コロナ禍によってテレワークのニーズが高まり、ここのところ戸建て住宅が人気です。その中でも、都心部では狭小住宅といわれる、従来の宅地に比べて狭い面積に建てられた主に3階建ての住宅を買う人が増えています。

 

近年、都心部の土地やマンションの価格は上昇を続けてきました。また建築資材の高騰によって、新築タワーマンションの坪単価が400万円を超えるのは当たり前となり、80㎡(約24坪)もあれば「億ション」になってしまい、一般人には手の届かない存在となっています。こうした背景から、土地の価格が安くつき、木造ゆえに建築費も抑えられる狭小住宅の人気がじわり高まってきたわけです。

 

そうした狭小住宅は「買い」なのか、ズバリ解説しましょう。

 

階段

(写真はイメージです)

 

狭小住宅とは? かつて小説化され話題に

 

狭小住宅に明確な定義はありませんが、一般に15坪(約50㎡)以下の土地に建築された住宅をいいます。ハウスメーカーによっては20~30坪以下の土地面積の住宅を指す場合もあります。

 

土地の狭さや不便さを感じさせないように、設計や仕様に創意工夫が凝らされていて、それゆえにデザインも個性的。狭小住宅を売り物にしたハウスメーカーが急成長を遂げるほど人気のある分野となっています。

 

狭小住宅といえば、不動産業界の私たちにとっては忘れられない小説があります。それは2013年に発表された「狭小邸宅(作者:新庄耕)」。第36回すばる文学賞を受賞したので、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

狭小住宅を販売する不動産会社の営業マンを描き、社会的にも「狭小住宅」「ペンシルハウス」などの言葉を浸透させることとなりました。この小説では、ブラックで激烈な不動産営業の描写が、実在する不動産会社をモデルとしていると噂されたという点でも話題となりました。

 

不動産を生業とする筆者にとっては、業界そのものがダークなイメージとなってしまうのは好ましくないと言わざるを得ないのですが、それよりも小説の臨場感あふれる会話に思わず「あるある」とうなずくことが多く、極めて興味深い本だったといえるでしょう。

 

3階建ての建物は2階建てに比べて高価なのか?

 

狭小住宅は、一般の戸建て住宅に比べて狭い面積の土地に建設されますので、建物としての居住性や機能性を一般の戸建てと同程度に引き上げるためには、高さを利用することになります。つまり一般の戸建てが2階建てを主流とするのであれば、狭小住宅は3階建てが多くなります。3階建ての家屋を建設する場合は、構造計算書が必要になるため一級建築士に作成してもらわなければなりません。そのため一般の住宅よりも費用がかかります。

 

また、土地が狭く、形状も特殊な場合が多いため、設計・建築にはそれぞれの形状に応じた工夫が必要になります。そのため、設計・建築費用は自ずと割高になります。一般の2階建ての費用に比べて2~3割は高くなると覚悟しておきましょう。

 

狭いうえに建築費が高いだけでは、狭小住宅を選ぶ意味に疑問が湧いてきますよね。でも、土地とのトータルで見たらどうでしょう。その答えも含め、狭小住宅のメリット・デメリットを挙げてみましょう。

 

狭小住宅のメリットとデメリット

 

狭小住宅のメリットは以下の通りです。

 

好立地に割安で家を建てることができる

 

狭小住宅の一番のメリットは、従来の発想では不可能であったような形状の土地で、さらに自らの資金力を超えるような好立地の都心部の場所に、住宅を建築できることです。一般の家の土地面積が50坪、狭小住宅の土地が15坪だとすると、土地代は一般の30%で購入できることになります。

 

国土交通省が毎年発表している地価公示価格の2020年の平均価格は、日本全体で65万円/坪となっています。50坪で3,250万円になりますが、15坪だと975万円で済みます。建物の建築費が一般的に2,000万円として3階建てが3割増しだとしても、土地・建物合計で、一般的な建物が5,250万円なのに対して、狭小住宅は3,573万円で購入できることになります。

 

ランニングコストが低い

 

一部屋当たりの面積は一般的な住宅に比べて小さくせざるを得ないので、光熱費などの生活コストが低くなる傾向があります。また清掃や修繕などのメンテナンスコストも小さくなるといえるでしょう。

 

階層ごとにメリハリをつけられる

 

子供部屋の階、家族が集う階、風呂やトイレなどの水回りの階など、目的・用途によってメリハリをつけて分けることが可能となります。また、デザインや家具などの統一感も出しやすい構造といえます。狭いがゆえの創意工夫を楽しむことができるともいえるでしょう。

 

また、メゾネットタイプの間取りもありますが、ほとんどがワンフロアであるマンションに比べると、
・曲がりなりにも戸建てというプライドが満たされる
・両隣や階下の部屋への生活音、ペット臭、ペット音などの配慮をする必要がない
・補修やメンテナンスの時期について、自分自身の必要や財政事情で決断できる
などのメリットがあります。

 

ただし、安普請の家を作ってしまうと、修繕積立金などの強制的な対策金の貯蓄をしていない分だけ、修繕の機会が増える5年目以降には金銭的負担に自己責任で備えていかなければなりません。

 

一方でデメリットもやはりあります。

 

生活動線に配慮が必要

 

スペースに横の広がりがないため、動線がどうしても上下に偏ります。洗濯場と物干し場、お風呂場とシャンプードレッサー、キッチンとダイニングなどの特に水回りに関わる動線が上下に離れてしまうと、階段で移動しなくてはならなくなるので、生活に不自由さが増すことになり不満が溜まる原因となります。しかも、狭小住宅の階段ははしごのようにステップが狭くて急なものも多いので注意しましょう。

 

近隣に配慮が必要

 

建設の段階から、建設機材などの置場や足場などのスペース確保、騒音対策に苦労することとなります。補修や修理などのメンテナンスの機会にも同様な配慮が必要になります。土地が狭いということは、近隣との距離の確保が難しいということでもあります。生活音や日当たり、生活に必要なスペースについて、近隣との配慮を常に心がけなければ、大きなトラブルになりかねません。

 

大きな家具の搬入や利用が困難

 

スペースに余裕がなく、ドアの幅や階段、部屋自体の広さが足りないために手持ちの家具や備品を搬入できないことがあります。

 

当たり前だけど狭小住宅は狭い! 安さと工夫で乗り切れるか

 

以上、見てきたように狭小住宅のメリットは、コストが安い、といった点に集約されます。デメリットは、やはり狭い、という点。メリットを生かして、都心に住むというライフスタイルを楽しむことができる人、狭さを感じないように工夫された構造やデザインに自らも工夫を重ねて楽しむことができる人こそが、狭小住宅向きの人なのかもしれません。

 

コロナ禍において、マンションといういわば大きな巣に群れるという暮らしは、ウイルスに感染しやすい環境を選択するということになってしまうかもしれません。狭小住宅は、マンションと同様に都心に近く住みやすい環境にいながらも、戸建てという分散した生活を実現しやすい、新しく賢い住まいの選択といえるかもしれません。

 

 

早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。