2019年10月、いよいよ消費税が10%に引き上げられます。「消費税が上がるから、家も高くなるのでは?」と心配している人も多いかもしれません。住宅は価格が大きいため、2%の増税でも金額に大きな差が生じそうです。しかし、住宅の購入は必ずしも「一律2%の負担増」とは限りません。詳しく説明します。
(写真はイメージです)
住宅と消費税の関係
「そろそろ家がほしいと思っていたけど、消費税が上がるからやめようかな…」。そう考える人は一定数いるでしょう。しかし、通常の広告に記載されている住宅価格のうち、すべてに消費税がかかるわけではありません。建売住宅や分譲マンションの価格は「土地+建物」の価格が合算されています。しかし消費税は建物部分には課税されますが、土地には課税されないのです。
分譲マンションを購入するときは、部屋(建物)だけを購入するような気もしますが、部屋の面積に応じて土地の所有権も取得します。たとえば5,000万円のマンションで、土地と建物の価格割合が半々だとしたら、消費税がかかるのは2,500万円分に対してのみです。
【消費税増加の影響 計算例】
5,000万円のマンションで、土地と建物の価格割合が半々の場合
(現状) 2,500万円×8%=200万円
(増税後)2,500万円×10%=250万円
この試算では増税後の負担額は50万円増えることになります。負担額が増えるのは確かですが、5,000万円すべてに課税されると考えていた人にとっては少し安心できるのではないでしょうか。
消費税10%のタイミングは
消費税は通常「引き渡し時」の税率が適用されます。しかし、住宅の場合はいつをもって引き渡しとするのでしょうか。引き渡しを増税前にしようと工期を急ぎ、質の悪い住宅を流通させる悪徳業者も出るかもしれません。そこで、原則である「引き渡し時」のほかに、特例で経過措置がとられました。
原則:引き渡し時
住宅における引き渡しとは、一般にカギを受け取ることだとされていますが、そのためには権利・決済関係を整理しなければなりません。「売主(不動産会社やハウスメーカーなど)」「買主」「金融機関」「司法書士」などが集まり、ローンの実行・代金の清算・所有権や抵当権設定の登記などを同時に行い、その後に引き渡しとなります。
例外:請負契約時
主に注文住宅に対する経過措置になります。注文住宅は契約から完成まで半年から1年程度かかるのが普通です。引き渡し時がいつになるのか明確でないため、施主は完成まで消費税が何%になるのかわかりません。このため、請負契約の時期が2019年3月31日までなら(引き渡しが2019年10月以降になっても)消費税8%が適用となるのです。なお、マンションなどの売買契約でも購入時に壁の色やドアの形状等について個別の注文ができるケースでは、上記の経過措置が適用されます。
消費税増税が住宅価格に与える影響は限定的?
住宅購入時には住宅価格以外にも諸経費がかかります。住宅ローンの事務手数料や不動産登記における司法書士報酬なども課税対象となります。通常、これらの費用は金融機関ごとに決まっているので確認しておくといいでしょう。
また、不動産会社へかかる仲介手数料も消費税がかかります。仲介手数料とは不動産取引の際、売主と買主の間に立ち、互いの意見の調整や事務手続きなどを行う不動産会社(仲介会社)に支払う手数料のことです。
土地売買における仲介手数料の上限額(価格が400万円超えの場合)は「売買代金(消費税分は除く)の3%+6万円+消費税(※)」と定められています。定め通りに購入するなら、物件価格が大きくなるほど仲介手数料も多くなるので注意が必要です。
とはいえ、最近は仲介手数料を割引する不動産会社も登場しています。住宅を探す際、不動産会社の仲介手数料にも注目しながら探すとお得に住宅購入ができるかもしれません。
中古物件の場合は消費税の影響が少ない
最近は、築浅の中古マンションや中古一戸建てのリノベーション物件が注目を集めています。中古物件は消費税増税の影響が小さくなる可能性が高いことをご存知でしょうか。消費税はもともと、売主が業者であるときに発生するものだからです。
国税庁によると消費税は「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に課税される」としています。
中古物件については業者ではなく個人の売主が多いので、消費税の増税が適用になるケースは少ないといっていいでしょう。仲介会社を入れずに個人の売主と直接取引すれば仲介手数料もかかりません。ただし、金額の大きな取引ですので、契約は専門家を通して行った方が安全でしょう。
制度を活用すれば、消費税の増税ダメージを吸収できる?
消費税が増税されるのは今回が初めてではありません。前回2014年4月に消費税が5%から8%に増税されました。そのときは住宅業界で「増税前の駆け込み需要」と「増税後の買い控え」がセットで起こりました。今回はそれを教訓に、「駆け込み需要&買い控え」を防ぐ対策が周到に用意されています。
購入が増税後になるかもしれない人には心強い制度を2つご紹介します。
制度1 適用期間が延長! 住宅ローン控除
従来の住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用した場合に、年末の住宅ローン残高の1%を10年間、所得税から控除できるというものでした。毎年の控除限度額は50万円(長期優良住宅、低炭素住宅の場合)となっていますし、税額控除ですので納付している所得税額(住民税の一部を含む)を超えて控除を受けることはできません。
しかし、最高で500万円(50万円×10年間)の控除は家計に大きなメリットをもたらします。もともと恩恵の大きな住宅ローン控除ですが、消費税の増税後の購入は、13年まで住宅ローン控除の適用が受けられるようになりました。ただし、11年目以降は控除額の計算方法が変わります。
【住宅ローン控除の拡充内容】
11年目~13年目は、以下の2つのうち少ない方の金額が3年間にわたり所得税の額から控除されます。
(1)住宅ローン残高または住宅の取得対価(上限5,000万円)のうちいずれか少ない方の金額の1%
(2)建物の取得価格(上限5,000万円)の2%÷3
※限度額は長期優良住宅、低炭素住宅の場合を想定して「5,000万円」としています。それ以外の住宅であれば限度額は4,000万円です。
増税後の住宅ローン控除を、便宜上「新住宅ローン控除」と呼びます。新住宅ローン控除の恩恵を、5,000万円の住宅ローンを金利1.3%(全期間固定)で、35年返済するケースで計算してみましょう。
(1)11年目の残高(約3,670万円)の1%=36.7万円
(2)建物の取得価格(5,000万円)の2%÷3=約33万
上記のうち、小さい方の金額が控除されますので、11年目は約33万円控除されます。同じように計算すると、12年目、13年目も控除額は33万円です。そうすると、新住宅ローン控除で増える恩恵は、33万円×3年分=99万円となります。ここでは、所得税の納税限度額については考慮していません。
前出の「5,000万円(うち物件価格は半分)」の事例における消費税増税分よりも、新住宅ローン控除の恩恵の方が大きい結果になりました。もちろん、住宅ローン諸経費や仲介手数料の消費税増税分も考慮しなければなりません。しかし、住宅価格について、新住宅ローン控除の控除額だけで増税分が吸収できる可能性があることは知っておくといいでしょう。
制度2 すまい給付金の金額が増額
住宅購入時に、年収に応じて一定の給付が受けられるのが「すまい給付金」です。給付最大額と年収の目安は次のとおりです。
【消費税率8%】
対象となる収入額目安「510万円以下」で最大30万円(10万円~30万円のうちで3段階)
【消費税10%】
対象となる収入額目安「775万円以下」で最大50万円(10万~50万円のうちで5段階)
給付額×持分割合で給付額が決定されるのですが、最大額だけでなく、収入上限も緩和されているのがうれしいところです。ただし収入は目安額であり、実際は自身の「都道府県民税の所得割額」に基づきます。所得割の額は、住所のある自治体で「課税証明書」を取得すれば確認可能です。所得割の額を確かめたら、すまい給付金の公式サイトで「受給対象であるか」「(受給対象である場合の)受給金額」を確認してみましょう。
消費税の増税以外の事情も考慮して
以上、述べてきたように住宅を購入する場合は消費増税のダメージを緩和する政策は十分にあるといえます。増税だからといって必ずしも負担が重くなるとは限らないことがおわかりいただけたでしょう。住宅購入は価格が大きいため、購入には勢いも必要です。そのため、「家を買いたい!」「マンションに住みたい!」といった素直な欲求はとても大切です。「子供の小学校入学にあわせてマイホームがほしい」「定年まであと30年なので、そろそろ思い切ろう」など、家族の気持ちに沿ったタイミングを大事にされることををおすすめします。
参考サイト
消費税のしくみ|国税庁
すまい給付金
横山晴美(ライフプラン応援事務所代表 AFP FP2級技能士 住宅ローンアドバイザー)
2013年にFPとして独立。企業に所属せず、中立・公平の立場で活動する。新規購入・リフォーム・二世帯住宅を問わず、家に関することなら購入額から返済計画まで幅広く対応。