2020年7月31日、NHK総合テレビの番組『首都圏情報 ネタドリ!』で、コロナウイルスの影響でテレワークとなった世帯で求める住宅像が変化しているという内容が放送されました。

 

これまで職住近接を求めて都心の狭いマンションに住んでいた世帯が、仕事部屋の備わったより広い家を求めて郊外に移住したり戸建てを購入したりする動きのほか、都心のマンションでも敷地内に公園や仕事部屋を設けたマンションが人気であることが紹介されました。

 

こうした動きの底流にはどんな価値観があるのか、考えてみました。

 

家と家族

(写真はイメージです)

 

日本橋から千葉・印西市に引っ越した庭付き3LDKは家賃半分

 

『首都圏情報 ネタドリ!』は、首都圏の気になるニュースの「ホンネ、真相、本当のこと」にせまる生放送番組。この日の放送では「コロナ時代〝住まい〟が変わる」と題して、コロナ時代に求められる住まいのあり方について取り上げていました。

 

最初に紹介されたのは、夫がIT企業に勤めるサラリーマン夫婦。仕事漬けで、日本橋に住んでいたマンションにも「寝に帰るだけ」だったそうです。

 

テレワークが始まり、一日中、夫が家にいるようになったことで、広い部屋を求めて千葉県印西市の3LDKの戸建てに移住したところ、快適に仕事ができるようになっただけでなく、家賃が半分の12万円になり、庭いじりの趣味までできたとか。

 

「暮らしそのものが変わった。人間らしくなった」と奥さん。同様の考えを持った人たちは増えていて、神奈川県のある移住支援サービス会社は6月の登録者が去年の5倍になったそうです。客の多くが「仕事が自由になり家族と過ごす時間を大切にするようになった」と話しているといいます。

 

長時間労働に明け暮れ、狭いマンションでストレスをため、家族との時間も作れない。非人間的と分かっていながら多くの人たちがどっぷりつかっていたライフスタイルからの脱却がうかがえます。

 

移住はしたくない人は手狭のマンションから狭小3階建ての戸建てへ

 

次に紹介されたのは都心のマンションに住む共働きの夫婦。夫はテレワーク、妻は仕事が減って自宅にいるようになったそうです。不動産会社に相談して勧められたのが、都内にある狭小な土地に建てた3階建て戸建てでした。

 

マンションだと1つだったフロアが3つに広がることで、仕事用のフロア、子供用のフロア、みんなで過ごすフロアに分けられるというのが受け、この不動産会社は6月の販売戸数が前年の1.5倍に増えたそうです。

 

妻は「子供2人がいるが外に出られない生活。戸建てだと子供の負担が軽減されるかなと思った」と話していましたが、ここでもより「人間らしさ」を求めての行動が読み取れました。

 

水と緑の公園を備えたマンションが大人気

 

2020年上半期に首都圏で販売された新築マンションは7497戸と史上最低で、当面はこの傾向が続きそうです。こんな逆風で問い合わせが増えているマンションが紹介されていました。

 

60㎡で約5,000万円ということですから決して安いところではないのですが、このマンションのセールスポイントは敷地内に備えた4000㎡の緑の庭園です。共用施設には仕事スペースもあります。水辺のテラスで仕事をしていた男性は「気持ちよくて普通の人よりたまるストレスが少ない」と話していました。

 

ここ10年ほどで広まったタワーマンションは共用施設が充実していることが人気でした。ただ、それは豪華なエントランスや展望カフェ、ゲストルーム、プールやジムなどが多く、フリータイムにぜいたくな気分を味わうことに主眼が置かれていました。

 

今後は、このマンションのように家の外で気分転換をしながら仕事ができるスペースを備えたものが増えていきそうです。通勤地獄を味わうことなく、水や緑を感じながら仕事をするという、より人間らしさを実現するための動きに見えます。

 

都市の歴史の転換点。家より街が大事

 

最後に登場したのは、渋谷スクランブルスクエアや山手線高輪ゲートウエイ駅のデザインを手がけた有名建築家の隈研吾氏です。隈氏は「人間の都市の歴史は転換点。これまではハコ(建物)を作っていくのが都市の発展であり、行き着いた果てが20世紀の超高層の都市だった。これは都市の歴史の転換点」といいます。

 

そのうえで「家の外の方がはるかに風を感じたり光を感じたりしてリラックスできる。人は本来、(外と切り離された)ハコではなく、街に住みたがっている」と語りました。

 

以前、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏が2019年1月のREDS「不動産のリアル」のインタビューで「(働き方が変わる)今後はどのマンションに住むかよりも、どの街に住むかによってあなたの人生が決まります」などと語りましたが、隈氏の話は見事なまでに牧野氏と符合しています。今後は住まい選びに街の魅力が大きな要素となりそうです。

 

あのね、庭付きの家に住むのが一番いいんだ

 

視聴後、昔読んだマンガ『ドラえもん』のワンシーンをふと思い出しました。「眺めがいい高層マンションに引っ越したい」と訴えるのび太君をお父さんが諭します。

 

「あのね、庭つきの家に住むのが一番いいんだ。人間は地面に足をつけて生きるのが自然なのだから」(出典:「野比家は三十階」 藤子・F・不二雄大全集『ドラえもん』第17巻)

 

かつての「古き良きニッポン」に広く存在した価値観が、番組で紹介された動きの底流にうかがえます。

 

無理するよりも、人間らしく。それは決して「怠惰のススメ」ではなく、技術革新によって享受できるようになったことです。

 

テレワークをはじめとする働き方の変化は不可逆的に思えましたが、これまでのやり方にとらわれた一部企業ではテレワークをやめる動きがあり、朝夕の通勤電車も乗客が戻っているようです。人間らしい暮らしを促したのが新型コロナウイルスで、失わせるのが人間だとしたら、なんとも皮肉に感じます。

 

 

(不動産のリアル編集部)