誰しも、思わぬ収入減や出費によって住宅ローンの返済に困る事態は考えられます。コロナ禍によってそういう状況に追い込まれた方が今、かなり増えています。
もしも住宅ローンの返済が厳しくなったら、一刻も早く何らかの対策を講じなければなりません。住宅ローン返済に困ったときの対策と注意点をお伝えします。
(写真はイメージです)
家を手放さないために取るべき行動
滞納前の段階であれば、住み続けるための対策がまだ余裕でできます。返済を続けるための行動をすぐに起こしましょう。できることは3つあります。
(1)仲介してもらった不動産会社や金融機関に相談する
まず行いたいのが、仲介してもらった不動産会社や、住宅ローンの借り入れ先金融機関への相談です。ここで毎月の返済額を減額できないかを相談します。勤務先の業績悪化による収入の減少や倒産による失業など、住宅ローンの返済が苦しくなった原因が自身の責によらない場合は、対応してもらえる可能性があります。
近年は、大規模な災害やパンデミックなど、地域や社会に大きな影響を及ぼす事態において金融機関が理解を示す傾向にあります。たとえば新型コロナウイルス感染症では経済が大きな打撃を受けたため、多くの金融機関が住宅ローンの「返済期間の延長」や「ボーナス返済の取りやめ」で毎月の返済額を減らすなどして対応しました。
(2)住宅ローンの借り換えを検討
金利の負担が大きい場合、住宅ローンの借り換えをすることで毎月の返済額を軽減できます。
たとえば借入額5,000万円を適用金利2%で35年間返済していくと、毎月返済額は約16.6万円(全期間固定金利)です。この場合、10年後の住宅ローン残高は約3,900万円となっています。
この時点で3,900万円を新たに金利1.2%、借入期間25年で借り換えした場合、毎月の返済額は約15.1万円となり、これまでよりも約1.5万円圧縮できます。
(3)生活習慣と支出の見直し
収入を増やす方法と生活費を節約する方法の2つがあります。まず収入を増やす方法は次のようなものです。
・片働きであれば、共働きをする
・子供が成人しており、同居であれば子供に生活費の納入を求める
・副業を始める
ただし、収入が上がっても無駄遣いが増えてしまっては意味がありません。また、無理に働いて健康を害しては元も子もありません。
支出の見直し方法は複数ありますが、ここでおすすめしたいのは、固定費の見直しです。固定費は、毎月ほぼ一定の額が発生する支出のことで、一回節約できればその効果が継続します。固定費には次のようなものがあります。
・生命・医療保険料
・スポーツジムの月会費・月額サービスの音楽や映画配信サービス
・雑誌や新聞の定期購読
・携帯電話料金
・車の維持費(車検代や自動車保険料)
車は手放すことも検討するといいでしょう。
【節約シミュレーション】年収570万円世帯の年収が大きく下がったら節約でどれくらい支出を減らせる?
前述の「固定費を削減する方法」とは別に、統計上のデータを参考にして節約の効果を見ていきましょう。
総務省統計局の家計調査によると、2人以上の世帯の平均的な手取り年収約570万円で、月平均の消費支出は約30万円です。この金額を節約しなければならなくなった場合、現実的にどの程度減らすことが可能なのでしょうか。毎月の支出割合は次のとおりです。
食費 |
80,461 |
住居 |
17,103 |
光熱・水道 |
21,951 |
家具・家事用品 |
11,717 |
衣服及び履物 |
11,306 |
保険医療 |
14,010 |
交通・通信 |
43,814 |
教育 |
11,495 |
教養・娯楽 |
30,679 |
その他 |
50,843 |
合計 |
293,379 |
「家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)I 家計収支の概況(二人以上の世帯)」より
「食費」「高熱・水道費」は節約しすぎると普段の生活に負担がかかりますし、「家具・家具用品」「衣服及び履物」「保険医療」「教育」はそれぞれ全体の5%以下と低く抑えられています。
そこで節約の対象となるのは「交通・通信」「教養・娯楽」「その他」となります。これらの支出の合計は約12.5万円です。ただ、大きく削減して気持ちに余裕がなくなってしまうことはよくないので、「2割減」をめざすことにしてみましょう。2割減なら毎月2万5,000円が削減できる計算となります。
この節約は劇的な金額にはなりませんが、住宅ローンの減額や借り換えによる負担軽減、さらに収入アップと組み合わせることで大きな効果が出るはずです。複数の手立てを組み合わせて住宅ローンの返済の継続を検討していきましょう。
やむなく家を売るときの注意点
住宅ローンの減額や収入アップなどの手立てを講じても住宅ローンの返済が難しい場合は、残念ですが、速やかに家の売却を検討しましょう。「アンダーローン」と「オーバーローン」で対応が異なります。
アンダーローンとオーバーローンで売却方法が異なる
住宅ローンの残債が販売価格を下回ることを「アンダーローン」といいます。逆に住宅ローンの残債が販売価格を上回るのが「オーバーローン」です。
アンダーローンならそのまま売れば住宅ローンは完済できるので、通常通りに売却します。ただし、売却までに時間がかかることがないようにしたいです。仮に売却が遅れて住宅ローンの滞納が生じてしまうと、金融機関による競売が実施されてしまうかもしれないからです。早く売れるために不動産会社の担当者と綿密に打ち合わせましょう。
オーバーローンの場合は売却代金を返済に充てても住宅ローンが残ってしまうため、そのまま売却することはできません。この場合は債権者である金融機関の協力を得て売却する「任意売却」を行う方法があります。任意売却の特徴は次のとおりです。
・売却額が住宅ローンの残債を下回っても抵当権を抹消することができる
・残債の返済は継続するが、毎月の返済額や返済期間を相談できる余地がある
・競売と比較すると売却価格は高い水準。また、物件の引き渡し時期も多少は調整できる
任意売却は競売と比較すると売却価格が高くなり、売却後の計画も立てやすいのですが、金融機関の意向が強く影響することに注意が必要です。売却価格が低いと金融機関が任意売却を認めない可能性があります。金融機関が納得でき、かつ物件購入者も見つかりやすい、バランスのいい価格設定が求められます。適切な価格設定で任意売却がスムーズに行えるよう、経験豊富な不動産会社を選んでいきましょう。
リースバックという方法もある
リースバックといって法人や個人投資家などに家やマンションを買い取ってもらう方法もあります。リースバックが行われると、従前の所有者は賃貸人としてそこに住むことが可能です。毎月の賃料は支払いますが、引っ越しは不要ですし、固定資産税の負担もなくなります。また、生活が落ち着いたらマイホームを買い取る交渉もできます。今の家に住み続けたい人には有益でしょう。
住宅ローンの返済が厳しいときにやってはいけないこと
住宅ローンの返済が厳しくなったとき、検討対象としがちなことで避けておきたいのは次の4つです。
(1)競売
住宅ローンの滞納が3ヶ月~半年くらい継続すると競売にかけられます。裁判所の調査や入札にかかる期間が取られるため、すぐに退去を求められるわけではありませんが、新たな所有者が決まったら速やかに退去が求められ、生活再建のプランが立てにくくなります。さらに、競売の落札価格は通常の市場価格よりも低いため、残債が残る可能性が高いのもデメリットです。
(2)キャッシングや消費者金融での新たな借り入れ
返済の当てがない借り入れは事態を悪化させます。そもそもキャッシングや消費者金融からの借り入れには総量規制のルールによって借入額は年収の3分の1が上限と決められています。残念ながら、一時しのぎとしても効果は薄いでしょう。
(3)マイホームの賃貸利用
マイホームを他人に貸して賃料収入を得ることを考える方もいると思います。ただ、さまざまなハードルがあります。まず、先んじて引っ越しをしなければなりません。また、家の状態によっては壁紙交換や設備の入れ替えなども必要です。そこまで準備しても賃貸人がすぐに見つかるとは限りません。マイホームを賃貸に出すのは資金的・時間的に余裕があるときにしておきましょう。
(4)自己破産
裁判所へ申し立てて自己破産をすると、住宅ローンを含むあらゆる債務は免責されます。しかし自宅や車などは手放さなければならず、生活の立て直しは容易ではありません。また、自己破産をするといわゆるブラックリストに載ってしまうため、今後は審査に通りにくくなり、改めて自宅を購入しようと思ってもすぐに住宅ローンを組むことはできません。
家を手放さないために、最重要なのは一刻も早く手を打つこと
住宅ローンの返済が厳しいときに、取れる手段は一つではありません。できることは一つでも多く行い、家を守っていきましょう。スピードも重要です。住宅ローンの返済が遅れると所有者の知らない間に競売手続きが進んでしまうかもしれません。ご自身とご家族の未来をよりよきものにするために、迷わず行動していきましょう。
横山晴美 ライフプラン応援事務所 代表
2013年にFPとして独立してから一貫して「家計」と向き合い、マネーリテラシーの向上でお金の不安が軽減することを実感。お金の不安を抱える人が、自分自身で問題を解決できるよう、お金の基礎知識を底上げするための啓蒙活動を行う。WEBコラム・セミナーなどで家計や住宅ローンなどお金について幅広い情報を発信している。