がない
マンション売却をした人のよくある後悔の声に「売却にこんなに時間がかかるとは思わなかった」「売却までに時間の余裕を持っておけばよかった」などがあります。売却に時間がかかることを織り込んでいなかったために時間切れとなり、売却価格や諸条件に不満があっても買い手の要求を飲まざるを得なかった、という経験を多くの売主がしています。
マンションの売却にはどのようなステップを踏まなければいけないか、ステップごとに時間は通常どのくらいかかるのか、売却の際に必要な書類や費用はどんなものがあるのか、どのくらい費用がかかるのかを、事前にしっかり把握しておきましょう。
よくある失敗3:必要書類がない
マンションの売却で、見当たらなくていちばん慌てる書類が「権利証」です。購入から何十年も経過していたり、相続や贈与で入手したりしたケースでよくあります。
権利証とは、正式には「登記済証書」といい、不動産の所有者の住所氏名が登記権利者として記載され登記済の押印がされている書面です。2006年以降、新規に発行されるものは「登記識別情報」に変更されています。
不動産売買では売主から買主に所有権移転登記をする必要があり、そのためには権利証が必要となります。登記済証書もしくは登記識別情報は、紛失しても所有権そのものは失効しません。しかし、再発行はできません。登記済証書から登記識別情報への変更もできません。
紛失したときは、司法書士もしくは弁護士に「本人確認情報」を作成してもらう(費用は数万円)か、公証役場で「本人確認」をしてもらいましょう(費用数千円)。
権利証のほかにも、購入時の契約書や重要事項説明書、パンフレットや間取図、固定資産税等通知書などを準備しておくと不動産会社との交渉もスムーズにいくでしょう。
よくある失敗4:売却にかかる費用を知らない
売却にかかる費用や、費用が発生するタイミングを知らないために、手元に残る金額が想定と違い、後悔する人も多いようです。おおよそでいいので、費用発生の内容とタイミングを知っておきましょう。以下の表にまとめました。
費用の内容とタイミング
項目 |
内容 |
タイミング |
仲介手数料 |
売買金額×3.3%+6.6万円 …(売買金額400万円以上の場合の上限額) |
契約時50%、決済時50% |
印紙税 |
200円~48万円…(売買金額によって異なる) |
契約時 |
繰上返済手数料 |
1万円~5万円程度(住宅ローンの清算がある場合) |
決済時 |
登記費用 |
抵当権抹消登記(金融機関の抵当権等がある場合) …司法書士費用含めて1~5万円程度 |
決済時 |
譲渡所得税 |
売却で得た利益に係る税金(保有期間等によって異なる) |
確定申告時 |
その他 |
ハウスクリーニング等、境界確認費用、引っ越し費用 |
随時 |
価格査定では欲に流されないで冷静になろう
次のステップは「価格査定」です。不動産会社に売却の相談を持ちかけると、おおむね3カ月以内で売却できると思われる価格を査定してくれます。立地や面積や過去の販売実績など机上のデータだけで判断した価格を「机上査定」、実際に不動産会社が訪問して物件の状況を確認したうえで判断した価格を「訪問査定」といいます。
机上査定を経て訪問査定を行うと、その後、不動産会社に売却を任せる媒介契約を締結し、「売り出し価格」を決めます。
よくある失敗5:査定をどの不動産会社に頼んでいいのか分からない
不動産会社にコンタクトを取ることに拒否感がある人も多いと思います。不動産会社の営業マンというと、家賃滞納しているお爺ちゃんを無理やり立ち退かせたり、タワマンを転売して巨額の富を得たり、髪型ツーブロック浅黒い肌、無駄に大きい声で携帯電話を使う、なんてイメージを持っている方も多いでしょう。
そんな思い込みから、不動産会社との接触機会を減らしたいあまり、いわゆる「不動産価格一括査定サイト」を利用する人がいます。登録して個人情報を預ければ複数の不動産会社が無料で査定をしてくれるというサイトで、いくつも運営されています。
一括査定サイトでいちばん高い査定価格をつけた会社を選べばよいという人がほとんどですが、筆者は推奨しません。簡単に言うと、一括査定サイトでお客様に選ばれるために、査定価格を不自然に高いレベルで提示する不動産会社が後を絶たないからです。
当たり前の話ですが、マンションは、売主はできるだけ高く売りたい商品ですから、不自然に高い査定価格で売れることは99%ありません。それに、査定価格はあくまで不動産会社が「売れると予想する価格」であり、不動産会社が「売れることを保証する価格」でも「売れない場合に買い取る価格」でもありません。高い査定価格を理由に不動産会社を選んでも、実際には、売れなくて売却期間が長くなり、値下げを繰り返すということになりかねないのです。
査定を依頼する不動産会社の選び方としては、以下の3つが間違いないでしょう。
・実際に同地域でマンション売却をしたことのある友人や家族の推薦・紹介
・大手TOP3といわれる3社
・当該マンションを建設・販売した不動産会社
その地域でマンション売却の実績があり、友人や家族に紹介することのできる不動産会社であれば、信頼できるというものです。不動産会社としても、ご紹介のお客様には力が入るものです。
また、筆者のように零細不動産屋にとっては悔しいことですが、大手TOP3はやはり会社組織として多くの販売実績や顧客網、販売システムを備えていますし、人材のレベルもおおむね高いものです。フリーダイヤルやコールセンター、ホームページでの受付など、査定の依頼もハードルが低いといえるでしょう。
最後に、実際に当該マンションを建設・販売した不動産会社も、中古マンション販売部門のある会社が多いはずです。特にブランド名を冠したマンションは、中古マンションでも当該不動産会社の取り扱いが多い場合があります。購入した不動産会社である場合が多いでしょうから、売却希望者にとっても、連絡が取りやすい不動産会社だといえるでしょう。
媒介契約は信頼して任せられる不動産会社と結ぼう
査定価格が出そろったら、売却を依頼する不動産会社を選択して仲介を依頼する契約を締結することになります。この契約を「媒介契約」といいます。媒介契約は大きく分けて3種類に宅建業法で定められています。
媒介契約の3類型
内容 |
一般媒介 |
専任媒介 |
専属専任媒介 |
他の業者への依頼 |
可 |
不可 |
不可 |
自己発見取引 |
可 |
可 |
不可 |
有効期間 |
規制なし |
3カ月以内 |
3カ月以内 |
有効期間の延長申入 |
規制なし |
依頼主のみ |
依頼主のみ |
業務処理状況の報告義務 |
規制なし |
2週間に1回以上 |
1週間に1回以上 |
指定流通機構(レインズ)への登録義務 |
規制なし |
契約日から7営業日以内 |
契約日から5営業日以内 |
媒介契約を締結すると、不動産会社とは3~6カ月ほどの長い付き合いになります。媒介契約先を決める前の段階で、電話やメールでのやり取りなどで不快感や不信感を抱いてしまうような担当者がいる不動産会社については、媒介契約を締結するのは避けた方が無難です。
ちょっとした行き違いが後々大きな不満となってしまいかねません。大切な自分の財産を売却するお手伝いをしてもらうパートナーですから、ウマが合うとか合わないという感覚は大事にしていいのです。
よくある失敗6:査定価格が飛びぬけて高い不動産会社を選んでしまう
不動産会社が提示する査定価格は、合理的な根拠があり、自ずと一定のレベルに収れんする価格です。しかし媒介契約を勝ち取りたい不動産会社、特に一括査定サイトに登録している不動産会社は無理だと知りつつも、より高い査定価格を提示しがちである、と前述しました。
そして、多くの依頼者はその誘いに乗ってしまい、いちばん高い査定価格を出した不動産会社に媒介を依頼してしまいます。特に、一括査定サイトで依頼をしてしまった場合、よく知らない不動産会社から何社も連絡が来るわけです。
縁もゆかりもない不動産会社の営業セリフを聞く暇はないとばかりに、単純に査定価格を並べて比較して、一番高い査定価格の不動産会社を選択してしまいたくなるのも無理はありません。
しかし忘れてはいけないことは、査定価格は売却価格ではない、ということです。突出して高い査定価格レベルで売り出したため、長い間販売できずに、市場からは売れ残り物件として認知されてしまい、最終的には安売りせざるを得ないというケースは、本当によく見かけます。
わざわざ低い査定価格の不動産会社を選ぶ必要はないかもしれません。しかし、他の会社と比べて突出して低くつけた査定価格は、むしろ誠実な価格である可能性があります。その価格の根拠を依頼主が納得できるように、具体的な根拠を示しながらしっかり丁寧に説明してくれたなら、その不動産会社と担当者を選んだほうがいいかもしれません。
よくある失敗7:専任媒介契約、一般媒介契約を間違える
媒介契約には一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があります。どの媒介契約を選んでよいのかよくわからないまま媒介契約を結んでしまうと、売却までの時間が長くかかったり、価格の値下げを余儀なくされたりした場合に、媒介契約の種類が間違っていたのではないか、と後悔することになります。
売主から見ると、1社に売却を依頼するよりも、たくさんの不動産会社に依頼した方が売却できるチャンスが増えるように思えます。単純に購入希望者の目に触れる機会が増えることになりそうですし、不動産会社どうしに競争原理が働いて、より懸命に買い手を探してくれそうです。
しかし、媒介する不動産会社にとっては、一般媒介契約は歓迎できる契約形態ではありません。せっかく努力し、売主にも助言をし、販売経費を使って販売活動をしても、他の不動産会社が契約を決めてしまえば、一銭にもならないからです。このため、おのずと消極的な販売施策となってしまいがちです。
一方で、専任もしくは専属専任契約では積極的になる理由があります。買主さえ見つかれば必ず仲介手数料を不動産会社は売主からもらえます。また、契約期間の3カ月間で仮に預かったマンションが販売できなかった場合、契約を切られかねないからです。
ただ、一般媒介契約にも向いている物件はあります。たとえば人気のあるエリアの駅近・築浅物件など、好条件のものなら積極的に販売活動をしなくても買い手がつきますから、不動産会社もコストをかけずに販売できます。優先順位を上げて買主を探してくれるかもしれません。
一方で、築年数が多かったり、交通手段がバスであったりなど少し難易度の高い物件の場合は、専任や専属専任契約で、不動産会社の報酬を保証したうえで、腰を据えてじっくり販売活動をしてもらった方がよいでしょう。
売却活動で重要なのは売出価格と内覧対応、放置は禁物
売却活動は売出価格を決めることから始まります。査定価格をベースに、周辺で同様の条件や間取の部屋や同じマンション内の部屋の販売価格を参考にして、売出価格を決めますが、だいたい1割増しくらいの価格になることが普通です。
また、ほとんどの購入希望者は、実際に自分の目で見ない限り購入することはありません。そのため「内覧」対応も重要になります。現在では、コロナ禍で対人接触を避けるというニーズも増えてきていることから「VR(バーチャル・リアリティ)内覧」も増加しています。
よくある失敗8:売出価格が高すぎる
マンションには相場価格というものがあり、それを逸脱した売出価格の物件は、市場から無視されてしまいます。その結果、長い間ポータルサイトに居着いてしてしまった物件は、「売れ残り物件」のレッテルを貼られてしまうため、どんどん問い合わせが減ってしまいます。そうなってしまうと、相場以下の大幅な値下げでもしない限り、売れなくなってしまいます。
こうした失敗を防ぐためには、まずは相場をしっかり把握しましょう。査定価格が高ければよいというものではない、としたのはここでも生きてくるのです。
先述のように、査定価格の1割増し程度が、妥当な売出価格の水準だとされています。中古マンションは売買価格の決定の際に、多少の値引きが行われる場合が多いので、あらかじめ値引き幅を想定して売出価格を決めるのです。
また、いわゆるキリのよい価格で設定するよりは端数のある価格の方が、お得感があってよいとされています。3,500万円よりは3,480万円の方が圧倒的に売れ行きがよいのです。見た目のお得感もありますが、実際にWEBサイトで候補物件を探す際に価格条件で検索するケースが多いからといわれています。
よくある失敗9:内覧の準備をおろそかにしてしまう
中古マンションを購入する人は、購入後にリフォームをするケースが多いので、売却しやすくするためにわざわざリフォームしたりする必要はありません。査定価格にリフォーム費用を上乗せして回収できることはほとんどないといってよいでしょう。一からやり直しで無駄になることの方が多いかもしれません。
しかし、だからといって汚いままでいいわけがありません。内覧の際に印象が左右されるのは、玄関と水廻りのトイレ、キッチン、お風呂、洗面台、リビングの窓です。内覧の予定が入ったらきっちりお掃除をしておきましょう。
また、コロナ禍ということを意識して、アルコール消毒ジェルやマスク、スリッパの用意は忘れずに。意外に意識されていないのがニオイ対策です。特にまだ居住中の場合、自分の家のニオイはなかなか自分では意識できません。また不動産会社の方もなかなかニオイは指摘しづらいものです。玄関に消臭剤を置くとよいでしょう。
売買契約前の条件交渉は慌てずに
自分のマンションを買いたいという人が現れ、「買付証明書」が入ります。これはあくまで購入希望者の「購入希望の意思表示」であり、契約したわけではないので、買主にキャンセルされても法的責任はありません。「買付証明書」が出てきても、売主は他の人に売っても構いません。
とはいえ、「買付証明書」にはそれなりに重みがあり、契約に向けて真摯に交渉する最初の一歩として位置づけられています。「買付証明書」の交付があると、条件交渉⇒契約締結⇒代金決済・物件引き渡しとなります。代金を受領し、住宅ローンの残債がある場合はそれを支払い、鍵を引き渡し、所有権移転などの登記の書類を司法書士に渡せば、不動産取引は終了です。
契約の条件交渉では、値下げ交渉だけではなく、引き渡しの方法や支払い期日、備品や残置物の引き渡し条件など多岐にわたります。ここまでくると、「よくある失敗」というものはあまりなくて、物件ごとにありとあらゆる問題が起こります。担当の不動産会社とよく相談して、妥協することは妥協し、要求することは要求し続け、毅然として条件交渉を終わらせましょう。
納税は忘れたころにやってくる
忘れてはならない不動産取引の最終ステージが納税、すなわち確定申告です。不動産の売却をして利益が出た場合は、翌年の3月15日までに税金の確定申告をする必要があります。確定申告は国税庁のホームページに入り、順番に質問に答えて記入していくと申告用紙に必要事項が計算されていくという便利な仕組みで申請ができるようになっています。
以上、マンションの売却について6つのステップと9つの失敗例を挙げて説明してみました。代表的な失敗例をどうすれば防げるか、という答えは、不動産会社とのかかわり方にかかっているといえます。不動産会社の担当者とは円滑なコミュニケーションと信頼関係を積み重ねていきましょう。
結局、不動産会社とよいお付き合いすることが、マンション売却で成功する秘訣だということです。
早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。