新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、国民のライフスタイルに大きな変化が起きています。今年の5月以降、都心のマンションから郊外の戸建てを求める動きが加速しました。とはいえ、マンションの利便性も捨てがたく、迷っている人も多いのではないでしょうか。
今回は、戸建てにしようか、それともマンションにしようか決めかねている人に向けて、それぞれのメリットとデメリットを徹底比較します。コロナ時代の住宅について一緒に考えましょう。
(写真はイメージです)
マンション購入のメリット
まずは、戸建てではなくマンションを購入して住むことの代表的なメリットについて解説していきます。
(1)駅近の物件が多い
家探しをする際、重視する条件のひとつに「駅近」を挙げる方は多いでしょう。特に東京エリアでは、車よりも電車を主要な交通手段として利用するため、駅からの距離はとても重要です。駅周辺は必然的に土地の価格が高くなることや、建築基準法の規制からも、戸建てよりもマンションの数が多くなります。駅からの距離を重視する場合、マンションの方が希望に合致する可能性が高いです。
(2)通勤や通学に便利
駅からの距離が近ければ、その分、朝の時間に余裕が生まれます。小学生からお父さんに至るまで、朝の時間帯に5~10分の節約ができることは、生活のクオリティに直結することもあるほど、重要なことかもしれません。
(3)近所に商業施設が豊富
駅周辺には、駅前商店街や駅ビルなど駅前の商業施設が豊富で買い物に便利です。こうした立地のマンションを選べば、仕事帰りでも用事を済ませることができ、生活の利便性は高まります。
(4)帰り道が安心
駅から遠くなるほど、道路に街灯がなかったり人通りが少なかったりします。子供や女性、高齢者が家族にいると、マンションが駅から近いことは安心材料になります。
(5)購入コストが抑えられる
エリアにもよるため一概には言えませんが、戸建て住宅の方が建物面積が大きいため、マンションよりも価格が大きくなることが多いです。物件購入費用を抑えることを優先するなら有力な選択肢かもしれません。
(6)管理が簡単
戸建て住宅は住んでいると、メンテナンスに意外に手間がかかります。「庭」というほどのものがなくとも敷地の至るところで雑草は生えますし、長く住んでいれば屋根や外壁にひびが入ることもあります。これは自己負担で直さねばなりませんし、10年に一度は必ず外壁を塗装してコーティングしないと劣化が急速に進んでしまいます。その費用は30坪程度の戸建てで100万~150万円ほどかかりますが、放っておくとさらにかかるため必要経費と捉えたほうが良いものです。
一方、マンションの場合、自己責任が及ぶのは専有部のみです。エントランスフロアや外壁のメンテナンス、廊下の防水などの共用部については、管理組合に対して毎月支払う管理費で対応します。自分で手間暇をかけるということはありませんし、マンションは鉄筋コンクリート造であることがほとんどで、木造の戸建てよりも強固なため、雨漏りなど建物が劣化する確率はぐっと低くなります。
(7)セキュリティが強い
最近では、警備システムを設置する戸建ても多くなったものの、防犯面ではマンションに軍配があがります。特に3階以上の場合は窓からの侵入が難しく、1階や2階であっても往来の多い道路に面するなど死角の多い環境ではない場合が多いため、防犯上安心できます。一方、戸建て住宅の多くは侵入しやすく、空き巣などに狙われる危険性があります。
また、マンションは戸建てよりも人目が多く、ある程度の規模のマンションには管理人が常駐するので無人になることはありません。一方、戸建ての場合は家族全員が外出すれば完全無人になりますし、戸建てが立ち並ぶエリアは人通りも少なくなりがちで、侵入も容易になります。
このほか、マンションは監視カメラやオートロックが標準装備されており、グレードの高いマンションだと、カギが複製しにくいカードキーになっていたり、エントランスから自宅のドアにいくまでのエレベーターや途中にも中間ゲートが設けられたりしています。戸建てもセキュリティを高めることはできますが、莫大な費用がかかります。
(8)相続税対策
法改正があったとはいえ、いわゆる「タワマン節税」は今でも有効です。特に資産背景がしっかりした方や、東京エリアで購入を考えている方であれば、検討してみてもいいもしれません。タワマン節税とは、タワーマンションの相続税評価額が実勢価格よりもかなり低いために、現金や株式で保有しているよりも、タワーマンションという不動産の形にしたほうが、相続税の評価の上では圧倒的にお得になるという考え方です。
ただし、国税局は、課税を恣意的に免れようとする場合には「租税回避」と同一とみなし、厳しい目を向けていますので、相続直前に購入し、すぐ売却することは危険です。
戸建て購入のメリット
次に、戸建てに住むメリットについて考えていきます。ここ最近はコロナの影響で戸建て購入を検討する人が増えてきていますが、その理由が見えてくるかもしれません。
(1)仕事用スペースが確保できる
コロナの影響で、自宅で仕事をする人が急増しています。自宅で仕事ができると通勤のストレスがなく、家族との時間が取れる一方で「子供、家族が話しかけてきて仕事に集中できない」「ただでさえ狭いのにワークスペースなんて取れない」などの悲鳴が聞かれるようになりました。その点、戸建ては私生活とワークスペースの区別ができるほか、マンションよりも広さや部屋数を取りやすい傾向にあります。
(2)広いリビングと庭、そしてペット
戸建て住宅の場合、土地の広さを生かしてリビングを大きく取り、天井高を高くすることで空間を大きく取るなど、開放感を出せることはマンションにない大きな醍醐味です。庭も同様で、テーブルを出して昼食を取ったり、夏の日に花火をしたり、園芸をしたりなど趣味に広がりが出ます。また、ペットの飼育にも制限はありません。最近ではマンションでも「小型犬や猫は1匹ないし2匹までは許容」という場合が多いですが、大型犬はまず許可されません。「ゴールデンレトリバーを家族に迎えたい」などと希望されるなら、戸建てのほうがいいでしょう。
(3)近隣トラブルや近所づきあい
分譲マンションに住むと、近所づきあいはしなくていいとお考えかもしれません。しかし、実際には管理組合の役の持ち回りなど、何かと面倒なことが多いです。組合の集まりや避難訓練の実施などが嫌という方もいます。一方、戸建ての場合にも町内会のようなものがありますが、マンション組合のような強制力はありませんし、つながりもずっと緩いといえます。またマンションでは両隣だけでなく上下にも生活音の問題があり、特に子供の騒音や楽器演奏をする家庭は近隣トラブルになることもしばしばです。
(4)DIYなど「家」の自由度
「日曜大工で自分の家を作っていきたい」と思っている人にとって、戸建ては内側だけでなく外側も自由で、夢が広がります。園芸などの趣味も含めて、家全体で暮らしを楽しみたいという趣向の人には、戸建ては生活を豊かにするきっかけになります。
(5)カースペース
子供が2、3人ともなれば車があったほうが圧倒的に生活が便利になります。ただ、マイカーを持っている世帯にとって、車のローンや保険に加えて駐車場代の出費は大きくのしかかってきます。戸建ての場合はカースペースも含めて住宅ローンを返済していくわけですから、ある意味「車の土地」も資産として購入するわけですが、マンションの場合は駐車場代は「消費」となるのが大きな違いです。
ただし、戸建ての方が固定資産税が高くなる傾向があったり、外壁塗装などのメンテナンス費用が必要になったりしますので、しっかりとした資金計画を考えておくことが大事です。
購入費用の比較
次に購入時の費用について比較してみましょう。
(1)本体価格
マンションと戸建て、どちらの方が高い安いということは言えません。しかし、マンションの方が築古物件も多いといえます。マンションで築30年というのは普通に中古住宅として売買されますが、戸建ての場合に築30年というのは新築されることが前提の場合が多いです。これは、マンションが鉄筋コンクリート造りなのに対し、戸建てが木造であることが理由です。
一方、戸建ては土地をある程度の面積で購入することになるため、マンションよりも高額になる場合が多くなります。ただし、割安かどうか(=不動産購入としてお得かどうか?)という視点となると、それは物件しだいでしょう。
(2)メンテナンス費用の見込みとランニングコスト
月々の費用について
基本的な支払いは、マンションも戸建てもローン返済額となりますが、前述の通り、マンションの場合にはそこに「管理費」「修繕費」「駐車場費用」が追加されます。
5,000万円のマンションの場合、ローン返済額が5,000万円で金利0.8%、返済期間35年だと月々の返済は13万6,530円ですが、ここに管理費が2万円、修繕積立金7,000円が乗ってきて、月々返済額は16万3,530円となります。駐車場がある場合にはここに1~2万円がプラスされることになります。
16万3,000円の返済となるローンの元本は6,000万円となりますので、月々の返済額でみた場合、5,000万円のマンションを購入するのと6,000万円の戸建てを購入するのは同じ支払いとなります。修繕費というのは状況に応じて上がってしまう場合がありますので注意が必要です(特に小規模なマンションの場合は一気に上がってしまう場合があります)。
10年単位のメンテナンスの費用について
では「戸建ての方がお金の面で絶対お得!」かというと、そうではありません。戸建ての場合は10年に一度を目安に外壁塗装を行う必要があります。これをしないと急速に建物の防水性能が劣化して雨漏りやクラックが発生しやすくなります。家を守るためにも、次の売却のためにも重要ですので必要経費です。
この外壁塗装は一般的な土地30坪、建物面積30坪(100㎡ほど)で、1回150万円程度はかかります。10年でこれをためるとすると150万円÷120か月=月1.25万円となり、戸建てでもやはりこれくらいはメンテナンス費用を見ておく必要があります。マンションの場合は修繕費から自動的に積立てられている点は安心です。
想定外の費用について
住宅には想定外のことがおき、そのために費用が発生します。たとえば、暴風によるガラスの破損、給湯器など設備機器の故障のほか、雨漏りや浸水、火災による被害などがあったとき、その都度、費用対応しなければなりません。実はこれらのリスクは戸建ての方が圧倒的に多いです。自己管理として貯蓄していかなくてはいけないため、戸建ての方がより確実な資金計画が必要と言えそうです。
マンションと戸建ての資産価値の違い
(1)土地の価値は確保される
「土地は腐らない」とよく言われます。価格の変動は当然ありますが、20年たっても土地は残ります。そのため、5,000万円で購入した戸建て住宅の価値として土地3,000万円+建物2,000万円であれば、土地分の3,000万円は確保されます。将来的に住み替えを考えた場合も、土地の価格が下値として確保されるため、売却によって得た資金をもとに子供の近くに住み替えるなども可能となります。また、相続した子供が家を建て替えて住み続けられるのも土地を所有する魅力です。
一方、マンションはその内訳がほとんど建物価格となるため、資産価値の下落が戸建てと異なりどんどん進みます。木造建物の耐用年数は20年程度とされるのに対し、RC(鉄筋コンクリート)は47年と長く、一概に建物の劣化速度と物件価格の下落がイコールとは言えませんが、少なくとも土地価格は確保されるという点は戸建て住宅の強さです。
(2)駅近物件はやっぱり強い
マンションの価格に最も影響するのは立地です。駅からの距離ということもできます。駅からの距離が近いほど、価格は高くなり、値崩れしません。資産価値を考えた場合には、相場の範囲内の購入であれば、駅距離が近いほど将来の資産となる可能性は高いと言えます。
生活面での違い
ここからは生活面での違いについてみていきます。今まで出てきた内容もありますが、改めて比較してみましょう。
(1)室内の導線
マンションの場合、基本的にはワンフロアとなるため、掃除・洗濯のための室内の移動は少なくて済みます。ただ、エントランスからは階段を上ったりエレベーターを待ったりと時間がかかります。
戸建ての場合、最近は採光を確保しリビングを広くするというコンセプトのもと、「水回りは1階でリビングは2階」や、「バルコニーで洗濯物を干すが水回りは1階」など、階段の上り下りが必要な場合があります。
(2)趣味・ペット関連
大型犬に限らず、ペットを飼う場合には外でホースが使えたほうが便利な場合が多く、アウトドアや園芸、子供との遊びを含めて戸外スペースが少しでもある戸建ては有利でしょう。マンションでは廊下部分に私物を出すことは消防法の観点からも禁止されているくらいですから注意しましょう。
(3)意外と盲点のゴミ出し
戸建ての場合は地域によってゴミ出しのルールが変わります。家の前に出しておけば回収してくれるケースや、数軒分を回収するためにゴミ収集所を決めておく方式です。ごみの収場所は持ち回りですから、自分の家の前になってしまった場合、ごみが散らばってマイナスになるのは最寄りの家主となり、ストレスになることもあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
一方、マンションの場合はマンションのゴミ収集場にまとめて出すことになります。多くのタワーマンションではフロアごとにゴミ出し部屋があり、24時間のゴミ出しが可能です。また、生ごみに関しては「ディスポーザー」という設備を備えているマンションも存在します。これは排水溝にミキサーのような装置がついており、食べ残し等の生ごみを投入すればそのまま廃棄できるという優れものです。女性の中にはかなりこだわる人もいます。
戸建てとマンション、どちらを買うかの最終判断
(1)自分のため、家族のために重視したいこと
戸建てとマンション、住んだらどんな未来が待っているのか、ここまでさまざまな観点から比較をしてきました。「結局、どっちを選んだらいいの!?」となると、まだ迷う方もいるでしょう。間違いのない選び方としては「自分か家族にとって最優先すべきものは何か?」ということを基軸に考えることです。
「子供の受験のためには、予備校に通いやすいよう駅近がいい」「家族で休日にゆったり庭で過ごすために戸建てを買う」「自分が家賃を払い続けることを避けるために家を買う。だから資産価値が保てるマンションがいい」
以上のように、誰のメリットになるかを考えて選ぶことです。総合的に考えて購入したけれど、いちばん大事なところに不便があるようでは本末転倒です。
(2)「これだけはしたくない」という観点もあり
反対に、「これだけは許容できない」というマイナス面から入る方が考えやすい場合も多々あります。
「うちは女の子が2人だから駅近で安全なマンションがいい」「コロナで今後ずっとリモートなのに仕事と生活のスペースを分けられないことがストレス」「共働きだから駅から10分を超えたら絶対にダメ」
このように、「~したい」よりも「~したくない」の方が、常に意識が向くためか、思いつきやすい人が多いようです。決断を急ぐときには、これでもいいでしょう。
コロナによってリモートワークが大きな潮流となりました。仕事部屋を確保するために戸建て住宅を選ぶ人が増えています。しかし、それだけで郊外戸建てを選んでいいものなのか、これまで列挙したメリット・デメリットを参考に、いま一度、家族とともに整理されてみてはいかがでしょうか。
松村隆平
中央大学法学部法律学科卒。新卒で住友電気工業に入社し、トヨタ自動車向けの法人営業、および生産管理に従事。その後、株式会社ランディックスに入社し不動産業界に転身。その後同社のIPO準備責任者となり、経営企画室長を兼任。2019年に東証マザーズへ上場、2021年に執行役員。
趣味は司馬遼太郎の小説を読むこと。経営学修士(MBA)、認定IPOプロフェッショナル、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、統計調査士。