去る7月31日(金)、NHKの番組「首都圏情報 ネタドリ!」(毎週金曜日午後7時30分~)にて、「コロナ時代 ”住まい”が変わる」という特集が放送されました。
新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」)の感染拡大で広がる在宅勤務を受けて、住まいに求められるものがどのように変わるのかをクローズアップした内容でした。
ある企業の調査では、緊急事態宣言中の在宅勤務実施率は、首都圏で52%に上りました。番組に出演していた夏野剛氏が運営するIT企業のように、新型コロナが収束したとしても在宅勤務を継続する企業も多く、完全在宅勤務までには至らずとも、在宅勤務の割合が増えていくのがこれからの働き方のトレンドになるでしょう。
参照:https://www.jiji.com/jc/article?k=000000069.000030113&g=prt
今回は、番組の内容を中心に、これからの住まい選びのポイントをまとめました。

(写真はイメージです)
在宅勤務ができる環境が、これからの住まいのトレンドになる
番組では、在宅勤務の増加に伴う住まいの変化として、2つの事例が特集されていました。
1つ目は、首都圏を中心に狭小戸建住宅を手掛ける株式会社オープンハウスの事例です。
自宅で仕事をする場合に課題となるのが家族の存在。リビングなどで仕事をしていると、お子様がテレビを見ていたり、声をあげて遊んでいたりするので、ウェブ会議には不向きです。またウェブ会議では室内の様子が映像に映りこむため、会議を行う場所も選ばなくてはなりません。
その中で狭小の3階建の戸建では、家族が過ごすリビングなどの階と、仕事を行う階を別々に分けられるため、在宅勤務に向いていると需要が高まっています。
2つ目の事例は、野村不動産が手掛けた江東区の新築マンションです。
このマンションの中心部には、植栽や水景が配されたゆとりある共用スペースが設けられています。ここでパソコンを広げて落ち着いて仕事をすることもできますし、ご家族が共用スペースを散歩したりして時間を過ごす間、家の中ではご主人が仕事に集中できる、という活用方法もあります。
このマンション自体は放送時点ですでに完成しているもので、共用スペースのアイデアは新型コロナの流行以前からあったと思いますが、今までのマンションは集会室やキッズルーム、ゲストルーム、パーティールームなど何かの目的のために部屋を作るという考え方が主流でしたので、マンションの中に開放的な空間を作るというのは、これからのトレンドになるかもしれません。
どちらも在宅勤務にマッチした新しい住まいのあり方であり、これからは「在宅勤務に対応できているか」という点も住まいの価値として考えられるようになるでしょう。
例えば、中古のマンションでも集会室などの共用施設の一部を在宅勤務用のスペースに変更するなどの動きが広まっていくかもしれません。
優先度が下がる「通勤時間」
不動産の価格は、どれだけ多くの人がそれを求めているかに比例します。立地や駅までの距離、広さ、陽当たりなど様々な条件が折り重なって、その不動産の価格が決まります。
中でも、これまで価格形成に大きなウェイトを占めていたのが、都心部への距離や通勤の時間といった条件です。多くの新築マンションのパンフレットでは、「新宿まで○○分」「大手町まで○○分」「乗換無しでダイレクトアクセス」など、都心部への通勤のしやすさがまずセールスポイントとして挙げられていました。
一方で、今後在宅勤務の割合が高まるという流れは、都心部のオフィスに出勤する回数が減っていくことを意味しています。番組で取り上げられていた千葉県印西市在住の吉原さんのように、「都心部に通勤する回数が少ないのなら、都心から少し離れたのんびりした地域に暮らそう」と考える方も増えていくでしょう。
都心部から離れた地域で住まいを探すという傾向は、データにも如実に表れています。番組では、コロナ禍をうけて問い合わせの件数が増えた地域として、横浜市瀬谷区や逗子市、東京都日野市などが紹介されていました。
今まで他の条件よりも通勤時間を優先して都心部に住んでいた方が、通勤時間の優先順位を下げて居住エリアを考えるようになってくれば、街や駅の人気も少しずつ変わっていくでしょう。
街に住むという考え方
番組に出演した著名建築家の隈研吾氏は「これまでは建物の中の空間をどれだけ快適で充実させるかという考え方だったが、これからは建物の外の空間も一体で考える時代になった」と、建築界の今後の展望を語っていました。また、番組に出演していた前出の夏野氏や住宅情報サイト編集長の池本洋一氏は「在宅勤務によって家に居る時間が長くなれば、その街に居る時間が長くなるので、住む街に愛着が沸き、住む街のコミュニティを重要視していく」と語っていました。
これまでは通勤利便性が街を選ぶ1つのポイントでしたが、これからは、風光明媚な街やゆったりとしたパソコン作業に向くカフェが多い街などが、街選びのポイントとして優先順位が高くなってくるのかもしれません。
忘れてはならない「今」と「将来」のこと
在宅勤務に合わせた家探しというのは、つまりは「今」の生活利便性を追求する考え方です。コロナ禍真っただ中での生活スタイル、今の働きやすさや暮らしやすさを重視してこそ、今回ご紹介したような戸建が購入対象となります。
この考え方は間違いではありませんが、家探しでは「将来」にも目を向けておく必要があります。
1つには将来の「資産価値」です。
長期間住むことを前提に数十年の住宅ローンを組んだ家でも、親との同居や子供の成長、出産、離婚、転勤などのライフイベントによって、売却しなければならなくなるかもしれません。その時に重要なのが家の資産価値。価値が低いと、売却価格で住宅ローンを完済できない、いわゆる残債割れの状態に陥る恐れがあります。
例えば、上述の3階建狭小住宅の場合でも、駅近なら賃貸として一定の需要が見込めるため、売却以外にも様々な対応方法を検討できます。逆に「通勤距離は関係ないので静かに働ける環境を」と郊外の物件を選んだ場合、核家族化や人口減少が進んでいる日本の社会情勢を考えると、将来的に安定した需要を見込むのは難しく、売却価格も不安定になるでしょう。
「今の在宅勤務のしやすさ」という側面だけを切り取って大きな資産である家を購入してしまうと、「資産価値」という視点が抜けてしまい、数十年後に大きな後悔になってしまうかもしれません。
もう1つの将来への懸念が「高齢化への対応」です。
3階建狭小住宅は、確かに在宅勤務には適した間取と形状だといえます。しかしそのぶん階段が多いというデメリットもあります。そもそも、戸建よりマンションを選ばれる方の理由には、「高齢になると戸建住宅の階段を上るのがつらく、複数の居室の掃除が大変」といったものが少なくありません。
仮に40歳を過ぎて30年以上の住宅ローンを組んでこの家を買うと、住宅ローンが終わるのは70歳過ぎ。既に階段の上り下りなどはきつくなっているかもしれません。
まとめ
在宅勤務というスタイルの広がりは、これからの住まいの考え方に大きな変化をもたらすかもしれません。仕事に集中できるスペースの確保が求められるとともに、通勤のメリットを考えて都心部に住むことに固執する必要がなくなってくるでしょう。都心へのアクセスという条件が多少不利なエリアででも、広いお住まいを探す方が増えてくるでしょう。
もちろん、在宅勤務への対応だけが住まいに求めるものの全てではありません。長期的な目線から、社会情勢を加味して資産価値の高い住まいを選ぶことが必要です。
このような時代だからこそ、数多の不動産取引を経験し広い視点で住まいの価値観を判断できる宅建士に、理想の住まいについてご相談されることをおすすめします。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。